八村塁が期待されるNBAドラフト1巡目指名 富樫、渡邊の言葉と共にその偉業を知る

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2019.06.20

日本バスケットボール界に新たな1ページが刻まれる。日本時間6月21日午前8時、米ニューヨーク州ブルックリンのバークレイズセンターで開催されるNBAドラフトにおいて、八村塁が日本人選手として初となるドラフト1巡目指名が期待されている。

いったいこれが、どれほどの快挙なのか。Bリーグ史上初の1億円プレーヤーとなった富樫勇樹、昨季シーズンを通してNBAでプレーを続けた渡邊雄太、ゴンザカ大学時代のチームメートの言葉と共に、八村が成し遂げようとしている偉大さを知りたい。

(文=杉浦大介、写真=Getty Images

狭き門のNBAとは縁遠かった日本バスケ界

「(今回のNBAドラフトは)いちファンとして見ています。ドラフトは毎年、日本人が出る出ないにかかわらず注目するじゃないですか。今年はその中に日本人がいるんですからね……」

6月7日、カリフォルニア州オークランドで初めてNBAファイナルを観戦した富樫勇樹(Bリーグ・千葉ジェッツ)は、目を輝かせながら来るべきドラフトへの展望をそう述べた。富樫が言及した“日本人”とは、もちろんゴンザガ大学からNBAドラフトにアーリーエントリーした八村塁のこと。Bリーグ史上初の日本人1億円プレーヤーになった富樫がこれほど楽しみにしているのだ。そんな事実からも、八村がまもなく成し遂げようとしていることの意味が伝わってくるのではないか。

NBA到達の難しさは、アメリカのスポーツに詳しい人には説明の必要もないはずだ。全世界で4億5000万人の競技者人口を誇るとされるバスケットボールにおいて、文字通り最高峰のリーグがNBA。ゲーム時にベンチ入りを許されるのは1チーム13人のみ。毎年のドラフトで指名されるのも30チーム×2巡指名=60人だけといった背景を見ても、このリーグの希少価値は明白だ。

日本人でドラフトされたのは、1981年にゴールデンステイト・ウォリアーズから8巡目で指名された岡山恭崇氏ただ一人。岡山氏も結局は入団せず、以降、ドラフトのシステムが変わってより狭き門になったこともあって、日本人プレーヤーにNBAは縁遠いものとなってきた。

ハイレベルでのサイズ、身体能力の融合がモノをいうバスケットボールは、おそらく日本人向きの競技ではないのだろう。一昨年まで、ドラフト外でもNBAにたどり着いた日本人選手は2004年にフェニックス・サンズの一員として4戦でプレーした田臥勇太のみ(現・栃木ブレックス)。数年前まで、第2、3号の誕生には悲観的な関係者も少なくなかった。

日本人2人目のNBAプレーヤー、渡邊雄太が感じた“別次元の場所”

しかし―――。ここに来てそんな流れに変化が見えている。昨季、NCAA1部のジョージ・ワシントン大学を卒業した渡邊雄太がメンフィス・グリズリーズと2way契約(※基本的にはマイナーリーグの選手ながら、一定期間NBAでの出場も可能になる契約)。渡邊はグリズリーズの一員として15戦に出場し、日本人としては初めてシーズンを通じてNBA でサバイブし続けた。

「カレッジの中の本当に上の選手しかNBAには来られない。プレーのレベル、試合中の賢さ、身体の強さ、そのすべてにおいてカレッジとはレベルが違うなと感じます」

グリズリーズでプレーを始めた後に渡邊本人が述べていた通り、NBAはまさに別次元の場所。そんな世界で24歳の渡邊が存在感を示したことで、勇気づけられた選手は日本にも多かったはずである。そして今年、渡邊に続き、“真打ち”といえるジャパニーズがNBAの世界に飛び込もうとしている。

昨季終了後に多くの個人賞を受賞したことが示す通り、Rui Hachimuraは米カレッジバスケットボール界ではすでに有数のビッグネームだった。フィジカルの強さには稀有なものがあり、身体能力、機動力、クイックネスはアメリカでも屈指のレベル。スキルこそまだ発展途上だが、そのポテンシャルは日本の枠を飛び越え、大げさではなく、今ドラフトでも注目される存在になっている。

「塁は僕がこれまで一緒にプレーした中で最も身体能力に優れた選手だ。その面ではダントツだったと言っていい。身体が強く、ジャンプ力があり、リーチも長い。その若さを考えれば、身体の成熟度は驚異的だ。年齢的にもまだまだ強くなるだろう」

ゴンザガ大時代に八村とチームメートで、現在はポートランド・トレイルブレイザーズでプレーするザック・コリンズはそう証言していた。先輩のそんな言葉からも明白な通り、八村のNBA入りはもう「If(もしも)」ではなくて「When(いつ)」。20日、ブルックリンのバークレイズセンターで行われるドラフト1巡目での指名はすでに確実視されている。

かつてNBAに挑戦した富樫勇樹がまるで一ファンに戻るような高揚感

「何位とかじゃなくて、どのチームにドラフトされるんだろうか(を考えています)。彼にとって合いそうなとこと合わなそうなとことあると思うんで、そこは彼にとって良いチームにドラフトされたらうれしいなと思います。でも一ファンとしては行きやすいところにドラフトされてほしいなという思いもありますね(笑)」

本当にまるで一人のバスケットボールファンに戻ったようだった富樫のそんな言葉も興味深い。富樫も2014年にはダラス・マーベリックスの一員としてサマーリーグに出場し、その後にマーベリックス傘下のマイナーチームで1シーズンを過ごした経験がある。だからこそ、八村がやろうとしていることのすごさが手に取るようにわかり、余計に楽しみなのだろう。

一般的に八村は1巡目10~20位あたりの指名が有力視されており、優勝回数通算17度のボストン・セルティックス(全体14、20、22位と3つの1巡目指名権を保持)、同3度のデトロイト・ピストンズ(全体15位指名権を保持)、同5度のサンアントニオ・スパーズ(全体19位指名権を保持)といった名門チームに入団する可能性も十分。特にロッタリー指名と呼ばれる15位以内の指名選手は有望株と捉えられる傾向にあるが、八村もその中に含まれてもまったく不思議はない。そうなれば、所属チームの地元では開幕直後から大きな期待を浴びることにもなるのだろう。

そんな位置に日本人選手が立っていることは、これまでのヒストリーを考えれば快挙である。田臥、渡邊がつないできたバトンを受け継ぎ、日本人史上3人目のNBAプレーヤーはもう誕生間近。 この国のバスケットボールの歴史はまもなく大きく変わり、同時に八村は日本の枠を超えた存在になろうとしている。

<了>

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