マリノス優勝を「必然」にした改革5年間の知られざる真実 シティ・フットボール・グループ利重孝夫の独白

Business
2020.02.02

2019シーズン、15年ぶりのJ1制覇を成し遂げた、横浜F・マリノス。その破壊的なまでの超攻撃サッカーは、完膚なきまでに相手をたたきのめし、見る者を魅了した。

その前年は入れ替え戦に回る16位と勝ち点で並ぶ12位。厳しい残留争いにその身を投じていたことを思えば、シーズン前にこの結末を予想するのは難しかっただろう。

だが、あのゴールは、あの勝利は、あの優勝は、決して「偶然」ではなく、「必然」だったと言えば、いったいどれだけの人が信じることができるだろうか? マリノスと苦楽を共にし、時には批判の矢面にも立った男は、あの歓喜の瞬間をずっと信じていた――。

シティ・フットボール・グループ、利重孝夫氏が、5年間の改革の軌跡と、知られざる真実を明かした。

(インタビュー・構成=野口学[REAL SPORTS副編集長]、インタビュー撮影=浦正弘、写真=Getty Images)

マリノスとCFG、5年かけて成し遂げた改革の道筋

「やはり優勝はいいものですね、最高です。本当によかった」

その人は安堵にも似た表情を浮かべながら、感慨深く振り返った。

2019年12月7日、6万3854人の大観衆が集結した、ホーム・日産スタジアム。J1史上最多の観客動員を記録した最終節、横浜F・マリノスとFC東京による頂上決戦は、“らしさ”を存分に表現したマリノスが完勝し、15年ぶりとなる戴冠を果たした。

「優勝までの過程もこれ以上望みようのないもので、本当にうれしかったですね……」

あれは、新緑が美しく輝くころのことだった。

――横浜F・マリノスは、マンチェスター・シティのホールディングカンパニーであるシティ・フットボール・グループ(以下、CFG)と資本提携を伴うパートナーシップを締結しました。

2014年5月20日、マリノスから発表されたこのリリースは当時、大きな驚きをもって迎えられた。欧州のビッグクラブとJリーグクラブの提携は確かにそれまでにもあったが、「資本提携を伴う」のは初めてのことだった。

欧州ビッグクラブのマネーゲームに、Jリーグものみ込まれてしまうのではないか――。

全容の見えない異例のリリースに、ファン・サポーターも期待と不安が入り混じり、ポジティブなものからネガティブなものまでさまざまな憶測を呼んだ。

CFGは、マンチェスター・シティ(イングランド)をはじめ、ニューヨーク・シティ(米国)、メルボルン・シティ(豪州)の3クラブを運営するグローバル事業グループで、マリノスがその4チーム目となった(現在は8チームに拡大)。

――今回のCFGとの資本提携は、強力なエンジンになると確信しています。CFGの持っている優れたチームづくりや、経営基盤の強化に関する優れたノウハウを可能な限り吸収し、成長を加速していきたいと考えています。

これは、先のリリースに記載された一文だ。

CFGの経営参画の背景には、マリノスの親会社である日産自動車とCFGがグローバルパートナーシップを締結したことがあった。プレミアリーグの試合は世界中で放送されており、中でもマンチェスター・シティはアブダビ・ユナイテッド・グループによる買収以降、屈指の強豪チームとして人気を博している。日産自動車にとっては、イングランド、米国、豪州などCFGが運営する各クラブの本拠地だけでなく、マンチェスター・シティの放送を通じて世界中の人たちにもブランドを訴求することができる点が大きな魅力だった。

また日産は、当時のマリノスが長らく優勝から遠ざかっており結果を残せていなかったこと、親会社から多大な有形無形のサポートを受け経営的に自立できていなかったことに問題意識を持っていた。CFGとのパートナー契約の一つとして、CFGにマリノスの経営に参画してもらい、改革を推進していくことを期待していたのだ。

コーチングメソッドやゲーム分析、スポーツメディカルサイエンス、選手補強などのチーム強化と、スポンサー営業やマーケティング、ファンエンゲージメントなどの事業活動、その両面からCFGの持つノウハウをマリノスにコンサルティングしていき、その成果が5年目となる昨シーズン、花開いたのだといえるだろう。

そのCFGの日本法人として設立された、シティ・フットボール・ジャパン(以下、CFJ)の代表、利重孝夫氏は、この5年を振り返ってこう話す。

「5年という期間が長かったのか、短かったのか、それは何とも言えないです。ただ今回の優勝は、特に2つの意味でうれしかった。一つは、重要なクライアントである日産からの期待、投資に応えることができたこと。もう一つは、2016シーズンの終盤、我々に対する不満や不安、不信感を持たせてしまったさまざまな人たちにも納得してもらえる結果を出せたこと。私自身も、選手たちが存分に力を発揮できるような場を整備できた、用意できた、そういった意味での達成感はありましたね」

利重が痛感した、欧州とJリーグの一番の差

利重氏がこの5年で最も心血を注いだこと、それは“クラブ経営の在り方”だった。CFGの一員である利重氏は、欧州のビッグクラブの一員でありながら同時にJクラブの経営にも携わるという、非常に稀有な存在でもある。そうした立場から痛感していることがあった。

「欧州では今、特にマンチェスター・シティとリバプールがオン・ザ・ピッチで自分たちのスタイルを持って成功を収めていますが、その背景には中長期的な経営戦略やそれに基づいた投資があります。強化サイドと経営サイドが同じ方向を向き、同じゴールを目指しているからこそ、クラブとして成長を続けられる。ここが、欧州のビッグクラブとJクラブの一番の差だなと感じています」

CFGのCEO(経営最高責任者)を務めるフェラン・ソリアーノは、2003年から08年までバルセロナの最高責任者である副会長を務めていた。当時低迷していた名門クラブを再建し、サッカー面でも経営面でも大きな成果を残した。その成功理由は著書『ゴールは偶然の産物ではない』に記されているが、まさにそれは、“経営”の理論だ。

―まず最初に、クラブの哲学、あるべき姿を(再)定義
―上記を満たすための、目指すべきサッカー、プレーモデルの確定
―そのために必要な強化組織体制の構築、SD(スポーティングダイレクター)・監督人事、選手編成
―結果を出すことで収益拡大→それを原資に再投資→さらなる強化、このサイクルを繰り返す

トップが方針を打ち出し、中長期的な戦略のもとで、成長の道筋を描く。言葉にすればごく当たり前のことだが、これが日本ではできていないクラブが多い。社長が替われば、その都度方針が変わる。当然積み重ねてきたものは無駄になりがちで、ゼロから始めることもある。それでは本当の意味で強くなることはできない。ソリアーノがやったことは、“ビジョン”を描き、そのための戦略を緻密に立てて実践したことに集約される。

「一つのゴールだけ見れば偶然に生まれるのかもしれませんが、一つの試合、一つのシーズンと、さらに長期的に見ていけば、そうではない。勝つべくして勝つ、偶然ではなく必然になるということですよね」

ソリアーノはその後、権力闘争に敗れ志半ばにしてバルセロナを去ったが、その哲学はマンチェスター・シティに移っても変わることはない。この8年でプレミアリーグ4度の優勝、昨シーズンはイングランド史上初となる国内三冠を達成。今のマンチェスター・シティの繁栄は、決して偶然でもなければ、単純に莫大な資金だけを背景にしたものでもない。その哲学はCFG全体にも浸透し、CFJ、利重氏を通してマリノスにも注入されているのだ。

CFGが指摘した2つの問題点

とはいえ、CFGがマリノスの経営に参画して、すぐに改革が軌道に乗ったわけではなかった。思っていたような結果が出ない中で、マンチェスターのCFG本社ではマリノス、Jリーグの現状調査を行い、2つの問題点を提起してきた。

一つは、Jクラブ全体に見られる傾向として、「お金を増やす努力が足りず、また、お金を効果的に使うことができていない」ことだ。

「Jリーグの特徴としてよく言われるのが、『どのクラブにも優勝のチャンスがある』『お金があるところが必ずしも優勝するわけではない』といったものです。確かにファン目線ではその方が面白いといえるのは理解できます。ですが経営の観点からいえば、それは『本来機能すべきことが機能していない』と言わざるを得ません。欧州では『資金力=チーム戦績』、より正確にいえば『=チーム戦績期待値』として解釈します。例えば、マリノスの2019シーズンの選手人件費はリーグ全体では中位に属しており、その点だけに着目すれば優勝は幸運であったとも言え、今後も継続的に優勝を目指していくのであれば、『お金をさらに稼いでいく』ことで、『チームの戦績に関する再現性を高めていく』必要があるのです」

つまりCFGは、「Jリーグは予算規模にかかわらず優勝のチャンスがある」と捉えたのでなく、「Jリーグはクラブ経営、ひいてはリーグ設計がまだ発展途上にあるので、お金の増やし方、使い方を最適化させることが、経営改革の重要項目の一つになると判断したのだろう。

そして、もう一つの問題点として指摘されたのが、「クラブが自らの判断で重要な意思決定を行えていない」ことだった。

「特にマリノスに顕著な特徴として見られたのが、選手や代理人、またそれに呼応したメディア、サポーターの意向に影響を受けやすいという点でした。ここを是正しない限り、根本的な改革は難しい。最終的に結果を出すのはピッチの上で戦う選手や監督ですが、彼らが最大限の力を発揮するためにも、経営陣が確固たる覚悟と戦略を持って、クラブの方向性、方針をデザインし、意思決定をすべきなのです」

これはまさに、前述のソリアーノの経営理論と合致することだといえるだろう。トップが方針を打ち出し、中長期的視野に基づいて経営していく。それが可能な組織構造へと変革することもまた、経営改革の重要項目の一つだった。

「もちろん全てのクラブが同じことをする必要はないと思います。いろいろな考え方をするクラブがあっていい。ただ、こうした欧州最先端の“クラブ経営の在り方”を実践するクラブは日本にも必要で、それが日本サッカー界の発展にもつながるのではないかとも考えていました。優勝したことでその一端を見せることができたのではないかと思っています」

2016シーズン後のオフに巻き起こったバッシング、中村俊輔との別れ

だがどんな組織においても、改革に反発はつきものだ。マリノスにおいてもそれは例外ではなかった。改革を成就させるまでの間には、紆余曲折という言葉だけでは表現しきれないほどの試練があった。2016シーズン終了後のオフがまさにそれだ。

クラブのレジェンドもいえる存在の中村俊輔のほか、小林祐三、兵藤慎剛、榎本哲也ら、これまでチームを支え続けたベテランが次々とチームを去ったこと、3シーズン連続で全試合フル出場を続けていた中澤佑二へ大幅なダウン提示をしたことが波紋を呼んだ。就任から2年で目に見える成績を出していたわけではなかったエリク・モンバエルツ監督の続投を早々に決めていたことも批判を大きくした。多くのメディアがこぞって“名門の崩壊”、“終わりの始まり”、“CFGに屈したクラブの横暴”と報じ、異様なまでのバッシングが巻き起こった。

このシーズンの頭からマリノスは本格的な組織改革に着手していた。事業面では新たに着任した長谷川亨社長がメスを入れ始め、強化面では新たにSDに招聘したアイザック・ドルが翌シーズンの大幅な選手入れ替えをもくろんだアクションを展開した。

当時、利重氏はCFJの代表職のみならず、マリノスのチーム統括本部長の役職にも就いていた。前述の通り、CFJはあくまでもマリノスに対してコンサルティングを行う立場にあるため、基本的には強化や編成に直接携わるわけではない。だがチーム改革の刺激が相当に強かったこともあり、長谷川社長と話をし、経過措置として自らマリノス内部に入ってチーム改革の旗振り役となり、同時に批判の矢面に立つこととなった。「一番つらいタイミングで任に当たりましたね」と言う筆者の言葉に、利重氏は首を横に振った。

「あれは不可避で必要な衝突でした。パラダイムシフトともいうべきタイミングでは、必ず反発はあるものです。ですが私としても一歩も後には引けませんでした。まさにこの5年間の改革の根幹ともいえることだったと思います。選手編成はクラブの重要な意思決定事項です。これを他のステークホルダーの意向によって変更させられてはいけない。これは私たちが進めていた経営改革の最重要項目そのものだったからです」

それまでとはまったく異なる体制や評価基準に基づく契約更改のプロセスの中で、選手の反発があるのも当然だ。またこうした状況をメディアを通じてうかがい知るサポーターにとっても同様だったといえるだろう。

だが今から振り返ってみれば、あの時の決断は正しかったと誰もがわかる。

優勝を成し遂げたのはアタッキング・フットボールを成就させたアンジェ・ポステコグルー体制のもとでだが、その前段としてモンバエルツ体制の3年間は間違いなく必要だった。目指すプレーモデルを浸透させていく中で、そのプレーモデルに合う・合わないを評価し、選手の入れ替え、チームの若返りを為すべき時期にあった。それがたとえ、クラブのレジェンドであり、スーパースターの中村俊輔であっても例外ではなかった。

だがそれは、中村がサッカー選手として劣っていたのかといえば、決してそんなはずがない。マリノスが歩む道とは合わなくなったというだけで、日本サッカー界の宝であることに間違いはない。クラブのレジェンドとの別れは確かに寂しい。だがその別れは、必ずしも悲しいものではない。たとえその時はつらくても、振り返ってみれば、あの決断が今の幸せにつながっている。そう思えることは人生において往々にしてあることだ。実際中村は昨シーズン横浜FCで輝き、マリノスは優勝を成し遂げた。「お互いにとって最も良い選択をした」と、今ならはっきりと言えるだろう。

CFGが求めた早い時期の結果と、ドラスティックな変革

あのシーズンオフ、利重氏が最も対応に苦慮したのは、メディアからのバッシングや、サポーター、選手からの反発ではなく、マンチェスターからのプレッシャーだったという。

「本社はとにかく早い結果を欲していて、改革に対して『生ぬるい』とプレッシャーをかけてきました。このシーズンオフでもっと徹底的にチーム編成を変更せよと。提携してから既に2年半も経過していましたし、徹頭徹尾、妥協を許さずというスタンスを取るのは当然といえば当然なのですが、マンチェスターの言う通りに動いたらとてもクラブは持たない、壊れてしまうとは感じていましたね」

メディアからのバッシングに加えて、昼は選手やマリノス社員から「こんな非常識なことをして許されると思っているのか」と迫られ、夜になればマンチェスターから「○○選手に契約更改しない旨を最後通達せよ」といった要求が毎日のように届いた。ただ過度に性急な変化はゆがみを生み出すと利重氏はわかっていた。

実際ビジネスの世界でも、欧米のやり方をそのまま日本に持ち込んでうまくいかないことは多々見られる。日本仕様にカスタマイズする必要もあれば、場合によっては日本のやり方の方が優れていることもある。

確かにCFGの持つメソッドやシステムは素晴らしい。それはマンチェスター・シティの結果が示している。ただその全てを正しいものとして受け入れるのではなく、ベストな着地点は何か、その見極めに利重氏は尽力していた。

「とにかくあのころ私が最もプライオリティを置いて考えていたことは、どうすればこの改革プロジェクトを継続させていくことができるかでした。5年目で優勝できるかどうかは当然その時はわかりませんでしたが、継続させていくことでその確率は間違いなく高まる。そうした確信はありましたから、緩め過ぎたり、急ぎ過ぎたりすることでプロジェクト自体が中止に追い込まれることだけは絶対に避けたかった」

やがて少しずつではあるが事態は好転していく。

「途中からはだんだんと、『一体何のために、どこを向いて仕事をしているのか?』『そもそもこれは仕事なのか、大いなるビジョンの実現のためなのか、それとも個人の意地なのか?』、自分でもよく分からなくなっていました。ただ多方面からサンドバック状態になっている自分に力を貸してくれるマリノス社員や選手、メディアが徐々に増えていったような感覚がありました。『マリノスをこのまま終わらせてはいけない』『より良いクラブに生まれ変わらせなければならない』といった使命感を持って歩み寄ってきてくれた人たちと一緒に、何とか次のシーズンを迎えることができたと記憶しています」

こうしてマリノスは改革の重要なターニングポイントとなったオフシーズンを乗り越え、優勝までの道筋をひた走ることになった。

モンバエルツとポステコグルーは連続している

それにしても、昨シーズンのマリノスは強かった。特に8月24日の第24節以降、11試合で10勝1分、得点31失点 8、結果でも内容でも他を凌駕していた。

利重氏は2017シーズンスタート後まもなく強化の分野から離れ、その後は一貫して事業面での推進に注力しているものの、チーム改革が順調に進んでいく様を頼もしげに見ていた。

「アイザック・ドルはその剛腕ぶりを発揮し、2018年半ばにその任を終えてクラブを去りましたが、その後を引き継いだ小倉勉さんが優れたリーダーシップを発揮して、次々と成果を挙げてくれました。提携当初はまったくかみ合っていなかったCFGとマリノスの関係性も、劇的にその実効性を高めていきましたね。CFGは今や、Jリーグに関して圧倒的な知見、情報量、経験値を持つ欧州クラブとなりましたし、マリノスもCFGの持つ情報やスキル、ネットワーク、メソッドを必要に応じて活用する術に長けた組織になりました。新加入の選手、特に外国籍選手があれだけチームにフィットし活躍できた、そうした選手を獲得できているのが、何よりの証拠だと思います」

ポステコグルー体制2年目で結実した、アタッキング・フットボール。だが利重氏はあくまでもその基礎を築いたのはモンバエルツ監督だったと付け加えることも忘れない。

「アンジェ(・ポステコグルー)はまさに革命家というキャラクターの持ち主ですよね。あの情熱がなければ、2年間で優勝を成し遂げることはできませんでした。ただだからといって、2015年、改革の1年目に来てもこのサッカーができていたかというと、難しかったと思います。エリク(・モンバエルツ)はどちらかといえば、学校の先生タイプです。今いる選手に寄り添いながら、現実的なやり方でどう改革を進めていくか見極めていく。一方で、喜田拓也、遠藤渓太、天野純(2019年7月にロケレン/ベルギーへ期限付移籍)ら、アンジェ体制の中心となる若手を見いだしてくれました。特にポジショナルプレー(※)をチームに植え付けてくれたという意味では、必要なプロセスだったと思います。今のアンジェの、マリノスの成功は、間違いなくあの3年間を抜きにして語ることはできないと思います」
(※ポジショナルプレー:現マンチェスター・シティの監督であり、元バルセロナの監督を務めたジョゼップ・グアルディオラが定着させたといわれる概念で、動的なポジショニングをもとに優位性を保ち続けるための根底的な考え方)

ビジネスの世界においても、立ち上げたばかりのプロジェクトを牽引したり、既存組織との対立を恐れず改革を推進するのが得意なリーダーもいれば、ある程度出来上がった土台のもとで飛躍させるのが得意なリーダー、頂点を極めたチームを改善し続け安定的に推移させていくのが得意なリーダーもいる。それぞれのステージに合わせて適した人材にリーダーを任せるのは、ある意味当然ともいえる。お互いにとって、得意なステージと求めているステージがマッチしている間は契約して、そのステージが終わった(=そのステージにおける目標が達成された)後は、また次のステージを得意とする監督に任せる。得意ではないステージを任せ続けることは逆にお互いに不幸だともいえる。

「そうした評価もあって、CFGは今エリクにメルボルン・シティの監督を任せています。さらにいえば、アンジェがこれから永遠にマリノスの監督を続けるというわけでもないでしょう。チャンピオンとして追われる立場になっても継続して改革を続け、今あるものをより良くしていかなければチャンピオンで居続けることはできません。ベースの部分では同じフィロソフィーを持ちながら、どこかのタイミングでは次のステージが得意な監督を選ぶことになるのかなとも感じています」

インタビュー中、利重氏は何度もこう口にしていた。

「マリノスが優勝した要因の一つにCFGの貢献があると言っていただけて、こうしてインタビューしてもらえるのもすごくありがたいことですし、自分たちとしてもその自負はあります。ただでも一番たたえられるべきはやはり実際に戦った選手たちであり、監督であり、現場のスタッフの皆さんであり、それを支えたマリノスのフロントの皆さんであり、また改革を決断し覚悟をもって実行したマリノスの経営陣、事業の皆さんの力によるものです。それだけは誤解しないでもらいたいですね」

サッカーは人生のメタファーだ――。

これは、フェラン・ソリアーノが常々、口にしている言葉だ。

人はサッカーの90分を通じて、チームワーク、リーダーシップ、スピリット……、掛け替えのないさまざまなことを学べる。単に勝った・負けただけではない、人生においてもっと根源的なものがサッカーにはある。それはサッカービジネスにおいても同じだ。CFG、マリノス、そして利重氏による改革の志、闘い、そして勝利から、私たちは何を糧とすることができるだろうか。

マリノスは今シーズン、Jリーグ2連覇、さらにはAFCチャンピオンズリーグの2つの異なるコンペティションを戦うことになる。昨季とはまた違った厳しいシーズンになることは想像に難くない。

それでもマリノスは、ひるむことなく前に進み続けるだろう。
この5年間、CFGと共にしてきた航海は荒波の連続だったが、決してのまれることなく乗り越え続けてきた、その自負と誇りがあるからだ。
新たな歴史の扉を開く戦いが、間もなく始まろうとしている――。

<了>

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[PROFILE]
利重孝夫(とししげ・たかお)
シティ・フットボール・ジャパン代表。高校時代は読売クラブユースに、東京大学ではア式蹴球部に在籍。日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)に入行し、その後コロンビア大学で経営大学院修士号を修得。2001年楽天入社、常務執行役員を歴任し、株式会社クリムゾンフットボールクラブ(2014年までヴィッセル神戸の運営会社)の取締役も務めた。
2006年楽天とFCバルセロナの提携に際して、当時FCバルセロナ副会長のフェラン・ソリアーノ(現シティ・フットボール・グループCEO)と交流したことをきっかけに、2014年2月からシティ・フットボール・グループの日本でのプロジェクトに参画。同年11月設立のシティ・フットボール・ジャパン代表に就任。2019シーズン、横浜F・マリノスの優勝に貢献した。

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