タレント兼アメフト選手・コージ“二刀流”キャリアの理由「リスクはあってもメリットしかない」
ビジネスや他競技との“二刀流”で活動するアスリートが増えてきている。2020年3月にお笑いコンビ「ブリリアン」解散後、コージ・トクダはタレントとアメリカンフットボール選手の二足のわらじという異色の道を歩み始めた。ブリリアン、withBとして人気を博している最中にも時折見せていた“アメフト愛”を、プレーヤーとして体現するコージが伝えたい、アメフトの魅力とは何か。また、“エンターテイナー”だからこそ思い描く、日本アメフト界の理想像とは――?
(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=高須力)
日本でアメフトがもっとメジャーになるために「残された道」
――今シーズンから、みらいふ福岡SUNSで10年ぶりにアメリカンフットボール(以下、アメフト)選手に復帰したコージさんですが、タレント活動の中でもアメフト愛をよく語られていました。コージさんにとって、アメリカンフットボールはどんな存在ですか?
コージ:切っても切り離せない存在というか、僕を育ててくれた“恩師”みたいな感じですね。
――大学時代にアメフトをやっていたという人は決して少なくないですし、体育会の中でも花形のほうですよね。一方でまだまだ日本のトップリーグであるXリーグの認知度や人気は高いとはいえません。アメフトがもっとメジャーになるためには、どんなことが必要だと思いますか?
コージ:アメフトはルールがめちゃくちゃ難しいんですよ。高校の時はほとんどルールが分からず、3年間なんとなく試合をやっていたというくらい。大学でアメフトをあらためて勉強してようやく分かるようになったので、「ルールをちゃんと分かってもらうとなれば、かなり遠い道のりやな」と。
最近はラグビーの人気が高まったおかげで「アメフトはラグビーじゃないほうね」というような感じで認識してもらえるようになったので、そのあたりは(ラグビーに対し)ありがたいなと思っています。ああやって、人にぶつかったり、自分の身を挺してぶつかったりする競技特性が日本人にも受け入れられるんだということが分かって、可能性はゼロじゃないなと。
本場のアメリカでもそうなんですけど、アメフトってエンターテインメント性がめちゃくちゃ高いスポーツなんです。要は、競技自体はむちゃくちゃ面白いけれど競技以外も楽しい。そういうところを日本で充実させていければいいですよね。
チアリーダーが応援を盛り上げたり、ハーフタイムショーが豪華だったり、ビールを飲みながら観戦したり。そこにいるだけで楽しい環境を日本のスポーツの中でアメフトが率先してやっていけたら、アメフトの存在価値として次のステップが見えてくるんじゃないかなと思っています。
――アメリカでは4大スポーツの中でも最も年俸も高く、一番注目が集まるスポーツですよね。
コージ:アメリカではNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の決勝戦であるスーパーボウルが全米最大のスポーツイベントといわれています。海外ではフィールド外にテントを立てて音だけ聞いて楽しむということもあるくらいなんです。
――フェスのような感じなんですね。
コージ:今のコロナ禍の状況では難しい話にはなるんですけども……。アメフトがもっとメジャーになるために残された道はそこなのではないかなと思っています。
アメフトは「スーパースター」がいても勝てないチームスポーツ
――プレーヤーとしては、アメフトはどんな人に向いている競技だと思いますか?
コージ:他のスポーツにはないと思うんですけど、アメフトは自分の仕事だけをやっていればいいスポーツなんですよ。プレー前に「自分はこう動く」というサインを出し合って、「じゃあ、あとはみんなそれぞれ頑張ろうぜ」みたいなことを言って散ったところからプレーが始まるという感じなんです。
だから、フィールド内を見てもめちゃくちゃでかい人もいれば小さい人もいるし、足が速い人もいれば遅い人もいる。あらゆるスポーツの中でも一番体格差の大きいスポーツなのではないかなと思うぐらい。
なので、「こんな人に向いている」というよりも、足が速くても、足が遅くても、体がでかい人も小さい人もできるという、すごく裾野の広いスポーツだと思っています。
――競技の面白さという点でいうと、戦術の部分がすごくフィーチャーされますよね。
コージ:何百とあるプレーの中から「次はこれでいこうぜ」とか「相手がこう来たから、次はこうやって返そうぜ」というような、戦略の将棋というか、読み合いのスポーツなんですよね。
――アメフト経験者の人が、社会に出ても生かせる特性がいろいろありそうですね。
コージ:まずは自分の仕事をまっとうして、やり切ったら次に周りを見るという特性は仕事でも生きるかもしれません。自分の役割を絶対に果たすという思いは、たぶん他のスポーツよりも強いのかなと思います。
――誰かが自分の仕事をサボってしまうと、全体がうまくいかなくなってしまうということですね。
コージ:そうですね。あとは常に戦略を立てて物事を考えられること。「次こう来たら、こうやろう」というのを常に考えながらプレーしているので。
――アメフトの場合は、それぞれに役割がある前提でのチームプレーが必要だから、たった一人のスーパースターがいてもダメなわけですね。
コージ:そうなんです。とんでもないスーパースターがいても、周りがボロボロだったら勝てないですからね。
――野球だったらとんでもないピッチャーがいたら勝てるし、サッカーもすごいストライカーがいたらなんとかなったりするところもあるんですが、アメフトはそれがない。
コージ:ないですね。練習もオフェンスとディフェンスで一緒にやることはないし、試合中のベンチも違うポジション同士で言葉を交わすこともないという、不思議なスポーツです。
日本アメフト界の実情「アメフトでお金をもらおうという考えがない」
――コージさんは現在、アスリートとタレントという二足のわらじで活動されていますが、“デュアルキャリア”というかたちで活動するアスリートが最近少しずつ増えていますよね。サッカーだと本田圭佑選手だ、アメフトではオービックシーガルズの前田眞郷選手なども競技と経営者の顔を持っています。「競技に専念すべき」という声もまだまだある中で、デュアルキャリアで競技を行うメリット・デメリットがあれば教えてください。
コージ:メリットは、アスリート人生の次の道というのが早い段階で分かること。あとはスポーツだけをやっていても十分なお金がもらえる人というのはやっぱり少ないと思うんです。そういう意味で、スポーツに集中するためにお金を稼ぐ道というのは絶対にあったほうがいいと思うし、今はそれがだいぶ受け入れられる環境になってきたので、できるならば一刻も早くそうするべきだなとは思います。
――デメリットは?
コージ:個人的にはデメリットは感じていませんが、やっぱり周りに「中途半端にやっている」と思われないように、競技も仕事もどちらも本気でやるということは大切ですね。
――どちらも本気でやらないといけないという意識が高まるから、より良い結果が出る可能性もありますよね。
コージ:相乗効果になっている人が多いと思いますね。それこそ今、みらいふ福岡SUNSで一緒にやっている、大学時代の同期でもある栗原嵩(関東学生リーグでMVP、Xリーグ・パナソニックインパルスで活躍後、NFLに挑戦した経験を持つ)もボブスレーの日本代表を目指しながらアメフトをやっています。ただ、以前ボブスレーでケガをしてアメフトもできなくなってしまったこともあったので、競技を2つやるというのはそういったデメリットはありますね。
僕もタレント業のほうで事務所の方から「ケガだけは絶対にしないでくれ」と言われていますし。ケガをして、さすがにロケの仕事に松葉づえをついて行くわけにはいかないので、そういうリスクはあります。
――アメフトは特にタフな競技なので、ケガと隣り合わせのスポーツですよね。
コージ:僕がチームに入ってから「前十字靱帯(じんたい)を切って1年はできません」みたいな人が62人中2人もいるので、本当に次に誰がケガをしてもおかしくないというような感じです。
――Xリーグでは、プロ契約を結んでいる選手もいますが、アマチュア選手として仕事をしながらリーグ戦に参加している選手が中心なんですよね?
コージ:そうです。リーグ自体というよりは、チームの多くが「どうせお金を払うならアメリカ人に払う」という考えなんです。だから日本人でプロになるというのは相当レベルが高くないと厳しい。それに加えて、チームにどれだけ影響力があるのかというところも考慮されるのでプロになる基準はめちゃくちゃ厳しいです。なのでだいたい、アメフトをやることでお金をもらおうという考えがないんです。
――そういった中で、コージさんたちのように、新しいスタイルでアメフト選手として競技を盛り上げるというのは、すごく可能性があるなと感じます。
コージ:少し前まではアスリートの中でも浸透していなかったことですし、僕自身のケースとしてもタレントから競技の世界に戻るというパターンはなかったと思うので、そういう意味では面白いかなと思っています。
――他のスポーツでも、ほぼ前例がないですよね。
コージ:それこそ、(南海キャンディーズ)しずちゃんがボクシングでロンドン五輪を目指していましたが、それぐらいですかね。
「やると決めたことはやらないと気が済まない」
――芸人になった理由も、「エンターテイナーになって日本文化を発信したい」という思いから。当時企業から内定をもらっていたのに、お笑いの道に入ったそうですが、自分自身が有名になって何かを広めていきたいという使命感みたいなのは、昔から持っていたんですか?
コージ:小さい頃はずっと目立ちたいという思いから、「目立てるなら学級委員長やります」と言ってずっとやっていたくらいでした(笑)。それからたまたまスポーツだったり、自分がもっと多くの人にも知ってもらいたいという世界に触れ始めて、「せっかく触れたんだったらこれをみんなに知ってもらおう」と。それが自分の欲にもつながるし、自分が触れたものにとってもいいことにつながっていくんじゃないかなと思い始めたというのがあります。
――日本ってあまり「目立ちたい」とか、「有名人になりたい」と主張することがあまり受け入れられない環境かなと思うのですが、それはご両親の影響などもあるのですか?
コージ:僕、4人きょうだいの一番下なんですけど、ほとんど自由に育てられて怒られることもなくて。兄貴とかが怒られているのを見て「これはやったらあかん」とうまく生きていたんですけど(笑)、やりたいと思ったことはだいたいやらせてもらえる環境でした。
――学校もそういう環境だったのですか?
コージ:環境というよりは、自分自身がやりたいと思ったらとことんやらせてもらっていました。「東京に行きたいから東京の大学を受ける」と高校の先生に言いに行ったら「そんなツテないぞ」とか言われて、「なんとか見つけてください」と返して(苦笑)。アメフトのスポーツ推薦を取るためのセレクションを自分で受けに行って、法政大学に行かせてもらったんです。周りの人たちのおかげでやりたいことができるんですけど、自分自身言いたいことは言っていましたね。
高校では1年生の時にアメフトを1年間やって、2年生の時に野球部に入りたいなと思って、先生に「辞めます」と言いに行ったんですけど、「せっかく1年間アメフトで鍛えたのに、それを野球部で使うなんて俺は許さん」と監督に言われました。それでも野球がやりたくて、1カ月ぐらいほぼ毎日先生のところに行って「辞めさせてください。野球をやらせてください」と言って。
最終的には、僕が「月・水・金はアメフトやるので、火・木は野球をやらせてください」と提案したところ、高野連(日本高等学校野球連盟)のルールの関係で無理でした。「学校の部活、しかも私立で自由やろ」と、それが無理なのもよく分からないなと思いながらでいたけど、結局、野球部には入れずアメフトに戻った時に「じゃあ、お前はもう自由にやっていいよ」と言われたので、言って良かったなと思っています。
――「自分のやるべきことをまっとうする」というアメフトの特性も、「やると決めたことはやらないと気が済まない」というコージさんの性格的にもマッチしているのかもしれないですね。
コージ:そうですね。そういう意味では、自分はすごくわがままかもしれません。やりたいことをやらせてもらえない時のストレスは半端ないです。「やらせろ!」と(苦笑)。だから、そうやってやらせてもらえた環境があったからこそそういう行動ができてきたので、「本当に周りに感謝しないといけないな」と思っています。
<了>
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PROFILE
コージ・トクダ
1987年生まれ、大阪府出身。みらいふ福岡SUNS所属のアメリカンフットボール選手兼タレント。大阪学芸高等学校でアメフトを始め、スポーツ推薦で法政大学へ進学し体育会アメリカンフットボール部へ入部。甲子園ボウルに3度の出場を果たし、4年生時には主将として強豪チームをけん引した。大学卒業後は大手企業数社から内定をもらっていた中で親の大反対を押し切りお笑い芸人の道へ進む。2016年にお笑いコンビ「ブリリアン」を結成しブレイクを果たすが、2020年3月に解散を発表。同年4月にタレント活動との二刀流でアメフト選手として復帰し、社会人アメリカンフットボールチーム みらいふ福岡SUNSに加入。ポジションはディフェンスの最前線で体を張るDL(ディフェンスライン)。
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