
大谷翔平が語っていた、自分のたった1つの才能。『スラムダンク』では意外なキャラに共感…その真意は?
MLBロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平が2021シーズンの最優秀選手賞(MVP)を受賞。イチロー以来、アジア人2人目の快挙となった。シーズンを通して二刀流を貫き、選手間投票でもMVPに選出されるなど、投手としても打者としても異次元の活躍を見せた大谷翔平。なぜ、彼はここまでの活躍をすることができたのか。自分自身の才能について、どのように考えているのか。REAL SPORTS編集長の岩本義弘が単独インタビューで引き出した言葉の中に、その驚異の活躍の理由があった。
(文=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、写真=GettyImages)
大谷翔平が語る「自分で自信を持って言える唯一のポイント」とは
私がYahoo!JAPANの「RED Chair」という企画で大谷翔平選手に取材したのは、2019年の年末だった。前年に右肘の靭帯再建手術(トミー・ジョン手術)に成功し、2019年9月には左膝の手術を実施。インタビューしたのは、リハビリを行いながら、一歩一歩、復帰に向けて近づいている最中のことだった。
約90分にも及ぶインタビューの中で、最も印象的だったのが、大谷翔平本人の考える「大谷翔平の才能」についてのやりとりだった。
「好きなことに関して頑張れる才能はあると思いますね。それが僕は野球でしたし、たまたま生まれてすぐというか、ある程度早い段階で好きになったことがすごくラッキーだなと思っているので。今でもそうなんですよ、常に寝室にバットとかボールを置いてあって、ふと何かこういうのがいいんじゃないかと思った時に鏡の前に行って試してみたりとか。好きになってそれ(野球)を頑張れる能力があったかなと思っています」
「自分自身にはどういう才能があると思うか」という質問に対して、大谷はこう答えた。(それはさすがに謙虚すぎるんじゃないか)と考えた私は、あえてしつこく、「それ以外には?」と聞いたところ、次の言葉が返ってきた。
「それ以外にはほぼないと思いますね。本当にそこに尽きるというか。他に才能は特には感じていないです。感じていないというか、そこ(好きなことに関して頑張れる才能)はありますというのが、自分で自信を持って言える唯一のポイントかなと思うので。もう本当にそこだけでここまできたと思っています」
映像を見てもらえばわかるが、大谷本人は自分自身の才能について、うそ偽りなく、こう思っているのだと思う。「好きなマンガ」について聞いた時にも、それを感じさせる回答があった。
「最も好きなマンガ」で何十回と読んだという『スラムダンク』について語った時のことだ。「どのキャラクターが好きなんですか?」という質問に対して、「僕は仙道彰が好きですね」と答えたので、「っぽいですね」と返したところ、「っぽいですか? 僕は(自分と)全然違うと思ったので、好きになったんですけどね」という。「では、共感できるキャラクターは?」と聞くと、大谷は「神宗一郎じゃないですか。練習の鬼ですからね。僕が一番練習しているとは思っていないですけれど、反復練習は本当に大事。練習って面白いんですよ。練習を通じて自分の長所や能力を『発見』することもそう。そういう『気づき』を得る瞬間があるのが練習の面白さ、醍醐味(だいごみ)ですね」と答えた。
『スラムダンク』の仙道彰は、身長190cmという恵まれた体躯(たいく)と類いまれなバスケセンスでチームを牽引(けんいん)する天才肌のキャラクターだ。普通に考えると、逆に大谷翔平とタイプの重なるキャラクターに思える。だが、大谷は、仙道とは対照的ともいえる神宗一郎に自らを重ねている。神は、特長も才能もない凡庸(ぼんよう)な選手と思われていたが、膨大な反復練習を重ね、ロングシュートで頭角を現して、全国大会常連校のスタメンを勝ち取った「努力の天才」だ。このあたりの感覚が、もしかすると、大谷翔平の本当の“才能”であり、“武器”なのかもしれない。
高校時代に取り組んだ「目標達成シート」から何を学んだのか?
一方で、ただ努力をするだけで、成功できるわけではないのも事実だろう。「正しい方向に向かって努力する」ことが重要なのは改めて言うまでもないが、この部分において、大谷翔平を“後押し”しているのが、高校時代に培ったルーティーンではないだろうか。
花巻東高校時代、佐々木洋監督の教えによって、大谷翔平を含めた野球部員は全員、「目標達成シート」を作っている。
「部活の中で『目標達成シート』を作る時間が与えられて、個人差はあるので、何日かかってもいいんですけど、『やろうね』という時間があるんです。まず1年生の時から始めていって、3年生になる頃にはもう慣れているので自分の立てたい目標だったりをすぐ書けるようにはなるんです。全然僕が特別だったわけでもなくてみんなできていましたし、僕ができるようになったというよりもそういうふうに教えていただいたというほうが適切な表現かなと思います。
例えば、こういう目標ができるようになりたい、と自分が書いていたとしたら、監督から、『そこに期限がないよね。これをいつまでにできるようになりたいの?』というアドバイスをもらったり。そうしたら次には自分でそれを考えるようになるので、そういう感じでどんどんどんどん(目標達成シートを作るのが)うまくなっていったのかなと思いますね。
今はもう(目標達成シートを)書いたりはしないですけどね。でもやっぱり頭の中では考えていますよ。このぐらいの時に何をできるようになりたいとか。それはリハビリでも同じで、いつまでにこのぐらいの可動域に持っていきたいとか。それはみんな考えているとは思うんですけれど、それを書き出しているというだけで。書くことによって視覚化して、次につながりやすくするという、そういう作業かなと思います。
今はどちらかというと、例えばこの技術が正しいのかどうなのかとか、調子の良い時期にどういうことを考えていたのか、悪い時はどういう技術をやろうとしていたのかというのを、なるべく一日一日書いていますね。
自分で今日やってできなかったことがあったりしたら、おそらくこうやったらうまくいくんじゃないかということを翌日の練習で試してみて、『ダメだった』『良かった』があるので、それをまた試合で試してみて、本当にその繰り返しというか、そういう毎日でしたね。シーズン中は特にそういうのが多いと思います」
“二刀流”大谷翔平が優れている2つの武器の「根源」
はたから見ていて、大谷翔平という選手の「成長する力」と環境に合わせて「アジャストする力」が特に優れているように感じるが、そういった能力はこういった思考方法からきているのではないかと思う。その結果、スイングを進化させて劇的にホームランを量産できるようになり、ピッチングフォームを修正して驚くほどコントロールを改善した。最新機器によるフォームのチェック等も貪欲に取り入れる。シーズンを通して出場するためには、練習量を減らすことを含めて、さまざまなやり方を試してみる。疲労回復のために睡眠量を増やし(最低でも8時間半から9時間は寝るようにしていたとのこと)、睡眠の質そのものを上げるためにもいろいろなことを試してみる。とにかく、野球の上達につながると思うことにはすべて取り組む。
大谷翔平を成功に導く、こういった行動の源泉となっているのが、「好きなことに対して頑張れる才能」と「正しい方向に向かって努力をし続ける才能」なのだと思う。そして、この“才能”がある限り、大谷翔平の成長は止まらないはずだ。
「今年(2021年)の数字はやっぱり最低(ライン)じゃないかなと思いますね。今年できたことが来年できないということはもちろんなくしたいとは個人的にも思っていますし、チームとしても絶対だなとは思うので」と語る大谷翔平の来シーズンが、今から楽しみで仕方がない。
<了>
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