CBとFWという異色の二刀流・高橋はなの美学。「世界一のファン・サポーター」と目指すWEリーグ3連覇

Career
2025.04.17

WEリーグやなでしこジャパンでは、複数ポジションをこなせる選手が多くいる。一方、センターバックとフォワード、攻守両面で圧倒的な存在感を示す存在は唯一無二と言える。WEリーグ・三菱重工浦和レッズレディースの高橋はなは、堅実な守備力と、鋭い決定力を兼ね備え、常に進化を追い求める姿勢でチームを牽引してきた。その原動力と、具体的な練習メニューとは?「変革とWEリーグ3連覇」の両立を目指すチームで、攻守にわたる挑戦を続ける“二刀流”の真髄に迫った。(取材日:4月10日)

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=松尾/アフロスポーツ)

「シュート練習が好き」。二刀流に込めた覚悟と挑戦

――高橋選手は今季のWEリーグ前半戦はセンターバック(CB)を主戦場としていましたが、フォワード(FW)での出場機会が増えた第8節・広島戦以降はコンスタントにゴールを決め、リーグでも得点ランク3位につけています。ご自身ではこの結果にどんな手応えを感じていますか?

高橋:FWとして出場した試合の得点数だけを見たら、正直少ないと感じています。チームとしても得点力は課題として追及しているので、1試合1点は決めたいという思いは常にあります。

――限られた練習時間の中で、両ポジションに対応するためにどんな工夫をしていますか?

高橋:チームの練習では守備のメニューが中心になりますが、練習後の自主練ではずっとFWのトレーニングを続けています。特にシュート練習が一番好きなので、CBとしてプレーしている時期でも、そのリズムは変えていません。

――代表でもレッズレディースでも、点がほしい試合や局面でFW起用されることがありますが、自分からFWでの出場をアピールしている部分もあるのですか?

高橋:そうですね。もともとFW出身なので、CBでの出場が増えていた中で、(レッズレディースの)楠瀬直木前監督が両ポジションで起用してくださり、FWとしても評価してもらえる機会が増えたのは本当にありがたかったです。「FWの選手が足りなかったら自分、入りますよ」って、さりげなくアピールはしていました(笑)。でも、口だけじゃやらせてもらえないので、自主練でアピールするんです。CBの選手がわざわざシュート練習はしないですよね。だからこそ、シュート練習で「どんなボールでも決める」という姿勢を見せて、印象づけるようにしています。あとは、パワープレーでFWとして出たときに、限られたチャンスをいかに決め切れるかという準備はしてきました。

――FWで出場した際、世代別代表の頃と比べて点を取る難しさを感じる場面もありますか?

高橋:ありますね。そもそも守備と攻撃では全然違うので、難しさはあります。でも、どちらで起用されたとしても、「練習していなかったからできなかった」は言い訳にしかならないと思っています。だからこそ、いつどこで起用されてもいいように準備する必要があるし、そのイメージを持って練習しています。代表の(4月6日に行われた)親善試合のコロンビア戦では、短い時間の出場で(終盤に決めた)PK以外で大きな結果は残せませんでしたが、少しの時間でもFWで出られたことはうれしかったです。

――逆に、CBとして喜びを感じるのはどんな瞬間ですか?

高橋:自分の狙い通りに対人守備でボールを奪えたときはやりがいを感じます。でも、やっぱりチームとして無失点で勝てたときの達成感が一番大きいですね。

シザース、フェイント、ワンフェイク。得点への執念と心理戦

――限られた時間の中でFWとして結果を出すために、どんな工夫を取り入れていますか?

高橋:いろんな選手の特徴を観察して、試合の最後の局面をイメージしながら、とにかくシュート練習では数をこなしています。チームでは(猶本)光さんや(安藤)梢さんにシュート練習に付き合ってもらったり、(安藤が中心となって行う自主トレ)“安藤塾”には10代の頃から機会があれば参加したりして、コツを学ばせてもらってきました。自分がCBとしてプレーしていて、「ここに撃たれると嫌だな」という感覚があるので、それを活かして、試合でもワンフェイクでシュートを打ったり、股を狙ったりするプレーを意識しています。シザースやフェイントの形からのシュートもよく練習しています(笑)。

 

 キーパー目線のアドバイスも大きいです。(正GKの池田)咲紀子さんだけでなく、伊能(真弥)や福田(史織)など、若手も含めて自主練に付き合ってもらっています。「このコースに蹴られると嫌だ」といった意見を聞きながら、自分も「ここが空いていた」と伝えて互いに高め合っています。

――試合では多彩な形で得点していますが、自分の中で得意な形はありますか?

高橋:練習で繰り返しやっている形が試合にも出ると思うので、いろんなシチュエーションを想定してトレーニングしています。相手や状況に関係なく、「この形になったらこのコースに打つ」という感覚が体に染みついています。

――途中出場やポジション変更の中でも、何かしてくれそうな期待感があります。ご自身の調子を測るバロメーターや、安定させるために意識していることはありますか?

高橋:特に前線で出るときは、試合の最初にスライディングを一発入れて、そこでスイッチを入れます。「絶対にゴールを決めるぞ」という気負いではなく、まず守備でガツンといければ自然と気持ちも入ってくるので、それを意識しています。それは、逆に自分がCBのときにやられたら嫌なことでもあるので。

――「この強度で来るのか」と相手が身構えるようなプレーですね。

高橋:そうです。そこでボールを奪えなくても、「この選手、入りからこんなにガツガツ来るのか」と思わせられればいいなと。ディフェンダーはミスが失点に直結するポジションなので、比較的真面目な選手が多いと思います。だからこそ、強いプレッシャーをかけてメンタルに揺さぶりをかける。それも一つの駆け引きだと思っています。

――心理戦は、両ポジションを経験している中で磨かれたスキルですね。性格的にはFWとCB、どちら向きだと感じていますか?

高橋:タイプ的にはFW向きではないと思います。もちろん点を決めて活躍したい気持ちはありますが、「自分が決めたい」というより、「チームが勝てばいい」という気持ちが勝ってしまうので、「ザ・FW」というタイプではないな、と感じます。

「全部が伸びしろ」チャレンジ精神が強さの原動力

――チームメートの石川璃音選手が「対人の強さが本当にすごい」と話していて、国内では高橋選手をフィジカルの基準にしているそうです。コンディションを維持するため、普段の食事や睡眠などで気をつけていることはありますか?

高橋:私は逆に璃音を基準にしていますけどね(笑)。体は食べたもので作られるので、食事と睡眠は意識しています。普段は自炊しているので、自分で勉強したり、トレーナーの方に相談したりしています。2歳上の兄がサッカーをしていて筋トレ好きなので、栄養面についても教えてもらっています。

――お兄さんとの対人トレーニングで強さを磨いたエピソードも有名です。

高橋:兄は高校までサッカーをしていたので、最近はなかなか一緒にトレーニングする機会はないですが、たまにやることはあります。ただ、まだ1対1では勝てません(笑)。

――対人の強さやフィジカル、ヘディング、守備力、リーダーシップなど、さまざまな持ち味があると思いますが、攻守を含めてご自身の一番の強みはどこだと思いますか?

高橋:大前提として、私は自分のことを本当にサッカーが下手だと思っています。フィジカルといってもスピードは普通ですし、日本では身長がある方なのでフィジカルが強いと言われますが、世界と比べれば全然です。だから、自分が特別に優れていると思ったことはなくて、できないことばかりだからこそ「全部が伸びしろ」だと思えるし、そのステップを楽しいと思えるんです。

――「技術ゼロ、気持ち200のプレースタイル」と以前話していましたが、その気持ちが原点にあるのですね。

高橋:そうです。今は失うものがなくチャレンジあるのみなので、チーム戦術に沿いながらも、失敗を恐れずにトライしています。できなくても落ち込まず、「なるほど」と学んで、「次はこれができる」と思える。そういうチャレンジ精神や魂を込めたプレーが、私の持ち味だと思います。

――その考え方は、いつ頃から身についたのですか?

高橋:ユースの頃から変わっていません。もちろん、ミスが怖い時期もありましたし、前線で決定機を外して負けたり、守備でミスして失点し、それが負けにつながったこともあります。でも両方を経験したからこそ「過去は変えられない。だったら怖がって何もしないより、やってみよう」と思えるようになりました。

――その中でも、自分を変える転機になった経験はありますか?

高橋:ミスをして、その都度「悔しい」、「申し訳ない」と責任を感じることはありましたが、「自分を変えなきゃ」と思ったことはないですし、壁を感じたこともないんです。だから、ターニングポイントと呼べるものはないかもしれません。

勝利か、進化か。レッズで挑む「変革と3連覇」の両立

――レッズレディースは3月末に監督交代があり、16節のINAC神戸レオネッサ戦から堀孝史監督が指揮を執っています。新しいサッカーへの取り組みについてどう感じていますか?

高橋:堀監督のスタイルをチームに落とし込んでいる段階で、新鮮に感じている選手も多いと思います。練習ではうまくいかない場面もありますが、いかにポジティブに捉えて実践できるかが大事だと感じます。選手同士のコミュニケーションも増えるでしょうし、攻撃のパターンが増えたり、考え方の変化も出てくると思うので、武器が増えていくんじゃないかなと。私はどのポジションに入っても、イメージの共有をしっかりしていきたいです。

――16節の神戸戦では、最終ラインからフィードを狙う場面が印象的でした。新たなチャレンジの一つですか?

高橋:そうですね。それもチャレンジの一つですし、大きく言えばフォーメーションも少し変わったので、それによってサッカーの内容も変わってくると思います。

――短期間で新しいスタイルを確立しながら、3連覇も目指さなければいけない。チャレンジと結果との両立は難しさもあると思います。

高橋:そうですね。負けられない試合ばかりの中で、新しいことにも挑戦しているので、もちろん怖さはあります。でも進化を止めてはいけないし、今は新たなチャレンジを取り入れている時期なので、すぐに結果が出るとは限らないけれど、仲間を信じて、やるべきことに集中して試合に臨みたいと思っています。

仲間とサポーターと、再び頂点へ

――リーグ戦も終盤に差し掛かっています。改めて、優勝への想いを聞かせてください。

高橋:どんな時でも応援してくれるレッズレディースのファン・サポーターの皆さんには、本当に感謝しています。世界一のサポーターがついてくれていると思うと頑張れますし、チーム、選手、スタッフはもちろんですが、いつもイメージしているのは、サポーターの皆さんと一緒に喜びを分かち合うことです。

――得点ランキングでも上位に食い込める位置にいますね。

高橋:私が点を取ればチームが勝てるので、FWで出る時には「絶対に得点する」という思いでゴールを狙いたいです。

【連載後編】ニルス・ジャパンで高橋はなが体現する“国内組の矜持”。「WEリーガーには世界と戦える力がある」

<了>

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