収入源を断たれたJリーグの未来は?[Jリーグ全56クラブ徹底分析・コロナ後の新常識]

Business
2020.06.06

新型コロナウイルス感染拡大の影響で2月下旬から全ての公式戦を中断していたJリーグは、J1を7月4日、J2・J3を6月27日から再開することを決めた。先行きの見えない日々が続いていたが、ここにきてようやく光が見え始めてきた。
各クラブはこの3カ月間、試合開催に伴う収入源を断たれ、経営面で非常に厳しい状況に置かれてきた。だがこうしたコロナ禍の非常時だからこそ、通常ではできないことに取り組む好機でもあったといえるだろう。そこで今回、全56クラブの取り組みを3つの視点から調査し、Withコロナ時代のJリーグの未来を考察してみたい。

(文=野口学[REAL SPORTS副編集長]、写真=Getty Images)

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コロナ禍で試合できない期間の取り組みを、3つの視点で分析

新型コロナウイルスの感染拡大は、世界中に脅威をもたらした。当然スポーツ界への影響も大きく、各競技団体は公式戦の中断を余儀なくされた。Jリーグも2月25日に、翌26日に開催予定だったYBCルヴァンカップと、以降の公式戦の開催延期を決めた。

各クラブにとって公式戦が開催できない状況は、経営面で非常に大きなダメージとなった。通常ホームゲーム開催時には、入場料収入の他、物販やマッチデースポンサーなどによる収入が見込まれるが、公式戦を開催できない間はこれらの収入源を断たれている。実際、北海道コンサドーレ札幌・代表取締役社長CEOの野々村芳和氏は、4月24日の株主総会で、「リーグ戦が再開できない状況が長引いた場合、秋にも運営資金が底を突く恐れがある」と危機感を示していたほどだ。

これまで当たり前のようにやっていたことが突然できなくなる日が訪れ、そしてこれほどまでに大きな打撃を受けることになるとは、誰も予想し得なかった。今後のスポーツ界は、今までの常識がまったく通用しなくなるだろう。だがピンチはチャンスでもある。こうした危機的状況においては、これまでの取り組みの延長線上を続けるだけでなく、これまでにはできなかった新しい施策を始めることで、プラスへと転じることが重要になる。

この間、各クラブはそれぞれ創意工夫を重ね、さまざまなことに取り組んできた。これらを一つずつ分類していくと、大きくは3つのパターンに分けることができる。
①子どもへのアプローチの多様化
②既存ファンとのリレーションシップ強化
③地域・スポンサーとのリレーションシップ強化

これらのパターンごとに、Jリーグ56クラブが取り組んできた「コロナ禍のレガシー」を紹介する。今回は、「①子どもへのアプローチの多様化」から、Withコロナ時代のJリーグの未来を考察したい。

川崎の算数ドリルは、クラブと子どもと地域をつなげる地域密着の象徴

子どもたちが新型コロナウイルスにより受けた影響は計り知れないほど大きい。3月から全国で休校措置が取られ、外出自粛を呼び掛けられるなど、学び・遊びの機会は大きく制限されてしまった。Jリーグではこれまでにも子どもたちの健全な心身の育成を掲げ、地域と共に活動してきたが、今回も子どもたちに対して何ができるかを考え、すぐに行動を移していた。

その一つが、“遊び”のツールの提供だ。多くのクラブが、マスコットや選手のオリジナル“ぬりえ”、クロスワードパズル、クイズなどを配信していた。中には、端午の節句用のオリジナルの兜(横浜FC、藤枝MYFC)や、こいのぼりの台紙、母の日に送るカーネーションのおりがみや台紙(FC町田ゼルビア)など、家族で一緒に楽しめるものもあった。

また、“学び”のツールの提供もあった。「Jクラブד学び”の提供」といえば、川崎フロンターレの算数ドリルを思い浮かべる人も多いだろう。ドリルの中に選手が登場し、サッカーやチームと算数の問題を絡めたこのドリルは、2009年に小学6年生を対象としてスタートし、昨年度には川崎市内の公立小学校114校と特別支援学校3校に配布されるまでに至った。子どもたちが楽しみながら学ぶことができ、数字や計算に興味を持つ可能性を広げ、さらに自分たちが暮らす地域とクラブへの愛着にもつながる。その教育的価値は市にも認められ、まさにJリーグが目指す地域密着の象徴のような取り組みだといえるだろう。

このコロナ禍で時間も条件も限られていたが、その中でも多くのクラブが趣向を凝らして“学び”を提供していた。例えば町田は「おうちでゼル塾」と銘打ち、4月7日~5月17日まで独自の時間割に合わせて「国語・算数・社会・英語・体育・生活・特別編・ゼルビア歴史」の科目の教材を配信していた。さらには「ゼル塾 期末テスト」と題し、選手たちがYouTubeで期末テスト問題の出題もするなど、1カ月以上にわたり子どもとクラブの接点をつくり続けた。人はある対象と接する回数が増えるほど、その対象に好印象を抱くようになるといわれている。これは「単純接触効果」と呼ばれる心理学の法則だが、その側面から考えても意味のあることだといえるだろう。また町田は2018年度から新小学1年生を対象にオリジナル下敷きをプレゼントしている。子どもへのプレゼントは多くのクラブで行っているが、これも単純接触効果の面から見れば、下敷きのように毎日自然と目にしたり使ったりする物は特に効果的だ。町田はこの点で非常に戦略的だといえるだろう。

オンラインレッスンは新たな収益の柱となるか?

プロサッカークラブらしく、サッカーに関する取り組みも数多く行われていたので紹介したい。

やはり多かったのは、選手によるリフティングなどの宿題チャレンジ動画の配信だ。またその宿題にチャレンジした動画をSNSで投稿するよう呼び掛けたり、抽選でオリジナルグッズがプレゼントされるといった施策も多く見られた。浦和レッズではこの取り組みそのものに独自のスポンサーをつけていたほか(「おうちリフティングチャレンジ supported by DHL」)、家の中でリフティングをやっても大丈夫なように、サッカーボールのオリジナル型紙(ペーパークラフト)の配信も行っていた。

新たにオンラインレッスンを始めたクラブもあった。例えば名古屋グランパスは「アカデミーGKコーチ陣とオンラインで繋がりGKについて学ぼう!」講座(全4回)を実施。クラブOBでアカデミーダイレクター補佐 兼 GKコーチを務める楢崎正剛氏も講師として参加していた。アビスパ福岡ではアカデミーの監督・コーチによる「アカデミーオンライン講習会」を実施。“ゴールを奪うために必要な要素”、“守備の優先順位”など、講座ごとにテーマが設定され、「講義+室内でできる簡単な実技+質問タイム」で構成されていた。

これらは受講者が複数人いる講習会形式だったのに対し(名古屋は70人、福岡は30人)、ヴィッセル神戸では「つうしん学蹴(がくしゅう)」という個別指導型通信レッスンを始めている。「1対1の攻撃&守備、ドリブル、パス&コントロール、リフティング、GKスキル」の5つのテーマから1つを選び、レッスンに対する要望とプレー動画を事前に送付することで、個人に最適化したレッスンを完全マンツーマンで受けることができるといったものだ。

レッスンとは異なるが、ジェフユナイテッド千葉では、「共に歩もう・出張JEFUNITED!」と称して、クラブOBの佐藤勇人氏(クラブユナイテッドオフィサー/CUO)やホセ・マヌエル・ララ氏(アカデミーダイレクター)らが、中学・高校のサッカー部や街クラブ、サッカー少年団のオンライン活動にサプライズで参加するといった試みも行っている。元プロ選手としての経験から、なかなか思うような活動ができない子どもたちに夢と希望と元気を届けたいとしてスタートしている(無償で実施)。

こうしたオンラインレッスンの取り組みは、将来的にクラブに新たな収益をもたらす可能性がある。リアルの場でのレッスンとどうすみ分けるかといった課題はあるものの、時間や場所の制約の無いオンラインは今後もその可能性を広げていくだろう。

オンラインで「金の卵」をスカウトするのが常識になる?

ニューノーマルとなり得る取り組みとして、湘南ベルマーレとモンテディオ山形の取り組みも紹介したい。

新型コロナウイルスによる活動自粛で子どもたちはサッカーをする場を失った。これは練習や試合を通じて成長する機会だけでなく、スカウトの目に留まる機会も失ったことを意味する。夢を描くことすら難しくなってしまった子どもたちに、夢をつかむチャンスを創るという目的の下で、湘南が4月に立ち上げたのが「BELLMARE DREAM BOX(ベルマーレドリームボックス)」というオンラインスカウトのプロジェクトだ。

YouTube(限定公開)に投稿したプレー動画をクラブのアカデミーコーチが確認し、優秀な選手はアカデミーのスカウトリストにドリームメンバーとして登録される仕組みとなっている。4月の募集では神奈川県在住の小学5~6年生を対象としていたが、反響の大きさから5月の募集ではエリアが日本全国に拡大された。さらに6月からは常設化され、対象学年も小学1~6年生へと拡大されている。

山形でも5月から「MYStarプロジェクト(マイスタープロジェクト)」をスタートさせた。YouTube(限定公開)に投稿したプレー動画をトップチームのスカウトやアカデミーのスタッフが確認する流れは湘南と同様だが、山形では「チャレンジステージ」と「セレクトステージ」の2つに分けている。前者は小学4~高校3年生までを対象として、初心者から上級者までプレーレベルを問わずメールなどでアドバイスをもらえる。後者は小学5~6年生、中学2~3年生で、ジュニアユース、ユース、将来的にはプロとして活躍したいという選手に対するオンラインスカウトの場となる。

松本山雅FCでも中学3年生を対象に、ユースの選手を募集することを発表している。

実は世界のサッカー界ではオンラインスカウト用のアプリが多数開発されており、いくつかのリーグやクラブではすでに導入が進んでいる。これまでは世界中にスカウト網を張り巡らし、有望な選手がいれば本部に報告するというやり方が常識だった。だがこれまでなら見逃されていたかもしれないダイヤの原石も、選手が自ら売り込むことも容易になるわけで、移動の制限が続くかもしれないWithコロナの時代においては、こうしたオンラインスカウトが一気に主流になっていくのかもしれない。

新しいファンをいかに増やしていけるか

プロスポーツクラブの経営において、ファンは決して欠かすことのできない存在だ。ファンが直接お金を払うチケットやグッズの収入はもちろん、ファンがいるからこそスポンサー収入や放映権収入も成り立つ。

新規ファンの開拓、特に子どもにファンになってもらうことは重要な施策の一つだ。子どもがファンになれば家族単位でファンになることにつながり、小さいころからスタジアムで応援する習慣が身に付けば、この先、何十年にもわたって長くファンであり続けてくれる可能性が高まる。コロナ禍の前からJリーグの各クラブは子どもへ積極的にアプローチしていたが、今後もその傾向は変わらないだろう。

これまで、Jクラブと子どもたちの接点といえば、サッカー教室や学校訪問が主流だった。それらは今後も変わらずに続けていければもちろんいいが、Withコロナの時代において、必ずしも今まで通りにはいかなくなるかもしれない。回数や参加人数が減る可能性もある。オンラインも含め、どうやって子どもにアプローチしていくのか、新たな発想が求められていくだろう。

今回は新規ファンを獲得して裾野を広げるという横軸で見てきたが、次回はファンとの関係性をどう深くしていくかという縦軸で見てみたい。

(⇒続きはこちら)

<了>

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