
アメフト復帰の元withB・コージが「遠回り」「いらない経験」とあしらわれても“飛び込む”理由
「信じ抜けば、夢は叶う」というメッセージをテーマに大きな注目を集めている12月25日公開の『映画 えんとつ町のプペル』。さまざまな時代背景から、夢を持つこと、そしてその夢を叶えることが簡単ではなくなっている今、REAL SPORTSではこのメッセージに共感し、「夢を持ち、夢を叶えるために、自分の道を信じて、努力し続ける」アスリートたちの姿や信念を伝えるコラボ企画をスタートする。
今回はその第1弾。お笑いコンビ「ブリリアン」で人気芸人として活躍していた2020年3月、コンビを解散。タレント活動をしながら一度は諦めたアメリカンフットボール選手の夢を追う覚悟を決めた、コージ・トクダだ。
強豪・法政大学時代は3度の甲子園ボウル出場を果たし、主将を務めたほど本気で向き合ってきたアメフトに対し「恩返しがしたい」と語るコージ・トクダには、年齢の壁や二足のわらじに対する懐疑的な目にも負けることのない熱く真っすぐな思いがあった――。なぜ彼は今、新たな挑戦に踏み出したのか。みらいふ福岡SUNSで叶えたい夢とは?
(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=高須力)
「飛び込むとは言ったものの最初は本当に恐怖しかなかった」
――コージ・トクダ(以下、コージ)さんは人気お笑い芸人として活躍していた中で、今シーズンから、みらいふ福岡SUNSに加入し、10年ぶりにアメリカンフットボール(以下、アメフト)選手に復帰しました。実際にアスリートに戻るというのは簡単なことではなかったと思うのですが?
コージ:まったく違う業界に飛び込むというかたちだったので、周りの反応がいろいろ気になったりもしましたけど、まずは「自分自身のアスリートとしての感情を呼び起こさないと」と思って。そういう感情を一切忘れていたというか、これまでも多少体を鍛えてはいたもののアスリートとなれば鍛え方もまったく違います。とにかくゼロから新しいところに飛び込むきもちでしたね。「飛び込む」と言ったものの最初は本当に恐怖しかなかったです。チーム練習を初めて見た時は、「こんなところでできるのかな」と思ったくらい。もう不安しかなかったのですが、いざその輪の中に入ってしまうと、昔の感情が呼び戻されたのか、「なんとかなるな」と思えるようになってきたんですよね。
――すごいですね。もともとは大学時代に甲子園ボウル(全日本大学アメリカンフットボール選手権大会の決勝戦)常連の法政大学でキャプテンとしてトップレベルでやっていたんですよね。
コージ:はい。でも、Xリーグはもちろん社会人というカテゴリー自体まったく知らない世界だったので、自分自身がどこまで通用するのか、どこまでやれば認めてもらえるのか不安しかなかったです。でも、とにかく自分ができる最大限の努力をしようと思い、飛び込みながらトレーニングや食事を変えるところからいろいろやりましたね。
――一度はお笑いの道を選んだ後、また選手としてアメフトを真剣にやろうと思ったきっかけは何だったのですか?
コージ:これまでもアメフトを盛り上げたくて「アメフトは面白いスポーツなんだよ」という発信をずっとしていたんですけど、いまいち説得力がないというか、自分の発信にそんなに重みがないなと思っていたんです。
アメフトを熱く語っても、一経験者ではあるけれど現役でやっている人たちが語るものには勝てないなという思いがずっとありました。そこで選手として競技に復帰することで、アメフトを盛り上げたいという思いにもう一段階重みが重なるかなと思って。それでまた選手としてアメフトというものに向き合おうという気持ちになりました。
――みらいふ福岡とはどんな縁があったのですか?
コージ:キャプテンをやっていた大学4年生の時の副キャプテンだった栗原嵩(関東学生リーグでMVP、Xリーグ・パナソニックインパルスで活躍後、NFLに挑戦した名選手)が、ずっと選手としてアメフトを続けていて。ちょうど今年(2020年)の初めに彼がフリーエージェントになった時と、僕が「アメフトやりたい」と言い出したタイミングがたまたまかぶって相談したんです。
「選手としてアメフトを盛り上げていきたいんだけど、どのチームに入ったらいいと思う?」みたいなことを言ったら「ちょうど今俺も探してるから、もしよかったら一緒のチームに入って2人で盛り上げていかない?」と言ってくれて。10年前のチームメートともう一度一緒に組んでアメフトを盛り上げるというのはいいなと思って。
「福岡みらいふは、選手層も若くてSNSでの発信も頑張っていたり、新しいことをすぐに取り入れるチームだから、一度見学に行ってみない?」と誘われて、その時のチームの代表や練習の話など聞きながら総合的に検討して決めました。
自分を成長させてくれたアメフトに恩返しをしたい
――アメフトを盛り上げたいという思いを抱きながらも、選手として本気でやっている人たちの中に飛び込んでいくにあたってどんなことを意識しましたか?
コージ:やはりどの業界に入るにしても中途半端に入ると失礼になるし、「なめてるんじゃないか」とか「そんな簡単な世界じゃないぞ」と思われる可能性は高いので、体を必死で鍛えたり、入るからにはチームメートに本気度をアピールするために努めました。
――体づくりはどのぐらい前から準備されたんですか?
コージ:とはいっても、3月31日に記者会見をして、そこからずっと新型コロナウイルスの影響で活動がまったくできず……。6月28日に再開した練習に初参加して、7月からは隔週、8月からようやく毎週練習ができるようになったんです。練習ができない3カ月間は家の中でできるトレーニングをやりながら、体重を増やさないといけないので1日5食ぐらい食べました。6月の練習開始からジムも開いて、がっつりトレーニングができましたが、実質ちゃんとトレーニングができたのは2カ月ぐらいですかね。その期間で体重を16~17kgぐらい増やして臨みました。
そうしたら、やはりチームメートたちにも「本気やな」というのを感じてもらえたようだったので、受け入れてもらうことには成功したのかなと個人的には思いました。
――新型コロナウイルスで練習にすぐ参加できなかったことが、体づくりの準備期間となったのかもしれないですね。
コージ:そう思っています。本来ならすぐ練習に参加するところ、その期間でしっかり準備ができたという意味では貴重な期間だったなとは思います。
――実際にグラウンドでプレーをしてみて、どんな感覚でしたか?
コージ:周りの光景を見た時にグッとくるものがありました。練習をがっつりやっていたので、試合は大学の時と変わらない感覚でいたのですが、「まさかこれをもう一度見ることになるとは」と、なんともいえない感情が込み上げてきましたね。
――多くのアスリートが競技を続けるか諦めるかという選択を迫られるタイミングが来る中で、一度諦めて別の道に行った人がアスリートになって見えた景色や感情というのは、すごく貴重ですよね。
コージ:目標としてはもっと高いところにあるので、まだ全然その過程の半ばだなという感覚なんですけども、アメフトに関しては僕の力というよりも「アメフトを一緒に盛り上げていこう」という周りのみんなの思いがすごく強いので、そういう意味でみんなに助けられたなという思いがあります。
――コージさんの今の目標というのは?
コージ:みらいふ福岡SUNSは、Xリーグのトップから1個下のX1 Areaリーグ所属なので、その一つ上のX1 SUPERリーグに昇格するのが目標。個人的な目標は、今はコロナ禍で厳しい部分もあると思いますが、自分が試合に出ることで1人でも2人でも試合に来てもらって、少しでも多くの人がアメリカンフットボールに触れる機会が増えるといいなと思っています。
――アメフトの普及や盛り上げという意味では、これまでのタレント活動というのもすごくプラスになりそうですね。
コージ:そうですね。アメフトを見に来るハードルが少しでも下がればいいなと。
――実際に選手になってからは、周りの反応も変わりましたか?
コージ:想像していたよりも反応があり、やはり自分自身がプレーするというのは大きいことだったんだなと感じました。
――最初にアメフト復帰のニュースを見た時には、失礼ながら「さすがに無理では?」と思っていました。
コージ:周りの人たちからも本当にたくさんの声がありましたし、アメフトファンからも「復帰するのはうれしいけれど、中途半端にやって通用する世界じゃないから」という声をいろいろなところでかけてもらいました。でも「見とけよ。絶対活躍するから」と。
競技力としては現役選手たちに負けていたとしてもアメフトを盛り上げたいという思いは負けていない。なので、とやかく言われるのも嫌だし、「アメフトをみんなで盛り上げようぜ」という先駆者になりたい。活躍して結果で見せるしかないと思いましたし、自分自身、アメフトにかなり成長させてもらったので恩返しをしたいという思いもあります。
――アメフトでの経験が人生に生きているなと感じる部分はありますか?
コージ:アメフトの競技特性でいうと、「勝てないやろ」と思うようなめちゃめちゃでかい相手にもぶつかっていくというところがあって。日常生活の中でも「突っ込んだらなんとかなるやろ」と、どんなことでもとりあえず“飛び込む力”はめちゃくちゃ付いたんじゃないかなと思います。
30代になると守るものもあるし、なかなか新しいことに踏み込みづらくなると思いますけど、本来なら怖いところに突っ込んでいくというアメフトで教えてもらったことを、今回アメフトに戻るために生かせたというのもあります。
あっという間に時は経ってしまう。だからこそ「やらないと」
――さまざまな声や懐疑的な目を向けられたりもする中で、自分を信じて夢に向かって進んで来られた原動力というのは何ですか?
コージ:もともと、「決めたことはとりあえずやり切る」という性格なんですけど、それよりもアメフトに対する思いが強く染みついていて。高校の時も大学の時も、アメフトをやめようと思ったけど結局戻ってきた。切っても切り離せないものというか、もしそのままタレント活動を続けてどれだけ有名になっていたとしても、「アメフトに対して何もしてあげられなかった」という思いは絶対に後悔として残るはずだと思ったんです。だって、アメフトに育てられたから。
―― アスリートに限らず、30代前後ってなかなかキャリアを変えたり新しいことにチャレンジしたいと思っても、特に日本社会では周りの意見や目を気にしてやりたいことができないという人も多いと思います。
コージ:僕、小さい頃からずっと「やりたい」と言ったことをやらせてもらえる環境だったんです。
――そういった環境の中で自分自身が「やる」という意志と行動力を持っているということですよね。「やれない」と思っているのは実は自分だったりするのかもしれない。
コージ:それは間違いないと思います。何をやりたいのか? ということも、また重要ですし。気付いたら僕も33歳ですし、あっという間に時は過ぎていってしまうので、思い立ったらやらないともったいないなと思うんです。
――アスリートとしてチャレンジできるギリギリのタイミングだったということですね。
コージ:はい。ギリギリのタイミングが迫っていた中で、さらにいろいろなきっかけがあって。引退する後輩の食事会に行ったら、1個下のやつらがほぼ全員「引退します」という話で。
「そうか、10年間よく頑張ったな。アメフトを必死に盛り上げてくれてありがとう」という反面、「みんなはこんなに必死に頑張っていたけれど、俺はこの10年間、(アメフトに対して)何もやっていなかったな」という気持ちが湧いてきて。一念発起、最後のチャンスにかけて頑張ってみようかなと思ったのが、後輩たちが引退するタイミングで、自分の今の年齢だったんです。だからこそ「やらないとな」と。
――アメフト選手としてのチャレンジは年齢的なリミットもあるかもしれませんが、その先のステップというのも考えているのですか?
コージ:そうですね。アメフトは、下手したら1年ぐらいで体的にもどうなるかわからないという思いもあります。次のステップとしてはまた芸能界で頑張っていくという流れを思い描いてはいます。「まったく違う業界にポンポンと点を置いていくのは、かなり遠回りだ」と言われたり、「タレントの時に演技の勉強をして俳優の道へ行きたいならそっちでやっていたらよかった、アメフトは正直いらない」と言われることもあるんです。でも、個人的には全部つながっているなと思っているんです。
アメフトをやった体でタレント活動をやるというのは唯一無二の存在になれる可能性もありますし、だから「意味ないな」と思うことも、自分で意味を付けていけばなんぼでもなるので。
<了>
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PROFILE
コージ・トクダ
1987年生まれ、大阪府出身。みらいふ福岡SUNS所属のアメリカンフットボール選手兼タレント。大阪学芸高等学校でアメフトを始め、スポーツ推薦で法政大学へ進学し体育会アメリカンフットボール部へ入部。甲子園ボウルに3度の出場を果たし、4年生時には主将として強豪チームをけん引した。大学卒業後は大手企業数社から内定をもらっていた中で親の大反対を押し切りお笑い芸人の道へ進む。2016年にお笑いコンビ「ブリリアン」を結成しブレイクを果たすが、2020年3月に解散を発表。同年4月にタレント活動との二刀流でアメフト選手として復帰し、社会人アメリカンフットボールチーム みらいふ福岡SUNSに加入。ポジションはディフェンスの最前線で体を張るDL(ディフェンスライン)。
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