
6000万人視聴のコスタリカ戦で失した日本代表の気迫と執念。乾坤一擲のスペイン戦へ、森保監督・吉田・長友の覚悟と決意
日本時間12月2日、日本代表は2大会連続の決勝トーナメント進出へ、大一番を迎える。国内での注目度が上がらない中で、FIFAワールドカップは開幕した。4度の優勝を誇る強豪ドイツを相手に番狂わせを演じ、様相は一変した。続くコスタリカ戦には、6000万もの日本人が注目した。時間とともに勇敢さを失い、気迫と執念で上回られて敗北を喫した。日本サッカーの未来を切り拓くには、グループステージ突破が求められる。スペインを撃破し、その先へと歩みを進めるには――。指揮官と二人のベテランは、覚悟と決意を口にする。
(文=藤江直人、写真=Getty Images)
「日本は根本的にサッカーに対する熱がないんじゃないか」。久保建英の見立て
21歳にして初めて臨むワールドカップへ向けて、開催国カタール入りした直後の久保建英(レアル・ソシエダ)が実に興味深い言葉を残している。人気の低迷ぶりが指摘されて久しい日本サッカー界にとって、今回のFIFAワールドカップが起爆剤になるかと問われたときだった。
「サッカー人気が低迷しているというよりは、そもそも何て言うんでしょう、他の国と比べて日本は根本的にサッカーに対する熱がないんじゃないか。こういった点は、今回のワールドカップが近づくにつれて、僕が正直に思っているところなんですね」
スペインの地でプレーして4シーズン目を迎えながら、遠く離れた母国におけるサッカーへの熱量をリアルタイムで把握していたのか。久保は熱量が上がらない理由にも続けて言及した。
「日本はいい意味で豊かなので、成り上がろうと思ったときにもうサッカーしかないとか、スポーツの中でサッカーが一番いい、というわけでもない。いい意味で枝分かれしていて、いろいろな選択肢が子どもたち対してある中で、正直、今は自分が何を言ったところで、サッカーに興味を持ってくれる子どもは多くならないと思っています」
サッカーに対する熱量の源泉を、子どもたちが抱く興味に求めた独自の分析。その上で今回のカタールワールドカップを次のように位置づけた。
「自分たちにできるのは、今回の大会で少しでもいい結果とともに強い日本代表を見せていくこと。これが一番の近道かなと思っています。例えばブラジルやスペイン、ドイツなどでもそうですけど、やっぱり強い国では子どもたちもサッカーをやりたいと思うじゃないですか。なので、そういう列強といわれるような国に日本がなっていくしか、選択肢が多過ぎる国の中でサッカー人気を取り戻すのは難しいんじゃないかなと僕は思っています」
コスタリカ戦は“にわかファン”を一気に取り込む千載一遇のチャンスだったが…
果たして、日本は久保の言う近道に乗りかけた。4度のワールドカップ優勝を誇る強豪ドイツ代表から勝利、しかも森保ジャパンではわずか3度目となる逆転劇でもぎ取った23日のグループステージ初戦。世界を驚かせた世紀の大番狂わせは、日本国内の状況をも大きく変えた。
攻守ともにドイツの後塵(こうじん)を拝し続けた絶望的な前半から一転、システム変更だけでなく、攻撃的な選手を惜しまずに投入した森保一監督の積極的な采配が的中。共に途中出場のMF堂安律(フライブルク)、FW浅野拓磨(ボーフム)がゴールをたたき込んだ展開はそれだけ痛快無比だった。
中3日で迎えたコスタリカ代表との第2戦。27日は日曜日であり、しかもキックオフされたカタール時間の13時は日本時間では19時のゴールデンタイム。代表を応援し続けたコアなファンだけでなく、ドイツ戦をきっかけに興味を持った層を一気に取り込む上で絶好の状況が整っていた。
結果から先にいえば、テレビ朝日系で生中継された日本対コスタリカ戦の関東地区の平均世帯視聴率は42.9%と、他局を含めて2022年で最高の数字をマーク。瞬間最高視聴率に至っては53.8%をマークした。
さらにこの試合を生配信したインターネットテレビ局『ABEMA』の視聴者数も、開局以降で最多となる約1400万人を記録。テレビ朝日の推計では地上波との合計は約6080万人に達し、国民の半分近くが森保ジャパンの戦いぶりを見守る近年まれに見る状況が生まれた。
ミスの連鎖でコスタリカに献上した決勝点。だが問題点はそれ以上に…
サッカー人気を再び右肩上がりに転じさせる千載一遇の舞台で、しかし、日本は0-1で敗れた。初戦でスペイン代表に大量7失点を喫し、攻めてはシュート数ゼロに封じられたコスタリカの堅守を最後まで崩せず、ミスの連鎖から81分に決勝点を献上してしまった。
日本から見て左サイドから、MF三笘薫(ブライトン/イングランド)の軽い守備が相手の突破を簡単に許した。DF伊藤洋輝(シュトゥットガルト/ドイツ)がはね返したこぼれ球をゴール前からつなごうとして中途半端に短く、方向もややアバウトなロビングパスを送ったDF吉田麻也(シャルケ/ドイツ)の判断ミスも続いた。
パスのターゲットだったMF守田英正(スポルティング/ポルトガル)も、セカンドボールの奪い合いでスライディングを選択する。先に触ったボールは、しかし、目の前に迫ってきた相手に当たって日本のゴール前へ転がる。しかも体勢を崩していた守田は、対応ができずに入れ替わられてしまう。
最初のロングボールの標的だったDFケイセル・フレールへ、すかさずスルーパスを通される。しかし、はね返した後に緩慢な動きを見せ、ラインを押し上げていなかった伊藤が反応できない。
右足のトラップからフレールが左足でコントールショットを放つ。GK権田修一(清水エスパルス)が必死にダイブしたが、反応そのものがわずかに遅れ、しかも両手で触りにいったためにパンチングできない。権田の両手をかすめた一撃が、ゴールへゆっくりと吸い込まれていった。
コスタリカが放った枠内シュートは、唯一の得点となったこの1本だけだった。トータルでもわずか4本だったのに対して、日本は3倍以上の14本のシュートを放つもゴールはあまりも遠かった。ミスの連鎖による失点以上に、引いた相手を攻めあぐねた攻撃が全てだった。
開幕前から示唆されてきたターンオーバー構想はブレずに実行
森保監督はシステムを[4-2-3-1]のまま、ドイツ戦から先発を5人変更した。左太ももの裏を痛めた右サイドバックの酒井宏樹(浦和レッズ)を山根視来(川崎フロンターレ)に替えた以外は、日本から応援するファン・サポーターや海外を含めたメディアに受け入れられたとは言い難い。
1トップに上田綺世(サークル・ブルッヘ/ベルギー)、2列目の左サイドに相馬勇紀(名古屋グランパス)、右サイドに堂安が名を連ねた前線は、トップ下の鎌田大地(フランクフルト/ドイツ)以外は初戦から総入れ替えとなった。しかし、前半は見せ場をほとんどつくれなかった。
日本が放った2本のシュートは枠を捉えられない。長めに取られる傾向にあったアディショナルタイムもわずか1分と、プレーがほとんど止まらない、静かで波がない展開が続いた。ベンチスタートだったMF伊東純也(ランス/フランス)は、試合後に前半をこう振り返っている。
「前線のメンバーがほとんど替わって、コンビネーションの部分が難しかったのかな、と」
今大会の開幕が近づくにつれて、森保監督は幾度となくグループステージでのターンオーバーを示唆している。中3日で3試合を戦う上、強敵ドイツとの初戦で心身を消耗させると判断したからだ。
しかし、難敵だったそのドイツに勝った。最高のスタートを切った日本は、続くコスタリカとの第2戦でも勝利すれば、同日に行われるスペイン対ドイツの結果次第で決勝トーナメント進出を決められる。しかし、指揮官は温めてきたターンオーバー構想を変えなかった。
「穏やかな波の中で日々過ごせている」。指揮官は一喜一憂しない重要性を強調
コスタリカ戦から一夜明けた28日の練習前に、急きょセッティングされた囲み取材。森保監督はコスタリカ戦を含めた、グループステージの戦いをあらためてこう語っている。
「3試合を戦って、初めてこのグループEを突破できると想定していました。なので、次のスペイン戦へ向けても準備していく部分では変わりません」
森保監督は同時に、カタールの地で待つ戦いに対して「一喜一憂しない」と強調してきた。どのような展開になろうとも、長い時間をかけて積み重ねてきた準備を実践するという決意表明でもある。
「上がったり下がったりと、まさにジェットコースターのようにはならないということ。結果はどうであれ、1戦目にしても2戦目にしても過去のことは全て次の試合に向けた糧にすると、成果も課題も全て建設的にポジティブ変換すると決めてここまできた。いろいろな考え方や見られ方がありますけど、自分の中ではあまり変わらないというか、穏やかな波の中で日々を過ごせている」
コスタリカはスペイン戦で[4-4-2]だったシステムを、日本戦では[3-4-2-1]に変えてきた。状況によっては5バックになって、まずは失点の連鎖を断ち切る試合運びを優先させた。しかし、コスタリカのカウンターを警戒するあまりに、日本も有効な縦パスをブロックの隙間へ通せない。
必然的にブロックの周囲で無難なパスをつなぎ続け、結果として前半のアディショナルタイムが極端に短くなった。選手たちは「最初から引き分け狙いはしない」と異口同音にコスタリカ戦を見据えていたが、時間の経過とともに勇気や勇敢さが失われていった。
「分かっていたはずなのに、一番起きてはならない展開になった」
「若い選手だけじゃなくて、僕自身もそういう雰囲気になっていった感じがある。これはベテランである僕や麻也がそうした状況を感じ取って、チームを統率して前を向かせなければいけない。そういう展開に変えられなかった責任は、僕を含めたベテラン選手にあると感じている」
長友が自らを責めれば、キャプテンの吉田も同じニュアンスの言葉を紡いだ。
「ドイツに勝利してから、この試合が難しくなるのは間違いないと思ってきた。その中で自分自身にもチームにも『準備できているか』と問い続けてきた。分かっていたはずなのに、一番起きてはならない展開になった。これがサッカーの難しさだとあらためて感じているし、たくさんの批判が起こると覚悟もしている。ただ、大きくて注目される大会で批判はつきものだし、それをマネージできなければここには立てない。もう一度、立ち上がらなければいけない」
日本国内からの批判は吉田に対してだけでなく、3バックの左ストッパーとして後半から投入されるも結果としてバックパスを選択するプレーが目立った伊藤や、前半だけで代えられた上田ら、ワールドカップの舞台で初めてプレーした選手たちにも向けられた。
いつも以上に膨らんだ期待の反動ならば、批判もまだ受け入れられる。それとは次元を超えて、あまりにも残念な事態が生じていると察することができた。堂安が表情を引き締めながら言う。
「1戦目を見てファンになってくれた人も大勢いると思うし、今日のこの試合を見て少しがっかりした方ももしかしたらいると思う。その人たちを3戦目でもう一回とりこにして次へ進みたい」
前半の途中から、選手は交代せずに3バックへ移行。前線からの守備をはめ、停滞していた状況の打開を図った森保監督は、後半から長友に代えて伊藤を投入。3バックに高さと左足によるフィード力を加え、さらに攻撃的な選手を次々と投入し、特に失点後には三笘のドリブル突破から決定機をつくり出したが、コスタリカのゴールをこじ開けられなかった。
まだ何も成し遂げていないし、何も失っていない。スペインとの最終戦で決まる
何がなんでも勝つという気迫や執念も含めて、ワールドカップの戦いで生き残ろうと必死だったコスタリカに上回られた感は否めない。見ている側の琴線に触れる部分を欠いた末の黒星を、森保監督はこう振り返った。
「どのような結果になったとしても、ワールドカップ代表の26人を選んだのも、試合に向けた起用を決断したのも私だし、戦術的な要求や選手個々に要求するプレーも私が決めている。選手たちのプレー全てに対して私に責任があるが、これからも最善の準備をする部分は変わらない。地味で当たり前なことをしっかりやり続けることで、ドイツ戦の勝利のような大きな成果や結果にもつながっていく。その部分は、スペイン戦へ向けても変わらない」
第2戦を終えた段階でまだ何も成し遂げていないし、何も失っていない。スペインとの最終戦に勝てば無条件で決勝トーナメント進出が決まり、引き分けならば同時間帯に行われるドイツ対コスタリカの結果に委ねられ、負ければ自動的にグループステージ敗退が決まる。
「チャンスはそこまで多くつくれないと思いますけど、まったくつくれないこともない。まずはしっかり守って、相手がバランスを崩したときに生じるギャップや隙を突いていきたい」
ボールポゼッションで圧倒されると覚悟するスペインの攻略法を、長友はカウンターに求めた。吉田は国を背負う戦いで、あらためて原点に返らなければいけないと決意を新たにした。
「焦らないことと、いま一度、泥臭く戦わなければいけない。コスタリカも、スペインに大敗した次のこの試合で文字通り国を懸けて、球際も本当にガツガツと来ていたので」
運命のスペイン戦は12月1日22時(日本時間同2日午前4時)に、ドイツを撃破した衝撃が色濃く残る、ドーハ郊外のハリーファ国際スタジアムでキックオフを迎える。
<了>
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