「子供の身長が伸びる」4大原則とは? 専門家が解説する、成長期の過ごし方

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2021.07.02

“身長を伸ばす”ことは永遠のテーマだ。サイズを大きくする方法に関してはスポーツ界でもさまざまな議論がされてきた歴史がある。しかし現状、特効薬はない。では、身長は親からの遺伝だけで決まってしまうものなのか。今回はこのテーマについてJリーグ・サガン鳥栖で育成年代の選手をサポートするトレーナーの鶴岡哲生氏と、プロテニスプレーヤーでアスリートフードマイスターとしても活躍する中野佑美氏に話を伺った。体づくりのエキスパートと栄養学のプロフェッショナルは身長の問題をどう捉えているのだろうか。

(文・撮影=松尾祐希)

選手個別の成長期を見極め、生物学的な年齢を重要視すべき

身長を伸ばす――。現在、医学的に立証されている方法論はない。しかし、伸ばすためにできる取り組みはある。それが成長期の過ごし方だ。

一般的に日本人における成長期のピークは平均値として男子が13歳、女子が11歳といわれている。もちろん人によって誤差はあり、一概にはいえない。高校生になって一気に伸びる者もいれば、小学校の高学年で最盛期を迎えるパターンもあるからだ。つまり、暦上の年齢は成長と比例しない。身長を伸ばす可能性を高めるために必要なのは、身体的な年齢を見極めることだ。現在、サガン鳥栖の育成年代でトレーナーを務める鶴岡氏も最も体が成長するPHV(Peak Height Velocity/最も身長が伸びる時期)を重視している。

「成長期のトレーニングにおいて、PHVを見ておくことは大切です。そこをきちんと見極めてあげないといけません。PHVの時期が最も身長が大きくなり、その後に筋力、瞬発力などが発達のピークを迎え、スピード、柔軟性、敏しょう性のピークはPHVの前に見られます。身長が一番大きくなる時期の1、2年後に筋力が増し、体重も増えてくる点も踏まえ、成長期に適切なトレーニングを入れる必要があります。ただ、PHVに関して、人によって前後差があります。遅咲き、早咲きでだいたい1年ぐらいは違うので見極めが大事。日本は学年別にグループ分けがされやすいのですが、実際に暦年齢に対して生物学的な年齢がどうなのかを考える必要があります。中学1年生と3年生を比べても体つきは全然違いますし、逆に同じぐらいの子もいますよね。なので、理想は個別に成長を見極め、発達具合でトレーニングのグループ分けをしてもいいかもしれません。遅咲きの子を早咲きの子に入れてしまうと、2年ぐらい成長期にギャップがあります。そうすると、ケガに対するリスクも違うので、取り組み方が大きく変わってしまいます。スポーツ障害を予防する側面からも成長段階に応じて、負荷をコントロールすることが望ましいですね」

選手個別の成長期を見極める。例えば、早生まれの子は同学年内で発育が遅れるパターンが多く、同学年の中に交ぜると幼く見てしまう場合は少なくない。大人になればその差はなくなるが、成長期の段階ではディスアドバンテージとなる。早生まれの子にとっては、1学年上のチームでプレーしているといっても過言ではない。だからこそ、鶴岡氏は成長期を踏まえ、学年別ではなく、生物学的な年齢でトレーニングすることが理想だと考えている。

「選手を評価する上で(発達速度も踏まえて)指導者がジャッジしないといけない。早熟、晩熟も含めて、評価をすべき。例えば、フィジカル的に能力が低く、体の発達が遅れているのであれば、1つ下の年代のトレーニングに交ぜてもいいかもしれません。それも手段の一つですよね」

キャパシティを超える負荷がかかると生じる「スポーツ障害」

成長段階を考慮せずに学年別に分けてトレーニングをした場合、どのような問題が起こるのだろうか。鶴岡氏はこう説明する。

「もし、身長が伸びている時期に同じ負荷でトレーニングをすると、身長が伸びる時期に過度な負荷がかかる可能性があります。体のキャパシティを超える負荷がかかると、スポーツ障害を引き起こします。身長は両端の軟骨が成長して伸びますが、そこは物理的に弱いんです」

ケガはどの年代にも起こり得ることで、スポーツ選手には付き物。負荷をコントロールしてリスクを最小限にとどめる。その上で体にあったトレーニングを正しいフォームで行うことが重要だ。

「同じ負荷を同じ場所にかけ続けると、オスグッド病(膝蓋骨下方の腫れと痛みを起こすスポーツ障害)や腰椎分離症を発症するリスクがあります。特に身長が伸びる時期は正しい動きでトレーニングすることが大切。例えば、スクワットをするにしても、うまく全身を使う。全部の関節を使った上で負荷を分散させながら、力を発揮する。低負荷でのトレーニングにより、正しいフォームを獲得しておき、その後の高負荷のトレーニングに備えておくことが大切です」

そうすれば、均一な負荷が体にかかり、リスクを最小限にとどめることができるのだ。

鳥栖は「毎月の身長測定」で選手の成長を見極める

もう一つ成長期に忘れてはいけないことがある。それが休息だ。

現在、日本の育成年代はまとまったオフがない。欧州の育成年代ではシーズンオフがあり、クラブの練習が行われていない時期がある。そのタイミングで一気に身長が伸びる例も少なくない。

実際に日本でもケガなどの理由で一定期間トレーニングを行わなかったタイミングで身長が伸びたケースは多い。スペイン1部のデポルティーボ・アラベスとの2年契約にサインをしたばかりのFW原大智もその一人だ。FC東京U-18に所属していた高校1年生時の夏休みに膝のケガで1カ月ほど入院。すると、この期間に5cm以上身長が伸びたという。

医学的な見解はなく、急激な発育の理由は定かではないが、トレーニングから遠ざかった期間とPHVの時期が合致した可能性はある。もちろんトレーニングも大事であり、適度に負荷をかけるべきだが、成長期の子どもにとって休息はなくてはならないのだ。鶴岡氏も体を休める必要性をこう説く。

「トレーニングで適度に刺激は入れないと骨も成長しない。休息とのバランスは大事。急激な負荷をかけるのではなく徐々に高めながら、回復させるための休息も取るべき」

休息とトレーニングのバランス。そのためにはPHVの時期を見極めなければいけない。鶴岡氏は身長のピークを知るために「毎月の身長測定」を行っている。鳥栖では1カ月に何cm伸びたかを記録しており、そのデータを基に選手の身長の伸びをジャッジしている。そうすることで成長が止まった時期を知る契機となり、トレーニングの負荷レベルをスムーズに移行できるのだ。

現在鳥栖は食事面のサポートを行いながら、選手の成長を見極める取り組みに力を入れている。今後は成長段階によってトレーニングレベルを変え、一人一人にあった育成プランを提示していく施策も検討中だ。

確実に身長が伸びる「食材」は存在するのか?

ここまで成長期のメソッドをトレーナーの視点で教えてもらった。ただ、休息とトレーニングだけで可能性を最大化できるわけではない。食事の取り方を間違えてしまえば、元の木阿弥(もくあみ)になってしまう。逆にいえば、正しく理解し、食事をきちんと取っていけば可能性を引き上げることができる。では、成長期の子どもたちはいつ何を食べればいいのだろうか。東福岡高のラグビー部などをサポートし、アスリートフードマイスターとして活躍する中野佑美氏は言う。

「確実に身長が伸びるという食材は存在しません。よくある勘違いは、カルシウムだけを摂取すれば身長が伸びるという思い込みです。分かりやすい事例でいえば、牛乳です。牛乳を飲むだけで身長が伸びるわけではないので、(同時に)バランスの良い食事を取らなければ意味がありません。一緒にビタミンDを取らないとカルシウムの吸収率も上がらないんです。ただ、身長が伸びるメカニズムには骨が一番関わっています。だからこそ、不足しないように日々カルシウムやタンパク質をしっかりと取っていくべきです」

骨の成長に大きく関わるのはカルシウムで、人生の中で12歳から14歳の年代が最もカルシウムを必要とする。ただ、何も考えずにカルシウムだけを取っていても効果は得られない。効果を最大化するためには、カルシウムの吸収を助けて骨を丈夫にするビタミンD、骨の形成を助けるビタミンKが必要だからだ。ビタミンDは魚類(まいわし、さけ、うなぎ、さんまなど)やきのこ類、ビタミンKは緑黄色野菜(モロヘイヤ、小松菜、ほうれん草、豆苗など)や納豆に多く含まれている。これらを効果的に摂取し、カルシウムの吸収を阻害することが考えられるリン、食塩、カフェインの過剰摂取を避ける。バランスの良い食事を心掛けながら、身長を伸ばす上で、この点は最低限押さえておかないといけないポイントだ。

運動をしている子どもは1.5倍のエネルギーが必要

ただ、スポーツに興じている子どもは一般的な同世代の子どもと比べ、エネルギー消費が1.2倍から1.5倍ほど必要だといわれている。一般的に成長期といわれる12歳から17歳の子どもであれば、1日の目標エネルギー摂取量は約3000kcal。取り入れた栄養素はまず疲労回復に使われる。万が一摂取量が不足してしまえば、骨を壊して必要なカルシウムを確保する可能性もあるという。

中野氏も摂取エネルギー量についてこう説明する。

「運動をやっている子は疲労を回復させながら、筋肉の発達も促さないといけません。なので、普通の子よりも1.2倍から1.5倍ぐらいのエネルギーを摂取しないといけないんです。なので、幼い年齢であれば親御さんの理解と協力がないと取り組めないかもしれません」

しかし、これを3食だけで取り込むのは簡単ではない。サポートする家族の負担も計り知れない。そこで大事になるのが「補食」だ。体の発達が人によって異なるのと同じように、胃袋の大きさも人それぞれ。1回の食事量は人によって変わるため、もし一度に食べられない場合は何回かに分けて取ることが望ましい。また、補食は練習で消費するエネルギーを手助けするためにも欠かせないものだ。

体を動かす原動力は糖質であり、車でいえばガソリンの役割となる。もし、ガソリンが少ない状態で車が走れば燃料の補給が必要となり、どこかでガソリンスタンドに寄らなければ走行は続けられない。人間の体も同じであり、練習の前後や途中に補給しなければベストな状態とはいえないのだ。では、どのようなものを練習前に摂取すればいいのだろうか。中野氏はこう解説をする。

「2時間前はうどん、1時間前は消化しにくい海苔(のり)や油物の具材を避けたおにぎり1、2個がベスト。30分前であれば、すぐにエネルギーになるあめ玉でも問題ありません。練習中はスポーツドリンクやバナナ一口でもいいでしょう。ゼリー飲料も好ましいですが、簡単に飲み込めてしまうので量を調整してください。過剰摂取になると、後から体に負担がくる恐れがあります。また、大事なのはそしゃくすることです。そしゃくの回数が増えれば、エネルギーの変換が早くなるんです。固形物が消化しないまま動くと、胃に負担がかかります。そうすると、補食で食べたものが意味をなさなくなるので、そしゃくは大事になります」

自分に合った「睡眠」を模索するべき理由

栄養バランスを考えた食事を3食取った上で、疲労回復や体を動かすために補食を取る。正しい食生活が身長を伸ばす上で大きな手助けとなるのは間違いない。そして、成長期の子どもにとって最も大事になるのが睡眠だ。しかし、良質な睡眠を取れなければ、可能性を最大化することはできない。特に現代はスマートフォンが普及し、今では中学生でも当たり前のように所有している。そのため就寝直前に触れることは不思議ではないが、そうした行動が睡眠の質を下げる一因になっていると中野氏は話す。

「寝る前にスマートフォンを見ることは目から光を多く取り入れるので、睡眠の質に大きく関わってきます。実際にスマートフォンの使用は生活に必要ですが、使い方を間違えると自分のパフォーマンスに影響することを知らない子は多いかもしれません。睡眠をきちんと取れば、自律神経が整いますし、内臓の疲れも取れます。睡眠の質が低下したり、睡眠時間が短くなったとしても、最初はプレーや発育に大きな影響を与えません。しかし、それが積み重なっていくと、カバーできず、大きなケガのリスクにつながります。そうなると選手生命が短くなるし、チャンスを逃すことにもなるので、身長を伸ばすためにもパフォーマンスを高めるためにも睡眠は重要になります」

もちろん、中学生や高校生は学業もおろそかにできず、時間のコントロールは容易ではない。しかし、最も身長が伸びる時期を逃せば、後から取り戻せないのも事実。また、中野氏は自分に合った睡眠時間を見つける作業も大事だという。

「睡眠時間の目安は7時間。ただ、ベストな睡眠時間は人によって異なります。6時間が適切な子もいて、7時間だと逆に疲れやすくなる子もいます。なので、自分でいろいろと試したほうがいいでしょう。23時に寝て朝6時に起きて疲れが取れないのであれば、22時に寝て朝6時に起きてみるなど、自分に合うものを模索していかないといけません」

日々の積み重ねが自分の「身長」の可能性を最大限にする

身長が伸びる特効薬はない。しかし、可能性を最大限に伸ばすことはできる。

「トレーニングはやみくもにやってはいけないし、個々の成長段階を知り、それに見合った適切な負荷をかけ、十分な休息を取る。そして、正しい体の使い方を身に付ける。そうすれば、体はケガをすることなく成長します」(鶴岡氏)

「成長期は人によって異なります。その中で成長期の子どもは主食(ごはん、パン、麺類など)、肉類だけではなく、魚や野菜、果物もしっかり食べないといけません。バランスの良い食事を取りながら、良質な睡眠の積み重ねていってほしいですね。自分の体は生涯付き合っていくもの。自分の体で厳しい世界を戦い抜かなければなりません。何を体に取り入れるか。摂取してきた物で今の体があることを忘れず、自分で考えて行動できるようになってほしいです」(中野氏)

日々の積み重ねが自分の未来をつくっていく。トレーニング、休息、食事、睡眠。身長を伸ばすためには、この4原則を正しく理解して取り組んでいくしかない。

<了>

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