
浦和が示す、変革の覚悟。なぜ“ほぼ同じ陣容”で「ミシャの呪縛」から抜け出せたのか?
浦和レッズは今季に入り公式戦2戦2勝。この結果だけを受けて「今年の浦和レッズは強い」とするのはもちろん時期尚早だが、「変化の年」であることは間違いない。ここ数年目先の勝利を優先し、変革を先延ばしにしてきたクラブははたして生まれ変わることができるのか?
(文=佐藤亮太、写真=Getty Images)
指揮官のうれしい悲鳴が聞こえる
今季の公式戦2試合の浦和レッズを見て、少なからず期待を持てたファン・サポーターは多いはずだ。公式戦初戦となったJリーグYBCルヴァンカップ開幕・ベガルタ仙台戦(2月16日)では5-2の快勝。続く21日、明治安田生命J1リーグ開幕・湘南ベルマーレ戦は前半早々に先制され、追いつき、引き離したものの、後半、同点に追いつかれる。さらにVARでPKを取られたものの、相手選手が失敗。ここで終わらず、試合終盤、一瞬のスキで追加点を挙げ、3-2で勝利した。
攻め切れない、守り切れない昨季までの浦和ならせいぜい同点が精いっぱい。ともすれば、3失点、4失点だってあった。だが、きっちり勝った。
まだ2試合。始まったばかりなのは重々承知だ。ただチームの変化、変わろうとする意志は感じられた。と同時に非常に不思議で奇妙にも感じる。
チームを見れば、指揮官は昨季に引き続き大槻毅監督が続投。即戦力の補強といえばJ2得点王のFWレオナルドくらい。変化といえば布陣が3-5-2、3-4-2-1から4-4-2に変更した程度。しかも浦和と4バックは歴史的に相性が悪く、良い結果があまり出ていない。にもかかわらず4バックが想像以上に機能している。外的変化が少ないのに変化できた理由は何か? 単純に選手を適材適所に起用しているからだ。
「自分の得意なポジション。しっかり結果を出したい」と張り切る左サイドバックのスペシャリストであるDF山中亮輔が「攻撃が大好きな選手が多いので浦和の強みが出せる。システムが変わったことが自分としては大きい。立場が180度変わった」と言えば、MF汰木康也は「調子が良いというより新しい布陣で自分の役割が良い感じで整理できている。テーマは縦に速い攻撃。技術の高い選手が多く、攻撃で特長が出しやすい」とやりやすさを語った。
山中、汰木のほかMFマルティノスら昨季、不遇だったアタッカー陣が水を得た魚のように躍動している。さらに絶不調だったMF柏木陽介の復調。プロ3年目、ボランチ・柴戸海の滅私奉公ぶり。エース興梠慎三は変わらず健在。さらにケガで出遅れたFW武藤雄樹、MF長澤和輝、MF武富孝介らが復帰すれば、どの選手を起用すればいいのか、指揮官のうれしい悲鳴が聞こえそうだ。
遺産で食いつないできた過去3シーズン
では、なぜ、これまで適材適所の起用ができなかったのか?
少々、時間を巻き戻したい。昨季2019シーズンの始まりはオズワルド・オリヴェイラ監督が指揮を執った。前年、天皇杯で優勝し、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場を決めた。オリヴェイラ監督は本格的に4バックを敷きたかった。その意志が感じられたのが山中の獲得。しかし、リーグとACLの過密日程でレギュラー組のトレーニングは回復中心となり、4バック浸透はままならなかった。それでもリーグ5節のFC東京戦では4バックを断行。試合は1-1で引き分けものの、続く6節の横浜F・マリノス戦では0-3の惨敗。現実主義のオリヴェイラ監督はその後、契約解除のきっかけとなった13節のサンフレッチェ広島戦(0-4)まで4バックを封印したまま、チームを去った。
その後、大槻監督が就任したが、3バックは変わらなかった。いや、もしかすると大槻監督は4バックにしたかったが、時間的な問題で変えることができなかったのかもしれない。
しかし、これだけは言える。ここ数年、選手の能力を踏まえ、“やろうとすること”と“できること”がチグハグだった。そうでなければ、あくまで現時点の話だが、布陣を変えただけでここまで変わることはないはずだ。
また付け加えるなら、浦和に背負わされた宿命、タイトル獲得の義務感がそうさせたのかもしれない。昨年11月に新たに就任した土田尚史スポーツダイレクター(SD)が会見で口にした「目先の勝利にこだわった」という言葉に行きつく。
ここ5シーズンを振り返ると、
2015年:J1リーグ・ファーストステージ優勝、天皇杯準優勝
2016年:J1リーグ・セカンドステージ優勝、J1リーグ総合2位、ルヴァンカップ優勝
2017年:ACL優勝
2018年:天皇杯優勝
2019年:ACL準優勝
毎年タイトルを何かしら取り、あるいは優勝に準じた成績を収めている。一方、ここ3年、リーグの順位は2017年が7位。2018年が5位。2019年が14位となった。
主力選手、3バック、戦術など過去3シーズン、いわばミハイロ・ペトロヴィッチ監督(ミシャ)の遺産で食いつないできたものの、底をついてしまった。さらにクラブ・チーム、サポーターもタイトルばかりに気を取られ、しかるべき時に変えられず、無難にいくあまり、問題は先送り。たなざらしのまま、変革のチャンスを逸してしまった。それらが一気に噴き出したのが昨季の低迷につながったといえる。
「変わる年」は一筋縄ではいかない
そこで変革をすべく、昨季、発足した新強化体制。「浦和を背負う責任」を標榜し、改革の必要性を唱えたのが、先ほど登場した土田SDだ。
「就任した監督に丸投げのサッカーだった。今後はコンセプトに基づき良いチームを作る」。この言葉通り、咋年末、土田SDらクラブ側と現場との折衝を経て、コンセプトと選手の能力を照らし合わせた適材適所の戦い方をすり合わせた。その結果の4-4-2が現時点でうまくいっている。その土田SDがよく口にするのが「同じ方向さえ向けば、必ずチームはうまくいく」という言葉。
変革元年の2020年。チームを変えたい。良い方向に向かわせたい。こうした雰囲気は2012年と似通っている。
前年の2011年、残留争いをした浦和はミシャを招へい。複雑かつ難解な戦術に挑戦。スタイルに適合した選手が十分揃わなかったが、前年、悔しい思いをしたベテラン選手の頑張りでリーグ3位。ACL出場権を得た。
2012年当時を知る宇賀神友弥は今季と照らし合わせ、こう話した。「ミシャの時は未経験のやり方だったが、今年トライしているのは誰もが経験した4-4-2のオーソドックスなやり方。なので、当時に比べ、苦労はない。ただ何かを変える年というのはそう簡単にうまくはいかないもの。大事なのは耐えること。ミシャ1年目の時は結果としてリーグ3位に終わったが、結果ほど簡単なシーズンではなかった。一筋縄ではいかない。「変わる年というのはそういうもの」とどっしり構える必要がある。
“浦和を背負う責任”を持った選手の配置
変革推進のため、クラブは現場の要望にできるだけ応えようとしている。例えば、「じっくり腰を据え、練習がしたい」という現場のリクエストが通り、約1カ月にわたる沖縄合宿が実施できた。また結局は延期となったルヴァンカップ・松本山雅FC戦に向けて、照明の改修工事が終わったばかりの埼玉スタジアム2002での初めてのナイターゲームということで、光の具合などを確認するため、キックオフの時間にあわせて事前練習を行った。
クラブ全体が足並みを揃えた。その甲斐あってか、チームは公式戦2戦2勝と上々の滑り出しとなった。
しかし、土田SDは気を引き締める。「“浦和を背負う責任”を持った選手がポジションごとに配置できれば、それがチーム全体に広がっていくと思う。でも、まだまだ。浦和を背負う責任を選手はわかっていない。27年いる僕でさえそうなんだから。まだまだわかっていない。本当に試されるのはこれから。1、2試合だけじゃわからない。これから。本当にこれから」。
いまチームは変わろうとする姿を、日々の練習や試合で見せている。あとはその姿をサポーターがどう捉えるか。リーグ開幕・湘南戦でアウェイスタンドから出された横断幕には「三連覇、それが浦和の三年計画」と書かれていた。あくまで目標はリーグ優勝。クラブが示す3年計画は理解しているが、リーグ優勝への気概を見せろ!ということだろうか。
いずれにしろ、クラブ、チームの変化に、サポーター、特に一度スタジアムを離れたサポーターが関心を寄せれば、あのワクワクした埼玉スタジアムが戻ってくるはず。時間はしばらくかかるが、その長い道のりの一歩をしっかりと踏みしめた。
<了>
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