
青木真也「なくなるものだと肝に銘じて見てほしい」。39歳が宿す“最強の言い訳”と“儚さ”
日本時間11月19日に開催されるONE Championship「ONE 163:Akimoto vs. Petchtanong」。そのメインカードの一つに青木真也の試合が組まれた。対戦相手のザイード・イザガクマエフを「考えうるもっともタフな相手」と評する青木だが、一方で試合に向かう中で39歳という己の肉体との戦いにもがいている。そんな青木がどんな思いを抱え、11.19に歩みを進めているのかを聞いた。
(インタビュー・構成=篠幸彦、写真提供=ONE Championship)
ずっと続けたい気持ちと同じくらい、早くやめたい気持ちがある
――「ONE Ⅹ」での秋山成勲選手との試合後に「次になにをやっていこうか明確になっていませんでした」と、ご自身のnoteで書かれていました。それは今でも変わりませんか?
青木:今もないですよ。全然ない。大義というか、こうなりたい、こうしたいみたいなことはないんですよね。Creepy NutsのDJ松永さんが言っていたんだけど、『この生活をすることが僕の一つの目的である』と。何かになるための手段ではなくて、子どもの頃から格闘技選手やレスラーみたいな生き方、生活スタイルに憧れてここまできたので、このライフスタイルをすることが目的なんですよ。この生活を少しでも続けていきたい、憧れたものを追求していきたいと思いますね。
――今回の試合は、青木選手の中で意味づけされているものではなく、青木選手がつくり上げてきた「青木真也」というストーリーの一つというイメージですか?
青木:ストーリーの一つだし、なんていうか、みんな僕がなくならないと思っているところがあると思うんですよ。なくならないと思っていると、刹那感がないとか、美しく見えないみたいなところがあると思うんです。でも別に青木真也というのはなくなるものだから。そこは肝に銘じて見てほしい。いつまでもこのテンションで、このものは提供できないから。そういう気持ちはありますね。
その意味で最近ずっと思っているのは、自分自身がつくるものを面白いものにするためなら自分が今までやってきたものを燃やす、火をつけるみたいなことを僕はいとわないんですよ。三島由紀夫の『金閣寺』みたいな話で、それをしないと美しく見えないのであれば、いつでも自分がやってきたものに火をつけるという気持ちでいます。というか、燃やしたいんだと思う。それくらい刹那感を持ってやっているんですよ。
これはカッコつけではなく、いつやめてもいいという気持ちがあって、むしろ早くやめたいみたいな。ずっと続けたい気持ちと同じくらい、早くやめたい気持ちがあるんですよね。
女子プロレス人気の理由「儚さ」という学び
――刹那感と似たところで、青木選手のnoteで昨今の女子プロレス人気の理由の一つに「儚(はかな)さ」があるという話をされていました。
青木:女子プロレスを見ていて発見があるのは、「えぇ⁉」と思うようなことをやるんですよ。もう死ぬんじゃないのって思うようなムーブが多いわけです。その技量、その身体、その形で、それだけのことをやっていたらあなたたちそんな長くできないよね、みたいな。
――そこが儚さにつながってくるわけですね。
青木:女子プロレスは正直、若さとルックスなんですよ。アイドルと同じです。その若さという限りある資源があって、賢い選手は4、5年と期限を決めていると思うんです。だからすごく刹那的というか、儚さが出るんですよね。それは男子の格闘技選手にはなかなか出しづらいものなんですよ。いつ壊れるんだっていう、そのくらい懸ける意味での儚さは学びが大きいですよね。
――先ほど、ずっと続けたい気持ちと同じくらいやめたい気持ちもある。いつでも火をつける気持ちがあるということでしたが、39歳という年齢になって、青木選手自身も儚さを出せるようなってきたんでしょうか?
青木:取り組みのレベルがいつまで維持できるかがわからないというのはありますね。例えば三浦知良選手が55歳でもサッカー選手をやっているわけじゃないですか。それはどこまでレベルを下げ続けるかという話だと思うんですよ。
ある程度のレベルを担保できるのは、長くないというのは自分でわかっているから。続けるのはいくらでもできます。レベルを下げ続ければいいんだもん。それこそ死ぬまでできちゃうし、探求、研究するという意味ではずっとやりたいなと思いますね。
試合すら「まだ俺はできる、生きていられる」と確認する作業
――青木選手は常々、ご自身の媒体で日々のトレーニングの様子やコンディションのことなどを発信していますが、最近は自身の衰えについての話が多くなっていますよね。
青木:計算しているわけではなくて、本当に食らっちゃうんですよ。毎日、良いコンディションで良い練習、良い取り組みができると思ってマットに上がって、思ったような取り組みができなかったりすると、ちゃんと食らうんですよね。
でもこういう感覚は異常らしいですよ。普通であれば「仕方ない」で済むのに、この歳になっても一喜一憂して、何なんだよって。だから毎週試行錯誤しているわけですよ。先週これがダメだったから今週はこうしよう、昨日ダメだったから今日はこうしよう。そういうことをやっていると、本気で落ち込んでいるんですよね。
僕はうまくやることが得意じゃないんですよ。昔ながらの職人気質で、薬を飲めって言われているのに飲まないおじいちゃんみたいなところがあって。自分自身が納得して、試合を提供するためのことをやらなきゃいけないと、その思いが自分で自分の首を締めているんだろうなと思っていますね。
――青木選手の言葉の中で「今まで試合前にいつもやっているつらいミット打ちを“やるか”と思っていたのが、“やれるのか”という思いに変わった」という表現がすごく印象的でした。
青木:試合前の練習は、試合が決まってするものなんですけど、それって水泳で1年前に泳げて、今年も泳げるかなと思う感覚と同じなんですよ。それはここ最近ずっと感じていることです。練習をするとか、取り組んでいくとか、もしかしたら試合をするということすら「まだ俺はできる、生きていられる」みたいなことを確認する作業のような気がしますね。
正直、若い子たちがうらやましいと思いますよ。そんなこと考えなくたって大丈夫と思えるし、考えなくてもいい強さがありますよね。ただ、考えてきたからこそ、この立ち位置でここまで長持ちして頑張ってこられたとも言えますけど。
何度も見返すような人生の糧になるようなものに
――青木選手は以前、試合に負けたり、なにか落ち込むことがあっても、自分は自己肯定力の強さを持っているからメンタルもすぐ回復するという話をしていました。青木選手の持つ自己肯定力の強さについて、改めて教えてもらえますか。
青木:自己肯定力というのは、書くこと、言葉にすることなんですよ。郷ひろみさんの『ダディ』という著書があるんですけど、あれは幻冬舎の見城徹さんが「文字にして書くことによって自己肯定していくんだ」と言って口説いたという一節があるんですよ。それはどういうことなのかなと考えていくうちに、最強の言い訳というか。ゴネてゴネてを繰り回して、自分の正義にしていってしまう強さ。そういうことだと解釈して、そういうために言葉、文章があるんだなって。
負けたとしても「俺はこういうところが良かった」と、どんどん肯定していくんですよ。それが僕の一つの術というか、とことん落ち込んでその中で無理矢理にでも転がしていく。生きる術ですよね。
――青木選手にとってnoteやVoicyは自己肯定するためのツールでもあるというわけですか?
青木:そうですね。逆に書かない人は、自己肯定が進んでいかないし、自分の理屈が生まれてこないですよね。それを表に出す、出さないはあると思いますけど、何かを記していくことは大事だと思いますね。
ただ、書くとか、しゃべるというのは弱者の戦術なんですよ。平田樹とか、アーセン山本とか、若松佑弥とかもそうだけど、考えないから。考えるには考える材料となる言葉が必要なんですけど、その言葉がないんですよ。「うまい」「やばい」とか、感情を表すことしか言わないんですよ。でも最近つくづく思うのはそれって才能で、そういう意味では強者なんですよね。「俺、こいつらには勝てねぇや」って今年はよく思いましたね。僕は理屈をこねくり回すことで誤魔化してやっていくしかないのに、あいつらそもそも効いてないんだから。タフなんですよ。その意味では彼らのほうが格闘技っぽいんだろうなと思うんですよね。
――最後にファンの方に試合に向けて一言お願いします。
青木:今回のことが特別なことはなくて、変わらず、これまで通りコツコツとやってきたというか。日々、歩んでいく中でやめたいこと、やりたいこと、いろいろあるけど、それでも頑張ってきた一つの日です。肩肘張らず見てほしいし、何度も見返すような人生の糧になるようなものにできたらいいなと思っています。
<了>
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