なぜ大谷翔平はこれほどまでに愛されるのか? 一挙手一投足が話題を生む、新しいタイプの国民的スーパースター像とは
大谷翔平選手のことを知らない、好きじゃないという人は果たしてどれほどいるだろうか? 間違いなく歴史に名を残す偉大なトップアスリートでありながら、その言動からは誠実な人間性があふれ出て、時折やんちゃでお茶目な一面も垣間見せる。まさに誰からも愛されるキャラクターを持つ国民的スーパースターだ。そんな大谷選手の一挙手一投足に見る、現代のアスリートに求められている新しいスポーツ選手像とは?
(文=花田雪、写真=AP/アフロ)
「大谷翔平を知らない」人はほとんど存在しない
国民的スーパースター。
こんな言葉は、もはや死語だと思っていた。娯楽が多様化し、エンタメの頂点が“テレビ”ではなくなって等しい令和の時代。誰もが顔と名前を知っていて、誰もが魅了される――。そんなスターは、もう現れようがない。
かつて、野球界にはテレビの普及と時を同じくして長嶋茂雄、王貞治というスター選手が現れ、まごうことなき“国民的スーパースター”として日本中を熱狂させた。
ただ、現代社会は違う。プロ野球が日本でもっとも人気のあるスポーツの一つであることは変わらないが、昭和の時代と比べ、その人気はやはり局地的だ。三冠王・村上宗隆も、沢村賞投手・山本由伸も、最年少完全試合投手・佐々木朗希も、国民誰もが「顔と名前が一致する存在」かと言われたら決してそうではないだろう。
ただ、大谷翔平は違う。MLBのロサンゼルス・エンゼルスでの活躍ぶりはわざわざここに書くまでもないだろう。特にア・リーグMVPを獲得した2021年からの3年間は、テレビ、ネット、SNSといった各媒体で大谷翔平の名前を見ない日はないほどだ。
個人の趣味・趣向が多様化して「野球に興味がない」「野球は見たことがない」という人は多いが、「大谷翔平を知らない」人はほとんど存在しない。
先日、地上波のテレビで「大谷翔平女子」なる言葉が特集されていた。野球そのものではなく、大谷翔平個人に魅了され、彼のプレーや一挙一動を追いかける女性が急増しているという。
そう、大谷翔平という存在はすでに、野球そのものを凌駕する域にまで達しているのだ。
「見られる」ことを意識した新庄剛志のパフォーマンス
なぜ、大谷翔平という野球選手は、ここまで多くの人に愛されるのだろうか。
たしかに、大谷翔平は野球選手として唯一無二、超一流の実力を持つ。投手、打者の両方でトップレベルのパフォーマンスを発揮する選手など、100年以上の歴史を持つ野球界でも彼しかいない。
ただ、アスリートとしての実力が突出しているだけでは、ここまでの人気を獲得することはできない。彼が“野球の枠”を飛び越えて支持される理由は、そこだけではないはずだ。
ネットニュースやSNSを見ると、プレーのすごさだけではなく、彼の持つキャラクターにフォーカスした記事や投稿が異常なほど多いことに気づく。
ベンチでチームメイトと無邪気にはしゃぐ姿。通訳の水原一平さんと仲良く談笑する姿。グラウンドで、さりげなくゴミを拾う姿――。真剣な顔でプレーする姿とは裏腹な、無邪気で、純粋で、礼儀正しいその素顔が切り取られ、多くのファンの目に届けられている。
過去を振り返っても、ここまで“プレー以外”の挙動が注目を集めたアスリートは類を見ない。あえて言うのであれば現北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督の現役時代もそうだったが、新庄監督の場合は自発的に「見られる」ことを意識したパフォーマンスであり、大谷翔平のそれとは一線を画す。
すべての有名人が“炎上”と隣り合わせの時代
自発的か、そうでないか――。
ここに、国民的スーパースターの生まれにくい令和の時代でありながら、大谷翔平が支持される理由が隠されている。アスリートの素顔を知るうえでもっとも有効なツールは、やはりSNSだろう。国内外問わず、トップアスリートがSNSで自身のプライベートや意見、考え方を発信することは決して珍しくない。
ただ、大谷翔平は少し違う。インスタグラムのアカウントは保持しているが、その投稿にはプライベートな姿や個人的なメッセージがほとんど見られない。彼の素顔が垣間見られるのは、前述したグラウンド上でのちょっとした仕草や、チームメイトとのコミュニケーションに限られる。ただ、その姿が多くのファンに“刺さる”のだ。
現代ではアスリートに限らず、“有名人”と呼ばれる人間すべてが“炎上”と隣り合わせの日々を過ごしている。いくら好感度が高くても、人気があっても、なにか一つ“事件”が起これば、それまで築き上げてきたものは一瞬で崩壊する。
炎上の理由を突き詰めていくと、そこには大抵の場合“ウソ”がある。清廉潔白だと思っていたのに……。家族思いの良いパパだと思っていたのに……。競技に真摯に向き合う真面目なアスリートだと思っていたのに……。真実かそうでないかは別にして、周囲に与えているイメージが“ウソ”だったと思われた、もしくは気づかれた時点で、多くの人はそれを裏切りだと感じる。それが“炎上”につながるのだ。
一度でもSNSをやったことがある人ならわかるはずだが、「自発的」になにかを発信するうえで、そこに一片のウソも混入させないことはなかなか難しい。どんな人間も、「他人に見られる」ことを考えた時点で、「どう見られたいか」という意識が少なからず作用するからだ。いくらSNSで「素顔」「本音」をさらけ出したとしても、そこに隠された些細な「ウソ」が明るみに出るリスクがある。そしてその発信を見る側も、それを敏感に察知する。
しかし、例外も存在する。それが、大谷翔平だ。日本中が毎日のように目にしている大谷翔平の「素顔」は、あくまでもグラウンド上で、彼が無意識に行った所作が第三者によって勝手に切り取られたものだ。そこに本人の意識は介入していない。つまり、「ウソ」がないのだ。
チームメイトと無邪気にじゃれ合う少年のような姿も、グラウンドで見せる礼儀正しさも、ゴミを拾う真摯な姿勢も、そのすべてがウソのない大谷翔平の姿だからこそ、多くのファンはそれを安心して見ることができる。
新しいタイプの国民的スーパースター像の誕生
もちろん、大谷翔平といえどユニフォームを脱げば29歳の一人の青年だ。周囲が思うような完全無欠、清廉潔白なアスリート像が彼のすべてとは限らない。ただ、少なくとも、グラウンド上で見せる圧巻のプレーや、些細な行動、所作は彼の本質の一部なはずだ。
その姿は過去、同じようにメジャーリーグで活躍したイチローや松井秀喜とも違う。イチローはグラウンドでは限りなく感情を押し殺し、常に寡黙で冷静な印象で、クールなカリスマ性を発揮した。松井はニューヨークメディアが選ぶ「グッドガイ賞」に選出されるほど丁寧なメディア対応に定評があり、グラウンド上では「巨人軍は紳士たれ」の教訓を守って感情を露わにすることは滅多になく、温和な紳士としてファンに愛された。
その意味で、プレー中はかつてないほどのパフォーマンスを発揮しながら、それ以外ではチームメイトと笑い合い、ふざけ合う野球少年のような大谷翔平は、令和という時代、SNS全盛のこの時代とも非常に親和性が高い「新しいタイプの国民的スーパースター像」と言える。
筆者も日本時代に二度ほど、大谷翔平にインタビューを行ったことがあるが、渡米後の現在も含めてメディアの前では決して多くを語るタイプではない。質問に対しては言葉を選び、慎重に受け答えしているのが印象的だった。
アスリートとして、メディアを通してファンに発信することはもちろん重要だ。ただ、大谷翔平はメディアを通してだけでなく、グラウンドでのプレーと所作で、多くのことを語ってくれる。
野球界はもちろん、スポーツ界には「競技さえやっていればいい」という考え方が今なお根強い。ただ、少なくともプロのアスリートが「競技さえやっていればいい」時代は終わった。プロである以上、それを支えるのはファンの存在だ。プロスポーツは今や数あるコンテンツの中の一つで、他競技だけでなく、さまざまな“エンタメ”がライバルでもある。
プロアスリートが競技で結果を残すことを目指すのは大前提だが、その先のファンや、もっといえば「ファンではない層」に向けてその魅力を伝えることは、今後の発展において不可欠なファクターでもある。
その意味で、大谷翔平というプロアスリートは、野球という競技で異次元の結果を残し、その所作で人間的魅力を多くの人に伝えている。おそらく、本人はそこまで意識していないだろうが“令和のエンタメ”“令和のスポーツ”において完璧に“プロフェッショナル”を貫いている。
現在はトレード報道も過熱し、FAとなる今オフにはMLB史上最高額契約が確実視され、日本でも大谷翔平関連のニュースが連日お茶の間を席巻している。野球選手としての実力、人間性、SNSやネットとの親和性、それに伴う国内外でのファンの熱を見ると、それも当然のことだと納得できる。
<了>
藤浪晋太郎の移籍は「電撃トレード」ではない。残り3カ月で求められる役割は?
なぜ大谷翔平は休まないのか? 今季も二刀流でフル稼働。MLB起用法に見る“長期的ピーキング”の重要性
大谷翔平が語っていた、自分のたった1つの才能。『スラムダンク』では意外なキャラに共感…その真意は?
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
新潟レディースが広げた“女子サッカーの裾野”。年100回の地域活動、川澄奈穂美が呼び込んだ「応援の機運」
2026.02.12Business -
「自分がいると次が育たない」ラグビー日本代表戦士たちの引退の哲学。次世代のために退くという決断
2026.02.12Career -
女子サッカー日本人選手20人がプレーするWSL。林穂之香が語る進化と求められる役割
2026.02.10Career -
なぜ新潟は「女子部門の分社化」でWEリーグ参入に踏み切ったのか? レディースとプロリーグに感じた可能性
2026.02.10Business -
技術は教えるものではない。エコロジカル・アプローチが示す「試合で使えるスキル」の育て方
2026.02.09Training -
ユナイテッド、チェルシー、アーセナルを“刺した”一撃。林穂之香が宿す「劣勢で決め切る」メンタリティ
2026.02.09Career -
「W杯のことは考えていない」欧州で戦う日本代表選手が語る“本音”が示す成熟
2026.02.06Opinion -
中国勢撃破に挑む、日本の若き王者2人。松島輝空と張本美和が切り開く卓球新時代
2026.02.06Career -
守護神ブッフォンが明かす、2006年W杯決勝の真実。驚きの“一撃”とPK戦の知られざる舞台裏
2026.02.06Career -
広島で「街が赤と紫に染まる日常」。NTTデータ中国・鈴森社長が語る、スポーツと地域の幸福な関係
2026.02.06Business -
森保ジャパンが描くワールドカップ優勝への設計図。4×100mリレーと女子チームパシュートに重ねる組織の戦略
2026.02.02Opinion -
モレーノ主審はイタリア代表に恩恵を与えた? ブッフォンが回顧する、セリエA初優勝と日韓W杯
2026.01.30Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
「W杯のことは考えていない」欧州で戦う日本代表選手が語る“本音”が示す成熟
2026.02.06Opinion -
森保ジャパンが描くワールドカップ優勝への設計図。4×100mリレーと女子チームパシュートに重ねる組織の戦略
2026.02.02Opinion -
「正直であること」を選んだ名門の一年。明治大ラグビー部、7年ぶりの日本一と29年ぶりの完遂
2026.01.13Opinion -
高校サッカー選手権4強校に共通する“選手層”の背景。Jクラブ内定選手がベンチに控える理由
2026.01.09Opinion -
“Jなし県”に打たれた終止符。レイラック滋賀を変えた「3年計画」、天国へ届けたJ参入の舞台裏
2026.01.09Opinion -
高校サッカー選手権、仙台育英の出場辞退は本当に妥当だったのか? 「構造的いじめ」を巡る判断と実相
2026.01.07Opinion -
アーセナル無敗優勝から21年。アルテタが学ぶべき、最高傑作「インヴィンシブルズ」の精神
2025.12.26Opinion -
「日本は細かい野球」プレミア12王者・台湾の知日派GMが語る、日本野球と台湾球界の現在地
2025.12.23Opinion -
「強くて、憎たらしい鹿島へ」名良橋晃が語る新監督とレジェンド、背番号の系譜――9年ぶり戴冠の真実
2025.12.23Opinion -
なぜ“育成の水戸”は「結果」も手にできたのか? J1初昇格が証明した進化の道筋
2025.12.17Opinion -
中国に1-8完敗の日本卓球、決勝で何が起きたのか? 混合団体W杯決勝の“分岐点”
2025.12.10Opinion -
『下を向くな、威厳を保て』黒田剛と昌子源が導いた悲願。町田ゼルビア初タイトルの舞台裏
2025.11.28Opinion
