「伝説のキャプテン」廣瀬俊朗。「ONE TEAM」の礎を築いた「新時代のリーダー論」とは?

Business
2020.02.29

ラグビーワールドカップ2019の快進撃は流行語にもなった「ONE TEAM」抜きにはなし得なかった。開催国、4年前の“奇跡”の再演への期待、さまざまなプレッシャーに打ち勝てたのは、ラグビー日本代表に脈々と受け継がれた“キャプテンシー”の存在があった。今大会、圧倒的な存在感でチームを鼓舞し続けたリーチ・マイケルも頼った元日本代表“伝説のキャプテン”、廣瀬俊朗氏にリーダーシップ、キャプテンシーについて聞いた。

(インタビュー・構成=大塚一樹[REAL SPORT編集部]、撮影=末永裕樹)

ラグビー出身者が経営者としても優秀な理由は自己肯定感?

――ラグビーワールドカップが生んだブーム、廣瀬さん自身もドラマ出演、アンバサダー、解説者としてのメディア露出が増え、注目度が一気に上がりました。環境の変化に戸惑ったのではないですか?

廣瀬:選手時代にも街を歩いていて声をかけられることはありましたけど、2019年はちょっと異常でしたね。外で一人でご飯を食べるのも難しいし、そういう環境にはなかなか慣れなかったですね。選手をやめて3年くらいすると、あんまり声もかけられなくなるんですよ。それに慣れかけていた、自分が一般人になったと思っていたところで、こうなってしまったので、なおさら戸惑うところはありました。でも、こういう経験は誰もができることじゃないし、めったにあることじゃないと友人に言われて、いい経験ができているなと思うようにしました。

――選手たちもメディア露出が一気に増えました。日本では選手がメディアに頻繁に出るようになると「本業をおろそかにしている」という批判が起きがちですが、ラグビー選手たちは不思議とそういう雰囲気を感じません。

廣瀬:そうですね。選手たちが浮き足立っているということはないと思います。調子に乗ったり勘違いしたりというのは大丈夫だと思います。それより、注目度が桁違いに高まるなかで、運営面とか周囲の環境の方が大丈夫かなという心配はありますね。

――ラグビー選手の落ち着いた対応を見ていても感じるものがあるのですが、ラグビー界からは伝統的に優秀なビジネスパーソン、経営者が生まれているというのをよく聞きます。

廣瀬:多いですね。

――何か秘密みたいなものがあるのでしょうか?

廣瀬:ラグビーっていろんなポジションがあって、それぞれがそれぞれの役割を担って初めて良いラグビーができるようになるんです。ビジネスも同じで、マーケティングの人がいて、企画の人がいて、開発して製品を作ってって役割がありますよね。ラグビーをプレーしていると自然とそういうことが疑似体験じゃないけど、身に付いていくのかなとは思いますね。それと、これもポジションや役割と関係しているんですけど、ラグビーは自分の“ありのままの良さ”をいかせるスポーツなんです。僕はラグビー選手としては小さい方ですけど、スタンドオフというポジションだったので、体の大きさはあんまり関係ありませんでした。どんな人でもありのままの自分で活躍できる場所があるって、すごく自己肯定感を生むんですよ。それがやる気にもつながりますし、人との違いをそのまま受け入れやすい。だからみんな明るいし、「ええやん、ええやん」って褒め合うみたいな空気感があるんです。

――自己肯定感の高さが人間的な成長につながるということはありますよね。ラグビーをやっている、いないにかかわらず、経営者の方でラグビーが好きな人も多いですよね。

廣瀬:そうなんですよね。ラグビーが熱いスポーツというのもありますし、会社に近いところがあるというのもあるのかなと思います。一つのボールをつないでみんなでトライを目指すところとか、「One for all, All for one」とか。

――廣瀬さん自身も引退を機に経営学を学び、MBAを取得しています。セカンドキャリアとして経営をというのは現役時代からあったんですか?

廣瀬:ある程度の方向性はありました。引退したときはラグビーはやりきった感覚があったので、いままでやれなかったことをやりたいなというのもありました。ラグビーをやっていると、経営者の方にお会いする機会が結構多いんです。現役時代の自分は、そういう人にお会いしてもラグビーの話しかできなかった。もっといろいろな話、その人が専門しているビジネスの話ができればなあと思っていたので、経営学を学ぼうと。自分としては次世代に向けての一つのロールモデルになりたいなという思いもあって、ラグビー以外の道として「ビジネスで成功する」という道筋を示したいというのはありました。

リーチ・マイケルの苦悩と新時代のリーダーシップ

――廣瀬さんと言えばあのエディー・ジョーンズさん(元日本代表HC、現イングランドHC)をして「最高のキャプテン」と言わしめ、キャリアの中でも中・高・大、社会人、日本代表とすべてのカテゴリでキャプテンを経験されています。リーダーシップについては一家言あると思うのですが。

廣瀬:いまの時代は、個性の強い一人のリーダーが引っ張ってくという時代じゃないんです。チームみんなでリーダーシップをシェアしながら集団として力を発揮していくような時代です。

――2015年、そして2019年の日本代表を見ていても、巻き込み型のリーダーシップ、ビジネスの世界で言われているコレクティブ・ジーニアス(集団としての天才)みたいな考え方に通じるものを感じました。

廣瀬:そうですね。2015年の南アフリカ戦の勝利も、今回の快進撃もそうですけど、勝利の大きな要因と言われている相手チームの分析も、アナリストが分析したものだけでなく、データや数字をもとに自分たちも分析して、戦術を考えていました。自分で分析すると腹落ち度が違いますし、聞いてやるのと、自分たちで工夫しながらやるのは全然違いますよね。誰か一人が決めたことをやるというよりは、全員が一つひとつのプレーの意味がわかってプレーしている、自分たちで考えてやっているわけですから。

――ラグビーにおけるヘッドコーチとキャプテン、どちらもリーダーシップを必要とするポジションだと思うのですが、二者の違いは?

廣瀬:キャプテンは人事権を持たない現場のリーダー。監督には人事権がありますからね。キャプテンは選手と一緒にチームをつくり上げていく感覚が強いです。監督は選手選考も含め、全員をハッピーにはできない。人事権があるかないかは大きな違いなのかなと思いますね。それと、選手は監督を代えることはできませんよね。だからキャプテンは監督の思いやビジョンを咀嚼して、みんなにうまく伝える。反対に選手の思いを監督にうまく伝える。そういう役割もあると思います。

――今回のワールドカップでは、キャプテンを務めたリーチ・マイケル選手が当初自分でがんばって引っ張っていこうとしすぎて、うまくいかなくなった時期があったことも明かされています。

廣瀬:マイケルって、あんなプレーできる選手はあんまりいないじゃないですか。僕はあんなことできないですから(笑)。あのプレーで引っ張っていくのも彼のリーダーシップ。うまくいかなくなったときは、彼が持ってるプレーだけじゃなくて、チームをどうサポートするかを考えすぎてしまっていたんですね。それで自分のパフォーマンスが落ちてしまった。でも、これはより良いリーダーになるためには大事なことなので、すごく良い過程を経ているなと思って見ていました。ただワールドカップでピーキングに失敗したら元も子もないので、日本代表にリーダーシップグループがあって良かったなと。あそこでマイケルが一人でがんばっていたら正直パンクしていたと思います。

――リーチ選手に対しては何かアドバイスとか。

廣瀬:まあ僕はなんでしょうね。こうした方がいいみたいなことは言いませんでした。

――連絡はあった?

廣瀬:はい。「そうだよねぇ」とマイケルの話を聞いていただけで、あとは「楽しみやなぁ」と、そんな感じで話はしました。

――結果的にその時期があったからこそのONE TEAMというのも感じました。

廣瀬:本当にそうなんですよね。リーダーシップって誰にも当てはまるコアな部分と、人によって違うところ、人間性だったりあとはそのときのフェーズによってやることが変わってくると思っているんですよ。どこがうまくいっていてどこを変えなくちゃいけないか、そういうところをトータルに見極める必要があるんです。マイケルに何かしてあげられたわけじゃないですけど、今後は、こうやったら大枠としてはうまくいくというシステムみたいなものをつくれたらいいなとは思っています。

伝説のキャプテンが考える“キャプテンシー”

――ラグビー界では、中竹竜二さん(元早稲田大学ラグビー蹴球部監督、スポーツコーチングJapan代表理事)を中心に「コーチのコーチ」という考え方が他のスポーツに先駆けて出てきています。キャプテンのコーチ、キャプテンのキャプテンみたいな考え方も面白いですよね。

廣瀬:まさにいま「キャプテンのコーチ」みたいなことをやっていけたらなと考えていました。

――リーチ選手にしても、大学生でも、高校生でも、中学生でも、悩んでいるキャプテンはたくさんいそうですね。

廣瀬:自分もそうでしたが、悩んでるときの方が多いというか、うまくいったなという日の方が少ないくらいです。練習がうまくいかなかった。なぜうまくいかなかったんだろうと考え始めると、ミーティングの内容が悪かったのか、練習中の声がけが良くなかったんじゃないか、自分の準備が良くなかったかなと、悩み出したら切りがない。

――チームにはそういうふうに深く考えるタイプの人もいれば、あまり考えないタイプの人もいますよね。このギャップでギクシャクしたりしないものなんですか?

廣瀬:立場が違えば考える量が変わるのは仕方ないのかなと思いますよね。深く考えずにプレーすることが大切なときもありますし、そういう選手が考え込んでしまってパフォーマンスを落とす可能性もあります。そういうピュアな選手たちに良いパフォーマンスを発揮してもらえるように調整するのもキャプテンの仕事かなと思います。自分の価値観を押しつけすぎると余計な軋轢を呼ぶことになりますから。

――廣瀬さんがやろうとしているキャプテンのコーチ、ものすごく興味が出てきました。このプロジェクトもそうですけど、ご自身で起業された株式会社HiRAKUでは、どんなことをやっていくのでしょう?

廣瀬:ラグビーの価値、ラグビーだけでなくスポーツの価値を高めて、スポーツがいまよりもっと社会に広がっていけばいいなという思いでやっています。スポーツ、リーダーシップを軸に、子どもたちにアプローチする教育的な事業も考えています。最初はラグビーになると思いますが、アカデミーの構想もあって、そこではリーダーシップの勉強だったり、あとお金の勉強、スポーツだけでもない、勉強だけでもないここでしか学べないものが提供できたらなと考えています。

<了>

【前編】にわかだけじゃない、古参ファンには「感謝しかない」廣瀬俊朗が語る、W杯成功の要因

ラグビーW杯、前代未聞のSNS戦略とは? 熱狂の裏側にあった女性CMOの存在

ラグビー田中史朗、キヤノン改革に懸ける決意。強豪から中堅へ、ベテランの生き様

なぜトンプソンルークはこれほど愛されたのか? 大野均・W杯3大会の盟友が語る、忘れ難き記憶

20年ぶり偉業、「もう一人の日本代表」久保修平レフリーが見た「W杯の裏側と日本ラグビーの課題」

なぜラグビー日本代表に外国出身が多いのか? サッカーとの比較で見るラグビー

ラグビーW杯で初上陸「スポーツホスピタリティ」とは? 今さら聞けない欧米で常識の観戦法

ハカの妨害は“非礼”か、“当然”か? イングランドV字陣形にアイルランドの歌声

[PROFILE]
廣瀬 俊朗(ひろせ・としあき)
1981年生まれ。大阪府出身。北野高校、慶應義塾大学を経て東芝ブレイブルーパスに入団。高校日本代表、U19日本代表としてもプレー。2012年、エディー・ジョーンズ ヘッドコーチによって日本代表キャプテン任命されると、抜群のキャプテンシーを発揮。ラグビーワールドカップ2015では、一度もベンチ入りを果たせなかったにもかかわらず、関係者700人からの応援ビデオ作成などでチームの団結を促して南アフリカ戦の劇的勝利に貢献した。引退後はMBAを取得、株式会社HiRAKUを起業する一方で、ラグビーワールドカップ2019公式アンバサダー、TBS系ドラマ『ノーサイドゲーム』に俳優として出演するなど、ワールドカップの盛り上げに一役買った。

この記事をシェア

KEYWORD

#INTERVIEW

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事