大学卒業後に女子選手の競技者数が激減。Wリーグ・吉田亜沙美が2度の引退で気づいたこと「今しかできないことを大切に」
「通えるチームがない」「新しい環境に飛び込めない」「仕事と両立できない」。女子スポーツで、高校や大学卒業後に競技登録者数が減ってしまう背景は様々だ。バスケットボール女子日本代表の吉田亜沙美選手は、2度の引退を経て、3度目の現役生活を楽しんでいる。そして、悩み抜いて復帰した自身の経験から「続けることがつらくなったら“休む”という選択肢も持ってほしい」と話す。4年ぶりに代表復帰を果たしてパリ五輪出場に貢献し、「Wリーグでバスケットができる楽しさを心から感じている」という36歳のレジェンドから、岐路に立つ選手たちへのメッセージとは?
(構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=Wリーグ)
「人とつながれる」バスケットボールの魅力
――吉田選手は2019年と21年に2度、引退を決断されましたが、復帰を果たして、今もWリーグで活躍されています。今、吉田選手にとってバスケットボールはどんな存在ですか?
吉田:人生において、目標や夢を持たせてくれるものだと思っています。私はバスケットを通じてたくさんの仲間と出会えましたし、目指すものがあることは本当に素晴らしいことだと思います。私の場合、バスケットをやっていなかったら、自分から積極的に人とコミュニケーションを取るタイプではないので、一番の魅力は人とつながれることだと思います。一つのことに没頭して、「こうしたい」と主張したり、課題と向き合ったり、「人としてこうありたい」という考え方も、バスケットから教わりました。
――これまでのキャリアで、「バスケットをしていて良かった!」と特に感じた大会や試合はありましたか?
吉田:2016年のリオ(デジャネイロ)五輪で、夢だった舞台でベスト8まで行くことができたことです。一試合一試合を楽しむことができて、小さい頃からバスケットをやってきて本当によかったなと感じました。Wリーグに入ってからは、勝つことが当たり前の環境で、「優勝して嬉しい」とか、「楽しい」という気持ちを忘れかけていた時期があったんです。でも、リオ五輪の時は心から「バスケットが楽しい!」という思いを持ちながらプレーできていたので、強く印象に残っています。
――女子スポーツでは高校や大学卒業後など、学校が変わるタイミングで競技をやめてしまう選手も多くいますが、その岐路に立つ選手たちに、どんなメッセージを伝えたいですか?
吉田:もちろん、ケガなどでもうプレーできないということなら話は別ですが、そうでないなら、好きなことを好きでいられる間は続けていってほしいなと思います。たとえば学校が変わったとしてもまた新しい仲間に出会えるチャンスだし、それまでとは違うバスケットを学べる場にもなると思うので。それに、続けていればWリーグでプレーすることや、日本代表でオリンピックに出られる可能性だってあります。それに、関係者などの出会いを通じて、「バスケットに関わるこんな活動や仕事もあるんだ」と知って、また違う仕事に就いて自分の新しい可能性に気づけるかもしれないですよね。そういう可能性をなくしてしまわないためにも、勇気を持って、続けるための一歩を踏み出してほしいなと思います。
女子選手が「好きなこと」を続けるために
――引退から復帰した経験を通じて、Wリーグのサポートなど、環境面についてはどのように感じましたか?
吉田:私は2回、引退と復帰をしましたが、そんな選手は今までいなかったと思います。見方によっては私の勝手なわがままで出たり戻ったり、という状況なのに、それを理解して受けてくれたWリーグは選手を大事にしてくれていると感じました。もちろん、会社やチームの理解がなければできなかったことなので、恵まれているなと思いましたし、その点はすごくありがたいですね。
――「リーグに守られている」と思えることは安心感につながりますよね。吉田選手と同じく、2022-23シーズンに1年間の休養宣言をした現在デンソー アイリス所属の馬瓜エブリン選手も、復帰後にWリーグと代表に復帰しています。休むことで視野が広がり、競技との向き合い方が変わったことも、前に進む原動力になったのでしょうか。
吉田:そうですね。私やエブリンのように「競技を一度やめる」ことは、もちろん勇気がいることですけど、やってはいけないことではないと思います。だから、体はまだ動くけれど、しんどくて気持ち的に続けることがつらくなって「どうしよう?」と悩んだときには、「やめる」ではなくて「休む」という選択肢も持ってほしいなと思います。
もちろん、Wリーグは厳しい世界なので、一回やめたら戻れなくなるかもしれません。ただ、私の場合は休むことが自分にとってバスケットボールへの思いを再確認する大切な機会になりましたし、違う環境に身を置くことで視野が広がったり、考え方変わることもあると思いますから。
――キャリアの岐路に立っている選手たちにとっても勇気づけられるメッセージだと思います。女性が好きなスポーツを続けていく上では、他にどのようなサポートが必要だと思いますか?
吉田:社会人は会社の理解がないと成り立たない部分が多くあるので、ぜひ会社の方にもそうした活動をご理解いただいて応援していただけるといいな、と思います。また、女性は結婚や出産のタイミングもあるので、海外のように、出産しても復帰できる環境がもっと整うといいなと思いますし、日本でもそれが普通になってほしいですよね。
現役選手へのメッセージ「今しかできないことを大切にしてほしい」
――結婚・出産をしても続けられる環境づくりは、スポーツ界全体で整えていきたいですよね。
吉田:そうですね。私の年代は「結婚したら競技をやめなければいけない」とか、「現役中は結婚できない」と考える選手もいたと思うのですが、今は時代も変わって、いろいろな考え方や選択ができる時代になったと思います。自分の人生ですから結婚したいタイミングで結婚すればいいと思うし、「子供を産みたいけど、まだバスケットもしたい」という葛藤もあるとは思いますが、人それぞれ、その年その年で「今しかできないこと」があると思いますから。そこはちゃんと自分と向き合って考えて決断してほしいなと思います。
――吉田選手は2度目の引退後に東京医療保健大学でアシスタントコーチをされていたので指導者としても実績をお持ちですが、現役選手がセカンドキャリアの不安を解消していくためにはどうしたらいいと思いますか?
吉田:大学に行けば教員免許などいろいろな資格を取れると思いますが、高校を卒業してすぐWリーグに入ると資格がなく、後から取るのも難しいということがあると思いますし、競技をやめた後に何もない状態で社会に放り込まれてしまうと難しい部分があるんじゃないかなと思います。実際、私も高校卒業後にWリーグに入ったのでよくわかるのですが、10年、20年プレーした後に、40歳になる手前で今までバスケットしかしてない人が急に一般社会で生きていくとなったら、指導者になるか、クリニックで教えるなど、選択肢が限られてしまいますから。
もちろん、就職する道もあるとは思いますが、現役中にどれだけ準備ができるかというのはすごく大事なことだと思います。競技をやめた後の人生の方が長いわけですから。
目標はパリ五輪「バスケットができる楽しさを心から感じている」
――Wリーグでも代表でも非常に濃密なキャリアを積んでこられましたが、吉田選手にとって、今の目標はどんなことですか?
吉田:2月のオリンピック世界最終予選を勝ったことでパリ五輪に出るという大きな目標ができたので、今はそこに向かって全力でやっていきたいと思っています。所属チームのアイシンウィングスではWリーグでベスト4に入るという目標を掲げていますが、今の仲間たちと一緒に、ファイナルの舞台に立ちたいです。今はWリーグでバスケットができる楽しさを心から感じているので、見てくださる皆さんにはプレー越しに「本当に楽しそうだな」って感じてもらえたら嬉しいですし、「私もバスケットやりたい!」と思ってもらえるようなプレーを今後もしていきたいと思っています。
――予選ではピンクのショートヘアでしたが、パリ五輪のメンバーに入ったら、どんな髪の色にしたいと考えていますか?
吉田:今はまだ何も考えてないのですが、これからメンバーに選ばれるために頑張りつつ、どんな色にするかも考えていきたいと思います。
――最後に、それぞれの場所でバスケットを楽しんでいる選手たちにメッセージをお願いします。
吉田:私自身、大好きなバスケットを通じて、これからもいろいろな人とつながっていきたいと思っているので、今後、10年も20年もバスケットを続けていければと思っています。続けていれば、どこかで出会って一緒にプレーできる可能性もあると思うので、好きなことを諦めずに続けてほしいですし、いつか一緒にバスケットをしましょう!
【前編はこちら】2度の引退を経て再び代表へ。Wリーグ・吉田亜沙美が伝えたい「続けること」の意味「体が壊れるまで現役で競技を」
<了>
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[PROFILE]
吉田亜沙美(よしだ・あさみ)
1987年10月9日、東京都出身。プロバスケットボール選手。Wリーグのアイシンウィングス所属。ポジションはポイントガード。東京成徳大高校からWリーグのJOMO(現:ENEOS)に入団。1年目から活躍し、高校3年生から日本代表に選出。リオ五輪ではキャプテンとして日本代表を20年ぶりのベスト8に導き、自身はアシスト王に輝いたが、2019年3月に引退を決断。東京五輪を目指すため、同年9月にJX-ENEOSで再び復帰するものの、五輪が延期隣、21年2月に2度目の引退を決意。東京医療保健大学で指導者の道に進んだが、23年4月にアイシンウィングスで2度目の復帰を決意。今年2月のFIBA女子オリンピック世界最終予選では最年長選手としてチームを牽引し、パリへの切符を勝ち取った。
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