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「人の個性に口を出し過ぎな人が多いから…」。ラグビー村上愛梨がLGBTをカミングアウトした原動力の根幹
今年春ごろ、ラグビー女子日本代表経験を持つ村上愛梨は、同性のパートナーがいることを公表した。3月に札幌地裁で「同性婚を認めないのは違憲」とする判決は出たものの、LGBTに関する法整備はいまだ進んでおらず、諸外国と比べても後れを取っているのが実情だ。そんな中、なぜ村上は自らの性的指向を公表したのか? カミングアウトすることが必ずしもいいとは限らない――、そう口にする背景に、決心の理由がある。
(文=向風見也、写真提供=村上愛梨)
「LGBTって暗い話が多いですよね。でも本来はもう明るいんで」
確かにごもっともだ。
今度の11月に32歳となる村上愛梨は、明るい色の瞳を動かさずに言う。
「自分にとってはただの一部でしかないんで、LGBTって。何だったら、LGBTも選んで(なったわけでは)ないんで。これは親のせいでも、誰のせいでもない。自然にこう……からい物が好き!みたいな感覚で。自分がからい食べ物が好きだったとしても、その理由なんて自分でも分からなくないですか?」
性的マイノリティーの総称である「LGBT」という単語は、口笛が吹かれるように放たれる。日本代表になったことのあるラグビー選手の村上は、2021年4月までに同性に好意を抱く女性であると公言している。
世間が抱く「社会派アスリート」のイメージとは、異なる雰囲気を醸す。生来の朗らかな気質にならって生きるのがいいと、自ら判断しているような。
「LGBTって暗い話が多いですよね、どちらかといえば。差別されています、みたいな。でも疲れるんですよ、そうやって暗いことばっかり考え続けていると。……暗いの(話)ちょうだいって言われたら全然、出します。でも本来はもう、暗いのを乗り越えて明るいんで」
LGBTへの戸惑いがあった母。それでも“愛梨”を守ろうとしてくれた
物心がついてから人が好きだった。生きるうちに自分が人に肯定される感覚にも出会えて、「やっぱり周りが、自分自身を受け入れてくれたのが大きいです」と振り返る。
高校のバスケットボール部時代、内緒で仲間と交際していたことをチーム内で知られ、とがめられることがあった。本人は関係を否認するしかなかったが、母は同級生の保護者へ「これ以上、愛梨を傷つけたら、裁判で訴えますよ」と怒っていたと後になって聞いた。
20歳の誕生日にあらためて伝えたら、娘が性的少数者であること自体への戸惑いはあるようだった。それでもあの時、「LGBTの私を守ろうとしてくれたんじゃなく、愛梨を守ろうとしてくれた」のだ。それはそれで感謝の念が湧いた。
さらに自己肯定感が増したのは、26歳で競技転向してからだ。
バスケットボールの試合会場で相手選手と会話することはあまりなかったが、ラグビーではゲームの直後に敵味方を問わずに仲良く語らうことが多い。「ノーサイド精神」と称されるこの文化に、かねて人との垣根が薄かった村上は心地よさを覚えた。
「あなたがいてくれるだけでいい」。勇気を振り絞り、涙があふれた場面
日本最初の緊急事態宣言が出ていた2020年春ごろには、日本ラグビー協会主催のオンライン勉強会に出席した。当時の理事で法学者の谷口真由美さんから、性的少数者について講義を受ける。
「当事者としてできることはありますか」
質疑の中で勇気を振り絞って声をあげると、「それを言ったこと自体がすごいことだから、あなたがいてくれるだけでいい」と返された。
力が抜けた。画面上には数十人もの参加者が並ぶ中、涙が出てきた。もともと「親譲り」の利他の心があるから、「自分もギブしたい」。自分と似た悩みを抱える若者の力になれればと、カミングアウトと呼ばれる行動にかじを切った。
かような決心をある程度、固めていた2021年3月頃には、胸骨の挫傷を負った。その際のレントゲン撮影で腫瘍が見つかり、「もしも悪性だったら」と己の命と向き合った。これまでの来し方を振り返ると、「え、うち、よくやってるじゃん」。人の手を借りながらも自分の人生を自分でつくってきた、その過程を褒めたくなった。
これほど「セルフラブ」できたのは初めてで、あらためて、「カミングアウトへの自分の塊」を形成できた。
多様性が本当の意味で認められる社会になることを願い…
今度の取材が終わってすぐ、列島ではオリンピックが始まった。感染症がはやる世界にあって開催そのものが議論の対象となったこの国際大会は、もともと参加者の多様性を貴ぶのを大義としている。
村上は、同性婚が法的に認められていない現状に関する裁判もできる限り傍聴している。現実を認識しつつ、あえて五つの輪への期待感を口にした。
「どんな性的指向も差別してはいけませんと憲章で掲げる大会を日本でやるわけだから、(世の中が)変わっていったらいいかなと」
「自分らしくあれることを選んでほしい」。カミングアウトは目的ではなく手段にすぎない
振り返れば、カミングアウトができたのは周囲と心地よくつながる自分自身を愛せたからだった。
逆に、「カミングアウトが(本人にとって)自分らしくある選択肢でないなら、カミングアウトをして(本人が)自分らしくいられない環境になると分かっているんだったら、する必要はないです」。カミングアウトは、あくまで自分が自分らしくあれる有効打の一つになり得るだけだ、と強調する。
全てのマイノリティーへの、これが伝言だ。
「カミングアウトって、珍しいからすごい、偉い、みたいな感覚で捉えられていると思うんですけど、それが逆にプレッシャーになっていることもある。そうじゃなくって、一人の人として、自分らしくあれることを選んでほしい。自分の気持ちがどうしたいのか、自分がどうあっていたいかを感じることが、大事。もっと、自分を愛してほしいなって伝えたいですね」
「人のことよりも自分を愛してほしい、自然でいてほしい」
繰り返せば、自身のカミングアウトの原動力は「セルフラブ」にある。当事者に対し、周りがどんな態度で接してほしいか、と聞かれても、「セルフラブ」の姿勢を崩さなかった。
「多分、人の個性に口を出し過ぎな人が多いから。それって多分、自分の個性も愛せていないからかなって思う部分もある。ちょっときれいごとになっちゃうかもしれないですけど、もう、人のことよりも自分を愛してほしい、自然でいてほしいっていう感じですね。あなたにもあるでしょ、個性……っていう」
利他の精神と自己肯定感を貴ぶアスリートは、何度でも強調する。
自分を大切にします。
自分を大切にしましょう。
※編集注記:
昨今では性的マイノリティーの総称として「LGBTQ」「LGBTQ+」「LGBTQIA」などを使用することが増えています。その背景には、性的マイノリティーはL・G・B・Tだけでくくれるものではなく、全ての人それぞれに異なるセクシュアリティがあるからです。あらゆる性の在り方を尊重することを前提に、本稿では取材の中で使用された「LGBT」表記で統一しています。
<了>
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