
ロコ・ソラーレ、銀メダル最大の要因は「勝つか学ぶか」。負けるたび強くなる“成長の本質” [カーリング]
北京五輪で日本カーリング史上最高となる銀メダルを獲得したロコ・ソラーレ。常に全力で挑戦し続け、全開の喜怒哀楽を見せる彼女たちの姿に笑顔をもらった人も多いだろう。だがその歩みは、決して順風満帆だったわけではない。平昌五輪からの4年間、結果を出せない時期もあった。大会前、これほどの結果を出すと予想する向きは決して多くなかった。それでもファイナリストになるまで成長を果たすことができたのは、「勝つか学ぶか」の思考にあった――。
(文=竹田聡一郎)
4年間で日本一はたったの1度だけ。それでも五輪の大舞台で結果を残せた理由
「勝つと得るものがある、負けると学ぶものがある」
「勝つか学ぶかでやらせてもらってます」
吉田知那美の言葉は平昌五輪以降のロコ・ソラーレの言葉を端的に表現している。
この4年、国内最大タイトルである日本選手権は、2018年は富士急(ロコ・ソラーレは平昌五輪出場のため不参加)、2019年は中部電力、2020年はロコ・ソラーレ、2021年は北海道銀行(現フォルティウス)がそれぞれ優勝している。直近4大会をきれいに4強と呼ばれるチームが分け合ってきた格好だ。
北京五輪・銀メダリストのロコ・ソラーレといえど、この4年で1度しか日本一になっていない。もう少しいえば、チーム結成からの11シーズンで日本王者の座に就いたのは2回だけだ。
2回目に優勝した2020年の日本選手権を終えて藤澤五月にそれを指摘すると「気付いちゃいましたか」と苦笑いを見せた。それを継ぐように吉田夕梨花が「本当に日本のレベルが上がってきて日本選手権で勝つのは難しいです」と言えば、鈴木夕湖は「夕梨花とだいたい同じっす。難しい」とらしさ全開で追随する。
そんな会話から吉田知那美は「勝つか学ぶか」、冒頭のような言葉を紡いだ。
「負けたときは本当に、本当に悔しいんです。泣きながら『なんでだー、悔しいー!』って叫びたくなる。でも悔しいぶん、勝ったときよりも負けたときの方が強くなるから、強くなるチャンスを得たと思って取り組むしかない」
「目の前のシーズンを戦っているうちに4年がたっただけ」
逆にいえばこの4年は、負けて負けて、そのたびに強くなる期間でもあった。
国内で結果が出なければ軽井沢、札幌、稚内と実際に乗ったアイスに赴き、合宿でとことんまで投げ込んだ。
グランドスラムでトップカーラーにもまれ続け、苦手なチームに対してはデータを活用して攻め方を変えていった。(※グランドスラム:ワールドカーリングツアーのランキング上位十数チームだけに招待状が届くグレードの高い大会)
「(グランド)スラムでは負けてばかりだったから、あそこで勝ちたいと思って目の前の1シーズンを戦っているうちに4年がたっただけ」
これは平昌から北京までの4年について鈴木の回想だが、負けるたびに浮かぶ課題をつぶし、不安を埋めているうちにまたオリンピックがやってきた。本人たちにとってはそんな感覚だったのかもしれない。
日本選手権のファイナルで2回負けた。北京五輪代表決定戦でも2回負けた。この4年で唯一の世界挑戦だったはずの世界選手権は新型コロナウイルスの影響で中止になった。折れずにそれらをポジティブに「成長する機会」と捉え、北京五輪までたどり着いた。
ラウンドロビン敗退を覚悟するも…再び得られた“強くなる機会”
ただ、5勝4敗で終えた北京五輪のラウンドロビン(総当たり予選)では、さすがに折れかけた。最終戦でスイスに敗戦。準決勝進出は他カードの結果に委ねられた。
「LSDが良くないので(準決勝に)上がらないと思います」(吉田知那美)
「このチームで最後まで戦えてよかったかなと思います」(藤澤五月)
(※LSD:ラストストーンドロー。試合前に先攻・後攻を決めるために投じられるショット。ラウンドロビンの勝敗で複数チームが並び、当該チーム間の成績でも優劣がつかない場合、LSDを基にした平均値(DSC)で順位を決定する)
各選手、涙ながらに完全に敗戦の弁らしきものを口にしたが、一転、スウェーデンが韓国を下し、日本のプレーオフ進出が決定。藤澤は「正直まだよく分からないです」と泣き笑いの表情で言いつつも、ここでもまたチームは強くなる機会を得ていた。
迎えたスイスとの再戦となった準決勝は、ジェームス・ダグラス・リンド ナショナルコーチの指示でドロー戦に持ち込んでいる。(※ドロー:狙ったところにストーンを置くショット)
本来、スイスはドローに自信を持っているチームだが、変化の多い難しい北京五輪のアイスでは、難しい局面ではテイクアウトを選びセーフティーにゲームを進めていた。(※テイクアウト:ストーンをハウスの外にはじき出すショット)
それに付き合わず、ロコ・ソラーレは執拗(しつよう)にドローをハウスに送り込むゲームに持ち込んだ。その結果、スイスは得意のはずのドローでミスが出るなど、日本は多くのエンドで主導権を握り、準決勝を制す。銀メダル以上が確定した。
「私たちの最大のアドバンテージは…」。吉田知那美が言い切った言葉の意味
「私たちの最大のアドバンテージはラウンドロビンで他の3チームよりもたくさんのミス、たくさんの劣勢を経験できた」
吉田知那美は決勝進出を決めた後、そうコメントしていたが、いい意味での開き直りが高い集中力を生んだのも奏功した。
そして何よりも星取表の巡り合わせに一喜一憂せずに、ほぼ完璧に見えたラウンドロビン1位通過のスイスのほころびを探した策士JDリンドコーチの慧眼(けいがん)、あえて相手の得意な土俵で戦うチームの胆力、これまで負けても負けてもはい上がってきた経験、全てが結実した銀メダルだったのだろう。
残念ながら決勝はミスの少ないイギリスの好ショットの前に終始、後手に回ってしまう。金メダルはお預けとなった。藤澤はメダルセレモニーを終え「こんなに悔しい表彰式ってあるんだな」と率直に語っていたが、11試合をこなし6勝5敗だった17日間の北京滞在が終わった。
どこまでも負けず嫌いで欲張り。北京五輪の“5敗”が彼女たちをまた強くする
チームは北京から帰国後、1週間の隔離期間を終えて5カ月ぶりの故郷に戻った。つかの間のオフを挟んで、4月上旬にはカナダ・トロントで開催されるグランドスラムの一つ「Princess Auto Players’ Championship」に出場すべく再びカナダへ渡航する予定だ。
以下はこの4年で4選手が発した象徴的な台詞だ。
「どんな大会でも日本選手権もグランドスラムも世界選手権も、目の前の試合は全部、勝ちたい」(吉田夕梨花)
「負けるとね、シンプルに悔しいっす。そして足りないものが明確になるんですよ」(鈴木夕湖)
「本当に強いチームというのは勝ち続けているチームではなくて、負けてからはい上がれるチーム」(吉田知那美)
「絶対に勝てない相手はいないと思っています」(藤澤五月)
上記を読み解けば分かってくるように、悔しがれる才能、負けたという経験を兼ね備えたロコ・ソラーレはどこまでも負けず嫌いで、あくまでも欲張りだ。北京での5敗ぶん、彼女たちはまた強くなる。目の離せない戦いは続く。
<了>
藤澤五月「人生で快心の一投は?」の意外な答え……切望する世界一へ、背負う覚悟
吉田知那美の「名言」は、勝敗・人生・運命をも変える。特筆すべき言葉力の源泉
ロコ・ソラーレが直面する“もう一つの闘い”。知られざる「陰のメンバーの重責」
ワリエワ・ドーピング騒動に求められるのは“1つ”だけ。ロシアに魅せられてきた者として、心から願うこと
「理不尽なのは仕方ない、そういう競技だから」。スキージャンプ小林陵侑、本番に強い思考術
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
ラグビーにおけるキャプテンの重要な役割。廣瀬俊朗が語る日本代表回顧、2人の名主将が振り返る苦悩と後悔
2025.06.13Career -
野球にキャプテンは不要? 宮本慎也が胸の内明かす「勝たなきゃいけないのはみんなわかってる」
2025.06.06Opinion -
冬にスキーができず、夏にスポーツができない未来が現実に? 中村憲剛・髙梨沙羅・五郎丸歩が語る“サステナブル”とは
2025.06.06Opinion -
「欧州行き=正解」じゃない。慶應・中町公祐監督が語る“育てる覚悟”。大学サッカーが担う価値
2025.06.06Career -
なでしこジャパン2戦2敗の「前進」。南米王者との連敗で見えた“変革の現在地”
2025.06.05Opinion -
移籍金の一部が大学に?「古橋亨梧の移籍金でも足りない」大学サッカー“連帯貢献金”の現実
2025.06.05Business -
ラグビー・リーグワン2連覇はいかにして成し遂げられたのか? 東芝ブレイブルーパス東京、戴冠の裏にある成長の物語
2025.06.05Opinion -
雪不足、酷暑…今世紀末にはスポーツが消滅する? 気候変動危機にJリーグ×日本財団が示した道筋
2025.06.05PR -
「夢はRIZIN出場」総合格闘技界で最小最軽量のプロファイター・ちびさいKYOKAが描く未来
2025.06.04Career -
SVリーグ初年度は成功だった? 「対戦数不均衡」などに疑問の声があがるも、満員の会場に感じる大きな変化
2025.06.02Opinion -
「打倒中国」が開花した世界卓球。なぜ戸上隼輔は世界戦で力を発揮できるようになったのか?
2025.06.02Opinion -
146センチ・45キロの最小プロファイター“ちびさいKYOKA”。運動経験ゼロの少女が切り拓いた総合格闘家の道
2025.06.02Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
ラグビーにおけるキャプテンの重要な役割。廣瀬俊朗が語る日本代表回顧、2人の名主将が振り返る苦悩と後悔
2025.06.13Career -
「欧州行き=正解」じゃない。慶應・中町公祐監督が語る“育てる覚悟”。大学サッカーが担う価値
2025.06.06Career -
「夢はRIZIN出場」総合格闘技界で最小最軽量のプロファイター・ちびさいKYOKAが描く未来
2025.06.04Career -
146センチ・45キロの最小プロファイター“ちびさいKYOKA”。運動経験ゼロの少女が切り拓いた総合格闘家の道
2025.06.02Career -
「敗者から勝者に言えることは何もない」ラグビー稲垣啓太が“何もなかった”10日間経て挑んだ頂点を懸けた戦い
2025.05.30Career -
「リーダー不在だった」との厳しい言葉も。廣瀬俊朗と宮本慎也が語るキャプテンの重圧と苦悩“自分色でいい”
2025.05.30Career -
「プロでも赤字は100万単位」ウインドサーフィン“稼げない”現実を変える、22歳の若きプロの挑戦
2025.05.29Career -
田中碧は来季プレミアリーグで輝ける? 現地記者が語る、英2部王者リーズ「最後のピース」への絶大な信頼と僅かな課題
2025.05.28Career -
風を読み、海を制す。プロウインドサーファー・金上颯大が語る競技の魅力「70代を超えても楽しめる」
2025.05.26Career -
最高時速103キロ“海上のF1”。ウインドサーフィン・金上颯大の鎌倉で始まった日々「その“音”を聞くためにやっている」
2025.05.23Career -
「長いようで短かった」700日の強化期間。3度の大ケガ乗り越えたメイン平。“復帰”ではなく“進化”の証明
2025.05.23Career -
「ヨハン・クライフ賞」候補! なでしこジャパン最年少DF古賀塔子“世界基準”への進化
2025.05.19Career