なぜ大谷翔平“二刀流”は選手から絶賛されるのか? 地球一周超える移動支えた「ギア」とは

Career
2021.11.18

ベーブ・ルース以来となる2ケタ勝利2ケタホームランこそ逃したが、誰もが想像し得なかった次元で二刀流を“完遂”してみせた大谷翔平。日本時間11月19日に発表予定のリーグ最優秀選手(MVP)も有力視される大谷だが、現役メジャーリーガーの投票で決まるプレーヤーズ・チョイス賞の年間最優秀選手賞、ア・リーグ最優秀野手賞をダブル受賞したことからもわかるように、今シーズンの活躍はファンや記者だけでなく、ともに戦う選手たちから特に高く評価されている。心身ともに過酷なMLBのレギュラーシーズンを投手、打者の両方で戦い抜いたことの価値について改めて考えてみた。

(文=大塚一樹[REAL SPORTS編集部]、写真=GettyImages)

“真の二刀流”が開花した3年目のシーズン

変化を促したのは、昨シーズンからロサンゼルス・エンゼルスを率いるジョー・マッドン監督の決断だった。

投打両方での出場を回避し、登板前後の試合も出場させないこれまでのスタイルを開幕から改め、打者としては不動のスタメンに名を連ねつつ、極力ローテーションを守ってマウンドに上がるスタイルを定着させた。

マッドン監督によると、昨シーズンまでから比べると一歩も二歩も踏み込んだ二刀流スタイルは、キャンプ時に大谷から提案を受けて実現したものだという。許可した監督にも勝算はあったのだろうが、4月4日の初導入からいきなり結果を出した大谷は、その後も結果と内容で投打同時出場の継続を勝ち取った。

当初は好意的だったメディアも開幕から1カ月を過ぎたあたりから平均球速の低下などを材料に起用法への疑問を呈するようになるが、それでもマッドン監督は「自分の体の管理についてよく理解しており、それをハイレベルな形でやり遂げている」と、二刀流の負担を大谷がうまくコントロールできていると証言し、続けて「彼の打席とマウンドでのパフォーマンスについて、実際、こちらが口出しをする理由はあまり見当たらない」と続行を宣言した。

登板当日・前後も戦力として打席に立つことの「あり得なさ」

実際問題として、メディアや他チームの選手、関係者、エンゼルスの前任監督、スタッフたちが投打同時出場を含む二刀流に疑念を持っていたのは事実だろう。

アメリカ大陸の西海岸から東海岸まで大陸を横断することもある移動距離に、国内時差もある環境で日本のペナントレースよりも多いレギュラーシーズン162試合をこなすことは、誰にとっても簡単なことではない。それを、DH(指名打者)とはいえ打者として毎試合出場しながら、投手としての準備を整えていくことがどれほど難しいことか。大リーグ選手会(MLBPA)主催の選手間投票で大谷が年間MVPとア・リーグ最優秀野手をダブル受賞したのも、MLBで戦うことの過酷さ、投打で出場すること、ましてやその両方で活躍することの「あり得なさ」を知る現役プレーヤーだからこその評価ともいえる。

実際に大谷が今季のMLBでもっとも多くのプレーを行った選手といえるデータも存在する。打席数と対戦打者数を合わせた、いわばプレー機会を表すこの数字は1172と他を圧倒しているのだ。大谷に続くのが今季32試合に投げ14勝10敗という成績を残したフィラデルフィア・フィリーズのザック・ウィーラーの922。大谷と比する数字となると、当時ワシントン・ナショナルズに所属していたリバン・ヘルナンデスが2005年に記録した1162だというから、今季の大谷がいかに多くのプレー機会を得て、”実働”していたかがわかる。

規格外の肉体を持つメジャーリーガーも、1シーズンを通してコンスタントに成績を残すことは至難の業だ。もっといえば、投手であれ野手であれ故障者リストに入らずに試合にで続けることがまず難しい。

事実、エンゼルスの顔でもあるマイク・トラウトは5月に戦線離脱。ケガを頻発したアンソニー・レンドン、9月に故障者リスト入りした若手のジョー・アデルなど、エンゼルスを支える主力級が相次いで「今季絶望」となったことからも、投打で調整、実戦でフル稼働しながら試合出場を続けた大谷の貢献度は計り知れない。余談だが、もしトラウト、レンドンが今季終盤のエンゼルス打線に名を連ねていたら、大谷に対する包囲網も弱まり、ホームラン王のタイトルホルダーに変化が生じていたかもしれない。

二刀流を支えたコンディション維持の秘訣は「睡眠」

「平均、最低でも8時間半とか9時間は寝るようにはしていたとは思いますね。睡眠の質とか時間を測るモニターバンドがあるんですけど、それで睡眠時間とか管理しながら、できるだけ多く寝るっていうのがカギだったと思います」

大谷を一番近くで支え続けている水原一平通訳が、10月に放送されたNHKスペシャルの中で明かした疲労回復、コンディショニングの秘訣(ひけつ)は、「睡眠」だった。

「寝る子は育つ」ではないが、大谷自身、幼少期は「9時には寝ていた」「昼寝もしていたから半日以上寝ていることもあった」、大人になってからも「夜は23時くらいに寝るけど帰ってすぐ18時くらいまで寝てる時もある。2回、寝ている」「1時間睡眠時間が違うだけで体の変化を感じる」などなど、睡眠に関する発言を数多く残している。

二刀流を実現、継続していくために、今シーズンは練習量を減らし、試合期の調整方法を手探りで試したと語っているが、大谷がコンディションの中心に据えているのが、睡眠であることは、北海道日本ハムファイターズ在籍時代の2017年から日本が誇る寝具メーカー、西川株式会社と睡眠コンディショニングサポート契約を結んでいることからも明らかだ。

世界的なアスリート、ビッグクラブも注目する「睡眠の科学」

日本を代表する寝具メーカーである西川では、1984年に日本睡眠科学研究所を設立、寝心地などの感覚的なものではなく、質の高い睡眠を定量的データに基づいて分析、睡眠によって生じるパフォーマンスの変化を科学的に研究している。

睡眠とアスリートのパフォーマンスというと、まだまだ直接的につながらない人も多いかもしれないが、グランドスラム20回優勝、40歳になった現在も第一線で活躍するテニスのロジャー・フェデラー、バスケットボール界の“キング”レブロン・ジェームズ、サッカー界ではスペインのレアル・マドリードやイングランドのマンチェスター・ユナイテッドら世界的ビッグクラブも「科学的な睡眠」に漏れなく取り組んでいる。

パフォーマンス発揮のために「睡眠」に科学的アプローチを行うことは、もはや食事と並んで、スポーツ界の勝敗、結果を分けるキーファクターになりつつある。

オーダー枕に移動用マットレス、スポーツギアになった寝具

「サポート契約は2017年からですが、大谷選手の睡眠へのこだわりはプロ入り以前からあったとのことで、日本ハムに入団された当初から弊社のコンディショニングマットレスを使用いただいています」

西川株式会社でアスリートサポートを担当する永田智史氏は、大谷の活躍を陰で支える裏方の一人だ。

「大谷選手の天性の才能、抜群の能力については、いちファンとしてただただ驚き、応援している立場です。しかし、コンディショニング、ベストパフォーマンスを存分に発揮していただくためのサポートは惜しみません」

あいさつからゴミ拾い、身の回りの全てのことを野球と自身のプレーに関連付けて真摯(しんし)に取り組んできた大谷の姿勢は有名だが、「寝ることが好き」なのももちろん自身のコンディショニングに影響を与えるから。190cmを超える長身、日本人離れした筋力に加え、驚異の柔軟性を誇る大谷の肉体は、トレーニングと十分な休養、適切で質の高い睡眠に支えられている。

例えば枕は、トップアスリートでなくとも、自分にピッタリ合うものを見つけるのは難しい。世界の中でも睡眠時間が特に短いとされている日本では、「睡眠負債」が社会問題化しているが、「枕難民」の数も相当なものだろう。

「大谷選手には弊社のオーダー枕を使用していただいています。これはトップアスリートでなくてもみなさんに共通することなのですが、体のラインを測って自分に合う枕をつくるだけでは十分ではないんですね」

睡眠環境・寝具指導士でもある永田氏によると、大谷のようなトップアスリートは、特に体の変化、自身の感覚の変化に敏感で、実際に肩周りの筋肉などの増減によって、短期間で適切な枕の高さが変化することも珍しくないという。

「コロナ禍ということもあり、頻繁にとはいきませんが、体つきの変化に応じて測定、枕の調整を行っています」

体を支えるマットレスでも、独自の体圧分散技術で睡眠時の血流を促し、筋肉が硬くなるのを防いでいる。高機能マットレスの登場以来、低反発か高反発かの議論が続いているが、同社のコンディショニングマットレス『[エアー](AiR)』はウレタン素材の方面に突起のある凹凸構造を採用。ベース部分ではしっかりと全身を支えつつ、面ではなく点で体を支えることで体圧を分散する仕組みだ。

MLBの過酷な移動を体への負担ではなく、休息に充てる

大谷に帯同し、試合には出ないまでも移動に関してはほぼ同じ身体的負荷を体感した水原通訳が語った「できるだけ多く寝る」「睡眠の質」というキーワードは、まさにこうしたトレンドにも通じるものがある。コンディショニングを妨げる大敵“移動”で生じる体への負担をどう軽減するのか? 移動時間にどうやって体を休めるのか?

実は、大谷が所属するエンゼルスは、MLB全30チーム中4番目に移動距離が長いチームでもある。MLB公式サイトのデータによると今季の移動距離の総計は実に4万1440マイル(約6万6691km)。地球の外周が4万kmであることを考えると、この移動がいかに過酷か、われわれの想像を絶するものだということがおわかりいただけるだろう。

西川の製品ラインアップには、遠征などで睡眠環境が変わってしまうアスリートに最適な持ち運び可能なマットレス『[エアーポータブル]』シリーズもあり、遠征時の「質の高い睡眠」に一役買っていた可能性は高い。

世界的なパンデミックの影響で、人気低迷が不安視されていたMLBに衝撃的なインパクトを残し、文字通り“ショウタイム”を演出して見せた大谷。心配なのは疲労や、すでにトミー・ジョン手術を行っている右肘の状態だが、今シーズンの大車輪の活躍を見る限り、来季への期待が高まる。真の二刀流にアジャストした大谷翔平の肉体は、睡眠の科学的サポートによってさらなる進化を遂げている。

<了>

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