なぜラグビー日本代表に外国出身が多いのか? サッカーとの比較で見るラグビーW杯
9月20日に開幕し、熱戦の続くラグビーワールドカップ。開幕戦では日本代表がロシアを相手に勝利を挙げ、幸先の良いスタートを切ったといえるだろう。そんなラグビー日本代表を見て、「なんで日本代表なのに外国人選手がたくさんいるの?」という感想を抱いた人も多いだろう。
サッカーとラグビー、同じ“フットボール”をルーツに持つ2つの競技それぞれの観点から、ラグビージャーナリストの永田洋光氏と、サッカージャーナリストの中山淳氏にこの命題について語ってもらった。
(対談=永田洋光&中山淳、構成=永田洋光、写真=Getty Images)
ラグビーの代表選手資格にある3つの要件
ラグビー日本代表に、海外出身の選手が15人(うち7人が他国籍)入っていることに対して、さまざまな声が挙がっています。サッカーの代表は国籍が資格の条件になりますが、ラグビーは違いますね。
永田:ラグビーの代表選手資格(エリジビリティ)は、19世紀に英国が“大英帝国”として世界に植民地を持っていた時代から続く考え方に基づいています。
当時、イングランドのパブリックスクールや大学でラグビーに親しんだ人間が、植民地経営のために海外に派遣されても、その地でラグビーを続け、その土地のラグビー協会が代表選手として認めれば、その国なり地域の代表選手となって、母国とも対戦できる道を残したのです。この考え方は「所存協会主義」といわれています。
現在のエリジビリティは、「国籍」「血縁」「地縁」の3要件のうち、いずれか一つを満たせばいい。
「国籍」はパスポートの保持で、「血縁」は祖父母の代までさかのぼってその国や地域の出身ならば代表資格を認めるというもの。そして、「地縁」が、その地に継続して3年以上居住というものです。
この地縁のおかげで、多くの海外出身選手がジャパンに選ばれてきました。
今の日本代表ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフも、1995年の(ラグビー)ワールドカップにニュージーランド代表として出場し、大会終了後に、チームメイトのグレアム・バショップと共に来日。2人ともサニックス(現・宗像サニックスブルース)でコーチ兼任としてプレーしていたため、1999年大会には日本代表で選ばれました。
まあ、前回大会で、史上初めての延長戦にもつれ込んだ決勝戦を戦ったオールブラックス(ニュージーランド代表)が2人も、次の大会で日本代表になったことでかなり物議を醸し、大会後には、1つの国または地域を代表した選手は違う国または地域の代表になれない、という規定が付け加えられましたけどね。今は、地縁の居住年数を5年にしようという動きが出ていて、これは近いうちに実現するのではないですかね。
代表資格は「パスポート」と同じ
中山:確かに一般のファンから見れば、「なんでラグビーの日本代表には外国人選手が多いんだ?」という疑問が出てきますけど、でも、歴史をたどると話はそう単純ではない。
僕たち日本人は、国籍や帰化という言葉で考えるから、外国人選手に対する条件が狭くなりますけど、パスポートの問題として考えると、海外には複数の国のパスポートを持つ人もいる。日本人は一つしか持てないので、その考え方になかなかなじめない。でも、代表資格でいわれる「国籍」は、ラグビーと一緒であくまでも「パスポート」なんです。
例えばサッカーでいえば、古くは1950年代に活躍したアルフレッド・ディ・ステファノが、アルゼンチン、コロンビア、スペインの3カ国で代表選手としてプレーしました。また、ブラジル代表でプレーした経験のあるジョゼ・アルタフィーニが、後にイタリア代表として活躍することもありました。これは、戦争や移民など、歴史的な背景があってのことで、当然ですが当時は厳密な規定もありませんでした。一度選択した代表チームは変更できないという規定が明文化されたのは、1962年の(サッカー)ワールドカップ(第7回)以降とされています。
では、代表経験のない選手が生まれた国以外の代表選手になることについてはどうか? 例えば、日本のラモス瑠偉や呂比須ワグナーのように、代表歴がないブラジル人選手を帰化させ、つまりパスポートを与えてブラジル以外の国の代表選手になる例です。実はこれ、かなりグレーゾーンだったわけです。
ただ、日本の場合はパスポートを取得する、あるいは帰化するためのハードルが非常に高いため、サッカー界において問題視されることはありませんでしたが、2000年代にカタールがお金にモノを言わせて、カタールでのプレー経験もないアイウトン、デデ、レアンドロといった代表歴のないブラジル人選手にパスポートを与えてカタール代表入りさせたことで、問題が一気に露呈しました。当時のFIFA(国際サッカー連盟)ゼップ・ブラッター会長がそれに警鐘を鳴らし、2年以上の居住歴という永田さんがおっしゃった「地縁」も代表変更要件に加えたのです。
もっとも、その後も居住年数を3年、5年と変更したり、年代別代表であれば変更できるルールを加えたりと、何度かのルール変更の歴史をたどって現在に至るわけですが、現在の傾向としては、ルールは緩和の方向に進んでいるのが実情です。
それも当然の話で、これだけ移民が増えて人の行き来が激しい現代社会において代表資格を一つの国に制限すること自体が難しいのではないかという議論がFIFA内でも進んでいと聞いています。例えば、若い頃に一度ブラジル代表に選ばれながら、何かしらの理由でイタリアに移民した場合、その選手がセリエAで急成長したようなときはブラジル代表で試合に出たのがわずかであればイタリア代表になることを認めてもいいのではないか、というような議論です。
そういう意味では、サッカーが、ラグビー化の方向に向かっているといえるでしょう。
ボーダレス化している現代社会では、ナンセンスな議論
永田:うん、本当にラグビーとよく似ていますね。というか、ラグビーがサッカー化して、エリジビリティを厳格化しようとしているようにも見える(笑)。
中山さんに伺いたいのは、サッカーも、祖父母の代までさかのぼってその国の出身ならば、代表になれるのですか? 例えば、おじいさんがスコットランド人で、おばあさんがアイルランド人の場合は、どちらの代表にもなれる――といったように。
中山:代表についてはパスポートがあるかないかの話になるので、国によって条件は異なってくるかと思います。ただ、クラブシーンの外国人枠の扱いの話になると、例えばプレミアリーグ(イングランド)には、EU内の選手であれば外国人枠には入らないことになった1995年のボスマン判決よりも以前から、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド、アイルランド出身の選手は外国人枠の対象外でした。当然ですが、父親がイングランド人で母親がウェールズ人といった例は、当たり前に存在していますからね。それ以外にも、外国人枠を考えるときには祖父母までさかのぼって判断するリーグが多いです。というか、ドイツのように外国人枠そのものを撤廃するという考え方がトレンドといえるでしょう。
永田:ラグビーの場合も、日本人から見ると、日本代表だけが突出して外国人選手が多いように感じますけど、それは外見が違うから違和感が強いのであって、今のようにブリテン島に住んでいる人たちのことまで考えると、他の国にも他国出身の代表選手は、けっこういる。
ニュージーランドやオーストラリアには、仕事を求めてトンガ、サモア、フィジーといった南太平洋の島国から移住する人たちが多いですし、彼らの子どもたちが母国ではなくオールブラックスやワラビーズ(オーストラリア代表)になることを選ぶ例は数え切れないくらいあります。
昔、サントリー(サンゴリアス)でプレーしていたアラマ・イエレミアはサモア出身で、ニュージーランドの大学に在学中にラグビーを始めてすぐにサモア代表となり、その数年後にオールブラックスに選ばれて1995年大会に出ていますからね。
そもそも、スコットランド出身のテニス・プレーヤー、アンディ・マレーだって「あなたはスコットランド人(スコティッシュ)なのか?」と質問されたときに、「僕はブリティッシュ(英国人)だ」と答えている。マレーの例を出すまでもなく、ナショナリティーの問題は、あくまでも本人が自分のナショナリティーをどう捉えるかが大切であって、ラグビーの日本代表に海外出身の選手が15人といった議論はナンセンスだと思います。
中山:サッカーの日本代表にも三都州アレサンドロや田中マルクス闘莉王がいましたけど、彼らは日本に住んで、日本の学校に通って、普通に日本語も話して、日本とブラジルのパスポートも持っていた。ラグビーでいえば、リーチマイケルや中島イシレリと同じです。
去年のワールドカップで優勝したサッカーのフランス代表も、ほとんどがフランスに移民してきた人たちの子どもです。ジネディーヌ・ジダンもアルジェリア移民ですし、フランス人が彼らを「外国人」と見る発想そのものがありません。日本では、テニスの大坂なおみや、陸上のケンブリッジ飛鳥やサニブラウン・アブデルハキームを日本人かどうかという議論をする人もいますが、これだけ物事がボーダレス化している現代では、その議論自体がナンセンスな気がします。日本は島国だからそういう発想が残っているのかもしれませんが、少なくとも陸つながりのヨーロッパや移民大国のアメリカのスポーツ界で、そういう話をあまり聞いたことがありません。
個人的には、肌の色や出身がどこであれ、その選手が日本代表としてプレーしているのであれば、それだけで十分だと思っています。
日本のラグビーを体現できるかどうかでもっと議論されるべき
永田:ラグビーの場合も、肌の色や出身はまったく構わないと思いますよ。
ただ、プレーの上で、日本的なプレーができるかどうかは、問われてもいいような気はしています。例えば、リーチやトンプソンルークは、日本ラグビーが世界と戦うときに拠り所にしてきた膝下に低く鋭く入るタックルや、相手に正対してパスを放るといったプレーができる。日本人が培ってきたラグビーを体現できるわけです。
まあ、今の代表にはそういう日本的なプレーがそれほど得意ではない選手もいるので、個人的には、むしろ、そういう選手が日本代表に選ばれていいのか、もっと議論すべきだと思います。外国人選手の人数を多いとか少ないと議論するのはナンセンスだけど、プレーの質に関しては、もっと議論があってもいいでしょう。これは日本人選手にも当てはまりますが(笑)。
でも、そういう議論をしなければ、日本代表というチームのコアになるスキルがどういうものかが明らかにならないでしょう。今は、根本的な問題の議論が為されていないから、数の問題になっているように感じています。
中山:本来ならば、日頃サッカーを見ている人が一番違和感がないと思うんですけどね。他の代表チームを見ていれば、純粋にその国にルーツもある選手だけで構成されているチームなんてほとんどないわけですから。
サッカーのイングランド代表を見ても、デレ・アリはウェイン・ルーニー的な生粋のイングランド人とはまったく違うけれども、イングランド人はイングランド代表だと思って応援している。そういう選手は他の国にもたくさんいますよ。ブラジルだって、ドイツだって、イタリアだって。唯一アルゼンチンは、サッカーもラグビーも、白人だけの構成を続けていますけど(笑)
永田:こういうことはタブーにすることなく、議論されるべきでしょう。外国人選手の人数が多いか少ないかではなく、プレーの質で議論すべきだし、逆にサッカーはパスポート主義だから、日本のパスポートさえ持っていれば、出身がどこでもいい、というように考えるべきだと思います。
中山:現在は、サッカーがより規制を緩和して、ラグビーの方向に近づいています。そうしないと時代に追いつけない。そもそもサッカーは人種差別をなくそうと宣言しているわけですしね。それに照らし合わせれば、人種や国籍を問うこと自体が次第になくなり、「地縁」が最終的なルールになっていくのではないでしょうか。
実際に、今の日本企業のなかでも、さまざまな国籍の人たちが、日本国籍を持っているかどうかに関係なく、その企業のために働いて、日本の経済に貢献しているわけですからね。
永田:非常に興味深いのが、ラグビーでは、前回のワールドカップ日本代表で活躍した五郎丸歩や、廣瀬俊朗のような元代表選手たちが、外国人選手と力を合わせてプレーすることがラグビーの素晴らしさだ、と発信していることです。これが、健全な考え方だと思いますよ。
中山:サッカーでも、イタリアのインテルのようなクラブレベルで考えても、生粋の“インテリスタ”でさえ、どんなに外国人選手が増えてもインテルを応援する。最近は人種差別が問題になっていますが、少なくともサポーターのなかに、「おまえはイタリア人じゃない」と指弾するような発想はありません。
ナショナルチームも、それと同じように考えればいいと思いますよ。資格は「その国にいる人」、「その国の代表チームでプレーする人」。今後、それで十分だという考え方に変わっていく時代が来るような気がします。
<了>
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PROFILE
永田洋光(ながた・ひろみつ)
1957年生まれ。出版社勤務を経て1988年にフリーになり、ラグビーを中心に執筆活動を続ける。2007年に『勝つことのみが善である 宿澤広朗 全戦全勝の哲学』(ぴあ)で、ミズノスポーツライター賞を受賞。2010年に編集長として週刊メールマガジン『ラグビー! ラグビー!』を立ち上げ、現在に至る。著書に『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)、共著に『そして、世界が震えた。ラグビーW杯2015「Number」傑作選』(文藝春秋)などがある。
PROFILE
中山淳(なかやま・あつし)
1970年生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集長を経て、2005年に独立。サッカージャーナリストとして専門誌、スポーツ誌、Web媒体に寄稿する他、DAZN海外サッカー中継の解説およびJ SPORTS「Foot!」のコメンテーターを務める。紙媒体やデジタルコンテンツの編集・制作を行う有限会社アルマンド代表。同社発行の『フットボールライフ・ゼロ』の編集発行人。
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