町田ゼルビアの快進撃は終わったのか? 黒田剛監督が語る「手応え」と開幕戦で封印した“新スタイル”

Opinion
2025.02.21

昨シーズンのJ1リーグ2位のサンフレッチェ広島と3位のFC町田ゼルビアによる今季の開幕戦屈指の注目カードは、アウェイ広島の勝利で幕を閉じた。昨年サッカー界に大きな驚きを提供した町田の快進撃は、今季も継続とはいかないのだろうか。1月の沖縄キャンプからチームを追うライターの篠幸彦氏は、「今季の町田が目指すサッカーを、広島戦ではあえて選択しなかった」と指摘する。開幕戦で黒田剛監督が手にした「手応え」と、次節以降に真価が問われる“新たな町田のスタイル”とは?

(文=篠幸彦、写真=アフロスポーツ)

黒田監督が語ったほぼパーフェクトな前半

2025シーズンのJリーグ開幕戦の中で、昨季の2位と3位という高い注目を集めたFC町田ゼルビア対サンフレッチェ広島。試合はホームの町田が前半26分に相馬勇紀のゴールで先制したが、後半に盛り返した広島が2点を返して逆転。そのままリードを守った広島が、開幕白星を飾った。

ACL2(AFCチャンピオンズリーグ2)から中3日で疲労もある中、広島が勝負強さを見せて勝ち点3をきっちりと手繰り寄せた試合だった。今季の広島も優勝候補の筆頭であることを印象づけた。

しかし、町田の黒田剛監督は記者会見で、試合の振り返りをこう語り始める。

「前半はほぼパーフェクトに近い。1-0で折り返せたことは、ほぼ我々の狙い通りの展開だった」

町田はキャンプから仕込んできた守備で圧倒し、前半は広島にほぼなにもさせていなかった。

互いに3-4-2-1システムのミラーマッチで、広島がビルドアップでボールを持ったときにマンマークでパスコースを制限し、ロングボールを蹴らせた。

そこに待ち構えるのが町田の岡村大八、菊池流帆、昌子源の3バックだ。新加入の岡村、菊池を中心に空中戦で強さを発揮し、広島のジャーメイン良にことごとく競り勝った。

広島はストロングである両ウイングバックに展開しても左の東俊希は精彩を欠き、右の中野就斗は中山雄太に完封された。そうやって跳ね返したセカンドボールを拾ってカウンターにつなげるのが町田の狙いだった。

そして、前半26分。そのカウンターで、相馬がドリブルで3人を剥がす独走から先制点。背番号7のスーパーゴールに町田GIONスタジアムはどよめき、歓喜に沸いた。攻守に狙い通りのサッカーを展開し、完璧な内容で前半を折り返した。

町田の誤算を生んだアクシデント

後半、そんな完璧だったはずの町田に誤算が生じる。

前半20分に岡村が負傷し、後半53分には菊池も負傷交代。鉄壁を支える主力センターバックの2人を失うアクシデントにより、広島を完封していた守備のバランスが崩れた。

さらにこの負傷で交代回数を2回使わざるを得なくなり、交代回数は残り1回。町田は前からのプレッシングを生命線とし、前線や中盤の体力的な消耗が激しい。それを選手交代で巧みに人を入れ替え、強度が落ちないようにマネージメントするのが黒田監督の得意な采配だ。

それが負傷によって交代回数が圧迫されたことで、守り切るのか、点を取りにいくのか、またケガ人が出るかもしれない。後半の早い時間帯でその後の展開がわからない中、黒田監督はその判断を1回の交代で見極めなければいけなくなった。

「そこで非常にプランが狂った」

菊池の交代からわずか6分後の後半59分。FKからトルガイ・アルスランのゴールで広島が同点に追いついた。その後、町田は消耗から前線のプレスが弱くなり、必然的に全体の守備強度が落ち、徐々に広島へ流れが傾いていった。

そして77分、中山のコントロールミスをジャーメインに突かれてボールロスト。そこから開幕戦でいきなりJデビューとなったルーキーの中村草太が、値千金の逆転弾。中村はACL2のナムディン戦から2試合連続のゴールだった。

アクシデントが試合の流れを決定づけたとはいえ、その流れを逃さずに勝ち切る広島の試合巧者ぶりは見事としか言いようがなかった。

悔いが残ったゲームコントロール

「1-0で勝てるゲームをうまくコントロールできなかったところがすごく悔いが残る」

黒田監督はそう悔やんだ。

町田のスタイルは失点をゼロに抑えて、少ないチャンスを決め切る“負けないサッカー”である。そのスタイルからすると、アクシデントがあった中でも1-0で逃げ切らなければいけなかった。

必要だったのは、黒田監督が悔いるようにゲームコントロールの部分だろう。前線のプレッシング強度やチーム全体での圧力が落ち、前半の狙い通りのサッカーができなくなった。

それでも前からハメにいこうとしたことで中盤にスペースが生まれ、広島はロングボールを蹴らずにショートパスをつないで前進し、リズムをつかんでいった。

町田は全体の強度が落ちた時点で、悪い流れが切れるまでミドルブロックに引いて耐える選択肢もあった。せめて残り1回の選手交代で前線の人を入れ替え、プレス強度を取り戻すまでは耐える必要があっただろう。

それは守備に重きをおいてきた町田にとって現実的な選択肢で、これまで黒田監督政権で何度もやってきたことでもある。相手に押し込まれても体を張った隙を与えない守備によって町田ペースに持ち込み、相手に主導権を渡さない。

それもまた町田のサッカーで、そうやって多くの勝ち点を積み上げてきた。それができずにバタついてしまったことは、ゲームのコントロールを失った一つの要因である。

まだベールを脱いでいない町田の“新スタイル”

「去年よりも今年のほうが確実に手応えのある前半だった。結果以外のところでは、すごく満足しているところもある」

昨季は広島にシーズンダブルを達成され、大きな差を感じた。しかし、今節の黒田監督は敗戦後では珍しく、大きな手応えをつかんでいた。それだけ前半のサッカーに自信を深めていた。

そんな前半のサッカーは、今年のキャンプで仕込んだものの一部でしかない。この試合を見て、今年も町田はロングボールばかりのサッカーだと思った人は多かったはずだ。じつは今季の町田はさらに発展させたサッカーを目指している。

「去年やらなかったようなことを一歩踏み込んでやり、町田のサッカーを前進させたい」

黒田監督は今年の始動日に、今季のチーム作りについてそう語った。それがオ・セフンへのロングボール一辺倒からの脱却だ。キャンプの練習試合では、オ・セフンへの放り込みの回数は減り、外回しでのポゼッションによる前進のチャレンジが多く見られた。

しかし、この試合ではそれはほぼ見られなかった。今節はすでに公式戦2試合を消化して試合勘があり、プレス強度も高い広島相手に無理してリスクを取らず、これまで通りのロングボール主体のサッカーを選択したはずだ。

本来は、ロングボールとポゼッションの両輪で主導権を握ることが、今季の町田が目指すサッカーだ。次節のFC東京戦では、新たな町田のスタイルを見ることができるかもしれない。

広島を圧倒した守備に、ロングボールとポゼッションの両輪の攻撃、それが合わさったときに初めて今季の町田の真価が問われる。

<了>

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