ラグビーW杯優勝を左右する最新テクノロジーとは? チーム力を高めるジャージにドローン
日本全国で大きな盛り上がりを見せているラグビーワールドカップ2019。世界各国から集まった20のチームが44日間にわたって、優勝トロフィー「ウェブ・エリス・カップ」を目指して戦っている。優勝の行方を左右するのは、フィジカル、メンタル、技術、戦術はもちろん、今や最新テクノロジーをいかに活用するかにもかかっているのだ――。
(文=川内イオ、写真=Getty Images)
ジャージにはチームや選手の特徴を生かす技術を採用
9月20日、ラグビーワールドカップ2019が開幕した。大会組織委員会によると、開幕から1週間で、観客動員数は延べ42万人を超え、1試合の平均観客動員数は3万5520人を記録。世界的に注目度も高く、イングランド対トンガ戦はイギリスで瞬間最大470万人、フランス対アルゼンチン戦はフランスで瞬間最大310万人の視聴者を集めたという。
大きな盛り上がりを見せている、ラグビーの祭典。世界の頂点を目指す各国は、さまざまなテクノロジーを駆使して大会に臨んでいる。
例えば、ジャージ。吸汗性、速乾性、軽量性、耐久性など機能性の向上はもはや当たり前のこと。日本代表チームには3種類のジャージがあり、激しいボディコンタクトをしながらボール奪取の役目を担う8人のフォワード用と、俊敏性が求められる7人のバックス用では素材も機能も異なる。日本語の記事にもなっているので詳細は割愛するが、他国もジャージに最新のテクノロジーを活用している。
優勝候補のニュージーランドのジャージは、デザイナーの山本耀司とアディダスの協業ブランド「ワイスリー(Y-3)」がデザインした。ラグビーチームとして初めて継ぎ目のない「シームレス織り」を採用し、脇下や胸周りに伸縮性のある布地、その他の部分にはフィット性の高い布地を使用。これによって、前回大会から25%の軽量化を実現した。
南アフリカとオーストラリアにジャージを提供しているアシックスは、各選手の体を3D計測し、プレースタイルやプレーヤーのポジションに応じたジャージをデザインした。共通しているのは、相手に体をつかまれたときに伸びない素材。これは「ジャージをつかまれたときのタックル成功率の高さ」に着目し、それを防ぐためのアイデアだ。
これに加えて、強靭なフィジカルを武器にする南アフリカの場合、最前列でスクラムを組む選手は、一部に特別な素材を使用したジャージを着ている。スクラムを組む際、選手は互いの体に腕を回して、ジャージの脇の下あたりをしっかりと握る。簡単に手が離れないように、その脇の下の部分にグリップ力を高める素材を使っているという。
さらに、パンツも2種類用意。フォワードに対しては、耐久性の高い素材で作ったパンツ。バックスには動きやすさ、柔軟性を重視したニット生地のパンツを作った。
伝統的にランニングスタイルを得意とするオーストラリアのジャージは、選手の動きを妨げる要因をできる限り排除したもの。走っているときの腕の動きの範囲なども分析して、より自由に動ける設計になっている。パンツも同様に動きやすさを最大限重視して、前方と後方に柔軟性の高いニット生地を採用した。
ドローンを活用したトレーニングはもはや当たり前の時代に?
今大会、出場20チームのうち、半数以上のチームのトレーニング会場では、ドローンが飛んでいる。トレーニングにドローンを活用していることを明らかにしているのは、イングランド、カナダ、イタリア、スコットランド、フィジー、サモア、トンガ、ニュージーランド、アイルランド、アルゼンチン、ジョージア、そして日本だ。
これだけの国がドローンを採用している点からも、ラグビーにおける上空からの視点の重要性がわかる。主に、スクラムなどのサインプレーの際、選手間の距離や位置、動き出しのタイミングなどを俯瞰でチェックして、微修正することに使用されている。
スコットランドのチームマネージャー、ギャビン・スコット氏は、ラグビーワールドカップ公式サイトの取材に対して、こうコメントしている。
「戦術的な視点が必要な場合には、ドローンで狙い撃ちします」
フィジー代表は、すべてのトレーニングセッションをドローンと2台のピッチサイドカメラで撮影している。そして、ビデオアナリストは、個々の選手に合わせてビデオクリップを作成する。そこにコーチの音声を加えて、各選手が確認できるようにしている。
イタリア代表では、2人のアナリストが管理するトレーニングにおいて、一機1729ドルのドローンを2つ使用し、一つは前方、もう一つは後方をカバーしているという。
前回大会の数カ月前からドローンを導入した日本代表は、練習ではドローンを含む4台のカメラで撮影している。これまで映像をパソコンに飛ばして現場で確認していたが、現場での確認、修正作業をよりスムーズにするために、昨年5月、大型モニター搭載のゴルフカートを導入した。
GPSで見えたラグビー選手の身体能力の高さ
選手の走行距離や加速度などのデータを収集するためのGPSも、多くのチームで取り入れられている。GPSで計測できる数値は多岐にわたっており、朝日新聞によると、日本代表では衝突回数、跳躍回数などを含めて10項目以上を見える化している。
今回のワールドカップで、イングランド、フランス、南アフリカなど強豪国を含む12カ国にGPSの分析システムを提供しているのは、北アイルランドのニューリーに拠点を置くスタートアップ「STATSports」。世界的にはまだ名を知られていないが、同社はNFL(米アメフト)、NBA(米バスケットボール)、サッカーのイングランド・プレミアリーグのチームにも同システムを提供している。
同社は9月26日、GPSデータに基づくラグビーワールドカップのニュースを発信しており、最も足が速い選手として最高時速37.71kmを記録したイングランドのジョニー・メイを、平均速度が速い選手として時速33.66kmを記録した南アフリカ代表のチェスリン・コルベを挙げている。
ちなみに、サッカー選手と足の速さを比較すると、2018-19シーズン、欧州で最速の選手はレアル・マドリードのギャレス・ベイルで、最高時速36.9km。ジョニー・メイはこの記録を上回っており、ラグビー選手の身体能力の高さがうかがえる。
ワールドカップは、各チームと関係する企業にとっても大舞台。ここに挙げたジャージのデザイン、ドローン、GPSという3つのテクノロジーも、最先端のモデルが投入されている。観戦の傍ら、テクノロジーの競演に注目してみるのも楽しい。
<了>
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