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金属バットが球児の成長を止める。低反発バット導入ではなく今こそ木製バットに回帰を! 高校野球改造論
2月、日本高校野球連盟は「反発性の低い金属バット」の製品試験を公開した。3月に開催予定の第92回選抜高等学校野球大会から導入される投手1人の1週間の総球数を500球以内とする投球数制限の実施など、投手の負担軽減に乗りだした高野連。金属バットの反発力抑制は、昨年9月に規格の見直しが決定していた。作家・スポーツライターの小林信也氏は、「金属ありき」の低反発バット導入は本質的ではないという。
(文=小林信也、写真=武山智史)
金属バットの危険性も低反発導入の一因に
日本高校野球連盟が、低反発金属バットの導入を検討している。
一昨年暮れから『球数制限』が議論の的となり、『投手の障害予防に関する有識者会議』で検討が重ねられた。約半年間の検討の末、球数制限に加えて、「飛ばないバットの導入を目指す」ことも答申されたのだ。
本来のメインテーマでなかった金属バットにまで言及されたのは、昨夏の甲子園で岡山学芸館の投手が相手打者の打球を顔に受け、顔面を骨折する事故が起きたことも要因だろう。幸い命に別条はなかったが、打球が投手を強襲する事故が増えている。それが甲子園で起きた衝撃は大きかった。日本高野連としてはこのまま放置してはおけない、切実な認識を持つに至ったのだろう。
現在使われている金属バットは、言うまでもなく木製バットより飛距離が出る。打球速度も速い。投手は投げ終わったらすぐ打球に備えるが、金属バットの打球が速くなっているため、打球に対応しきれない場合がしばしば起こるようになったのだ。
実力に大きな差がある対戦では、打者に近い位置に立つ三塁手や一塁手も強烈なライナーやゴロを捕りきれず身体に受けるなど、見ていて肝を冷やす場合がある。
打球スピードが速くなった理由は、主に二つ。金属バットの性能の向上と、これを使う高校生打者たちの対応の充実だ。
金属バットが高校野球をパワー偏重に変質させた
かつて金属バットは、軽量化に向かった時代がある。軽量化しても折れない特性を生かし、バットを思い切り振れるようにしたのだ。すると、力が弱い打者でもスイングスピードが速くなり、鋭い打球を打つことができる。だがこの時も、投手や野手を強襲する危険が高まり、日本高野連は2001年から「900グラム以上」という規制を設けた。バットを重くすれば鋭く振れなくなり、危険が軽減すると考えたのだ。ところが、これは数年の間に見事に蹴散らされた。
筋力トレーニングの普及で、900グラム以上のバットを苦もなく振れる高校生打者が急増したのだ。重いバットを鋭く振れれば、軽いバット以上に速く、遠くに飛ぶ。危険性はむしろ増す結果となって今日を迎えているのだ。
しかも、これが高校野球そのものを変質させる重要な分岐点になっていく。
野球もスポーツもよく「心・技・体」というが、重い金属バットを振り回す野球が主流となり、高校野球は、心や技より、体が何よりモノを言う、「パワー偏重」の競技になってしまったのだ。
金属バットが導入されたのは、私が高校3年になる年(1974年)。私はいわば金属バット第一世代だ。当初は、極端に「飛ぶ」という印象はなかった。その夏の甲子園から急にホームランが増えたというイメージもない。記録を確認しても、金属バット初年度の1974年夏のホームラン数は11本。前年から1本増えたに過ぎない。その後も、15本、13本と微増が続く。金属バットはただ、折れないことは確かだった。
私はアンダースローの投手で、相手打者のバットの芯を外す投球を身上にしていた。主に新潟県内の高校が相手とはいえ3年間の防御率が0点台だったから、それなりの実績だったが、監督は「バットが折れない金属バットにアンダースローは通用しない」と判断したのか、金属バット導入後の6月以降、登板の機会が与えられなくなった。
まだみな試行錯誤だったが、バットは金属になっても高校野球は木製時代の「守りの野球」を基盤にするチームがまだ多かった。
ところが、金属バットを使って数年が経過すると、「金属バットを存分に生かした打撃の野球のほうが勝てる」と気づき始めた指導者たちが現れた。その代表が、『やまびこ打線』と呼ばれた池田高校・蔦文也監督だ。豪快にホームランをかっ飛ばす、強打の池田が甲子園の頂点に立ったころから、高校野球は大きく変化した。初めて一大会のホームラン数が30本を超えたのは1982年の第64回大会。まさに『やまびこ打線』が火を噴き、優勝を飾った年だ。決勝では、それまでの『守りの野球』の代表格だった広島商を12対2の大差で破り、高校野球が守備から打撃主体に変わる節目を印象付けた。
それまでの「1点を争う守りの野球」から「大量点を奪う」攻撃野球に変わったのだ。単純にいえば、そのほうが面白いこともあって、趨勢はそちらに傾いた。何しろ金属バットなのだから、攻撃野球が理にかなっている。
やがて全国の高校が『金属バット打法』の研究と習得に精を出した。
次第に『野球の常識』が覆されていった。
“次のステージ”で役立つ本質的な技術を身につけるために
例えば、「投手の球に詰まったら終わり」が木製バット時代の常識だった。ところが、金属バットは詰まっても力で持っていけばヒットになる。そこで、詰まってもバットにさえ当てれば、前に持っていって振り切る打法が推奨されるようになった。プロ野球の打者がこのような打ち方をしたら(芯で捉えていれば別だが)、いくら怪力でもバットが持たないから凡打の山になる。ところが高校野球では、それがスタンドに入ったりもする。高校で怪物と呼ばれる選手が、プロ入り後に伸び悩むのはそれが大きな要因ではないかといわれて久しい。
金属バット打法も技術といえば技術だが、野球の本質とは違う。多くの球児が次のステージとして目標にしているプロ野球でも大学野球でも、その『技術』は役に立たない。そんなものを『技術』と呼ぶ世界がほかにあるだろうか?
金属バットがなぜ1974年に導入されたか。その経緯を日本高野連の理事(元事務局長)の田名部和裕さんから詳しく聞いた。当時の佐伯達夫会長が、「とにかく高校野球をお金がかからずにできる競技にしたい」という一念で導入を決めたという。全国津々浦々の高校生が、誰でも野球ができるようにしたい、その姿勢と方針にはもちろん大きな意義がある。だが、安くすることを何より重視し、野球の変質にはさほど心を配らなかった。
40年以上の年月を経て、その弊害も明らかになった。
いままた、安さと安全を優先し、低反発バットの導入がほぼ決まる流れになっている。私はあえて「ちょっと待った!」と声をかけたい。
木製バットの素晴らしさを改めて認識し、これを活用して野球を改革する道を探るべきだと提案したいのだ。安さも大事だが、何より基本にすべきは「野球の本質」ではないか。
私は小中学生と丸10年以上、一緒に野球をやった経験(コーチ、監督)を通して、「金属バットでは選手は鈍感になり、力に頼るし、力自慢になる」ことを身を持って体験した。もっといえば、子どもたちのプレーが「傲慢」になりやすい。
木製バットを使うと、コーチや監督が何かを教えなくても、「一球、一球、バットとボールが教えてくれる」ので、おのずと選手は謙虚になる。なぜなら、自分の打撃の状態が、痛いほど手のひらから全身に伝わってきて、理屈抜きに、理想の打撃を求める方向に向かうからだ。
バドミントンの指導者から、こんな話を聞いたことがある。
「以前は高いからと言って、子どもたちにはナイロンのシャトルを使わせていたました。ところが、それでは育たない。値段は高いけど、水鳥のシャトルを子どもにも使わせるようになって、世界で活躍する選手が出るようになりました」
「木にしたら、お金がかかって仕方がない」という反対意見も根強いが、練習用には折れにくい合竹バットもある。また、折れないことを目標にすれば、それが選手の本質的な技術の向上につながる。
「木は折れるから、折れたバットが投手を直撃する心配もある」という声もある。それは確かに懸念材料だ。こうした賛否両論を交わし合い、本当に野球はどうあるべきか、どの方向を選択すると幸せな発展がありうるのか。もっと深く議論すべきではないだろうか。日本高野連が、先に「低反発バット」ありきで決める時代ではもうない。
<了>
第10回 泣き崩れる球児を美化する愚。センバツ中止で顕在化した高校野球「最大の間違い」
第8回 「指導者・イチロー」に期待する、いびつな日本野球界の構造をぶち壊す根本的改革
第7回 なぜ萩生田文科相「甲子園での夏の大会は無理」発言は受け入れられなかったのか?
第6回 なぜ、日本では佐々木朗希登板回避をめぐる議論が起きるのか?
第5回 いつまで高校球児に美談を求めるのか? 甲子園“秋”開催を推奨するこれだけの理由
第4回 高校野球は“休めない日本人”の象徴? 非科学的な「休むことへの強迫観念」
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