ラグビー日本代表ジョセフHCは「ジーコ」と同じ? サッカー目線でラグビーの戦術を読み解く

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2019.09.27

熱戦の続く、ラグビーワールドカップ。この“ラグビー”の祭典を、「サッカーファンこそ一番エンジョイできる!」と声を大にするのが、ラグビージャーナリストの永田洋光氏と、サッカージャーナリストの中山淳氏だ。
同じ“フットボール”をルーツに持つラグビーとサッカーは近年、戦術面でも似てきていると話す2人がたどり着いた、ラグビー日本代表HCのジェイミー・ジョセフと、2006年FIFAワールドカップでサッカー日本代表監督を務めグループリーグ敗退を喫したジーコの、意外な共通点とは?

(対談=永田洋光&中山淳、構成=永田洋光、写真=Getty Images)

ラグビーでニュージーランドが強い理由と、サッカーでブラジルが強い理由は同じ

ラグビーでは「オールブラックス」の名前で知られるニュージーランド代表が日本で人気がありますが、約125年の歴史の中で圧倒的な勝率を誇り、ラグビーワールドカップでは最多3度の優勝を飾るなど、なぜスポーツ大国とはいえないニュージーランドでラグビーはこれほどまでに強いのでしょうか?

永田:ニュージーランドは、英国本国に対する強い対抗心や複雑な思いを抱えています。オーストラリアもそうですが、かつて流刑地だったことも、その背景にはあります。

さらに、先住民族のマオリ族との間にもさまざまな葛藤があって、長い時間をかけて共存に至った。ニュージーランドの国歌(アンセム)が、最初はマオリ語で歌われ、続いて英語で歌われるのも、そういう背景があるからです。その過程でどんどん混血が進んで、ラグビーに適した肉体と資質が備わってきた。これは、けっこう大きいと思います。

それから、自分たちのアイデンティティーを考えたときに、もっとも手っ取り早く確認できたのが、1905年から06年にかけての北半球遠征で、35戦34勝1敗という成績を残したラグビーだった。英国の新聞が彼らを「オールブラックス」と形容して、その名前が定着したのも、この遠征でした。つまりラグビーが、世界に自分たちの存在を誇れる存在であったから、その後もどんどん強くなった。

もう一つ、南太平洋のトンガ、サモア、フィジーといった国々からの移民も多いので、民族的に多様です。そして、その子どもたちがラグビーをやることで、また競技に新しい“武器”が加わっていく。こうした事情は、サッカーにおけるブラジルに、とてもよく似ていると思いますね。

中山:サッカーファンがラグビーを見るときは、ニュージーランドはサッカーでいえばセレソン(ブラジル代表)だと思って見れば間違いない(笑)。一番強いし、しかも、個人個人のスキルが高い。

永田:ニュージーランドは、主要産業がラグビーという国なんです(笑)。あとは農業。

中山:それもブラジルと一緒なんですよね(笑)。

永田:そういう国だからこそ、人的なリソースをどんどんラグビーに注ぎ込むことができる。才能あるアスリートのなかでもトップレベルがラグビーを選ぶし、頭脳の面でもトップレベルの人たちがラグビーを研究しています。

中山:サッカーもラグビーも、発祥はイングランドで、ヨーロッパを通じて世界に広がったわけですが、そこに移民というファクターが加わってさらに発展したのが、ブラジルのサッカーであり、ニュージーランドのラグビーである、と言えるでしょうね。

彼らが、さまざまなスキルを習得し、編み出してどんどん強くなると、今度はヨーロッパ側が彼らに対抗するために「戦術」を考え出した。そのせめぎ合いがサッカーを発展させてきたのですが、ラグビーにおいてもニュージーランドに勝つために、北半球の国々が対抗して切磋琢磨していった。ラグビーの質も、北半球と南半球では違いますからね。

永田:うん、違いますね。

中山:サッカーに関しては、今は、ほとんどの選手がヨーロッパでプレーするようになって、かなり差が小さくなりましたが、そういう図式はラグビーにも当てはまると思います。

永田:でも、確かに北半球の国々は打倒ニュージーランドに燃えていますが、それを指導しているコーチのほとんどが、ニュージーランドを中心とした南半球の出身者。今は、そんな皮肉な状況になっていますね(笑)。

日本代表もそうですね。

永田:そうです。(2015年ワールドカップ日本代表HCの)エディー・ジョーンズはオーストラリア、(現・日本代表HCの)ジェイミー・ジョセフはニュージーランド出身ですからね。

ラグビーとサッカーの戦術はどんどん近づいている

中山:サッカーとラグビーはルーツが同じ「フットボール」なので、競技としての戦術面でもかなり近いんですよ。大きく違うのは、手でボールを扱えるということぐらいでしょう。

オフサイドの反則はどちらの競技にもありますし、オフサイドラインという架空の線から前にいる選手がボールをプレーすることを禁じている点は、「抜け駆け」を防止するという同じ発想から生まれているのだと思います。

それから、スペースをいかに見つけて、そこにボールを運んでいかに前に進むか、という考え方も、2つの競技に共通しています。

今のラグビーでは、守備の発達でなかなかスペースができないから、キックを蹴っての空中戦が重要なファクターになっていますが、そのあたりも、サッカーを見ている人なら理解しやすいでしょうね。

永田:あとはトランジション(攻守の切り替え)ですね。

中山:そう、それも最近のサッカーとラグビーにおいては重要性を増していますよね。

永田:サッカーでは、昨年のFIFAワールドカップ・ロシア大会で、日本がベルギーに試合終了直前にトランジションから失点して負けましたけど、ああいう、得点のチャンスが一転して失点のピンチになる場面が、今回のラグビーワールドカップでもかなり見られるでしょう。

日本は28日にアイルランドと対戦しますが、例えば日本がアイルランドのゴール前に攻め込んで、あと5mというところでスクラムを得て、そこから攻めたけれどもちょっとしたことでボールを失い、一気にトライを奪われる――インターセプトのようなわかりやすい攻守の入れ替えでなくとも、そんなことが起こるかもしれません。

もちろん、ジャパンがアイルランドを相手に、トランジションからトライを奪うことも十分あり得ますけど、一般的に言えば、世界の強豪は、そうした攻守の切り替えに対する意識が高いですね。

中山:サッカーも試合がスピーディーな展開になればなるほど、攻守の切り替えが大事になってきます。

ラグビーのエディー前HCは、サッカーのペップの戦術を参考にした

永田:先日、日本対パラグアイのサッカーの試合(キリンチャレンジカップ/9月5日)をテレビで見ているときに、アナウンサーがこんなことを言っていました。「ゴールキーパーの権田修一が海外でプレーするようになって驚いたのが、キーパーのポジション練習よりも、他の選手と一緒にフィールドプレーの練習をする時間の方が長いことだった」、と。それを聞いたとき、「あ、ラグビーと同じだな」と思いました。

中山:ええ、バックスリー(ラグビーで最後尾を守る11番、14番、15番の3人)の役割を、サッカーではセンターバックが果たしていたんですけど、今はそこにキーパーも入るケースが増えています。これは、全体をコンパクトにして攻撃的な守備をすればするほど裏にスペースが空くので、そこの仕事をゴールキーパーが受け持つようになったわけです。また、特に最近はビルドアップの起点にもなるので、ゴールキーパーにも足元の技術が要求されるようになりました。

永田:そうなんですよ。サッカーもラグビーも、今は裏のスペースがすごく大切で、そこで有効な防御ができれば、そのまま最も有効な攻撃の起点になる。

中山さんが言われたバックスリーの連動は、パナソニックワイルドナイツが昔からずっとやっていました。

相手が広いスペースにボールを動かして攻めるときは、それに対応したウイング(11番か14番のいずれか)が前に上がって、フルバック(15番)と狭いサイドのウイングが2人並んで最後尾を守る。ボールが反対のサイドに動けば、また同じように広いサイドのウイングが上がって、狭いサイドのウイングが下がる。3人が連動して動くことで、防御ラインの背後に必ず2人の選手がいるように守る。

中山:そのバックスリーの動きを見るのは、サッカーファンにも面白いと思いますよ。サッカーでいう「つるべ式」と同じような動きですから。なぜ、そういう動きになるかと言えば、リスク管理、スペース管理という発想があるからです。

サッカーでは、4―3―3とか、4―2―3―1とかフォーメーションがありますけど、ラグビーも最近、ポッドという考え方で1―3―3―1みたいにフォワードの選手を配置していますね。

4年前は、エディーがバルセロナを参考にして、ペップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)のようにポゼッションを重視していました。サッカーは、ペップ流に対抗するために「シンプルにタテに速く」という時代に入っていますけど、ラグビーも、今のジェイミーの考え方は「シンプルにタテに」という考え方に近い。

永田:その通りです! それが、今のジャパンが採用している、相手陣にキックを蹴り込んで、防御の約束事が崩れた「アンストラクチャー」な状況をつくり出すという考え方です。

中山:当然、入れ違いでカウンターアタックを食らうことも起こりやすいですよね。

永田:あり得ますね。

サッカーの中島翔哉と、ラグビーの福岡堅樹が担う役割は似ている

永田:ただ、さっきのポッドの話も、日本人はすぐに数字でフォーメーションを表現しますが、あれをそのまま覚えても、それほど意味はないんじゃないか――という気がします(笑)。

それこそエディーが、「シェイプ」という言葉で、密集から出てくるボールに対して複数の選手がパスを受けられるように陣形を整えるラグビーをやっていましたが、これは、要するにボールが出たときに攻める方向を複数にして、防御側に的を絞らせないという考え方です。

その頃に、「シェイプ1はこうで、シェイプ2はこう」みたいにメモをとっていた記者がいましたけど、「なんか違うな」と思って見ていました。パターン化したら相手に対応されるので、むしろ臨機応変にポジショニングすることを強調しているのに、とつぶやきながら(笑)。

ポッドも、誰かがタックルされたときに、近くにいる選手がすぐサポートに入ってボールを継続するという考え方のバリエーションと捉えた方がわかりやすいでしょう。誰かがタックルされたときに、近くの選手がすぐにボールを確保して次のアタックに移る。また倒されたら、もう一度少ない人数でボールを出す。それを繰り返せば、より多く選手がアタックに関わることができますからね。もちろん、そのために、あらかじめ誰がどこにポジショニングするかという約束事はありますが。

そう言えば、サッカーの元日本代表監督の岡田武史さんも、「接近・展開・連続」という、ラグビーで使われた言葉を使っていましたね。

中山:競技が違うのに何を言っているんだろう……と思っていましたけど(笑)。ラグビーは「展開」が先ですよね?

永田:そうです。「展開・接近・連続」ですね。あれは岡田さんが早稲田大学の卒業生で、あのコンセプトを打ち出した大西鐵之祐さんの薫陶を受けていたからだと思っていたのですが、実際はどういうイメージだったんですか?

中山:簡単に言えば、攻撃でも守備でもボールがある場所に人が集まって、相手が寄ってきたら、空いているスペースに展開する。それを繰り返す、というイメージですね。

永田:一応、理にかなっていますね。

中山:確かにそう思えてしまうかもしれませんが、実際は違っていて、例えばレベルが高い相手になると、複数人に囲まれたときの「外し方」を熟知しているので、むしろ人をボールの近くに集めたことによって生まれる周辺のスペースを好き放題に使われてしまうケースが多いんです。結局岡田監督は、ワールドカップ本番でそれを実行できないと判断して異なる戦術を採用しました。

それよりも、最近は球際の強さ、1対1の強さが強調されるようになっていて、そこもラグビーに共通しているような気がします。

ラグビーでいう「接点」は、サッカーでいう「デュエル」や「球際」ということ。そこで勝てなければ、どちらの競技も不利になる。そういうところで裏をとられると劣勢を強いられる。

逆に、例えば左サイドの中島翔哉がドリブルで相手を1枚、2枚はがせば、相手は中島に集まってくるしかないので、一気に優位に立てる。だから、サッカーではドリブルで前に進める選手が貴重なのですが、これはラグビーでいえば、ウイングの選手が抜けたときに、そこにディフェンスが寄ってスペースができるのと同じことですよね。

永田:パラグアイ戦で中島翔哉を初めて見ましたけど、イメージがラグビーの福岡堅樹に似ている印象を受けました。特に、サイドライン際でスペースをつくれるところはよく似ています。ただ、福岡は相手を抜き去ってボールを置けばトライになって得点できるけど、中島の場合は、ドリブルで抜いた後にゴールを決めなければならない。ちょっとかわいそうでした(笑)。

中山:そうですね、ラグビーはゴールライン上の広いスペースにボールを置けば得点になりますけど、サッカーは真ん中の狭いゴールにボールを入れなければならない。そのためにはゴールに直進するのが一番早いのですが、相手も当然そこに集まってくる。だから、サイドから崩して相手を分散させ、そこからボールを中央に入れるとゴールが生まれやすいという競技特性があります。

王国からやってきた2人の監督・HCの共通点とは

最後に、ラグビー日本代表について聞きたいのですが、前回大会のエディーさんは「ジャパン・ウェイ」という言葉で、日本人が持っている良さを引き出そうとした。それはサッカーでいえば、イビチャ・オシムさんやアルベルト・ザッケローニさんの考え方に近かったのかもしれません。それに対してジェイミーHCは、自分が培ってきた方法論で代表を強化しているように見えますね。

中山:僕が思うに、ジェイミーはサッカーでいうジーコなんです! ジーコはサッカー王国のブラジル出身で、ジェイミーもラグビー王国のニュージーランドの人なので(笑)。

ジーコは、「オレはブラジル人なんだから、なぜ日本人のサッカーうんぬんを言われなきゃならないのか? サッカーはブラジルが一番なんだから、それでやれば問題ないでしょ」という発想で、個人のスキルや能力が高い選手を集めて、王道のスタイルで正面から相手にぶつかっていった。ジェイミーも傾向としては同じように感じます。もっとも、ジーコは2006年のワールドカップで結果を残せませんでしたが……。

永田:鋭い! 実は、ラグビーの日本代表も、理想のラグビーや大型化を追究したときに、いい結果を残せていないんです。むしろ、自分たちが小さいことをどう克服するか。

中山:何かしらの工夫をしないと、強豪には勝てないですよね。

永田:そう、工夫したときに勝てたり、善戦して世界で評価されてきた。

だから、ジェイミーに関しても、彼の理想のラグビーを追うことが根底にあるような気がして、この3年間ずっとモヤモヤしていたのですが、さっきの中山さんの一言ですべてが氷解しました(笑)。

「あのね、ここはニュージーランドじゃなくて日本だよ」というのが、私がこの間、いろいろ書いてきたことの根拠だし、記者たちが言いたくても言えなかったことでしょうから。

中山:例えば試合前日、ジーコはブラジル流に翌日のスタメンを発表するわけです。でも、僕からすると、「ちょっと待ってよ。それじゃ相手に手の内がバレるでしょ」と。

西野朗監督のときに、ロシア大会でメンバーが前日に漏れてちょっとした騒ぎになったことがありましたが、格上には手の内を隠して戦いに臨みたいのに、ブラジル流の発想で事前に発表されたら、それはマイナスでしかないと思うんですよ。

ラグビーは48時間前にメンバー発表が義務づけられているのでそういう問題はないかもしれないけど、ジーコとジェイミーの強化方針には同じような印象を受けてしまいます。

永田「ジェイミー・ジョセフはジーコである」とは、まさに言い得て妙ですね。本当に、目からうろこが落ちました(笑)。

中山:でも、ジーコと同じ結果にならないことだけは、強く願っていますよ!

<了>

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[PROFILE]
永田洋光(ながた・ひろみつ)
1957年生まれ。出版社勤務を経て1988年にフリーになり、ラグビーを中心に執筆活動を続ける。2007年に『勝つことのみが善である 宿澤広朗 全戦全勝の哲学』(ぴあ)で、ミズノスポーツライター賞を受賞。2010年に編集長として週刊メールマガジン『ラグビー! ラグビー!』を立ち上げ、現在に至る。著書に『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)、共著に『そして、世界が震えた。ラグビーW杯2015「Number」傑作選』(文藝春秋)などがある。

[PROFILE]
中山淳(なかやま・あつし)
1970年生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集長を経て、2005年に独立。サッカージャーナリストとして専門誌、スポーツ誌、Web媒体に寄稿する他、DAZN海外サッカー中継の解説およびJ SPORTS「Foot!」のコメンテーターを務める。紙媒体やデジタルコンテンツの編集・制作を行う有限会社アルマンド代表。同社発行の『フットボールライフ・ゼロ』の編集発行人。

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