田臥、富樫の後継者扱いは時期尚早? 18歳・河村勇輝「プロ然」とした佇まいも避けられぬ高い壁
特別指定選手としてBリーグ・三遠ネオフェニックス入りした河村勇輝。福岡第一高校の不動のポイントガードとしてウインターカップと夏のインターハイとの2冠を達成した高校ナンバーワンプレーヤーのBリーグ入りは大きな話題を集めた。一方で、彼を田臥勇太、富樫勇樹の後継者として次の「日本代表の正ポイントガード」と断定するのはまだ早いかもしれない。
(文=三上太)
千葉ジェッツ相手にダブルダブルを達成した高校生
1月24日、福岡第一高校3年の河村勇輝がBリーグ・三遠ネオフェニックスへの入団記者会見を行った。入団といっても、満22歳以下の選手で、その能力を認められれば大学、高校に所属したままBリーグでプレーできる「特別指定選手」としてである。河村は4月から東海大学に進学することも決まっているため、それまでの期間限定ということになる。
しかも大学生になって再び特別指定選手としてコートに立てるとなったとき、それが三遠でなければいけないというルールはない。三遠は現在、中地区(Bリーグは東地区、中地区、西地区の3地区制)で最下位、Bリーグ全18チームを見ても断トツの最下位である(3勝32敗。2月4日現在)。大雑把に書けばコーチ陣のつながりから「信頼に足るチーム」として三遠のオファーを受けたわけだが、今後はどうなるかわからない。それでも三遠が異例の入団記者会見を開いたのは、河村にそうさせるだけの話題性があるからだ。
河村勇輝――山口県出身の18歳。地元の中学から隣県の福岡第一高校に進学すると、1年次からスタメンポイントガードの座を勝ち取る。2年次に「真の日本一を決める大会」といわれるウインターカップで優勝すると、3年次にはウインターカップで連覇を果たすとともに、夏のインターハイとの「2冠」も達成している。高速で自在なドリブルスキルと、広い視野から繰り出されるパスでチームに勝利をもたらす河村は、人気・実力ともに2019年度の高校ナンバーワンプレーヤーである。
さらに福岡第一高校は昨年11月に男子の高校チームとしては唯一、天皇杯の2次ラウンドまで進出している。千葉ジェッツに73-109で敗れたものの、河村はその試合で21得点・10アシストの「ダブルダブル(個人成績の2つの部門で2桁の記録を残すこと)」を達成している。三遠ならずとも、河村を特別指定選手で受け入れたいというチームがあってもおかしくない。
記者の度肝を抜いた“プロ然”とした記者会見
しかも河村は、同校の多くの部員がアスリート特進コースに属しているのに対して、国公立大学進学コースに属している。両親が教師だということもあるだろう。その頭のよさ、スマートさは入団記者会見でも際立っていた。
――Bリーグの選手になったわけですが、自信のほどを聞かせてください。
「自信がなかったら挑戦はしていないと思います。でもその自信はBリーグでプレーが通用するという自信じゃなくて、どんな壁にぶつかっても挑戦し続ける自信があります」
最初の問答で居並ぶ記者の度肝を抜くと、さらに11月の天皇杯で千葉と対戦し、通用したところはどこかという質問に対しても、高校生とは思えない返しをしている。
「高校のバスケットで通用したところはたくさんありますが、(Bリーグは)周りもプロで、チームメートもプロです。プロのバスケットを考えながらプレーすることが自分としては大事だと思っています。11月のときは相手も自分たちを高校生だと思ってやっていたから、自分たちもうまくやれている感じはありましたが、今回はお互いがプロとしてやりあえることが楽しみです」
河村が憧れの選手の一人として挙げる千葉の富樫勇樹とは、記者会見翌日に行われる試合でも再びマッチアップする可能性がある。そのことを向けられても、河村の“プロ然”とした対応は変わらない。
「高校生のときはお互い立場の違いがあったので個人的な意識があったんですけど、プロである以上チームの勝利が一番大事だと思っているので、個人的な意識よりもチームのことを最優先して、勝利に貢献できるよう、自分のできることを精一杯やっていきたいです」
さらにもう一つ、三遠でつける背番号0(ゼロ)の理由についても河村ははっきりと、自分の言葉で伝えている。
「高校では8番をつけていて、日本一やいろんないい成績を残せました。でもそれはもう過去の栄光にすぎないというか、それらをすべて忘れて、プロの立場でゼロから始めていこうという考えで0番にしました」
河村を次世代の日本のポイントガードだとするのは時期尚早
河村のプロフェッショナルさは、むろんこうした言葉のやりとりだけではない。
記者会見の翌日から行われた千葉との2連戦では、初戦が22分の出場で8得点、3アシスト。第2戦は22分40秒の出場で21得点、2アシストを決めている。チームは2試合とも大差で敗れ、河村も得点の多さよりもターンオーバー(ミス)の多さ――初戦が5、第2戦が6――を反省しているが、デビュー戦としては上々以上の出来と言っていいだろう。
ただ、だからといって、河村を次世代の日本のポイントガードだと断定するのは時期尚早だ。その将来性に期待する向きは当然あっていいし、筆者も彼に期待する一人ではある。しかし過度の期待は禁物だし、何よりこの2カ月にも満たない特別指定選手制度で彼がプロとして成功するか否かは判断できない。
むしろ河村がフォーカスされるべきは4月以降、東海大学に入学してからではないか。東海大学の同じポジションには、同じく特別指定選手制度で千葉に加入している2つ上の大倉颯太がいて、河村と同じ学年で、ポイントガードとして双璧を成すといわれていた黒川虎徹(東海大学付属諏訪高校)も入学してくる。
高校時代は1年次からスタメン起用され、福岡第一高校が得意とするトランジションバスケットの起点として、コート上でタクトを振るってきた。ゲームを支配できたのは、むろん彼の実力だが、一方でゲームに出続けていたからでもある。大学でも同じように1年次からコートの上でプレーできるとは限らない。もちろん十分にプレーできる可能性もあるのだが、一方でそれと同じくらいプレーできない可能性があることも忘れてはいけない。
また1年次にスタメン、もしくはシックスマンとして起用されたとしても、出場時間は限られてくる。現代バスケットはいかにインテンシティ、つまり強度の高いプレーを出せるかが問われている。フィジカルコンタクトも高校とはまったく異なる次元となる。河村はそれをBリーグで改めて感じ取っているところだが、高校とは異なる大学バスケットのなかでどれだけ適応できるか。
学業との両立もある。何かの記事で「勉強もしっかりできるところが僕の強み」と読んだことがある。もしかすると学業との両立で心配することはないかもしれない。ならば余計に東海大学のバスケットでどこまで結果を残せるかがカギになる。それこそが将来に向けた大きなステップである。
近年は、大学のバスケット部を途中で辞め、Bリーグでプレーするという道もできた。現在NBAの下部リーグ、Gリーグでプレーする馬場雄大(テキサス・レジェンズ)がそうだったし、河村と同じ山口県出身の中村太地も今、法政大学に籍を残したまま、京都ハンナリーズとプロ契約を結んでいる。そういう道もあるのだが、河村にはまず東海大学での日々にフォーカスしてもらいたい。
「世界と戦える選手」になるために必要なこと
さらに言えば、河村自身も挑戦の一つに掲げていることだが、170cmいう身長でどこまで通用するのかという問題もある。むろん彼が憧れる田臥勇太(宇都宮ブレックス/173 cm)や富樫(167 cm)がスピードとスキルで日本代表に選出されたように、河村にもその弱点を補うに余りある力はある。
しかし一方で2019年に行われたFIBAバスケットボールワールドカップに出場した全32カ国・384名の選手のうち、180 cm未満の選手は7名しかいない。たったの2%である。しかもそうした身長の小さい選手は各国1名だけ。日本は2名の可能性もあったが、富樫がケガで出場できなくなったため、篠山竜青(川崎ブレイブサンダース/178cm)だけとなった。つまり国の代表ともなれば12名のロスターのうち1名、多くて2名という枠を勝ち取らなければならないのだ。その道は険しい。
もちろん河村が「いや、僕はBリーグに入れればそれでいいんです」と言うような選手であれば、その心配はない。しかし彼が目指しているのは「日本代表の正ポイントガードとして、世界と戦える選手に」なることだ。そのためには自らが持つディスアドバンテージをいかにアドバンテージにできるかが重要になってくる。305cmの高さにゴールがあるバスケットでそれは切っても切り離せない。
河村が特別指定選手制度を利用してBリーグでプレーできることは、彼にとって素晴らしい経験だ。三遠やBリーグにとっても宣伝効果が少なくないだろうし、当サイトを含め、各種メディアの閲覧数も伸びるかもしれない。もちろんファンも河村のプレーを見る楽しみができる。いいこと尽くしのようにも思えるが、筆者はこの喧騒から一歩引いて、彼を見守りたいと思っている。
河村が本物かどうかは、これから彼がその前に立ちはだかるいくつも壁をどう乗り越えるかにかかっている。いくら“プロ然”としたところで、かりそめのプロは、真のプロではない。
<了>
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