急増する「9人未満の野球部」。家庭の事情、過疎化、伝統校の消えゆく灯…それぞれの危機的現実

Opinion
2020.09.26

春の選抜高等学校野球大会、夏の全国高等学校野球選手権大会が行われなかった2020年の高校野球。交流試合という形で1試合限定の特別試合が開催されたが、その年の頂点を決めるトーナメントの熱気を求める声も大きく、「甲子園」の不在が改めて甲子園人気を物語る結果になった。視聴率や観客数では盛り上がりを見せ続ける一方、少子化、野球離れによる部員減は深刻だ。部員が9人に満たない野球部の取材を通しての「もう一つの高校野球」の現実を伝える。

(文・写真=広尾晃)

部員3人の高校野球部

関西地方の大都市にある公立高校の野球部は、部員数が3人。いずれも2年生だ。

この高校は甲子園出場経験はないが、かつてはベスト16くらいまでは進出する中堅校だった。しかし生徒数が減少する中で、野球部員数も年々減少している。

かつての盛況を物語るように、この学校の野球部は立派な部室があり、倉庫には古い野球用具がたくさん残されている。しかし学校そのものも、近隣の学校との統合が決まっている。

3人の部員のうち、1人は中学時代に野球経験がある。試合にも出場し、主力選手だったが中学の途中から不登校になり、学校に出ないまま卒業してこの高校に来た。

もう1人は野球経験は全くなかったが、高校に来てから不登校だった子と友人になり、誘われて野球部に入った。まだ山なりのボールしか投げられないが、一生懸命だ。2人は親友で、不登校だった生徒は野球をやりだしてから学校に行くことができるようになった。練習時間は2時間までと決まっているが、2人はそのあとも先生に「帰りなさい」と言われるまで延々と練習をする。ただし、不登校だった生徒はアルバイトはしていないが、もう1人は学費を稼ぐためにアルバイトをしているので、練習できるのは週に3~4回だ。

3人目の子はいわゆる“やんちゃ”で、いろんな問題を起こしてきた。しかし野球だけは好きで、練習に出てくれば楽しそうに体を動かしている。ただいつ練習に参加するかは、彼次第になっている。彼もアルバイトをしている。

少子化、野球離れ、部員減のあおりを受けて誕生した「連合チーム」

日本高野連は7月末時点での今年の加盟校数と部員数を発表した。これによると硬式野球では1~3年の部員数は合計で138,054人。前年より5,813人、4%減少した。甲子園の優勝校は「15万高校球児の頂点」と言われてきたが、ついに14万人を割り込んだ。これは10年前の2011年と比較して17.3%の減少だ。

加盟校数も前年より25校減って3,932校と4000校を割り込んでいるが、減少幅は部員数よりも小さい。10年前との比較でも3.9%の減少にとどまっている。

これは、部員数が9人を割り込んでも学校が各地の高野連に加盟金を払い込めば、部として存続が可能だからだ。極端にいえば部員数ゼロでも加盟できる。この結果として全国の高校野球部の平均部員数は2011年の40.8人から35.1人にまで減少している。

本来ならば部員数が9人に満たないチームは、公式戦に出場できないが、日本高野連は1997年に「統廃合による大会参加の特別措置」を承認した。この時点では個別の事例について高野連が判断して承認を出していたが、2012年夏から規制を大幅に緩和。「同じ都道府県高野連に加盟し、原則として週2回程度の合同練習をできることが望ましく、関係校間の距離は問わない」という条件を付けて部員が8人以下の学校同士による連合チームの結成を認可した。

連合チームは年々増加、2018年は81チーム(212校)、2019年には86チーム(234校)になっている

連合チームの選手が公式戦に出場するときは、それぞれの学校のユニホームを着る。連合チームとして独自にユニホームを製作する予算はないからだ。また、連合チームは毎年、組み合わせが変わることが多い。

バラバラのユニホームの連合チームの選手の中には太っていたり、極端に痩せていたり、野球選手とは思えない体形の選手もいる。キャッチボールもぎごちなく“素人集団”という印象を受ける。

昨年までシード制を導入していなかった大阪府では、こうした連合チームが甲子園を目指す強豪校と対戦する可能性があった。あまりにも実力差が大きいため、審判員からは「試合をさせるのは危険だ」という声があがっていたほどだ。

連合チームと一口に言っても、その実情はさまざま。筆者は数年前からその現場を取材してきた。

生徒を学校につなぎ止めるための野球

冒頭に紹介した「部員3名の野球部」も数年前から連合チームとして大会に参加している。同校を率いる監督は、この学校に赴任して衝撃を受けたという。

グラウンドはでこぼこで、雑草が生い茂っていた。監督は一人でグラウンドを整備し、何とか練習ができるところまでこぎつけた。大学まで真剣に野球をしてきた監督にとっては驚きの環境。選手の実力はともかく野球に取り組む意欲も、「やって当たり前」の自分たちとは全く違っていた。

「野球をしていなければ、この子らは学校をやめてしまうと思うんです。野球をさせるのは、彼らを学校につなぎとめるという意味が大きい。だから、できるだけ楽しく野球ができるようにいろいろ考えています」

今夏の代替大会には出場しなかった。部員たちが乗り気でなかったからだが、指導者も無理強いはしなかった。

以前に、不登校歴のある生徒1人の野球部があって、9人ぎりぎりの連合チームに参加していたが、試合当日になって家から出られなくなって、チームも棄権したことがある。

都会で増える連合チームは、その背景に「不登校」や「貧困」「家庭不和」などさまざまな問題を抱えていることが多い。

「野球なんかしていたら勉強の時間がなくなるぞ」

同じく関西のベッドタウンにある中高一貫の私学は、進学実績が売り物だ。

今年の部員数は4人。練習時間は午後4時から2時間。6時になれば校門が閉まり、生徒は強制的に下校させられる。野球部創立以来、地方大会では初戦で敗退するのが常だったこともあり、学校は部活にそれほど熱心ではない。用具などの購入を申請してもなかなか予算が下りないという。

生徒たちは限られた練習時間を有効に活用するために、自分たちで練習メニューを考えている。アップは部活の始まる前に済ませて、すぐに体が動かせるようにする。

4人しかいないから、毎回「打撃」「守備」「走塁」など練習のテーマを決めて集中的に体を動かしている。

監督はいるが野球経験者ではないので、選手に指導めいたことはしない。「ケガをしないようにやりなさい」「下校時間は守りなさい」というだけだ。ただ中学部の監督が野球経験者で、高校生たちも指導してくれる。

選手たちは下校後、バッティングセンターに通ったり、自宅で素振りをしたりして自身で鍛えている。

今夏の代替大会は、近隣校と連合チームを組んだ。週1回程度、グラウンドに集合して連携プレーなどの練習をしている。

実は中学部には3年生の部員が8人もいる。来年は単独チームで試合に出場することが可能になる。だから連合チームを組むのは今年限り。連合を組む他校に対していろいろ主張することははばかられる。監督は「3年生は試合に出してほしい」と控えめに言うばかりだ。

新チームのキャプテンは「学校は、『野球なんかしてどうなるねん、勉強の時間がなくなるぞ』と言いますが、スポーツをするのは気分転換になるし、野球は頭も使います。学校にもっと理解してもらいために、来年は公式戦で1勝はしたい」と語った。

2年生以下の3人は、来年、単独チームでプレーできることを楽しみにしている。

「連合チーム」は野球人口減少の切り札になるか?

四国にある公立高校は、十数年前に甲子園に初出場し、3勝した。全くの無印だっただけに、地元は大いに盛り上がり、野球部員は地域のヒーローとなった。

しかし、過疎化が進む中で、昨年、野球部員は7人になり、連合チームを組まざるを得なくなった。今年は5人にまで減っている。

県全体の人口減少が進む中で、連合チームを組むのも大変になっている。この学校の場合、山間部にある分校と、車で1時間ほどの距離の高校と3チームで連合チームを組んでいる。週に1回程度合同で練習するが、そのたびに監督や部長が選手を車で送迎している。練習時間は長くはないが、それでも連係プレーの確認などは非常に重要だ。

学校には立派なバックネットがある。先輩たちが寄贈してくれたのだ。選手はわずか5人だが、グラウンドでの練習には、地元で就職したOBたちが集まる。ノッカーやバッティング投手を買って出る先輩もいる。近隣の人たちもグラウンドに顔を見せて声援を送る。街の中でも選手たちは「がんばれよ!」と声を掛けられる。

新チームのキャプテンになった2年生は「プレッシャーを感じる」という。

「僕はこの学校の野球部にあこがれて入学しました。入ったときは、ぎりぎりでチームを組むことができていましたが、去年は3年生が卒業して連合チームになってしまいました。先輩たちから受け継いだ伝統ある野球部を何としても存続させないといけないと思います。今は練習もしていますが、部員の勧誘にも時間をとっています」

こうしてみると、2012年に導入された「連合チーム」が意味するものは多様だ。

都会の高校では生徒を学校につなぎとめる役割をしている。進学校では野球部の伝統を一時的につなぐ役割を、そして過疎の伝統校では地域の希望を担っている。

「連合チーム」がなければ3校ともにとっくに「野球部」の看板を下ろしていたことになる。

「連合チーム」が、高校野球の競技人口減少を食い止めるために果たしている役割は大きい。

ただ、今後を考えるともう一歩踏み込んだ取り組みが必要だろう。

一つは「兼部」を認めること。高体連や教育委員会との調整が必要だが、他の部活との掛け持ちを認めるべきだ。実態としては他の部活から選手を借りることは行われているようだが、これを公認すべきだろう。

もう一つは、「転入学した部員は1年間は試合出場できない」という今の高校野球のルールも見直すべきだろう。「試合に出られないなら転校したい」と思う生徒は少なからずいると思われる。彼らに機会を与えるべきだ。

他にもいろいろな立場、側面からアイデアを出し合える環境になればいい。とにかく大事なことは、これまでの規制を見直して、「野球をやりたい高校生」の希望に柔軟に応えていくことだと思う。

<了>

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