阪神の快進撃を支える“2つの好循環”。16年ぶり優勝へ、不安要素は“不在のポジション”
猛虎が快進撃を続けている。16年ぶりのリーグ優勝に向けて、首位を快走する阪神タイガース。その好循環には目を見張るものがある。果たして、歓喜の秋は訪れるのだろうか。「スポーツニッポン(スポニチ)」で11年阪神担当記者を務める遠藤礼氏が見る、快進撃の理由と課題とは――。
(文=遠藤礼、写真=Getty Images)
16年ぶりの優勝に現実味? 快進撃の2つの理由
“春の珍事”では到底、終わりそうにない。阪神タイガースは5月終了時点で31勝15敗、勝ち越し16をつくり2位・読売ジャイアンツに4.5ゲーム差をつけセ・リーグ首位を快走している。誰もが早々に「新人」から「主力」へと見方を変えたドラフト1位・佐藤輝明の驚異的なパフォーマンス、得点源となっているジェリー・サンズ、ジェフリー・マルテの活躍など立役者を挙げればキリがない。チームのどこを切り取っても「かみ合っている」状態だ。ベンチワークでも代打、代走など矢野燿大監督のタクトがさえ渡り、終盤で逆転に成功した試合もあった。
ただ、1年間その勢いが続くことは、なかなか考えにくい。好事魔多し。3月からハイペースで白星を量産していくチームを番記者で取材する立場から見てきて、流れが変わってしまうとしたら選手の故障だと見ていた。特に毎日ラインナップに名を連ねる選手、ローテーション投手など「コア」を欠けばカバーするのはなかなか難しい。大きな歯車を失えば、さまざまな部分にほころびが出てくるのは容易に想像ができる。
快進撃の理由その1:失った「勢い」をカバーする新たな「勢い」
最初の試練は「4番」の離脱だった。開幕からその座に座っていた大山悠輔が、背中の張りで5月6日に出場選手登録を抹消。軽症とはいえ、すでに24打点をマークし、クラッチヒッターとして貢献してきた男を欠くことになった。
踏ん張りどころを迎えた中、代役を託されたのは佐藤だった。大山が積極的休養で欠場した同2日の広島東洋カープ戦では初めて4番に座り、5回に逆転のグランドスラムという離れ業。その際「体験入部というか、体験させてみよう」と意図を明かしていた矢野監督は、ここでも背番号8を指名した。交流戦開幕まで10試合連続で4番に座り、打率.270、1本塁打、7打点。気負いや重圧もあったはずだが、極端に数字を落とすことなく、役割を全うした。
下肢のコンディション不良で糸原健斗が再調整になると、今度は佐藤と同期入団の中野拓夢が2番に入り、ここまで8試合で打率.281、4打点と不動の2番が抜けた穴を感じさせない躍動を見せている。福留孝介、能見篤史、藤川球児と長年チームを支えてきた選手が抜け、若返ったチームにおいて苦境を迎えた際にベテランの積み上げてきた経験で克服することはできなくなった。それでも、今のタイガースには失った「勢い」を新たな「勢い」でカバーする好循環が至るところで生まれている。
快進撃の理由その2:矢野監督の掲げるテーマ「育てながら勝つ」
そして矢野監督は、若手主体の選手構成の中で「育てながら勝つ」という相反するテーマを1軍という現場で実行している。象徴的だったのは、甲子園球場で行われた5月19日の東京ヤクルトスワローズ戦。先発マウンドには高卒2年目の西純矢が上がっていた。初回は制球が定まらずピンチを招いたものの、2回以降は立て直して5回まで無失点。しかも、1本の安打も許さなかった。打線は援護できず、その時点でスコアレス。5回裏の攻撃でその西に打席が回ってきた。
打席に立たせれば続投だったが、指揮官は代打を送った。無安打投球で“親心”を見せれば白星をつけるための続投も考えられた一方、プロ初登板で球数はすでに87球。6回表は3巡目となる1番からの攻撃だった。勝つための冷静な判断。結果、5回1死で近本光司がソロを放ち、西はプロ初勝利を手にした。1軍公式戦の舞台で次代のエース候補に貴重な経験を積ませ、なおかつチームは3-1のスコアで逃げ切り。将来、西が積み上げるであろう幾多の白星にもつながる試合になったはずだ。
その後も、ドラフト5位の村上頌樹が30日の埼玉西武ライオンズ戦でプロ初登板初先発を果たし、その試合に2番手で登板した高卒2年目・及川雅貴がプロ初勝利。3年後、5年後も見据えるようなプロスペクトの起用で、しっかりと種をまいている。
今後に向けた不安要素は…不在の“あのポジション”
シーズンを戦う上で一つの分岐点になりそうな交流戦でも、2カードを終えた時点で3勝3敗。急失速する気配は感じられないが、今後へ向けて不安な部分を挙げるとすれば“不在”となっている「7回の男」だろう。開幕から同ポジションを託された岩貞祐太は防御率5点台となかなか状態は上がってこず、開幕から1カ月にわたって無失点を続けていた小林慶祐も疲れが見えてきた。
とはいえ選手層は厚く、近年も顔触れは違っても、ブルペンの安定感は維持してきた。好投を続ける馬場皐輔が7回に固定されるのか、もしくは2軍で調整を続ける藤浪晋太郎の中継ぎ再転向はあるのか……。ジョー・ガンケルやラウル・アルカンタラの先発組の転向も含めて首脳陣がどんなマネジメントをしていくか注目だ。野手でもサンズ、マルテの不調・故障といった不測の事態に備える意味でもメル・ロハス・ジュニアの復調は心強いオプションになることは間違いない。
伸びしろも携えながら疾走する2021年の猛虎。甲子園に歓喜の秋を呼び込むのか。真価を問われる戦いはこれから待ち受ける。
<了>
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