
コロナ禍で露わになった「リーダーシップの欠如」。“決断”できない人材を生む日本型教育の致命的な問題
新型コロナウイルスの脅威は、いまだ収束のめどが見えてこない。この未曽有の危機に、日本社会におけるある一つの問題が浮き彫りにされた。“リーダーシップの欠如”だ。
なぜ日本のリーダーにはリーダーシップが足りないのか? どうすればリーダーシップを身に付けることができるのか? そもそもリーダーシップはリーダーだけが身に付ければいいものなのか?
サッカー世界最高峰の舞台、UEFA チャンピオンズリーグに携わる初のアジア人、岡部恭英氏に、大学卒業後に海外へと飛び出し、スポーツビジネスの最前線で闘い続けてきた目線から、「正解の無い時代」における日本人、日本社会の問題点を考察してもらった。
(文=岡部恭英、撮影=野口学)
変化を嫌う日本人、日本社会が変化する機会となるか?
“コロナショックのおかげ”と言うと、多くの人々が苦しむなか不謹慎かもしれませんが、今後の課題や機会がクリアになったと思います。特に、「諸行無常」(万物は変化し続けてとどまることはない)という世の常とは真逆に、「安全・安定・安心」を好み変化を嫌う日本人や日本社会にとって、大きな変革(=躍進)のチャンスだと思います。
政府がいい例かもしれませんが、残念ながら、今回の騒動で浮き彫りになった一つに、「リーダーシップ不足」があると思います。歴史を紐解くと、伝染病が戦争や自然災害と並び、常に人類への脅威であったこと、そして人やモノの行き来が人類史上想像すらできなかったレベルで実現されているグローバリゼーションが加速した今、コロナショックは一過性のものではないでしょう。新型コロナウイルスや新たな伝染病に適応しながら生きていかなくてはいけない今後、政財界だけでなく、個々人のリーダーシップが欠かせないはずです。
リーダーシップとは、3つの要素に分けることができる
では、「リーダーシップ」とは何か?
リーダーシップ論に関しては、たくさん本も出ていますので、学術論はさておき、リーダーシップの定義として、今回のコロナ騒動で明らかになったのは「決断」ではないでしょうか。首相を例にとります。各国の惨状を見ながら、万能薬やワクチンもない中、限られた情報をもとに、国にとって最善の選択を「決断」する必要があります。正直「コロナがどうなるか?」なんて、大臣や官僚は当然のこと、疫学専門家ですらわかりません。孤独な仕事です。そして、その正誤が定かではない「決断」を下した後は、国民としっかりコミュニケーションをとって「伝え」、実行に「導く」と、いう一連の流れか必要です。要するに、
<Decide(決断)→ Communicate(伝える)→ Lead(導く)>
がリーダーの仕事といえます。
では、「優れたリーダーの条件」とは何でしょうか?
この記事を執筆しながら思い出したのが、ケンブリッジ大学MBA(経営学修士号)留学中に、著名な経営者から受けた授業です。「リーダーシップ論」的な授業で、「リーダーに欠かせないものは何か?」と彼に問われ、「ビジョン」、「戦略」、「遂行能力」、「コミュニケーション能力」など、級友たちが一通り発言していきました。「全て大切だと思う」との前置きの後、彼は一言だけ「フォロワー」と放ちました。
リーダーには、「フォロワーが欠かせない」と言ったのです。
当時はただふむふむと聞いていましたが、コロナショック真っただ中の今、より強く心に響きます。前述の「リーダーシップとは何か?」で挙げた通り、リーダーは、「決断」しなくてはいけません。しかし、どんなに良い「決断」をして、どんなに素晴らしいコミュニケーションをとって「伝え」ても、国や会社組織やチームで、皆が実行に至らなければ「導く」ことにはなっていないのです。現在、首相のリーダーシップ欠如がちまたを騒がせ批判されたりもしていますが、もともと、国民ではなく与党が選んだ首相であり「フォロワー」があまりいないリーダーともいえるので、ある意味当然の結果ともいえます。
なぜ日本人にはリーダーシップが不足しているのか?
それでは、「なぜ、日本人にリーダーシップが足りないように見えるのか」?
ずばり、「教育」のせいかと……。要するに、「家庭教育」と「学校教育」です。
まず「家庭教育」を例にとります。私は、大学卒業と同時に日本を離れ、人生の半分を海外で過ごす和僑(※)なので、日本に帰るたびに、日本の親御さんと子どもたちのやり取りを見て、ビックリします。「〇〇しなさい」、「××しちゃダメ」のオンパレードです。もちろん、周りの目を気にして生きる日本人からすると、親や先生のことをよく聞いて真面目でお行儀の善い子を育てるシツケなのでしょうが、そこに「Think on your own(自ら考える力)」を育てる余地はありません。
(※和僑:インターナショナル・ジャパニーズ。岡部氏が提言する「海外に飛び出して国際舞台で活躍し、日本の将来に貢献できる人材」を指す)
学校も同様です。受験勉強が日本の学校教育の中心に位置する本末転倒な形になっているので、「学校教育」も、「正解が存在する与えられた課題」を、「早く、正確に、解く」が中心となっています。ここにも「自ら考える力」を育てる余地はあまりありません。「正解が存在する課題を与えられ」て、その正解に「早く、正確に、たどり着く」という「訓練」を受けているにすぎないのですから。日本では当然のこの学校教育ですが、欧米においてはかなり異なります。
私の子どもたちが生まれ育ったスイスや、妻が育ったアメリカなどを見ても顕著ですが、「自ら考える力」を伸ばす教育です。大ざっぱにいうと、
<課題自体を自ら調べ考えて決定 → 課題のリサーチ方法(本、ウェブサイト、社会見学など)も自ら決定 → 課題を調べ考えて構築した議論のクラス内におけるプレゼン方法(パワポ資料、ホワイトボード、ビデオ、道具使用など)も自ら決定>
といった感じで、唯一と押し付けられて教え込まれる正解など、そこにはありません。
“Education”の日本語訳は「教育」で、文字通り「教えて育てる」という意味ですが、もともとのラテン語語源をたどると全く異なる意味なのです。“Educe”とは、「潜在しているものを、引き出す」という意味であり、まさに上記の欧米における学校教育は、語源通り、生徒一人ひとりの「潜在しているものを、引き出す」やり方なのです。前述した「リーダーの仕事の流れ」を再度見ると、欧米の学校教育のやり方が、リーダー養成に適したやり方であることがわかります。
<自ら考える → Decide(決断)→ Communicate(伝える)→ Lead(導く)>
コロナに突き付けられた「正解の無い」時代。リーダーシップは誰もが身に付けるべき
それでは、「Withコロナ」で混迷する社会の中、「どのようにリーダーシップを身に付けるか」?
「教育」を変えるしかないと思います。
「寺子屋時代」からほとんど変わっていない「学校教育」を変えるには時間がかかりますが、「学校教育」と同等に、もしくはそれ以上に、人間形成に大きな役割を果たす「家庭教育」は、親御さん次第で今すぐにでも変えられるはずです。
具体的に、どうすればいいのか?
上記にも挙げた「〇〇しなさい」、「××しちゃダメ」をやめて、「質問する」ことだと思います。親御さんの信じる正解を押し付けることなく、「どうしたらいいと思う?」、「どうしたい?」と聞いて、「自ら考える」習慣を子どもたちにつけさせる。日本の「学校教育」と「家庭教育」においては、世の中には、常に唯一の正解(The answer)が存在するかのように教育します。
しかし、今回のコロナショックでも明らかですが、唯一無二の正解(The answer)なんてものは、世に出るとあまり存在しないのです。大事なのは、「The answer」ではなくて、「Your answer」をケースバイケースで「自ら考える」力です。筆者の母校ケンブリッジ大学は、オックスフォードと並ぶ世界の名門大学ですが、オックスブリッジともに、「少数精鋭チュートリアル」教授法が有名です。マンツーマン、もしくは他の生徒数人と教授に囲まれ、課題について、「質問」されて、「自ら考える」と「伝える」を繰り返し、徹底的に議論を深める学習方法です。大学時代の数年間で、
<自ら考える → Decide(決断)→ Communicate(伝える)→ 級友や教授さえもLead(導く)>
という訓練を徹底的に積んだ卒業生が、似たり寄ったりの唯一無二の正解(The answer)を教え込まれた日本の受験勉強マシン大学卒業生より、リーダーシップを備えていても、なんの不思議もありません。
Withコロナで大変革期の今こそ、日本社会、そして日本のスポーツ界も、国民一人ひとりがリーダーシップを発揮するべき時です! 前述しましたが、世の中には、特に今のような大混乱期は、単純な唯一無二の正解(The answer)なんてものは、ほとんど存在しません。大変革時代に対応できない、日本の同調同意社会にはびこる、「かくあるべき」や「こうでなくてはならない」などにはとらわれず、「Your answer」を追い求めましょう。
米国シリコンバレーで一時期はやった、
<Fail fast(早く失敗しろ)→ Learn fast(早く失敗から学べ)→ Fix fast(早く直せ)>
ではないですが、一連の
<自ら考える → Decide(決断)→ Communicate(伝える)→ Lead(導く)>
に何度もトライして、リーダーシップ力を向上させ、この大変な時期を一緒に乗り越えましょう!
<了>
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PROFILE
岡部恭英(おかべ・やすひで)
1972年生まれ。サッカー世界最高峰のUEFAチャンピオンズリーグに携わる初のアジア人。UEFA(欧州サッカー連盟)専属マーケティング代理店「TEAMマーケティング」のテレビ放映権/スポンサーシップ営業 アジア・パシフィック地域統括責任者。慶應義塾体育会ソッカー部出身。ケンブリッジ大学MBA取得。スイス在住。夢は「日本でワールドカップを再開催して、日本代表が優勝!」。
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