なぜブンデスリーガはSDGs対策を義務づけるのか? グラスルーツにも浸透するサステナブルな未来への取り組み

Opinion
2025.01.14

世界中の多くの企業がサステナブルな社会の実現のためにさまざまな活動を行う現在、スポーツ界においてもその模範となるべき姿が求められている。日本国内でもJリーグが「シャレン!」を通して社会貢献活動を積極的かつ継続的に行うなど、“スポーツ×SDGs”のさまざまな取り組みが行われている。では欧州では具体的にどのような取り組みが行われているのだろうか。ドイツ・ブンデスリーガでは、1部、2部に所属するクラブに対してSDGs対策に取り組むことが義務づけられているという。

(文=中野吉之伴、写真=ロイター/アフロ)

SDGs対策に取り組むことを義務づけているブンデスリーガ

持続可能な世界のために私たちにできることはなんだろう。

2015年の国連サミットで全会一致で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」のなかでの5つの決意として、「人間を守る」「繁栄を実現する」「平和を実現する」「パートナーシップで実現する」「地球を守る」が挙げられている。どれも誰もが「その通りだ」とうなずくことばかり。日本でもSDGsという言葉を聞く機会は増えてきているのではないだろうか。

だが、そうした目標が掲げられるということは、今現在そこに問題を抱えていることの表れでもある。世界的に多くの困難があるなか、どのように未来に向けて持続可能な取り組みをしていくべきか。それは一握りの人だけが考えればいいことではなく、私たち一人一人が自覚して、意識して、取り組むことがなければならない。

欧州のプロスポーツクラブは社会において確かな発言力を持つ。だからこそ率先して社会的な問題に取り組むことが求められ、その責任を担うべき存在でなければならない。ドイツのプロサッカーリーグ・ブンデスリーガにおいてはすでに1部、2部クラブに対してSDGs対策に取り組むことが義務づけられている。基準を満たしていない場合はブンデスリーガとしてプロクラブライセンスは発行されない。

2022年には慈善団体「Sports for Future」がブンデスリーガの毎節ごとに17のSDGsのテーマのなかから一つを設け、スタジアムでファンへの呼びかけ、スタジアム周辺でのキャンペーン展開などを行った。元男女ドイツ代表選手がゲストとしてこのテーマについてディスカッションするなど、サッカー観戦を通じてSDGsに触れる機会が増えてきている。DFL(ドイツサッカーリーグ機構)のSDGs部門主任マリカ・ベルンハルトはそうしたブンデスリーガクラブの取り組みについて「非常に満足しています。すべてのクラブがそのための責任者を置いてSDGsに関する持続可能な戦略を整えていると言える状況になっています」と話していた。

CO2排出量を年間500トンもの大幅な削減に成功

多くのブンデスクラブが確かな結果も残している。DFLはCO2(二酸化炭素)排出量削減に成功しているクラブとしてブレーメンと2部のケルンを挙げている。

ブレーメンはCO2排出量を半減させるという目標を掲げているが、この取り組みはDFLによる義務化が始まってからではない。クラブ自ら継続的に行ってきた活動だ。

「ブレーメンはヴェーザー河畔にある街で、洪水危険地域にあたるところに位置しています。つまり環境保護はまさに直接街の未来に関わる大事なテーマなんです」

そう強調するのはブレーメンのスポーツとSDGs部門の主任アンネ=カトリン・ラウフマン。

「スタジアムへ向かうファンの足をどのように導くのか。ファン、クラブ、街、交通機関と密にコンタクトをとり、CO2排気量を最小限に抑える術を見つけ出していくのが私たちのミッションです。一方で私たち人間は旅をしたり、移動をしたりする存在です。すべてをゼロにすることは現実的ではありません。大事なのはみんなができることを可能な限り意識的に行うことです」

一方のケルンでは2019年にSDGsエージェント会社フィオルと協力し、エコエネルギーへ転換することで、CO2排出量を年間500トンもの大幅な削減に成功。エネルギー節約対策も積極的に行い、クラブで使用する車は電気自動車やハイブリット車へと変更されている。 またさらなる環境保全のためにヴィッテン・ヘァデッケ大学と共同活動しているツェットエヌウー・ゴーズ・ゼロという企業ともパートナー契約を結び、積極的に活動している。実際に数字として二酸化炭素排出量削減やエネルギー使用の節約で結果を残していることで、2021、22年に環境保全認可を受けている。

フライブルクの「自転車でスタジアムへ」キャンペーン

一方、ドイツにおいて“環境”と聞いて最初に連想する街といえばフライブルクだ。1990年代に世界初の環境都市として環境にやさしい街づくりを進めている。その地にあるブンデスリーガクラブのSCフライブルクでは環境への配慮は当たり前のように以前から行われていた。

そんなSCフライブルクが昨シーズンから行っているキャンペーンが「自転車でスタジアムへ」というものだ。フライブルクは人口24万人中2万人以上が大学生という学生街でもある。自転車道が非常に整理されていて、普段から自転車を愛用する市民が多い。

加えて、2023-24シーズンからSCフライブルクの胸スポンサーを務めている「JOBRAD(ヨブラート)」。2008年に創設されたシェアサイクルの会社だ。自前の車を持たずにシェアカーを利用するのが一般化してきている欧州において、さらに環境にやさしく社会に適切なモビリティを確立するために、ビジネスシェアサイクルというジャンルを考案。もともと環境都市として名高いフライブルクでこのスタイルが評価され、いまでは1300人以上の従業員を抱える会社へと成長している。

社長のフロリアン・バウアーが「SCフライブルクはSDGsにおいてお手本ともいうべきクラブ。同じ視点で取り組める関係性があります」と語るヨブラートは、「自転車でスタジアムへ」キャンペーンを全力でバックアップ。試合当日に自転車で訪問した観客一人につき1ユーロを寄付している。試合がキックオフされると、ヨブラートのスタッフがスタジアム周りに設置されている駐輪所を回り、自転車の数を数えている。そして環境保全団体、子どもたちの支援団体、薬物依存対策団体、ウクライナからの難民支援団体など、さまざまな慈善団体に寄付をするというアクションを続けている。

この活動はフライブルクのファンにもとても好意的に受け止められている。ファンの一人は「僕らはいつも自転車でスタジアムにくるのが好きだけど、それがさらにいい目的につながるというならとても素晴らしいことだよ」と話していた。実際に毎試合スタジアムに自転車で訪れるファンの数は増え続け、氷点下の冬でも3000人以上がペダルをこいでスタジアムを目指している。

2023年4月には「環境保全デー」と銘打ってスタジアムの回りで大きなイベントを展開すると、この日スタジアムに自転車で訪れた観客は実に6000人。3万4000人収容のスタジアムの17%のファン、5〜6人に一人が自転車で来場した計算になる。

小さな子ども連れのお父さんやお母さんの姿も多い。「家からスタジアムまでの途中におじいちゃんとおばあちゃんの家があるから、疲れたらそこで休憩することもできるんだ」とある6歳の男の子は楽しそうに話していたのが印象的だ。 1試合平均4000〜5000人のファンが自転車でスタジアムを訪問。これまでの合計数は15万4750人となり、15万4750ユーロ(約2500万円)の寄付を成し遂げたことになる。このアクションは「SPOBIS」というヨーロッパ最大のスポーツビジネスコンファレンスで、スポーツ界におけるSDGs部門で2位に選出されている。

グラスルーツにも浸透している省エネ対策

SDGsの活動に熱心なのはなにもブンデスリーガだけではない。持続可能であり、自分たちでもできることから始めるのが大事なモットー。DFB(ドイツサッカー連盟)では、全国に2万5000以上あるアマチュアサッカークラブへ、自分たちでもできるエネルギー危機下での省エネ対策を呼び掛けている。

・照明の使いすぎ、消し忘れに注意
・節電コンセントや電球を使用
・対人センサーの導入
・冷蔵庫の温度は適温に設定
・クラブハウスでは節電モードの家電を使用
・シャワーに節水モードを導入
・暖房の使い過ぎに気をつける
・トレーニングへは自転車で
・相乗りで車移動を削減

こうした省エネ対策を行ったクラブは、補助金が下りるようなサポート体制もできている。一つ一つは小さいことかもしれない。当たり前のことかもしれない。でもそれがつながり、やり続けていったら、全体で見てみると、大きな成果が少しずつ生まれてくる。

筆者が指導するサッカークラブもグラスルーツの小さなところだが、クラブハウスの屋根にソーラーパネルを設置して、クラブで使う電力を賄い、さらには余剰電力を電力会社に売って、クラブ運営に回すというやり方をとっている。やれることはその土地ごとや地域ごとによって違うだろう。それでもやれることはあるのだ。それは日本でだって同様だ。

DFLのベルンハルトがこうも話していた。

「まだ目的を達成したわけではありません。まだまだこれからのための基盤を作り上げている段階です。クラブとともにどのようにともに歩んでいくかを見つけ出していく。クラブにとっての負担になってしまってはそれこそ持続していくことができませんから」

持続可能な世界とは、誰かに何かしてもらうものではない。僕らにできることを探し、今からでも継続して、持続して、やり続けていこうではないか。それが僕らの未来に確かにつながっていく。

<了>

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