意外に超アナログな現状。スポーツ×IT技術の理想的な活用方法とは? パデルとIT企業の素敵な関係

Technology
2023.10.20

1970年代に生まれた新しいスポーツながら、全世界で競技人口2500万人、スペインではサッカーを抜いて競技人口第1位。テニスとスカッシュの要素をあわせ持ったラケットスポーツである「パデル」は、日本国内でも近年熱い注目を集めている。そんな中、日本パデル協会のプラチナスポンサーとして、日本代表の強化・育成への協賛および国際大会の冠スポンサーも担っているのが2000年に創業したIT企業集団「アクロホールディングス」だ。では、発展途上のスポーツ団体にスポンサー企業が求めるメリットとはなんだろう? 今回は、アクロホールディングス会長を務める小野賀津雄と、IT業界で働くパデル日本代表選手の加藤翼と日下部俊吾による対談が実現。日本パデル協会理事を務めるサーカー壽梨が、企業と競技の理想的な関係、スポーツ×IT技術の持つ可能性について3人に話を聞いた。

(インタビュー=サーカー壽梨、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=福村香奈絵[セイカダイ])
※写真向かって左から加藤翼さん、小野賀津雄さん、日下部俊吾さん

朝4時半に起きて、仕事をして、プロの練習に参加する欧州生活

サーカー:今日はアクロホールディングスの小野賀津雄会長と、IT業界で働くパデル日本代表選手のお二人にお越しいただきました。よろしくお願いします。小野会長、選手のお二人、簡単に自己紹介をお願いします。

小野:アクロホールディングスの小野賀津雄と申します。私は昭和39年3月生まれの59歳です。大学を卒業しこれまでずっとIT業界におります。入社当時は技術者でいつしか営業もやり、経営者になった感じの何となく的に生きてきました。

 弊社はITのトータルサービスをお客様に提供している企業集合体で企業数40社、総社員数約1200人のグループ企業です。IT企業で働く違う会社のメンバーがこれまでのIT企業にない仕組みをつくろうと創業者の石田知義を中心に結成されました。

 1社1社の会社規模を無理に大きくせず、社長が社員一人一人に目が届く範囲で運営し経営者・グループ社員はさまざまな情報共有・ビジネス連携もしながらグループ全体で成長を目指すグループ理念で形成しています。

加藤:加藤翼と申します。パデル日本代表強化指定選手でキャプテンを務めさせていただいています。Nobitel(ノビテル)という会社に勤めていて、ドクターストレッチやテニス365の運営など、スポーツにドメインのある会社のエンジニアをしています。今は主にテニスの業務システムの開発に携わっています。

日下部:日下部俊吾と申します。現在は業務委託としてエンジニアをしており、メインでは株式会社Asobicaという会社にてcoorum(コーラム)というロイヤル顧客プラットフォームのサービスの開発に従事しています。また他に0→1でアプリを立ち上げた経験も多数あります。大学時代にパデルと出会い、スポーツ選手は海外に行くことも多いのでリモートで働ける点が相性もよく、自分の環境に合った職種としてエンジニアの道を選びました。

 現在は日本代表候補のメンバーとして活動しています。国内では全日本選手権を2回優勝し、日本ランキング1位を累計で3年ほどずっと維持しています。今は国際試合でもっと結果を出せるように、国内よりも海外に目を向けて活動しています。9月にはイタリアの国別国際試合で準優勝、スペインでのFIP RISE国際大会にてベスト8という戦績を収めました。今年はトルコやプーケット、バリでの大会などに出場予定です。

小野:海外へ行かれる時に、PCを持っていってリモートで仕事をやっているわけですか?

日下部:日本代表として行く短期間の大会の場合は競技に集中するために仕事を休むことが多いですけど、強化のために2〜3カ月間ヨーロッパへ遠征に行ったりする場合は、リモートで仕事をしています。日常生活を送りながら海外でトレーニングをするという形になるので。

小野:時差があるから大変ですよね。

日下部:そうなんです。朝4時半とか5時に起きて、ヨーロッパの早朝、日本のお昼の時間帯にミーティングを2〜3時間行って、その後9時からプロのグループの練習に参加します。午後は、疲れ果てて帰って少し昼寝をして、起きてからまた少し仕事をするという生活です。

サーカー:朝は早いですが、時差があるからこそヨーロッパで午前中の練習に集中できるというのもあるのですね。

日下部:その点は確かにそうですね。

「誰にでも楽しくできるスポーツ」という観点での普及

サーカー:小野会長にお伺いします。アクロホールディングスさんは、昨年に引き続き今年もプラチナスポンサーとしてパデル界を支えてくださっています。パデルに対して小野会長が感じる魅力はどんなところにありますか?

小野:7、8年前ですかね。その当時パートナー企業である玉井勝善社長(現日本パデル協会副会長)が自分の会社をそろそろ次世代に譲り新しくやりたいことに出会ったと突然言ってきたのです。それがパデルだったんです。

 もともと私もテニス経験者だったので1、2回プレーしましたら誰でもプレーしやすい入り口の広い競技だなと好印象を抱きました。そこから少し空白が空いたのですが、会社の近く(東京ミズマチ)に新しいコートができて、仕事帰りに通うようになったらハマってしまって。あと一人ではできないスポーツなので会社の若い社員を連れて行ったらみんな「楽しい! またやりたい!」と盛り上がり現在50名程パデルLINEでつながっておりグループ内でも自発的に同好会ができたりして。僕自身、世代を問わず初心者でも気軽に楽しめるという部分にすごく魅力を感じてこれはちょっと流行らせたいなと考えるようになりました。そういったタイミングで協賛のお話をいただいて、日本のパデルが今後どのように成長していくのか、そこの過程に私自身も微力でも参画したいと強く思いお受けさせていただきました。

サーカー:アクロホールディングスパデル部には50名も! 日本パデル協会には何を期待しますか?

小野:誰にでもできるスポーツ、みんなで楽しめるスポーツ、そういった観点で広く普及してほしいなと。以前、バーベキューをしながらパデルをしたことがあるのですが、参加者の距離感がグッと近づいて、コミュニケーションツールとしてもすごく可能性を感じました。幅広い層が楽しめて、なおかつ、日本代表のお二人のようにこれから世界を目指していく選手がその中にいるというところ、この両面でのさらなる発展に期待しています。

サーカー:パデルは現状、働きながらプレーしている選手がほとんどです。例えばパデル選手やスポーツ選手がアクロホールディングスさんに所属したいとなった時に、フレシキビリティーという側面ではどのようなことが考えられるでしょうか?

小野:もう全然ウェルカムです。弊社も7割ぐらいがリモートで、なおかつ各地方で地元の人材を採用してフルリモートで働いてもらっています。彼らにとっても地元に希望する会社の選択肢が少なかったりしますし、われわれのような東京を拠点とする会社の採用に興味を持ってもらえています。地方で採用した人材は本当にみんな優秀ですし、実はスポーツ選手が多いんですよ。直近で採用した人材もバスケットボールの国体を目指す選手だったりします。地元でスポーツを続けながらITの仕事もやりたいという人材は多いですし、うちも地方拠点をつくりながらそういった人材の採用に力を入れてます。パデルの代表選手たちも転職を考えている方がいればいつでも来てください。報酬は要相談でお願いします(笑)

「パデルとITの掛け合わせ」でゲーマーを…

サーカー:先ほど日下部選手から「ITでゼロイチをつくるお仕事」という話もありましたが、みなさんはIT×パデルを使って何かやってみたいことはありますか?

日下部:ChatGPTが一般化されてきて、AIが凄まじい進化を遂げ、われわれエンジニアですら仕事を奪われるのではないかといわれる状況です。その中で、スポーツの価値はますます高まっていくと思いますし、それをさらに高めるのがITであると考えています。映像技術の進化や、普及・発信面でもスポーツを最大化できるのがITの力かなと。

小野:そのうちロボットと対決することになっちゃうかもしれない。

日下部:そうですよね。将棋でも人間対ロボットの対局は話題になりましたが、果たしてスポーツでそれが面白くなるのか。そこも一つの着眼点だと思います。

サーカー:小野会長はパデルとITの掛け合わせではどんなことが可能だと思いますか?

小野: ITを活用してパデルをポピュラーな競技にしていきたいですよね。まだまだ日本国内ではプレーしている人はもちろん、競技を知っている人も少ない競技だと思うので。特に僕はゲーマーの人に興味を持ってもらいたいなと思うんですよね。若い子を採用するとゲーマーの子がたくさんいますし、さらに昔スポーツをやっていたゲーマーの子ってすごく多いんですよ。そういう層の若者に、ITを使ってパデルに興味を持ってもらう仕組みをつくってみたいですね。

意外に超アナログな現状。理想的なIT技術の活用方法とは?

サーカー:IT×スポーツの活用について、企業による社員の健康促進、福利厚生の面ではどのような可能性があるでしょうか?

小野:パデルもそうなんですけど、まったく違うジャンルで恐縮ですが、ある格闘技団体にも協賛していて選手たちの体調管理やトレーニング場所を提供できる環境を考えています。将来的には、そこで社員が筋トレをしたり、ボルダリングをしたり、福利厚生として社員みんなが健康促進のために利用できる施設にできたらいいなと思っています。

サーカー:社員がリングに上がったり、パデルに興じたり、ボルダリングをしたり……とても充実した福利厚生ですね。ITによるトレーニング管理や戦術分析についてはどのような可能性を感じていますか?

小野:例えば試合をやっている中で、相手からこういうボールが来た時に、こう打ちました。でも、チャンスボールを出しちゃって打たれました。そのような一つのシチュエーションを切り取って、実際、ここをこうできていたらうまくいったと分析できるソフトがあったらいいなと思いません?

サーカー:いいですね。シミュレーションソフトのような感じですよね。

加藤:誰がアンフォーストエラーしたかとか、全部パッと出てきたら、めっちゃうれしいですね。そうしたらそこに着目しながら動画をチェックできるので。現状はこのポイントは誰がミスをしたか、誰のウィナーか、毎回一本やるごとに書いているんですよ。それで最終的に、この人はアンフォーストエラー5個、ウィナー1個、じゃあこういった部分を修正していこうと分析しています。

サーカー:分析という面では、例えば今、海外の選手と試合をする時、対戦相手の情報とかデータは、どういうふうに収集しているんですか?

加藤:ビデオです。

サーカー:意外に超アナログですね。まずそこをITの技術でリソース不足を解決したいですね。あと、パデルはどうしても専用の競技スペースがないとプレーできないという課題があります。HADO(ハドー)などのIT技術を使った対戦型ARスポーツも注目を集めている中、パデルの普及につながるITを活用したアイデアは何か考えられるでしょうか?

日下部:何かゲームをつくりたいですね。

加藤:例えばバーチャルゴルフとか、球出しのテニスのゲームもあるじゃないですか。勝手なイメージですけど、パデルコートの半面ぐらいのスペースを使って、四方が壁に囲まれていて、そこに何か臨場感のある試合の映像が映し出されてARでゲーム形式ができるとか、あるいは、壁に的が映し出されて、それに対して実際のラケットとボールを使ってレボテ(壁から跳ね返ってきたボールを打つショット)で当てるとか――実現できたらすごく面白そうですよね。子どもからお年寄りまで体に負荷をかけすぎずに楽しめて、ほかの競技に比べてスペースを取らないことはパデルの特長でもあるため、親和性はありそうですよね。

スポーツの冠大会を開催する企業側のメリットとは?

サーカー:小野会長にお聞きしたいのが、国際大会の冠大会「アクロカップ」を開催することは、企業サイドにとってどのような意義やメリットがあると考えられていますか?

小野:一番大きいのはPRというか、採用のところですね。体育会系の人材の採用を積極的に行いたいなと考えていて、その層にアプローチする手段として考えています。その上で、メジャーなスポーツではなく、何かこれから伸びていく競技を応援することに意義があるのではないかと。もちろんパデルは誰でも気軽に始められる競技だという魅力もあるため、社員たちも実際にトップレベルの試合を見て刺激を受けて、自分もプレーできるというメリットも感じてもらいたいですし、近々、グループ会社対抗パデル大会も開催できたらと考えています。

サーカー:パデルに協賛されてからの社内からの反響はいかがですか?

小野:反響ありますよ、いっぱい。定期的にパデルを楽しんでいる社員も50人近くはいると思います。僕が焚きつけているわけではなく、割と自分からやりたいという子たちがほとんどなので、そこがすごくうれしいですね。あとは同業の社長仲間からもパデルの協賛について興味を持って質問を受けることも多いです。

サーカー:冒頭にアクロホールディングスさんは「割と仲のいいグループ会社として形成している」というお話がありましたが、パデル協会は企業ではないですけど、男子、女子、ジュニア、そして日本代表というグループ会社のような面があります。みんな仲がよく、それでいて今後さらなる発展の必要性は感じていて、両者に共通する部分も強く感じました。何か組織のトップから見た視点でアドバイスがあればお聞きしたいです。

小野:うちはグループ会社ではあるんですけど、一つの会社でもあるという意識は非常に強く持っていて、ただ、そこに自由度を与えることは意識しています。トップダウンで強制的に物事を決めてしまうと何も意味がないので。あとはうちはもともと社員だった人間がグループ会社の社長になるパターンが多いので、彼らは仮に年齢は若くても会社の文化をよくわかっているので、そんなに苦労を感じることは正直あまりないですね。

サーカー:組織内に文化が浸透しているということですね。パデル協会も日本代表という肩書はあるもののまだ24歳の私を協会理事のポストに就かせてくれたりと、文化の浸透は大事にしながらも、攻めの姿勢は持っていると思います。

小野:素晴らしいことですよね。うちも例えばM&Aで僕らより高齢の社長さんが外から来ると、さすがに僕の接し方も変わりますし、そこはやっぱり1〜2年はかけてじっくり関係を築く。そこぐらいはちょっと苦労しますけど、ほかは特に何か変に意識をして力を入れているというのはないですね。緩いといわれてしまえば、緩い内部統制なので。そこはこの先50年、100年グループ会社が存続するためには、世代交代を進めて、よりよい方向に変えていきたいなと考えています。

エンジニアとして働きながらパデルの世界で頂点を目指す二人

サーカー:やはりエンジニアという職種でも、スポーツ経験者というのは強いですか?

小野:もちろん人によりますが、例えば昔Jリーガーだったとか、そういう子たちも何人かいますけど、やっぱり成功していますね。技術のほうに行く子もいれば、営業に行く子もいれば、経営者になる子もいるんですけど。何か自分の特異性を見つけて、そこにガッと集中する力はやっぱりスポーツをやっていた子は強いと感じます。自分はこれだと思ったら、一直線。周りの人の話は聞かないですもんね、いい意味で。僕らはそれを裏からサポートするだけなので。

サーカー:最後に、働きながら、スポーツにも真剣に取り組んで両立している方々に向けてメッセージをいただけますか?

小野:今日は同業のお二人に来ていただいて、本当にすごいなと感じました。ITをやりながらパデルの世界で上を目指しているというのは、なかなか限られた方しかできないことだと思います。お二人も世界一を目指しているわけですよね?

加藤&日下部:目指しています!

小野:ぜひ世界一という目標をかなえてください。僕らができることは本当に限られていますし、大したことはできないんですけど……世界一を懸けた試合には世界のどこの開催であっても現地に駆けつけて応援できるように、ずっとパデルを応援していますので、頑張ってください。

<了>

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