長谷部誠と岡崎慎司が本音で語る、現役生活と引退。「よくあの立場でやれてるなぁ」「才能はそんなにないと思うんですけど (笑)」
2024年5月、日本サッカーが世界に誇る2人のレジェンドが現役ラストマッチを迎えた。40歳という節目で現役を退いた長谷部誠と、38歳の岡崎慎司だ。長谷部は2008年から今季終了まで長くドイツでプレーし、ヴォルフスブルク時代の2008-09シーズンにブンデスリーガ優勝、フランクフルトで2021-22シーズンにUEFAヨーロッパリーグ優勝を経験。岡崎はドイツ、イングランド、スペイン、ベルギーと欧州各国を渡り歩き、イングランドのレスター時代の2015-16シーズンにプレミアリーグ優勝を果たしている。お互いを「ハセさん」「オカちゃん」と呼び合う盟友である2人は、自身の引退とどのように向き合い、それぞれの現役時代をどのように評価したのか。
(文=中野吉之伴、写真=松岡健三郎/アフロ)
一日違いのラストマッチ。それぞれの思いと敬意
日本サッカー史にまぎれもなくその名を刻んだ元日本代表キャプテンの長谷部誠と、代表通算50ゴールの歴代3位の記録を持つ岡崎慎司が、その現役生活に別れを告げた。
そして、くしくも一日違いのラストマッチ。一日早く試合に臨むことになった岡崎は、「ハセさんは明日ですね。かぶらなくてよかった(笑)。持っていかれちゃう」と笑い、その話を翌日に記者から聞いた長谷部は「いやいや、持ってくも持ってかないもないですよね(笑)。オカちゃんはオカちゃんの素晴らしいキャリアを残したので、心から祝福を送りたいと思う。僕は僕で多くの人に支えられながらやりました」と返していた。
岡崎は長谷部が「よくあの立場でやれているなぁ」と思っていたという。岡崎はこのように続ける。
「3年くらい前までバリバリ中心でやってた選手で、そのあとは困ったことがあったら『長谷部頼むわ』みたいな状況でずっとやってたじゃないですか。でもそうした状況もちゃんと理解してやれる選手だから、クラブもそういう立ち位置で信頼していたのかなと思うんです。それでいてヨーロッパリーグの決勝で途中出場から活躍して、優勝して。やっぱりすごいなと思いましたね。普通、『いつでもいけるように準備しといて』って言われても、普通あんないきなり入ってすぐできるもんじゃない。達人の域って感じでしたね」
そのように岡崎から評価された長谷部だが、今シーズンに入って出場機会が激減していた。チームのバランスがうまく取れず、「困った状態」になっていても、なかなか声がかからない。2月のドイツ・ブンデスリーガ第22節フライブルク戦で今季リーグ戦初スタメンを飾ったが、その後も状況は変わらない。試合に出られない時期が続くなか、長谷部にとってフィーリングを失ってくる難しさに直面していたという。
「コンスタントに試合に出ていたらフィーリングがあるんですよ。ただ、今シーズンは試合にコンスタントに出ることがなくて……。それ(フィーリング)を失うとすごく難しさを感じたし、だからそういう意味で言えば、現状でもコンスタントに試合に出られたら自分はいいプレーができるという自信を持ったままやめられるということではあります」(長谷部)
そして引退表明をした直後の第30節アウグスブルク戦では直前まで長谷部がスタメンで出場する予定だったということを明かしてくれた。来季の欧州カップ戦の出場権を争う意味でも絶対に落とせない大事な試合。
「試合当日の朝までは自分が先発で出る予定だったんですけど、最後の最後で監督がそこを変えて……。結局、先発じゃなかったですけど、チームの中でまだ重要な存在というか、そういう大事な試合に出るというところに居られたというのはもちろんいいことだと思います。ただ、シーズンを通してコンスタントに出ていなかったので。ちょっと難しかったなというのはありますね」(長谷部)
「才能はそんなにないと思うんですけど(笑)」「心から尊敬している」
年齢とともに選手のコンスタントな起用は難しくなると監督は考えるかもしれない。誰だって少なからずの先入観を持ってしまうだろう。ブンデスリーガ現役最年長である長谷部以外に40歳になってもフィールドプレーヤーとしてプレーしている選手はいないのだから。岡崎はそのあたりにもどかしさを感じていた。
「何度も思ったんですよ。『なんでハセさんを使わないんだろう』って。もう全部年齢じゃないですか。クラブ的に若い選手たちを起用して経験させて上に上げていくっていうのもあるだろうし、ポテンシャルを見てる部分もある。けど現段階では絶対ハセさんが出たほうが勝てる可能性が高かった試合があったと思うんです。メンタル的にブレない、左右されない選手だけど、ハセさんなりに悔しい思いをいっぱいしたと思うんです。そのへんは僕にはわからないですけど……」(岡崎)
岡崎にとって長谷部は苦しい時に道を指し示してくれる存在でもあった。長谷部のキャリアを振り返るとすべて順風満帆だったわけではない。膝の負傷に苦しみ、出場機会がない時期だってあった。ヴォルフスブルク時代は優勝に貢献したが本職のボランチでは出られず、さまざまなポジションで起用され、タスクもまちまち。当時の2人の会話を岡崎が振り返る。
「ハセさんが、『そんなときは次の日、山走りに行ってるよ』と話していて。当時僕もシュツットガルトで同じような感じだった。『そうやって自分を奮い立たせるのが普通だよな』って、共感することができたんです」
一線級の舞台で戦う者同士だから分かり合える。互いに刺激を与えながら戦ってきた。長谷部は岡崎の引退についてどう思っているのだろう?
「オカちゃんにはだいぶ前に連絡をもらって、『やめます』って。僕も引退を決めてから、オカちゃんに連絡して。オカちゃんと同じ時代にサッカーできたのは僕としても大きな財産です。変な意味じゃなくて、才能はそんなにないと思うんですけど (笑)、ただ、あそこまであの才能でいけるっていうのは本当にすごいこと。サッカーに対する情熱とか、サッカーをよく考えている、勉強してやってることとか、あとはメンタル。そういう技術とかフィジカルじゃない部分であそこまでいってる選手なので。心からオカちゃんのことは尊敬している」(長谷部)
リベロとして新境地開いた長谷部。岡崎のFWとしての理想像
長谷部がフランクフルトでリベロとして覚醒したように、岡崎も自分が輝く理想のストライカー像を持っていたという。FWとしてさまざまな経験を積み重ねる中で自分の力を最大限に発揮できるイメージがつくり上げられていった。
「レスターでやってたみたいに、トップ下だけどFWにもなれる。ボールを受けたり、守備で助けたり、全部やりながらも、最後のところでチームメイト全員が俺のことを見てくれていたら、絶対ゴールを決められるっていう自信があったんです。ウェスカのときにはそうしたイメージ通りの選手になりかけていた」
だがチームが変われば状況も変わる。ウエスカではスペイン2部から1部へ見事昇格を果たしたが、1部では他クラブとの力関係も違ってくる。理想像は見えているのにそれができず、FWというポジションもあって、思うように主導権を握れないようになってしまったという。
「そう思うとハセさんは年齢とともに最終的に僕がたどり着けなかったところにたどり着いたのかなぁと思ったりします。正直うらやましかったですね。プレー面でも、ポジション面でも、達人っていうか、職人っていうんですかね。3センターバックの真ん中をやらしたら、身体能力とかそういうのも(他の部分で)カバーして、周りをさらに上の高みに連れていく存在。40歳までやってあそこまでいける人って、なかなかいない。本当にすごいなと思います」
そんな岡崎は現役引退を機に、気持ちをスパッと次のチャレンジに切り替えている。欧州の地で指導者を目指す意向であることを明言しており、「新しいチャレンジが始まる」と充実感を浮かべていた。長谷部もそうなのだろうか? 秋からU-19かU-21でコーチをする予定だとされている。
「いやぁ、僕は……正直、まだ何もないですね。何もないというのは、サッカーしかしてこなかったので。アイントラハト(フランクフルト)に残って休みをもらって、秋から(コーチとして)始めるんですけど、それが本当に自分のやりたいことなのかは正直まだ定まっていないところもある。オカちゃんはそれを明確に見つけている感じはあった。そういう気持ちでやめられるのは素晴らしいことだと思う。僕はもうちょっとしっかり休んで考えたいなと思います」(長谷部)
岡崎と長谷部。ポジションも違えば、キャリアの歩み方も違う。考え方だって、気質だって違うところが多々あるだろう。それでもサッカーへの思いは、どんな困難にも立ち向かう気概は、どちらも最高レベルに熱かった。
「またゆっくり2人で会う機会があったらうれしいですね」
長谷部はそう言って笑った。2人でどんな話をするのだろう。周りのみんなが心配するほど熱く語り合ったりするのだろうか。そこでの2人の会話から日本サッカーを明るく照らすようなアイデアが生まれたりするのかもしれない。そんなことを想像するとなんだかワクワクしてくる。
<了>
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