
プロ野球を席捲する「2001年世代」。佐々木、奥川、宮城、紅林――早くから頭角を現せた理由
いよいよ開幕したプロ野球において、注目すべき世代がある。高卒3シーズン目を迎える「2001年世代」だ。佐々木朗希、奥川恭伸、宮城大弥、紅林弘太郎――。昨季からすでにチームの主力としてプレーした彼らは今後さらなる飛躍を遂げ、プロ野球界をけん引していく存在となることが期待される。だが、なぜ「2001年世代」はこれほど早くから頭角を現すことができたのだろうか? 本人たちの言葉をひも解き、その理由を探ってみたい――。
(文=花田雪、写真=Getty Images)
「2001年世代」の選手たちは、同世代の活躍をどう見ているのか?
2022年もプロ野球が開幕した。
昨季、前年最下位からリーグ優勝を果たした東京ヤクルトスワローズ、オリックス・バファローズの連覇、BIGBOSSこと新庄剛志を新監督に招聘(しょうへい)し、開幕後も話題を振りまき続ける北海道日本ハムファイターズなど、今季も見どころは十分だが、その中でも特に注目したいのが高卒3年目を迎える「2001年度生まれ」の面々だ。
奥川恭伸(ヤクルト)、宮城大弥、紅林弘太郎(共にオリックス)、佐々木朗希(ロッテ)、及川雅貴(阪神)らに代表される彼ら2001年世代は昨季、高卒2年目ながらチームの主力としてプレーした。
当然「伸びしろ」もまだまだあり、近い将来「2001年世代」がプロ野球界をけん引していくことも十分考えられる。
その中心を担っていくであろう存在は、やはり佐々木朗希だろう。
“令和の怪物”佐々木朗希の印象は? 奥川・及川の言葉
高校時代に最速163キロをマークし、鳴り物入りでプロ入り。1年目は公式戦に一度も登板しない“異例”の育成プランでプロとしての土台をつくり、2年目に満を持して1軍デビュー。令和の怪物は、3年目を迎えてついに本格化しつつある。オープン戦から平均160キロ前後の直球を投げ込み、今季公式戦初登板となった3月27日の東北楽天ゴールデンイーグルス戦では自己最速を更新する164キロを記録。勝ち星こそ付かなかったが6回を投げて10奪三振(3失点)と、圧巻の投球を披露した。
また、直球以上に絶大な威力を誇っているのがフォークだ。140キロ台中盤の球速を誇りながら落差も大きく、プロの一流打者のバットが面白いように空を切る。試合終盤にはやや落差が少なくなる傾向はあるが、好調時のそれは日本球界を飛び越え、世界を見渡してもトップレベルといっていい。
高いパフォーマンスをコンスタントに発揮する安定感や、1試合、1年間を通して投げ切る体力面ではまだまだ不透明な部分も多いが、純粋に投げるボールだけを見れば、今季の千葉ロッテマリーンズで“エース”の役割を担うのは確実といっていいだろう。
佐々木の持つポテンシャルの高さは、同じ2001年世代の面々からも早くから認められていた。星稜高時代の奥川を取材した際、佐々木についてこんなことを話してくれたことがある。
「スピードはもちろん、投手としてのレベルが違うという印象です。今の僕には決して投げられないボールを投げている」
また、同じく同学年の及川も、横浜高時代に佐々木の印象をこう語ってくれた。
「U-18の合宿で実際に見たんですけど、ベンチにいるのにマウンドから投げるボールの音が聞こえるんです。それも、『シュルシュル……』という回転音だけじゃなくて、『ゴォーー!』というごう音が混じっている感じ。普通じゃ、あり得ないですよね」
断っておくと、この取材時点での奥川、及川両投手も「ただの投手」ではない。
2人とも甲子園を経験し、世代別の日本代表にも選出される高校球界トップクラスの投手だった。事実、その年のドラフトで奥川はドラフト1位、及川は3位で指名を受け、プロ入りしている。
そんな彼らをして「レベルが違う」「あり得ない」と言わしめる佐々木のポテンシャルが規格外だったというだけだ。
奥川は昨季日本シリーズで山本由伸と堂々たる投げ合い
ただ、だからといって彼らが佐々木に劣っている、というわけではない。「すごいボールを投げる投手」と「すごい投手」はイコールではないからだ。
佐々木のすごみを認めつつも、奥川はこの時、こんなことも話してくれた。
「僕が目指しているのは、速いボールを投げるとか、すごい変化球を投げるとか、コントロールが良いとかではなく、ピッチングに必要な要素を全て高いレベルで兼ね備えた投手です。何かが良くても、何かが悪いようではダメ。『総合力』といってもいいですけど、そこを高めていきたい」
プロでの2年間を経て、奥川の言葉は現実のものになりつつある。
150キロ以上の速球と鋭い変化球を併せ持ち、なおかつ高い制球力を誇る。その結果、昨季クライマックスシリーズでは巨人を相手に完封勝利を挙げ、日本シリーズでも日本のエース・山本由伸と堂々たる投げ合いを演じてみせた。
及川も同様だ。高校時代はその才能を持て余している感もあったが、プロ入り後に安定感が増し、2年目にしてリリーフに定着。今季は故障で出遅れているが、「先発転向」を視野にエースへの階段を順調に上り始めている。
世代間のライバル意識。新人王獲得の宮城の率直な想い
また、この世代の特徴は「世代間のライバル意識」を決して隠さないところにもあるように思える。
昨季終盤、宮城を取材した時のことだ。「同世代」への意識について、彼は自身の思いを率直に語ってくれた。
「僕らの世代は佐々木、奥川が引っ張ってくれていますけど、負けたくない思いはもちろんあります。彼らに置いていかれないように、これからも自分の投球を磨いていきたい」
この言葉通り、宮城は昨季、同世代の選手では初めてとなる「新人王」を獲得。3年目の今季も開幕ローテーションをつかんでいる。
控えめな印象のある奥川も、同世代についてははっきりと「意識する」と語ってくれた。春季キャンプ前に話を聞いた時のことだ。昨季の日本シリーズ、ヤクルトは第6戦で勝利し、4勝2敗で日本一を決めた。しかし、もし第7戦までもつれた場合、奥川が先発することになっていたという。それは同時に、宮城との「同級生先発対決」の実現を意味した。
「周囲からもいろいろ言われますし、正直やりにくい部分はあります。ただ、やはり意識はします。他の投手と投げ合うよりも『負けたくない』という気持ちは強いかもしれません」
オリックス25年ぶり優勝をけん引した紅林をライバル視するのは…
野手に目を向けても、「同世代の意識」を強く持つ選手はいる。
現時点で頭一つ抜けているのはオリックスの紅林だが、彼に対して「負けたくない」と強い言葉を発したのが横浜DeNAベイスターズの森敬斗だ。タイプこそ違うが、ポジションは同じショートで、出身は共に静岡。実はこの2人は子どものころから面識がある。
「小学校のころからの顔見知りで、ずっと戦ってきた相手でした。ポジションも同じですし、負けたくない思いは強いです」
その森も1年目、2年目と順調に成長中で、昨シーズン中盤以降は1軍に定着。スピードと野性味あふれるプレーはスター性も抜群で、将来的にはDeNAを引っ張っていける存在として期待されている。
同世代の活躍を意識し、「負けたくない」という思いが成長へとつながる。その好循環が、2001年世代が早くから頭角を現した一因かもしれない。
圧倒的な能力を誇る佐々木はもちろん、個性と実力を兼ね備えた2001年世代たち。本稿で触れた選手以外にも、石川昂弥(中日)、黒川史陽(楽天)、玉村昇悟(広島)ら、いつ1軍の主力になってもおかしくない選手はまだまだいる。
高卒3年目。底知れぬ可能性を秘めた「2001年世代」が今後どんな成長を見せてくれるのか――。楽しみで仕方がない。
<了>
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