
原巨人、阪神猛追で“3度目の3連覇”実現可能性を徹底分析! 3つのポイントと課題とは
プロ野球は、前半戦が終了し、オールスター・東京五輪開催による約1カ月間のシーズン中断期間となる。そこで今回は、『巨人軍解体新書』(光文社新書)の著者で、プロ野球選手をはじめ巨人ファンを中心に数多くの野球ファンから支持されているゴジキ氏(@godziki_55)に、前半戦を2位で終えた巨人の前半戦の総括と逆転優勝に向けて、後半戦で必要不可欠なポイントについて分析してもらった。
(文=ゴジキ)
けが人続出の中で見られた野手陣の層の厚さ
今シーズンの巨人の前半戦を振り返ると、エース菅野智之や中川皓太といった投手陣の要となる選手のけがの影響による離脱が目立った。しかし、それ以上に野手陣の離脱も目立つシーズンである。前半戦だけで、丸佳浩は新型コロナウイルス感染と調整のため2度の離脱をしており、5月に関しては坂本勇人もけがで離脱をした。
その状況で、活躍をした選手がいた。それは、吉川尚輝と岡本和真、ゼラス・ウィーラーである。
吉川に関しては、丸と坂本が不在の時期に3番に座るなどの活躍を見せていた。守備面に関しては、申し分ないレベルに達している吉川は、技術的な面で打撃の波の激しさはもちろんだが、シーズンを戦い抜く耐久性に課題があった。その中で昨シーズンは、初の規定打席到達を記録した。今シーズンも、打率.312、3本塁打、10打点、OPS.789を記録していたが、6月10日のオリックス戦でデッドボールを受けた影響で骨折し、離脱を余儀なくされた。
この吉川の離脱後は、北村拓己が主に二塁手として出場しており、6月は打率.353、2本塁打、6打点、OPS.964の活躍を見せた。さらに、昨シーズンから1軍に定着している松原聖弥も、丸が離脱していた4月やジャスティン・スモークが帰国後の6月に1番打者として活躍を見せている。今シーズンに限っては、長打力も結果として反映されつつあり、すでに8本塁打を記録している。
坂本・丸不在の中、タイトル争いするなどでチームを牽引した岡本・ウィーラー
また、中軸を見てみると、坂本や丸が離脱をした中で、岡本和真が孤軍奮闘した前半戦でもあった。前半戦終了時で、打率.271、27本塁打、80打点、OPS.910を記録し、昨シーズンから垣間見たクラッチ力はさらに成長を遂げているシーズンでもある。多くの離脱者がいた中でチームの本塁打数は109本塁打を記録したが、個人成績単位で見ると、岡本の存在がいかに重要だったかがわかる。後半戦もいかに岡本の前にランナーを置けるかが重要であるに違いない。
最後に挙げたいのは、ウィーラーだ。新型コロナウイルス感染で離脱はあったものの、さまざまな打順でも適応していたウィーラーの活躍なしでは、この順位にはいられなかったかもしれない。今シーズンは、エリック・テームズやスモークの獲得により、外国人枠の問題で競争が激化すると見られていたが、チームで唯一の「規定打席到達かつ3割」を記録するなどの活躍を見せた。成績以外にも、守備面でファインプレーを見せた後は、チームの雰囲気もよくなるなどムードメーカーという面でも、欠かせない選手となった。前半戦終盤は、疲れも見え始めていたが、五輪中断期間で調整の上、後半戦開幕からはさらなる活躍に期待していきたい。
エース菅野の不調をカバーする阪神キラーが後半戦もキープレーヤーへ
今シーズンは、エースである菅野が故障のため、離脱を余儀なくされている。その中で、4月から大活躍を見せて、リーグトップの9勝を挙げたのが髙橋優貴である。オールスターでも初戦の先発を任されるなど、キャリアハイといってもいい活躍ぶりだ。従来の活躍する投手のように、球速の数値以上に打者の手元でピュッと伸びているわけではないが、一般的に遅いといわれる球質だからこそ、その特性を生かした上で抑えている投手だ。ストレートの球速感とスライダーのギャップが少ないことはもちろんのこと、スライダーやスクリュー(チェンジアップ)の軌道が他の投手と比較すると特殊がゆえに、抑えられていることももちろんあるだろう。
その髙橋は、対阪神戦の成績が、4戦4勝で防御率も1.08、甲子園では、19イニング無失点と脅威の成績を残している。前半戦だけを見ても、阪神打線の中軸である大山悠輔を11打数無安打、ジェリー・サンズを9打数無安打と一切打たせずパーフェクトに抑えている。さらに、流れを引き寄せる選手でもあるスーパールーキーの佐藤輝明も9打数2安打で、長打を一本も許していない結果を残している。後半戦も、阪神戦の髙橋のピッチング次第で逆転優勝に近づいていくに違いない。
原巨人の大局観を持った勝負強さ
阪神とのゲーム差は、最大8ゲーム差があったが、2ゲーム差まで縮めて前半戦を終えた。チームが低迷していた時期でも、二桁のゲーム差にはさせずに踏みとどまるなどここ一番の勝負感は衰え知らずである。
交流戦も負け越しで終わったが、交流戦の終盤には坂本と丸が復帰して、同一リーグ再開の阪神戦から6月末まで破竹の8連勝を飾り、阪神を猛追している状況だ。
阪神側からすると、2008年の悪夢(※13ゲーム差を巨人に大逆転された)を思い出す展開ではないだろうか。現監督である矢野燿大監督の直近の采配や戦い方を見ても、浮き足立つことや焦りを垣間見る場面は多々ある。これは、原監督との経験値はもちろんのこと、勝負師としての差が生まれているのではないだろうか。選手時代(2008年)に逆転優勝を許したことも、大きな要因とみている。さらに、巨人との直接対決も、7勝8敗と負け越している現状を見ても勝負師としての力量が問われている。原巨人の場合は、阪神戦に強いC.C.メルセデスや髙橋を複数回登板させるなどの戦略が見られる。この2選手がローテーションで当ててからは、敵地甲子園で6戦4勝2敗と結果にも結びついている。
別の視点で見ても、坂本と菅野といった投打の軸や、丸や梶谷隆幸、吉川の離脱があり、スモークの帰国があった中で、大山と糸原健斗、ジョー・ガンケル、岩崎優の離脱以外はほぼ磐石の阪神と渡り合えているのは事実だ。このような状況の違いが生じると、本来なら独走状態になるのが既定路線だが、直接対決で踏みとどまっていることが大きい。
巨人から見るとこの直接対決では、他球団との対戦と比較すると継投面含めてハマっているように思える。現在好調のチアゴ・ビエイラから逆算して考えられる勝ちパターンを確立させながら、チャンスで佐藤に回るなどの要所で、大江竜聖や高梨雄平といった変則左腕を投入して抑えている。阪神戦では、髙橋を含めた先発陣の他に徹底された継投で、勝ち越しをしていると見ている。この百戦錬磨の原巨人の戦略性を含めて、後半戦の首位攻防にも注目である。
阪神に猛追と逆算優勝するにあたっての課題点
巨人が阪神を追っていくにあたり、課題点がある。
打力のあるスモークの帰国、吉川の離脱と、中川が離脱した中で無理のある中継ぎ陣の運用である。
打線に関しては、吉川の代わりに出場している北村の調子が下がってきたこともあり、二塁手として出陣が可能であり、勢いづかせられる廣岡大志や香月一也といった選手をいかに生かすことができるかが注目だ。この2選手はともに、今シーズン殊勲打や勝利打点を生み出すなどの活躍を見せており、勝負強さ含めて今後も調子を上げてほしい存在でもある。
また、スモークの帰国により、昨シーズンの終盤のように長打力不足も露呈する場面は出てくるだろう。現状は、坂本・丸・岡本に頼りがちな部分があるため、2019年の打線で例えると、アレックス・ゲレーロのように下位打線に長打力がある打者を置きたいのが現状の課題である。今シーズンはその役割をスモークが担っていたため、打線全体はもちろんのこと、外国人選手であるウィーラーとのバランスも兼ねて、多少荒削りでも長打力がある外国人の獲得は急務である。
投手陣も、中川に頼りきりだったがゆえにバランスブレイカーになるかのように、無理のある運用をしていた。中川離脱後は、高梨にも若干依存していたため、調子が下降していたが、この中断期間でしっかりと調整して後半戦開始に合わせてもらいたいところである。
大差のある試合では、田中豊樹や戸根千明はもちろんのこと、1軍に帯同させていた直江大輔や戸田懐生といった若い選手を積極的に起用することにより、今シーズンだけではなく、来シーズン以降にもリターンが見込めるだろう。
急務の補強ポイントと課題点を克服することによって、逆転優勝で原巨人3度目の3連覇をぜひ達成してほしいと願っている――。
<了>
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