
なぜ西武は主力が抜けても勝てるのか? 秋山と源田、新旧2人の主将が語った要因と変化
2018年、10シーズンぶりとなるリーグ優勝を成し遂げた、埼玉西武ライオンズ。そのオフ、菊池雄星、浅村栄斗、炭谷銀仁朗といった3人の主力が抜けたにもかかわらず、昨季には2連覇を果たした。なぜ西武は主力が抜けても勝てるだろうか? FAでシンシナティ・レッズへと移籍した前主将の秋山翔吾、そして今季から新主将を務める源田壮亮は、その要因をどう見ているのだろうか――?
(文=花田雪、写真=Getty Images)
キャンプで見られた「強いチーム」の光景
2年連続でパ・リーグを制している埼玉西武ライオンズだが、3連覇を狙う今季も「優勝候補筆頭」かといえば、決してそうではない。
昨季はチーム打率、得点がリーグ1位で防御率はリーグ最下位。2年連続で極端なまでの「打高投低」の戦いを貫いて頂点まで駆け抜けた。リーグ連覇の立役者が、「山賊打線」とも称された強打なのは間違いない。
しかし、今季は不動のリードオフマンで主将も務めた秋山翔吾がFAでメジャーリーグ、シンシナティ・レッズへと移籍。
もちろん、秋山が抜けても森友哉、山川穂高、中村剛也、外崎修汰、源田壮亮といった主軸で組む打線の破壊力は12球団屈指だろう。
ただ、課題の投手陣は松坂大輔の復帰以外、目立った補強もなく、昨季からの大幅な上積みはない。
それでも――。
今季の西武には期待感こそあれ、悲壮感や焦燥感は感じられない。
2月に行われた宮崎・南郷スタジアムでの春季キャンプの光景を見ても、それは明らかだった。
南郷には5年連続で訪れているが、練習中の雰囲気は今年が一番良かったように思える。新主将・源田や山川、森といった主力を中心に練習中から大きな声がグラウンドに響き渡り、それでいて緊張感もある。
練習が活気づいていれば、チームは強いのか?
そう思われる方もいるかもしれないが、プロ野球の世界においても「強いチームの練習」と「弱いチームの練習」の差は間違いなくある。
普段の練習から自信とやる気、今季にかける思いが伝わってくるのだ。それは、少年野球も、高校野球も、プロも変わらない。
秋山翔吾が口にした「幹」の意味
加えて西武には昨季、ほぼ同じような境遇でリーグ連覇を成し遂げたという実績がある。
2018年、実に10年ぶりの優勝を果たした西武からはそのオフ、菊池雄星、浅村栄斗、炭谷銀仁朗という3人の主力が他球団に移籍した。
エースと3番打者、そして長年チームを支え続けた主力捕手。彼らが抜けたことで、開幕前の予想で西武を「優勝候補」に挙げる評論家、メディアはほとんどいなかったといってもいい。それがふたを開けてみれば堂々のリーグ連覇。
この要因がどこにあるのかを考えたとき、以前、秋山翔吾から聞いた話を思い出した。
秋山には毎年のようにインタビューさせてもらっているが、2018年、優勝を果たした年のシーズン終盤にはこんなことを語っている。
「ライオンズというチームは僕が入団してからずっと、『良い選手が多いのに勝てない』といわれてきました。なにが足りないのかと考えたとき、その理由ははっきりとは分かりませんが、チームの『幹』になるようなものがなかったのかなと。優勝するようなチームは、多少選手が抜けてもそこでブレない強さがある。例えば、ホークスにはそれを感じます。主力がけがでいなくなっても、それを埋める選手が出てくるし、チームとして『勝つ』ことへの意思統一がなされている。ライオンズは個々の力なら負けていないかもしれないけど、その部分はまだまだなのかなと。だから今季は絶対に優勝して、チームに勝つことへの意識を植え付け、『幹』のようなものを少しでもつくれることができればいいなと思っています」
結果としてこの年、チームは優勝を果たす。そして翌年は秋山が語った『幹』の部分がどれほど形成されているかが試される一年になった。
前述のように主力3人が抜けて迎えた開幕前、再び秋山にインタビューをする機会があり、この時の話を聞いてみた。
「(2018年に)優勝しましたけど、まだそれができているかと言われたら分かりません。でも、今年は普通に考えたら厳しいですよね。それこそ、野球ゲームでいったらチーム力の数字みたいなものは間違いなく落ちている。ただ、野球は数字がすべてじゃない。主力が抜けたことが若い選手の成長を促すこともあるし、逆にそうでなければいけない。勝つことへの意思統一やチームの『幹』になるような部分が試される一年になると思います」
新主将・源田壮亮に生まれた意識の変化
そして2019年、西武は見事リーグ連覇を果たすことになる。秋山が語った「主力が抜けても、それを埋める。数字だけではない強さ」を証明するような戦いぶりだったのは、記憶に新しい。
2020年、個ではなくチームとしての強さの必要性を語っていた秋山本人が、チームを去った。
その秋山から主将の座を引き継いだ源田は、今季についてこう語っている。
「秋山さんの抜けた穴は確かに大きいですけど、選手たちにマイナスな感情はほとんどないです。みんながその穴を埋めようとしていますし、僕自身も今季はこれまでとは少し意識を変えなければいけないのかなとも考えています。昨季まではほぼ100%、『後ろにつなぐ』ことしか考えていませんでしたが、例えばもう少し欲を出して『自分が決める』という場面があってもいいのかなと」
チームはもちろん、源田自身の意識にも変化が生まれているという。これこそ、秋山が語った『幹』の部分にあたるのではないか。
主力が抜けても、それに代わる選手が同じ意識を持ってプレーする。自らが何をすべきか考え、不足した部分を補う。
そもそも西武は、これまで12球団最多となる19人をFAで他球団に輩出している。1990年代後半からの西武は、そんな境遇で新陳代謝を繰り返してきた。
この2年間で秋山が語った「幹」がどの程度、形作られたかは分からない。ただ、チームとしての無形の力は、間違いなくついてきている。
主力が抜けながら悲壮感も、焦燥感もない今季の西武。
その真価は、シーズンの戦いで明らかになる。
<了>
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