慶應→オランダ→ブンデス。異色の20歳ストライカー塩貝健人が挑む「日本人CFの壁」
「決められない場面ではなかった」――。ドイツのミックスゾーンで、20歳のストライカーは自分を責めていた。慶應義塾大学2年時にオランダへ渡り、わずか1年半でブンデスリーガへ。異色のキャリアを歩む塩貝健人が挑んでいるのは、日本サッカーが長年越えられていない壁だ。「欧州5大リーグで得点を量産する日本人センターフォワード」。そのポジションで結果を残すことに、彼は大きな意味を見出している。
(文=中野吉之伴、写真=アフロ)
「決められたはず」完敗の試合後、20歳FWが向けた矢印
ブンデスリーガ第24節のヴォルフスブルク対シュツットガルト。0-4と完敗した試合後のミックスゾーンで、塩貝健人は悔しさを隠さなかった。
「チームとしては厳しいなと。個人的には点取れるチャンスが2回ほどあったんで、あそこで決めていればという思いがあります」
後半から投入された塩貝には、確かに決定機があった。右足での強烈なミドルシュートはGK正面を突き、ペナルティーエリア内でボールを収め、ターンして左足を振り抜いた場面は、ゴールになってもおかしくないシーンだった。
「ワンタッチで打ちたかったんですが、思ったようなボールではなくて。ただ、決められない場面ではなかったと思う。ああいうところは個人能力だと思うので、自分の実力不足が出たかなと思います」
言い訳はしない。それがストライカーとしての矜持でもあるのだろう。
今冬、塩貝はオランダのNECナイメヘンからドイツのヴォルフスブルクへ移籍した。加入直後のマインツ戦でブンデスリーガデビューを果たし、途中出場を中心にチャンスを得ている。そして前節アウグスブルク戦では、ブンデスリーガ初ゴールも記録した。
ただ、チームの状況は相当に厳しい。第25節ハンブルガーSV戦も落として直近8試合連続で勝ちがなく、降格圏の17位に沈んでいる。雰囲気は正直よくない。3月8日に解任が発表されたダニエル・バウアー監督が「クラブ構造の多くを変えなければならないという点、そしてクラブ内の雰囲気とカルチャーはブンデスリーガレベルにないというのが事実だ」とコメントするほどに。
塩貝にとっても言いたいことはあるだろう。思わずこぼしたくなる言葉もある。だが、向けるべき矢印は常に自分という信念を変えるつもりはない。
「攻撃も僕を含めて点が取れるチャンスがあるのに決めていない。チームが良くないなら、自分が勝たせるしかない」
5大リーグで日本人得点王は生まれるのか?
塩貝のキャリアを振り返ると、その歩みは日本人選手としては少し異色だ。國學院久我山高校、慶應義塾大学ソッカー部を経て、大学2年時に海外へ渡り、オランダを経て、わずか1年半でブンデスリーガにたどり着いた。
今回の移籍を決断した理由について、塩貝ははっきりと語っている。
「僕の中では、今ワールドカップのことしか頭になかった。どうやったら入れるかって考えた時に、やっぱり高いレベルのリーグで結果を出すことが必要だと思いました」
その言葉の裏には、日本サッカーが長く抱えてきたあるテーマも透けて見える。
日本代表選手の面々は欧州トップリーグで活躍する選手が増え、個々のレベルは確実に上がっている。センターフォワードでいうとフェイエノールト所属の上田綺世がオランダリーグ得点ランクトップに立つなど、その存在価値を大きく高めている。
ただ、イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランスのいわゆる欧州5大リーグでエースとして活躍しているストライカーとなると、少ない。ポストプレーや守備、スペースメーカーなど、チームの機能として重要な役割を担う選手はいても、「得点力で5大リーグを席巻するセンターフォワード」の誕生は、日本サッカーにとっていまだ成し得ていない大きなテーマだ。
塩貝自身もその状況を理解し、だからこそ、このポジションで結果を出すことに意味があると考えている。
「5大リーグで点を取っている日本人フォワードって、今いないと思うんですよ。だからそこで点を取れれば、文句なしで(日本代表のメンバーに)入れると思う。もちろん監督が決めることですけど、アピールにはなる」
慶應の恩師は止めた。「これから先、人生で…」
大学からダイレクトでの海外挑戦、そして今回のドイツ移籍にしても、塩貝のキャリア選択の仕方は大胆だ。可能性に懸ける挑戦と言えば聞こえはいいし、夢をつかむための戦いと聞けば応援したくなる。ただ、勇敢と無謀はまた違う。無理に階段飛ばしに駆け上がろうとしたら、どこかで踏み外して転がり落ちることだってあるのだ。チャレンジは素晴らしい。だが現実目線を持つことも大切だ。
慶應大学で塩貝を指導した中町公祐監督は、当時の心境をこう振り返っている。
「監督として、プロの先輩として、すべての面において止めました。ポテンシャルの素晴らしさは、彼のことを近くで見ている僕が一番よくわかっている。だけど、まだ足りないところがあるのも見ていましたから」
当時、塩貝は横浜F・マリノスの特別指定選手としても活動していた。だが、さまざまな事情が重なり、思うようにチャンスをつかめない時期でもあった。最終的に決断するのは選手自身であるべきだし、だからこそ中町監督もその決断を尊重している。
中町監督は塩貝にあることを伝えたという。それは大学で指導者として強く感じていることであり、今向き合うべきことと向き合うことの重要性だ。
「若い人たちには1割、2割しか伝わらないかもしれない。でもどこかのタイミングでふっとよみがえることがある。それは僕らの立場からしたら成功だと思うんです。そしてこれから先、人生で何度でも判断や決断をするときがくる。そのクオリティを高めていくことが大事なんです」
挑戦したいという思いは尊重できる。だが、その挑戦を成長につなげられるかどうかは、本人次第。そのためにどんな準備をして、どんな取り組みをするのか。それがあって初めて、挑戦は成長につながる。
そんな恩師の教えが、きっと塩貝の中にしっかりと残っていると感じさせられたのは、ブンデスリーガ移籍のチャンスが訪れたときの決断プロセスについて話してくれたときだ。「6カ月後のことを考えたときに、行くしかないと思いました。そんな即決するタイプじゃないです。いろいろ考えました」と、熟考の末に決断したことを明かしている。
特に気にしていたのは、出場機会だった。
「すぐ出られなかったら意味がないと思うので、どういう起用法を考えているのかも含めて話をしました。期待してくれているのも感じましたし、移籍金も安いものじゃないので、使わないのに取るってことはないと思いました」
挑戦できるときに挑戦するという決断は、確かに彼の人生を前へ進めている。本人の中で考えは一貫している。
ブンデスの強度を痛感も「あとは点を取るだけ」
オランダリーグからブンデスリーガへと移籍し、身を置く環境のレベルの高さを感じるところもあるという。デビュー戦後にこのようにその違いを言葉にしている。
「レベル差がめちゃくちゃあるかと言われたら、そこまでではないです。けど、やっぱり球際のところは違うなと思います。ボールをちょっと離してドリブルしようとしたら簡単に倒されてしまう。止まってたらダメだなと思いました」
強豪相手となるとさらにその傾向は強くなる。UEFAヨーロッパリーグでベスト16に進出し、リーグでも4位でUEFAチャンピオンズリーグ出場権争いをしているシュツットガルトとの試合では、その差を感じさせられることも少なくはなかった。
例えば、中盤で前を向いてボールを受けた塩貝が、スピードに乗ってドリブルに行こうとしたシーン。後ろからドイツ代表MFクリス・フューリヒに猛追されると、そのまま激しいチャージでボールを奪い取られてしまった。グラウンドに倒れる塩貝だが、笛はならない。プレスのスピード、連続性、激しさ。ブンデスリーガにある強度の中で最適な決断をして、相手との駆け引きを制して、違いを生み出すプレーができないと、ゴールにはたどり着けない。
本人もそこは持ち帰る課題として受け止めていた。
「シュートチャンスがまったくなかったわけではないし、点が取れそうになかったというわけではないので、そこは悲観するところではないです。ただ、個人能力ではまだまだ劣っていると思います。身体能力や球際とか、スピード感も、もう一段階上げないと、通用しないと思う。チーム状況が良くなくても、自分が個で圧倒できるくらいの力を身につけなきゃいけないと感じました」
反省は忘れない。だが最後は、やはり、ストライカーらしい言葉を残す。
「逆に言うと、そこはもっと成長できる部分かなと思います。自信はある。あとは点を取るだけだと思います」
インタビューへの受け答えはいつもとても丁寧で、負けた試合後でもしっかりと対応してくれる。だが、その言葉の端々からは誰にも負けたくないという飽くなき向上心と力強さが感じられるのも、彼が持つ魅力の一つだろう。
「点を取って自分の価値を示さなきゃいけない」
決断を、本当の成長へとつなげられるか。そして、いつか欧州5大リーグで得点王を獲得する日本人FWは出てくるのか――。その問いの答えを、彼は自分のゴールで示そうとしている。
<了>
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