「誹謗中傷がダメだと言うのは恥ずかしいこと」。青木真也が同調圧力に屈しない理由

Opinion
2021.02.05

歯に衣(きぬ)着せぬ言動で多くの賛否を巻き起こし、時に辛辣(しんらつ)な批判や誹謗中傷も浴びてきた。自分の信念を曲げず、周囲から浮いてしまったことも一度や二度ではない。“異端児”扱いされながらも、空気を読まず、日本社会の同調圧力に抗い続けてきた。なぜこの男は自分の生き方を貫こうとするのか? 人の目を気にしながら生きる現代人にこそ、青木真也の思考術を知ってほしい――。

(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、写真提供=ONE Championship)

「ルールの中だったら何をやってもいいと考えてきた」

――青木選手は自分の考えをはっきりと口にし、同調圧力にも真っ向から向き合う姿勢を見せるなど、格闘界はもちろん、日本社会において異質の存在だと感じます。そうした生き方をするようになったのには、何か理由があったんですか?

青木:自分自身でも分からないんですよね。最初からそうだったとしか言いようがないので。小学生からずっと柔道をやっていて、その頃からルールの中だったら何やってもいいでしょ、と考えていました。当時の柔道は脚をつかんでもよかったし、ルールの中で寝技もやっていいはずなのに、それでなんで文句言われるの?というのが僕の最初の経験だったと思うんですよ。なんだかんだ結果的に勝てば文句を言われないし、社会でもルール違反をしていなければ罰則を受けることもないわけじゃないですか。なので、自分の考えを持って、その自分の考えがルールの中で問題ないのであればOKだっていう考えをずっと持っています。

――競技のルールの中で問題なければ、ということですね。

青木:そうですね。特に日本の場合は、“右向け右”が強いじゃないですか。だから、余計に違和感がありますね。コロナ渦で露呈したこととしては、格闘技に限った話じゃないですけど、結局みんな“考える”ことをしていなかったんですよね。これは教育までさかのぼると思いますけど、考える習慣がなかったと思います。

――“自分らしく生きる”ためには、“自分の価値観を確立させる”ことが必要だと思います。青木選手はどのようにして自分の価値観を確立させて、さらにアップデートしているのですか?

青木:自分が思ったことというか、日々起こることに対して自分で判断していくしかないのかなと思いますね。

「批判や誹謗中傷が嫌なら、SNSもやらない方がいい」

――2009年のDynamite!!で、対戦相手の廣田瑞人選手の腕を折り、試合後に中指を立てたことで大きな批判を受けたことが強く印象に残っています。自分の価値観を貫くことで、時に批判、誹謗中傷につながることもあると思いますが、青木選手はどのように受け止めているのですか?

青木:誹謗中傷は起こって当たり前ですから。最近僕たちのように表に出て仕事をする人たちが、“誹謗中傷はダメだ”って言うじゃないですか。それって恥ずかしいことだと僕は思うんですよ。だって表に出ているわけじゃないですか。表に出れば、「こいつ気に入らねえな」とか、「こいつブサイクだな」って言われるのは仕方がないですよ。それがダメなことであったとしても、そういうことは起こるものだから。でも僕たちは、表に出ることで得られるメリットを欲しくてやっているわけじゃないですか。それなのに“誹謗中傷はダメだ”と言い始めるのは、“おいしい思いはしたいけど嫌な思いはしたくないです”という表明に等しいから恥ずかしいことだし、やっぱり言っちゃいけないことですよね。

――“批判や誹謗中傷が嫌なら表に出るな”ということですね。

青木:そうなんです。だからSNSもやるなっていう話です。

――SNSも表に出るものですからね。

青木:誰もが表に出られる世の中になったことが問題なのであって、多くの人は批判が怖いんですよ。批判や誹謗中傷を受ける覚悟がない。覚悟がないんだったら表に出ない方がいい。だから、SNSでの誹謗中傷がきっかけで亡くなった人たちもいますけど、そういう人たちに対して、僕は同情とかまったく思わないな。そういうことは起こり得ることだし、誰かが亡くなったからといって表に出ている人たちが“誹謗中傷はダメだ”って言うのは恥ずかしく思いましたけどね。

「自分の弱さを受け入れて開き直れば、快適なことが多い」

――そうした信念を持って活動や発信をしていることから、青木選手は一見“強い人間”に見えますが、自身では“弱い人間”だと言っていますよね。どういった部分を“弱い”と考えているんですか?

青木:やっぱり試合は怖いからしたくないなって思うし、負けたら将来どうなってしまうかのイメージが簡単についてしまうし。だから一概に“格闘技は楽しいものだ”とも思わないですね。でもさっき言ったように、メリットもデメリットも分かってやっているから、怖さは十二分にあるけども、それを分かって自分で選択している。だから仕方がないなって常に思っていますけどね。

――その“弱さ”はどうやって乗り越えているんですか?

青木:弱い人間だとは思いますけど、でも“いつ死んでもいい”と思っているところがあるんじゃないですか。死んでしまったら、終わってしまったらそれまでだって。“ひどい”とみんなに言われるんですけど、結局“勝ったやつが正しい”、“やられたやつがダメ”という教えをずっと受けてきているから。僕はどうしても、“やられたらそれまでだ”みたいなところがあるんですよ。これを万人に押し付ける気はまったくないんだけど、僕はそう思って生きているし、実際にそう思った方が生きやすいというのはありますね。

――青木選手は自分の弱さを受け入れているわけですが、そうすることのメリットは何だと考えているのですか?

青木:メリットは“開き直る”ということですね。自分の弱さを開き直ってさらけ出すことは、“自分”として生きていくということで、快適なことが多いですよ。嫌なこと、やらなくていいことはほとんどやらなくていいし。そういうメリットはありますけど、その分リスクを抱えて生きることにはなりますよね。

「自分を使った物語を見せたい。世の中の人たちが感情移入できるものを表現したい」

――そういう意味では青木選手は自分の生きたいように生きているということですね。

青木:僕はずっとプロレスが好きで、プロレスラーみたいな生き方にずっと心を引かれていたんです。だから自分がイメージするレスラー像の生き方ができているので割と満足です。

――青木選手はいつも自身のことを「アスリートではない」と言っています。

青木:“アスリート”って言うのが恥ずかしくなっちゃうんですよ、照れ臭くなっちゃうというか。“アスリート”っていう言葉は、“運動が得意な人”っていう意味じゃないですか。僕は運動が得意な人に憧れていなかったんですよ。“たまたま運動能力が高くて、たまたま得意な運動に出会って、その中で1番になっている人”っていう認識を持っているので。だから僕のやりたいこととはちょっと違うんですよね。

――青木さんのやりたいことっていうのは何なんですか?

青木:僕は自分を使った物語、見る人が感情移入するようなものを見せたいんですよ。今の状況からどう立ち上がるかとか、現状をどう捉えているかとか。僕はよく“社会と握り合う”という言い方をするんですけど、世の中の人たちが今抱えていることを一緒になって握り合いながら表現することが僕のやりたいことだし、僕が魅せられてきたことですね。

――なぜそうした“ストーリー性”“物語性”を大事にして、表現していきたいと考えるようになったんですか?

青木:2000年のPRIDE(総合格闘技イベント)までさかのぼるんですけど、ケンドー・カシン(石澤常光)というプロレスラーが負けるんですよ。新日本プロレスという看板を背負って、当時最強といわれたグレイシー一族との異種格闘技戦に挑んで、負けた。でもその1年後、同じ相手にリベンジしてみせたんですよ。それが僕の始まり。感情を揺さぶられて、こういうことをしたいと思って、ここまできたので。やっぱり僕は別に“競技”がやりたいわけじゃないんですよね。

「“試合が終わったら握手をする”という定型文は、面白みがまったくない」

――青木選手は以前、“物語も表現もない世界だから”という理由で、UFCのリングには上がらないと言っていましたね。

青木:そう、ただここまでUFCに上がる日本人が少なくなると、一周回って物語や表現ができやすくなっているから、そういう意味で、今のUFCはすごく魅力的だと思いますけどね。

――日本人が少なくなっている中であれば、新しい物語をつくれるようになると。

青木:やっぱり“挑戦”というテーマは握りやすくなるし、特に僕みたいな年齢になってくると、挑戦するのが感情移入しやすい一番のコンテンツになりますから。年齢を重ねて競技力が落ちたとしても、そこは強みになりますね。

――表現の仕方でいうとどうですか?

青木:今の格闘技界って、“試合が終わったらスポーツマンシップ”が定型文になっていますよね。試合前はトラッシュ・トーク(相手を挑発するような言葉で心理面を揺さぶる)的なことをして、試合が終わったらお互いのInstagramで二人で握手している写真を載せる、みたいなのが定型文になっているじゃないですか。表現の仕方の一つの型としてあっていいと思うんですけど、試合中や試合後にどう振る舞うのか、どう対応するのかは、作り手に任せてほしいんです。そこが作り手の腕だと思うし、そこで握手をした方が物語につながるのか、しない方が物語につながるのかを考えるのが僕たちだから。定型文ばかりだと面白みがまったくない。やっぱり、善悪を超えたところに面白みがあると思っているので。

青木真也、現役格闘家のもう一つの顔“経営者”に迫る「大きなビジネスがしたいというより…」

青木真也が“怖くても戦い続ける”理由と、独特の引退哲学。「格闘技はサウナに近い」

<了>

ダルビッシュ有は、なぜTwitterで議論するのか「賛否両論あるということは、自分らしく生きられてる証拠」

なぜ手越祐也は批判されても独立したのか?「日本の価値観を変えたい」揺るぎない信念

「一流ボクサーはワンとツーの間が見える」元世界王者・飯田覚士に訊く“見る力”の極意

[アスリート収入ランキング]トップは驚愕の137億円! 日本人唯一のランクインは?

PROFILE
青木真也(あおき・しんや)
1983年5月9日生まれ、静岡県出身。小学生時代に柔道を始め、全日本ジュニア強化選手に選抜される。早稲田大学在学中に総合格闘技に転身。修斗、PRIDE、DREAM等のリングで活躍し、修斗世界ミドル級王座、DREAMライト級王座を獲得した。2012年からアジア最大の格闘技団体ONE Championshipに参戦、2度の世界ライト級王座を戴冠している。2014年からは総合格闘技と並行してプロレスにも参戦。日本格闘技界屈指の寝業師で、関節・締め技により数々の強敵からタップを奪ってきた。2019年に株式会社青木ファミリーを設立し、代表取締役社長に就任。格闘家の枠を超えた活動を行っている。

この記事をシェア

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事