アスリートのポテンシャルは“10代の食習慣”で決まる! 「栄養素はチームじゃないと働かない」

Training
2023.11.29

アスリートのポテンシャルは、ジュニア世代や10代までの食習慣がカギになると言われる。スポーツ栄養士の石川三知氏は、子どもたちがしっかりした骨や筋肉を形成し、選手としての可能性を広げるために「まず、体の仕組みを知ることが大切」と言う。「噛む」ことや消化機能の高め方、「好き嫌い」への対策や気をつけた方がいい食べ物など、伸び盛りのジュニアアスリートやその保護者たちが知っておきたい、カラダ作りの大切なポイントについて石川氏に話を聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=©URAWA REDS)

「咀嚼」の重要性を知って食事への意識が変わる

――プロアスリートを目指す子どもたちが、ジュニア世代の食習慣で気をつけた方がいいことはありますか?

石川:まず、食べる姿勢が大切です。窮屈になる必要はありませんが、いわゆる正しい姿勢で食べて欲しいです。食べ物は体の一部になるまでには、口から栄養素を吸収する小腸まで移動する必要があるからです。背中を丸めたりせず、消化管が動きやすい状態を整えることが大切です。それから、よく噛むこともすごく大事です。理想は噛むところがなくなるまで噛んでそれを嚥下(飲み込む)して先に送ることが重要です。まず一口15回ずつ噛んでみてください。あっという間に終わったと感じたら、普段から噛めているし、「まだ噛むのか」と感じるようだたら、普段の咀嚼回数が足りていないのだと思います。

――石川さんは「食べる」ことについて体の仕組みから理解することが大切とお話されていましたが、「噛むこと」の大切さについてはどんなふうに考えたらいいんでしょうか。

石川:消化には、大きく分けて「機械的消化」と「化学的消化」という2つがあるんです。機械的消化は、食べ物を砕いて、細かくして先に進ませるものです。小腸に届かせるために、まず食べ物を先に進ませることが必要ですよね。「化学的消化」は、食べ物が消化液に触れて変化していくことです。例えばお肉などのたんぱく質食品は胃液で消化が始まるのですが、自分で胃液を出そうとしてもできないですよね。でも、しっかり咀嚼していると唾液を出すことができますよね。実は、唾液がしっかり出ると、脳がそれを感じて、1回の消化に必要な2、3割の胃液を先に分泌させるんですよ。そこに噛んで細かくなり、表面積の増えた食べ物が入ってくると胃液に触れやすくなりますし、胃の運動が活発になることもわかっています。胃が動くと、次は胆嚢から胆汁、すい臓からすい液、最後の小腸で腸液と順に分泌され、例えばお肉だったら、それらの過程を経ることでアミノ酸という最小単位に変化して腸の壁から吸収されていくシステムになっています。噛むことは消化吸収のシステムにスイッチを入れる作業なんです。これは、幼稚園生や小学生にも必ず伝えるんですよ。

――最初のスイッチがしっかり入れば、消化しやすくなるんですね。

石川:そうです。つまり、消化液を分泌させることも、食べた物を消化管の先に進ませることも自分の意思ではできないけれど、それが唯一できるのが、口の中です。噛んで唾液を分泌させること、細かくして嚥下すれば、口から胃の入り口までの短い間でも先に進ませることができます。消化管も筋肉でできているので、長い消化管の最初のところを動き出させれば、動くスイッチが入るんです。

――噛むことの意味が腑に落ちると、毎回の食事への意識も変わりそうですね。石川さんがサポートしてきたアスリートの皆さんも、こういうことを理解していく中で行動が変わっていったのですか?

石川:行動変容には思いの変化が必要です。こういった科学的なこととか体の仕組みを知って納得してもらうことが大切ではないかと思います。「これをやったらすごく得するんじゃないかな?」と思ってその成果を体感すれば、さらに真剣に取り組むようになりますから。

 プロは生活がかかっているし、アマチュアの選手だってタイトルや代表への道がかかっていますから、最初は人の言うことを鵜呑みにはしません。ですから、そこでちゃんと信用してもらえる情報提供が大切だと思っています。彼らが結果を出すために、私が学んできたこととか、持っている情報を活用したいと思ってもらう。その上でパフォーマンスが良くなるようにして、個人やチームの勝利にコミットするのが私の仕事です。だから、「何を食べればいい」ということだけを伝えるのではなくて、結果を出せる体になるための食べ方の根拠を伝えることをいつも大切にしています。

強い骨を作るためにはタンパク質やご飯も重要

――アスリートの身長やパワー、スタミナなどのポテンシャルを高めるためには、若い頃の食事は重要ですよね。何歳ぐらいまでが、その成長期なのでしょうか。

石川:論文を読んだり、その分野の専門家の方に伺うと、体のポテンシャルを高める時期は大体13歳ぐらいまでと言われていて、2歳から9歳ぐらいまでがプレ・ゴールデンエイジと言われています。小さい時は刺激の種類が多い方がいいと言われていて、運動だったら心肺機能とアジリティ、それと動作道具を使える操作能力などを鍛えていくと、コーディネーション能力が高くなるだろうとは言われています。ですから、その時期は食事も非常に大切ですね。

――たとえば身長を伸ばすために、浦和レッズでは10代の選手たちにはどんなアドバイスをされているのですか?

石川:よく寝るように、と言っています。なぜ寝ることが必要かというと、骨が重力から解放されて伸びやすくなるということと、睡眠中に、1日に必要な成長ホルモンの7割が出るからです。なおかつ、寝入りの3時間で睡眠中の7割が出るので、そのチャンスを活かすように「それができる環境を作りなさい」と伝えています。それと、骨がどんな材料から作られていて、それを食べることと、それを減らすものは絶対に食べないようにすることも伝えます。

――健康な骨を作るためにはカルシウムやアミノ酸などが重要と言われますが、そういう栄養素を含んだものを多く食べればいいのでしょうか?

石川:カルシウムは骨密度を上げるために重要ですが、しっかりした骨と体を作るためには、タンパク質食品もちゃんと摂らないといけません。でも、タンパク質は消化・吸収で一番体力を使います。タンパク質を消化吸収し、自分の体を作るにはエネルギーが必要なので、肉や魚だけではなく「お米をちゃんと食べましょう」ということも伝えています。

個性を伸ばすためには、小さい頃に栄養の“情報”をどれだけ多くできるか

――小さい頃は特に、野菜など好き嫌いが多くて食べるものが限定されてしまう子もいると思いますが、そういう時には、ご両親にどのようにアドバイスしているのですか?

石川:野菜の栄養をしっかり摂るには、根・実・葉の部位で揃えて食べるのが効果的です。そうすると、栄養素の種類が揃いますから。栄養素はチームじゃないと働かないので、ビタミンやミネラル類は種類を多く摂取することが重要です。例えばカルシウムだけを摂ってもダメですし、栄養素が効率よく体内で働く環境を整えてあげることが大切なんです。ですから、嫌いな野菜がある場合には、同じ部位の野菜(例えばトマトが苦手だったらパプリカを食べる、など)に置き換えてみるのも良いと思います。

――栄養素をまんべんなく機能させるためにも、なるべく多くの食材からとったほうがいいのでしょうか。

石川:そうですね。食材数が多ければ栄養素の種類に偏りが出ないので、なるべく多くの食材から摂るといいです。食べ物って情報のかたまりですから、同じものばかり食べていたら、味覚も視覚も嗅覚も食感も同じ刺激しか受けません。消化吸収のシステムも同じになります。特に、ゴールデンエイジのお子さんたちは、いろんな可能性を開く準備をする時期ですから多くの情報を感じ、経験することが大事です。絵を描くための色鉛筆とかクレヨンの色を増やしていくようなイメージですね。

――そういうふうに聞くとわかりやすくイメージできます。それと、調理法でも栄養素の吸収効率などは変わりますよね?

石川:例えば、野菜の調理法は3つの加熱方法を組み合わせるといいです。食物繊維の多い根のものや土の中で生育する部分はコトコト加熱をすると栄養素の吸収が良くなりますし、葉物野菜などは茹でたり炒めたりサッと加熱すると量を食べやすくなります。熱処理をしない非加熱(生食)も食物酵素を取り入れやすくなるので大切です。

気をつけたほうがいい食品と食べ方は?

――太りやすい揚げ物や、加工食品などに含まれている食品添加物には、栄養吸収を妨げるものも多いと思いますが、特に避けたほうがいい食品はありますか?

石川:脂肪の中でも、エネルギー源になる脂肪酸は大事です。細胞はリン脂質を含んだ膜で覆われています。手とか顔も乾燥しないようにクリームを塗りますよね。それと同じで、リン脂質は大事な細胞を守り細胞の正常な働きを助けているんです。けれど、同じ仲間の油脂でも酸化した油脂は避けてください。油は光と空気と熱によって酸化するので、高温調理(揚げて)して時間の経ったものは、その3つが重なった状態と言えます。トランス脂肪酸も避けたほうが良いと思います。ジュニア世代は味覚形成、代謝の仕組みも成長過程ですから、人工甘味料も避けるべきだと、私は思います。

――それは大人にとっても重要ですね。最近は練習の前後にコンビニでプロテインバーやおにぎりなどを補食として買って食べている小学生もいて、スポーツをする子どもたちの食への意識は高まっている気がします。

石川:そうですね。空腹での練習開始は良くないので、それはもちろん悪いことではないですけど、食べたもので十分練習できるくらい、朝食や昼食をしっかり食べて欲しいです。それから、運動が終わってすぐ後はおにぎりやゆで卵といった固形物は食べずに、果汁などの液体だけを飲むようにすると良いです。その理由は、練習後は一番疲れていて、交換神経が優位になっているからです。先ほどもお伝えした通り、消化には体力が必要です。そして、消化管は副交換神経優位じゃないと働かないからです。練習直後は食べることに適していない体なので、まず、消化に負担のかからない「液体」で栄養補給をして、その後に、落ち着いてから「固形物」を食べることが、体の仕組みに合っています。

――無理して食べるのではなく、消化に負荷をかけないものがいいんですね。

石川:そうです。走りながら食べられないのと同じで、運動直後に食事をしても負荷にしかならなくて、消化されて吸収されるシステムが機能しないんです。おにぎりだけでなく、卵やバナナも栄養のある素晴らしい食べ物ですが、ちゃんとした食べ物だからこそ、手を洗って、着替えをして、座って「いただきます」って言って食べたほうがいいです。練習が終わってすぐに固形物を食べるといいという情報は、どんな論文にもないんですよ。そういう意味でも、正しい情報を入れるためには、体の仕組みを知って、考える力が子どもの頃は大切です。

【第1回連載】浦和レッズを「食」から支える栄養士・石川三知の仕事とは? 練習後の残食量が激減、クラブ全体の意識も変化

【第2回連載】トップアスリート“食事”の共通点とは? 浦和レッズを支えるスポーツ栄養士に聞く「結果を出す」体作りのアプローチ

<了>

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[PROFILE]
石川三知(いしかわ・みち)
「(有)Office LAC-U」代表。八王子スポーツ整形外科栄養管理部門スタッフ。中央大学商学部兼任講師(スポーツ科学)。これまでに、フィギュアスケート・荒川静香選手、高橋大輔選手、全日本男子バレーボールチームなど多くのメダリストやオリンピアンを栄養面からサポート。現在は、サッカーJ 1・浦和レッズ、東海大学附属仰星高校ラグビー部、山梨学院大学陸上部(短距離・フィールドパート・長距離)のサポートを行う。生涯学習のユーキャンでは、「スポーツ栄養プランナー講座」を監修。

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