
久保建英の“ドライブ”を進化させた中西哲生のメソッド。FWからGKまで「全選手がうまくなれる」究極の論理の正体
久保建英の進化が止まらない。ラ・リーガやUEFAヨーロッパリーグで見せる数々のプレーはもちろんのこと、選択肢の幅も増え、彼が欧州最高峰の領域に足を踏み入れていることは間違いないだろう。そんな久保の技術の覚醒を支えてきたのが、小学生時代からパーソナルコーチを務める中西哲生だ。中西は現在も試合直後に久保と連絡を取りコミュケーションを続けている。そのなかで、この1年ほどの間で運ぶスピード、コース取りなどがより進化したのが「ドライブ」だ。運ぶドリブル「コンドゥクシオン」の進化系とも言える「ドライブ」とは、一体どんなものなのか。そして、前線から中盤、最終ライン、さらにはGKまで選手を加速度的に進化させる「N14中西メソッド」の正体とは──。
(インタビュー・構成=本田好伸、写真=難波拓未)
久保の守備の向上で確信に変わった
──中西さんは2023年に筑波大学蹴球部のテクニカルアドバイザーに就任してから、あらゆる選手へのコーチングを続けてきました。最近では特に、GKやDFラインの選手への指導も目立ちますが、どんなことにフォーカスしているのでしょうか?
中西:もともと、(久保)建英とディフェンスの練習をしてきていたので、僕が伝えているメソッドが世界のトップレベルで活用できるという手応えをもっていました。しかも、建英の右足での守備が向上していくにつれて、右足の技術やキックも向上していたことで確信がありました。守備の練習は、それ自体が攻撃の動きにもつながっているんです。
──例えばどういった動きですか?
中西:わかりやすく言えば、右足でシュートブロックできたり、右足でボールを取れたりするようになると、右足のドリブルや右足のキックが良くなります。ただこれまで守備の選手に対して、徹底的に守備を教えることはしていませんでした。もっと伝えていこうと思えたきっかけは、権田(修一)選手とのトレーニングを始めたことでしたね。
──GKとのトレーニングですね。
中西:そうです。2023年4月から筑波大に関わっていますが、その1シーズン目が終わった頃から権田選手とトレーニングするようになりました。僕自身、GKへの指導は難しいかもしれないと思っていたのですが、彼がすごく興味を示してくれたのでやってみよう、と。その時に高丘(陽平)選手も一緒に始めました。
手始めに取り組んだのが守備でやっているトレーニングの応用でした。ただ、フィールドプレーヤー(FP)にはないキャッチの動作もありますし、重心をいかに早く落とすかという動きもあります。僕のメソッドでは基本的に重心を高くするものなので、FPとは異なるGK特有の動きがあるな、と。そこで、トレーニングを進化させていきました。
──どういうことでしょう?
中西:僕がいつもやっているのは、試合で発揮する技術からの逆算です。こういう技術が必要だからこういう練習をしよう、という順番。なので、その練習をするためにまた逆算して、こういう動きができたほうがいいだろうとなるので、それを習得するためのドリルを考える。ドリルをすることによって、結果的に試合で使える技術になるという流れです。
ドリルをこなしていると、試合で必要な動きが勝手にできるようになって、無意識で利き足ではないほうの足を出せるようになったりします。右にも左にも、左右差なくいけるようになる。GKに落とし込みする過程で、FPにも改めて応用できるメニューが多いな、と。
──GKは重心を下げないといけない?
中西:いや「下げる」とは違います。体は落ちているけど、重心はその位置よりもある程度は高い位置にないと飛ぶことができません。権田選手に「重心位置の高さが必要だよね」と伝えた際に、彼も納得していました。
GKもFPも、認識はやはり、ほとんど変わりませんでした。重心を良い位置に入れないと動き出せない。最も良いポジション、姿勢、重心位置は前線の選手でも守備の選手でも、GKでも、一緒です。その認識をもって筑波大でも守備の選手にアプローチしました。
本格的に守備の選手に守備のことを伝え始めたら、前線の選手たちと比べて、これまでで最も早く効果が出ました。なぜなら、シュートブロックの動きなどはボールに触らないから。それでどんどん守備が良くなり逆足が出るようになると、今度は逆足のトリブルや「ドライブ」が良くなった。攻撃面でもドライブができる選手がすごく増えてきましたね。
ドライブできるCBやボランチが重要
──キーワードが出ました。「ドライブ」とはどんなプレーですか?
中西:ドライブはこれまでもずっと取り組んでいましたが、ここ最近より細かく、より具体的にトレーニングに落とし込めるようになってきました。これまで守備の選手にはアプローチしていなかった動きですね。「運ぶドリブル」の一種ではありますけど、より“進入”していくイメージです。バスケットボールのドライブに近いと思います。
──密集地帯に突っ込む感覚ですか?
中西:そうそう、進入していく。
──スペースに運ぶイメージとは違う?
中西:スペースに入ることも一つです。要するにドライブとは、ボールを運んで、相手を食いつかせて、その逆を使うこと。右利きだけど左ドライブさせるとか。左利きだけど右ドライブさせることもけっこうやっています。例えば、筑波大の小川(遼也)選手は右利きだけど左ドライブができるようになりました。そういうセンターバック(CB)になれるように意識しています。
──小川選手もドライブをかなり意識していると話していました。
中西:まさにそこに取り組んでいます。後ろの選手がドライブできればできるほど、ビルドアップする時に前にいる選手がラクになりますからね。
──ドライブということでは、久保選手がヨーロッパの舞台で頻繁に使っているように感じます。これまで縦に運んでいた場面でも、中に切り込んでいくような。
中西:建英は今、基本的にドライブしながら突破を狙っていますね。今季も何度もそうしたシーンが出ています。例えば1ゴール・1アシストしたUEFAヨーロッパリーグのアヤックス戦は、得点以外の場面も際立っていました。股を抜いた後のクロスが逆サイドに転がってしまいましたけど、ドライブの進入経路はすごく論理的なコース取りだったと思います。
そのシーンは本人も「すごくいいところに入っていけた」と話していました。
──そういったドライブを筑波大ではCBにも応用している、と。
中西:その動きをボランチやCBができると、圧倒的に違いを生み出すことができます。例えば、サイドバックであれば、高い位置を取った際の仕掛けは建英のようなドリブル突破になりますし、池谷(銀姿郎)選手にもそうした動きは伝えています。
ただ、小川選手やボランチの徳永(涼)選手は、どちらかというとドライブの練習を意識していますね。運んで、食いつかせて、パスを出す。あるいは、運んで、食いつかせて、キャンセルする。それは、守備のトレーニングで足が出るようになってくると、その動きを生かしてドライブでも逆足を使ってできるようになるというように、リンクしてきます。
──特に守備の選手は「苦手」があると一気に弱点になってしまいます。
中西:まさにそうで、基本的には利き足じゃないほうの足が出ないものです。右利きなら左足が出ない。でも、今教えている選手たちはみんな逆足が出るようになりました。左足でのボールカットや、ドリブル突破を止めたりしていて、この1シーズンのトレーニングを通じて、守備での両利きが染み付いてきたと感じています。
選手と共に進化するN14中西メソッド
──筑波大の選手へのアプローチは、これまでの久保選手やトップ選手とは少し異なる印象です。中西さんのトレーニングは基本的には「良いプレーを伸ばす」という視点だったところから、筑波大では「弱点をなくす」ことにもトライしているような。
中西:それはありますね。守備はやはり「左右差をなくす」ことが重要なので、どっちの足も出せないといけないし、どっちの方向にも行けるようにしないといけない。苦手をなくすことが大事ですし、結果的にそれが攻撃にも生きてくるため価値は大きいと思います。
──それこそがメソッドの進化でもある。
中西:そう思います。例えば、GKは圧倒的に左右の動きが同じじゃないといけないポジションです。権田選手も、トレーニングを通して「今までケガしてうまく動いていなかった部分が動くようになった」と話していますし、「自分の膝がこんなに曲がるんだ」って、驚きもあったようです。
権田選手とのトレーニングを続けてきたことで、キャッチやクロスボール対応、斜め後ろに戻るステップの踏み方など、筑波大でもGKの入江(倫平)選手や佐藤(瑠星)選手に対して伝えられることが増えています。
──その動きは、実際にフィールドの選手でも使えますよね?
中西:めちゃくちゃ使えますね。守備の場合、斜め後ろに下がる時にはサイドステップか、クロスステップかの2種類がありますけど、クロスステップのほうがうまく下がれますし、ヘディングにも対応しやすい。なぜなら、そのほうが“かかと”が入りやすいから。
かかとが入らないと、高く飛べないんですよ。ジャンプする時も多くの選手はどちらかの踏み足を苦手にしているものですが、その苦手をつくってはいけない。だから、かかとをしっかりと入れて、左右差なく両方の跳び足で踏み切れるようにしています。
──いろんな選手にアプローチすることで中西さん自身の気づきも多いですか?
中西:すごく多いですよ。苦手なジャンプを克服するどころか逆足の踏み切りのほうが良くなる感覚は、小川選手とのヘディング練習で気づいたことです。GKの動きの改善が、DFの動きの改善に、DFの動きの改善がGKの動きの改善につながるなどリンクしていく。それは筑波大の環境も大きいと感じています。
【連載後編】Jクラブ最注目・筑波大を進化させる中西メソッドとは? 言語化、自動化、再現性…日本サッカーを強くするキーワード
<了>
[PROFILE]
中西哲生(なかにし・てつお)
1969年9月8日生まれ、愛知県出身。同志社大学経済学部卒業。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレー。 名古屋では1996年天皇杯優勝、川崎では1999年キャプテンとしてJ2優勝、J1昇格に貢献し、2000年に引退。現在は川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使、いしのまき観光大使などを務める。著書には『魂の叫び』、『ベンゲル・ノート』(幻冬舎)、『日本代表がW杯で優勝する日』(朝日新書)、『サッカー世界標準のキックスキル』(マイナビ出版)などがある。 TBS『サンデーモーニング』、 テレビ朝日『Get Sports』でコメンテーターを務める。また、TOKYO FMで毎週金曜日15:00〜17:00に流れるラジオ番組『TOKYO TEPPAN FRIDAY』のメインパーソナリティを担当。パーソナルコーチとしては久保建英など、多くの現役プロサッカー選手を指導。 現在は筑波大学蹴球部テクニカルアドバイザーも務め、大学生の指導にもあたっている。技術の再現性を追求する「N14中西メソッド」は、久保建英や中井卓大、長友佑都、永里優季といったトップ選手たちに授けてきた唯一無二の技術理論。 「身体から離れないドリブル」「ぴたりと止まるトラップ」「決まるシュートの論理」など、日本をW杯優勝へと導く鍵となる究極の思考と技術を体系化したものである。
小学生(U-12以下)を対象に「N14スプリングキャンプ」が開催!
2025年3月29日、30日の2日間にわたってN14中西メソッドのスプリングキャンプが開催される。セレクション(映像審査)によって選ばれた12人のみが参加できるエリートキャンプとして、中西哲生が少数精鋭でトレーニングを実施。実際に久保建英選手が取り組んだメニューや、筑波大学蹴球部で取り組むメニューを中心に構築する。トレーニングに加えて座学もあり、MVPに選ばれた選手は中西哲生がパーソナルトレーニングを実施する。
詳しくは下記公式サイトにて
https://whiteboard-sports.com/n14camp
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