
それでもなくならない「セ・パ格差」。巨人・山口オーナー「DH制導入」提案の詭弁と腹中
14日に行われたセ・リーグ理事会で、巨人が山口寿一オーナー名で「来季のDH制度の暫定導入」を提案した。理事会では、賛意を示したのは巨人を含む2球団のみで、採用は見送りとなったが、山口オーナーはその後もメディアの取材に応えて新型コロナウイルスの影響、東京オリンピックによる公式戦中断への備えとしてDH制の必要性を訴えている。作家・スポーツライターの小林信也氏は、「DH制導入は選手を守る効果は薄い」と指摘する。
(文=小林信也、写真=Getty Images)
「2021シーズンの暫定DH制導入」巨人・山口オーナーの提案
巨人が提案した来季のDH制導入は、他5球団の反対で見送られた。これに関連して取材に応じた巨人・山口寿一オーナーの見解をスポーツ新聞各紙が報じている。
各紙の報道を総合すると、山口オーナーは新型コロナウイルスの影響が続くだろう来季も、「選手たちは、今季以上に調整に苦労するのではないか」(デイリースポーツ)との見解から、「かけがえのない財産」である選手を守るため、来季限定のDH制導入を訴えている。またサンケイスポーツによれば、セ・パの実力格差が広がった一要因としてDH制の有無があるという見方に対して「その見方が正しいと私は考えています」と答えたという。
今回の山口オーナーの提案は、福岡ソフトバンクホークスに2年続けて4連敗を喫した巨人・原監督がかねて提唱している本格的なDH制の導入とは別。あくまでコロナ禍をふまえて「選手の体調を守るため」の提案だったという。
私は山口オーナーの発言に触れて、二重三重に失望を禁じえなかった。
すべての理由をDH制に求め、DH制さえ採用すれば問題はかなり改善すると言っているように聞こえる。果たしてそうだろうか? いずれにしても巨人のオーナーともあろう人が、本気で野球界の未来を考えていないこと、他人からの受け売りをそのまま信じているような安易さがうかがえた。
「選手を守るため」ならば他にやることがある
例えば、本当に「かけがえのない財産」である選手の体調を案じているなら、なぜ144試合も強行しようとするのか? この点の検討と問題提起が先ではないのか?
今年は2カ月以上開幕が遅れながら野球協約に定める最低数の120試合を強行した。メジャーリーグ(MLB)が60試合にとどめ、逆にプレーオフ進出チーム数を増やすなど、ポストシーズンの充実を図った方向性と対照的だった。
来季も過密日程が心配されるなら、選手のコンディションを考え、せめて今年と同じ120試合にするなど緩やかな日程を検討するのが筋だろう。
山口オーナーは、DH制の導入が選手の負担軽減につながると考えているようだが、DH制で負担が軽くなるのは投手とベンチ、ブルペンだけで、大半の野手たちには何の恩恵もない。細かなことを言えば、相手の打力が上がるから、守備側の負担は大きくなるだろう。
原監督の従前の提言とは別というが、時間限定的にでもセ・リーグが公式戦でDH制を採用すれば、その実績は残る。なし崩し的にDH制の採用に向かう可能性も含め、腹案がもしあるのなら、フェアとはいえない発言だろう。
DH制導入の是非、メリットとデメリットとは?
そもそも、セ・リーグがDH制を採用する是非についてはどう考えるべきだろう?
私はかねてプロ野球および野球界の大改革が急務だと提言している立場だから、DH制の採用をただ保守的な感情論で反対はしない。
実際に、プロ野球の投手たちは熱心に打撃練習をしていない。時に快打を放つこともあるが、確率は低い。9人にひとり、ワクワクしない勝負を見せられるのはお金を取って見せるエンターテイメントとしてはおかしいとの指摘もあり得るだろう。だが、それも野球の呼吸というか打順の綾、それがあっての野球の妙味とも考えられる。
だが、自分がアマチュアの投手だった経験からしても、「打席に立たず投げるだけの試合」は想像がしにくい。セ・パともにDH制を採用した際の一番の影響は、日本において「野球とはそういうもの」になることだ。投手はただ投げるだけの人という常識が固定化される。
小中学生や高校生、大半の草野球では投手も打席に立つから、プロとアマは違う競技になる。DH制とそれが当たり前の“常識”は、すでにパ・リーグでは定着し、アマチュア球界にも波及している。だが、すべての野球がDH制に移行する防波堤の役割をセ・リーグが果たしていたように感じる。その防波堤が崩れたら、小中高校野球などが、投手に打たせる根拠を失うことになりかねない。
原監督は、この点をどう考えているのだろう?
大局を見るのでなく、自分たちの勝負の都合ばかり考えているとすれば、すでに廃れつつある「球界の盟主」の名はますます遠い過去の物になる。アマチュア野球全体への影響は考えていないのか。あるいは、アマチュアも含めてDH制を推奨すべきというメッセージなのか?
今回の山口オーナーの提案はあまりにも貧困だ。もし巨人のオーナーが公募制だったら、この程度のアイデアしかない人は採用にならないだろう。責任感も危機感も感じられない。
日本シリーズ後、セ・パの実力格差が生まれた要因がDH制だとする報道やファンの意見が多く聞かれた。果たして本当にそうだろうか。もっと本質的な球団経営の姿勢や理念、チーム強化の体制にこそ決定的な開きがあると考える方が的確だし、当事者として目を向けるべき重要なポイントではないだろうか。格差を生んだ本質から目をそらし、DH制のせいにするなら今後いっそう格差は広がるだろう。
<了>
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
躍進する東京ヴェルディユース「5年計画」と「プロになる条件」。11年ぶりプレミア復帰の背景
2025.04.04Training -
育成年代で飛び級したら神童というわけではない。ドイツサッカー界の専門家が語る「飛び級のメリットとデメリット」
2025.04.04Training -
なぜ日本のダート馬はこれほどまで強くなったのか? ドバイ決戦に挑む日本馬、世界戦連勝への勝算
2025.04.04Opinion -
いわきFCの新スタジアムは「ラボ」? スポーツで地域の価値創造を促す新たな仕組み
2025.04.03Technology -
専門家が語る「サッカーZ世代の育成方法」。育成の雄フライブルクが実践する若い世代への独自のアプローチ
2025.04.02Training -
海外で活躍する日本代表選手の食事事情。堂安律が専任シェフを雇う理由。長谷部誠が心掛けた「バランス力」とは?
2025.03.31Training -
「ドイツ最高峰の育成クラブ」が評価され続ける3つの理由。フライブルクの時代に即した取り組みの成果
2025.03.28Training -
アジア女子サッカーの覇者を懸けた戦い。浦和レッズレディースの激闘に見る女子ACLの課題と可能性
2025.03.26Opinion -
近代五種・才藤歩夢が挑む新種目。『SASUKE』で話題のオブスタクルの特殊性とは?
2025.03.24Career -
“くノ一”才藤歩夢が辿った異色のキャリア「近代五種をもっと多くの人に知ってもらいたい」
2025.03.21Career -
部活の「地域展開」の行方はどうなる? やりがい抱く教員から見た“未来の部活動”の在り方
2025.03.21Education -
リバプール・長野風花が挑む3年目の戦い。「一瞬でファンになった」聖地で感じた“選手としての喜び”
2025.03.21Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
なぜ日本のダート馬はこれほどまで強くなったのか? ドバイ決戦に挑む日本馬、世界戦連勝への勝算
2025.04.04Opinion -
アジア女子サッカーの覇者を懸けた戦い。浦和レッズレディースの激闘に見る女子ACLの課題と可能性
2025.03.26Opinion -
なぜJ1湘南は高卒選手が活躍できるのか? 開幕4戦無敗。「入った時みんなひょろひょろ」だった若手躍動の理由
2025.03.07Opinion -
張本智和が世界を獲るための「最大の課題」。中国勢のミート打ちも乗り越える“新たな武器”が攻略のカギ
2025.03.04Opinion -
「あしざるFC」が日本のフットサル界に与えた気づき。絶対王者・名古屋との対戦で示した意地と意義
2025.03.03Opinion -
新生なでしこ「ニルス・ジャパン」が飾った最高の船出。世界王者に挑んだ“強者のサッカー”と4つの勝因
2025.03.03Opinion -
ファジアーノ岡山がJ1に刻んだ歴史的な初勝利。かつての「J1空白県」に巻き起ったフィーバーと新たな機運
2025.02.21Opinion -
町田ゼルビアの快進撃は終わったのか? 黒田剛監督が語る「手応え」と開幕戦で封印した“新スタイル”
2025.02.21Opinion -
ユルゲン・クロップが警鐘鳴らす「育成環境の変化」。今の時代の子供達に足りない“理想のサッカー環境”とは
2025.02.20Opinion -
プロに即戦力を続々輩出。「日本が世界一になるために」藤枝順心高校が重視する「奪う力」
2025.02.10Opinion -
張本美和が早期敗退の波乱。卓球大国・中国が放つ新たな難敵「異質ラバー×王道のハイブリッド」日本勢の勝ち筋は?
2025.02.10Opinion -
女子選手のACLケガ予防最前線。アプリで月経周期・コンディション管理も…高校年代の常勝軍団を支えるマネジメント
2025.02.07Opinion