今こそ「癒やしのマスコット」の出番!ピンチをチャンスに、サポーターとの新たな関係を

Opinion
2020.03.13

新型コロナウイルスの影響によりJリーグ公式戦の開催が延期となり、ファン・サポーターたちは“Jリーグロス”な日々を不安とともに過ごしている。Jリーグファン・サポーターにとって、仲間であり、癒しであり、そして愛するクラブの象徴的存在としてJリーグライフの欠かせないのが、“マスコット”の存在だ。
そんなマスコットにスポットライトがあたる「Jリーグマスコット総選挙2020」が、今年も2月8日に開催されたゼロックス(FUJI XEROX SUPER CUP)で行われた。8回目となる今回、見事初優勝を果たしたのが、J1リーグで悲願のチャンピオンとなった、横浜F・マリノスのマリノスケだ。マリノスケがセンターポジションを勝ち取った背景を読み解きながら、あらためてJリーグロスにおけるマスコットの役割について考えてみた。

(インタビュー・構成・写真=宇都宮徹壱)

Jリーグロスでマスコットに癒やしを求める人々

せっかく2020年の(明治安田生命)Jリーグが開幕したのに、試合がない週末が続いている。言うまでもなく、新型コロナウイルスの影響だ。Jリーグは2月25日、国内のスポーツ興行団体に先駆けて、3月15日までの公式戦の開催延期を決定。「ここ1〜2週間がヤマ」という政府の専門家会議の見解を受け、余裕をもって3週間の延期を決めたわけだが、10日が過ぎた今も感染の広がりが終息する気配はない。この分では、さらにJリーグの再開が後ろ倒しとなる可能性も、否定できないのが実情である(編集部註:その後Jリーグは3月の公式戦延期を決定)。

そんな中、Jリーグロスなファンやサポーターの間でちょっとしたブームになっているのが「エアJリーグ」。「#エア明治安田生命J1リーグ」とか「#エアルヴァン杯」といったハッシュタグが立ち上がり、その日に行われる予定だった試合について、不特定多数のファンが語り合うコミュニティが誕生した。この「エアJリーグ」は、すでにNHKのスポーツニュースなどでも報じられているので、ご存じの方も多いだろう。だが、ここでもう一つ注目したいのが「#J延期で意気消沈のTLには癒やしのマスコットを」というハッシュタグだ。

マスコットといえば、1月末に「Jリーグマスコット総選挙」の原稿(2020年1月28日公開/「AKB総選挙は見送られても、Jリーグマスコット総選挙は続く」知られざる黎明期の物語)を書かせていただいたばかり。とはいえJリーグのファンは、単に週末のゲームのみならず、マスコットによる癒やしも求めているのである。そんな折も折、今回の総選挙で見事初優勝を果たした、横浜F・マリノスのマリノスケについて、取材する機会を得た(取材日は2月20日)。本稿では、マリノスケがセンターポジションを勝ち取った背景を読み解きつつ、あらためてJリーグロスにおけるマスコットの役割についても考えてみたい。

クラブにとっても意外だったマリノスケの優勝

何しろ昨シーズンのJ1リーグ、チャンピオンクラブである。しかも、そのマスコットも今回の総選挙で優勝。久々に緊張感を覚えながら、編集者同伴で新横浜のクラブオフィスに向かった。当初はダメもとで、マリノスケ当鳥(人)へのインタビューをリクエストしたのだが、残念ながらその希望はかなわず。その代わりマリノスケのホームタウン活動に同行している、ふれあい・ホームタウン事業部ホームタウン課の服部哲也さんが取材に応じてくれることとなった。

実は服部さん、ホームタウン課に配属されてまだ2年目。マリノスケとコンビを組んで日が浅い中、今回の結果について「正直、予想できなかったです」と戸惑いを隠しきれない様子。さらに「中間発表の2位でも驚いていたくらいで、まさか最終的に1位が取れると思ってもいませんでした」と続ける。

「個人的には名古屋グランパスのグランパスくん、V・ファーレン長崎のヴィヴィくんに勝つのは難しいだろうなって思っていました。名古屋さんについては、グランパスくんの可愛さを生かした戦略的な展開が素晴らしい。長崎さんについてもマスコットは広報マタ−になっているのでヴィヴィくんの発信力がすごいですよね。マリノスケは、これまで8位が最高でしたから、3位でも十分にOK。優勝まであと一歩という状況を作ってから、今後いろいろな取り組みをしようと考えていたんですよ」

だからこそ、今回1位になったことについては「今でもあまり信じられません」と語る服部さん。実際、クラブとしてもマリノスケを昨年よりも上位に押し上げるという目標はあったものの、1位はほとんど意識していなかったそうである。ではなぜマリノスケは、2連覇中のグランパスくん、そして「あざと可愛い」ヴィヴィくんに打ち勝ち、見事1位になることができたのだろうか?

サポーターとマスコットとの「新しい関係性」

「やっぱりサポーターの皆さんのおかげですよね。J1で優勝してゼロックス(FUJI XEROX SUPER CUP)に出場するんだから、マスコット総選挙でも1位を取りにいこうという流れになったんだと思います。だからサポーターの皆さんと一緒に喜びを分かち合うために、マスコット総選挙用の優勝シャーレを事前に作って、マリノスケに掲げてもらいました」

最近のマスコット総選挙では、4位までをゼロックス前日に発表。試合のハーフタイムで3位から1位を結果発表するフォーマットになっている。優勝者の名前が読み上げられた瞬間、マリノスケは盛んにジャンプして喜びを表現し、フラッシュインタビューを終えるとF・マリノスのゴール裏に向かって一目散。共に喜び合う姿を見ていて、何やらサポーターとマスコットとの「新しい関係性」を見る思いがした。

「サポーターのおかげで1位になったんですから、これからは恩返ししながら連覇を目指したいですね。むしろ来年の総選挙こそが、マリノスケの真価が問われるんだと思います」と神妙な面持ちの服部さん。一方、マリノスケ自身は「いろんなことにチャレンジする!! 2020ねんだから20こ以上」という目標を掲げている。

今年は「こんなチャレンジをしてほしい」という、ファン・サポーターの要望に応える形で、その様子を積極的に発信しながらマスコットの認知度を高めていく。服部さんいわく「ウチの公式Twitterのフォロワーは46万人以上ですけど、それに比べるとマリノスケはまだまだ少ないし(2.2万人)、ホームタウン(横浜市・横須賀市・大和市)の誰もが知っている存在にはなれていないんですよね」。今回の優勝は「成果」ではなく、むしろ「今後への課題」と認識しているクラブのスタンスがうかがえる。

こんな時だからこそマスコットの発信力を!

今回、ホームタウン担当のスタッフに取材してみて、F・マリノスのマスコットへのスタンスがよく理解できた。端的にいえば、良くも悪くも「ベタベタしない」ということである。ご当地アイドルと絡ませたり、選手とYou Tube番組に登場したり、ということは一切しない。サポーターの側も、マリノスケや叔父に当たるマリノス君は「共に戦う仲間」という認識が強いように感じられる。

服部さんが指摘するとおり、過去7回の総選挙でのマリノスケの最高順位は8位。「永遠の小学5年生」というキャラ設定はあるものの、キャラが際立っているわけでなく、さりとて媚びるような可愛さがあるわけでもない。まさに、ゴール裏にいてもおかしくないような「永遠の小学5年生」。そんな親近感ゆえに、サポーターの間で「マリノスケも1位になろう!」というムーブメントが起こり、今回の結果につながったと考えるべきであろう。

言うまでもなく、ファン・サポーターとマスコットとの関係性は、クラブによってさまざま。メロメロに溺愛するのも、さっぱりした関係性を維持するのも、それぞれのポリシーがあっていい。ただし、マスコットの発信力が総選挙直前にのみ重点的に発揮されている、昨今の状況にはずっと疑問を感じていた。むしろJリーグロスという今の状況にこそ、各クラブにはマスコットを活用した発信を考えてほしいものだ。

9年前の東日本大震災の時と異なり、今回のJリーグロスは「集客できない」のがつらいところ。チャリティーマッチやイベントが開催できないとあっては、Jリーガーの出る幕がない。もちろん、ファンに向けて選手が動画でメッセージを送るのもありだが、こんな時こそマスコットの出番ではないか。われわれはゲームの再開のみならず、マスコットによる癒やしも求めている。各クラブのマスコット担当者の皆さん、何卒ご検討のほどを!

<了>

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