丸山希、ミラノ五輪に向けた現在地。スキージャンプW杯開幕3連勝を支えた“足裏”と助走の変化
女子スキージャンプの丸山希が、ワールドカップでシーズンの主役になっている。2025/26シーズンは開幕3連勝を含む5勝を挙げ、総合でも女王ニカ・プレブツに次ぐ2位につける。試合を重ねるほどに「このシーズンを楽しめている」と言う丸山は、何を変えたのか。足裏、助走姿勢、ゲート変更――細部を積み上げた先に、五輪のジャンプが見えてきた。その強みとプレブツとの距離感、そしてミラノ・コルティナ五輪で勝負を分けるポイントを、大会を前に合同取材で聞いた。
(構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=アフロ)
「楽しめている」開幕の手応えと、「80点」の現在地
――FIS女子スキージャンプワールドカップではここまで、どのような手応えがありますか?
丸山:開幕からこんなにいい状態でスタートすると思っていなかったので驚きから始まりましたが、試合をしていくうちに、このシーズンを楽しめているなと実感しています。
――海外の選手たちも調子を上げてきていますが、ご自身のパフォーマンスはどうですか?
丸山:開幕戦に比べてみんな状態を上げてきているのはすごく感じています。(開幕戦の)リレハンメルでは自分の中で60点ぐらいのジャンプで勝っていた中、だんだん私も状態を上げているのに勝てなくなっているもどかしさもあります。ただ、自分のジャンプをすれば結果がついてくるのもわかってきたので、他の選手は気にせず、自分のジャンプに集中したいです。今は80点ぐらいで、技術的にも開幕戦よりいい状態になっているのは実感しています。
――総合首位の選手だけが着用できる“イエロービブ(黄色いゼッケン)”を着て戦うプレッシャーはありますか?
丸山:よくプレッシャーについて聞かれるのですが、自分では見えないんですよね。現地に入ってスタッフの方がビブを持ってきてくれるのですが、私が目にするのは自分の道具の上に置かれている時ぐらいです。着てしまえば、その上にポンチョも着ますし、わざわざ胸元を見ることはないですから。
足裏に乗る。90kmのスピードで崩れないために
――技術的なポイントではどんな部分に手応えを感じていますか?
丸山:手応えを感じているのは、足裏の取り組み(助走路で足裏のポジションを重点的にトレーニングしてきた)だと思います。ただ、確率としては100%ではないので、オリンピックの日までに100%にできればと思っています。
――助走ではどのような意識ですか?
丸山:常に足の裏をつけて体重を乗せている、というイメージです。「母指球、小指球、踵(かかと)に乗れ」と言われるんですが、90kmのスピードが出ている中で常にそれを意識するわけにはいかないので、「足の裏に体重が乗っているか」をポイントとして意識しています。
――去年の世界選手権の前に(北野建設スキー部の)作山(憲斗)コーチの助言で足の裏を意識する取り組みを始めたそうですが、アプローチを変える怖さはなかったですか?
丸山:大事な世界選手権の時に、今変えるの?という感覚にはなりました。ただ、ここで変えなかったら、それまでのワールドカップの成績と変わらなかったと思うので、思い切って変えてみたのが良かったと思います。
「足から動けるポジション」へ。助走姿勢を下げた効果
――(2022年の)北京五輪後に初めて表彰台に立ったシーズンと比べて、今の感覚では何が一番違いますか?
丸山:技術面では、助走の姿勢が一段階低くなりました。足の裏にフォーカスしたことで、重心をより落とせたのかなと思います。腰高のアプローチと言われていたのが言われなくなったので、見た目で5cmぐらいは重心が低くなったのかなと思います。
――助走姿勢が低くなったことで、何が一番変わりましたか?
丸山:低くなったことで、カンテ(踏切台)で立つ時に、今まで上半身から起き上がっていたのが、足に力が溜められるようになりました。足から動けるポジションに入れたのが、大きなポイントだと思います。
――姿勢がずれた時に戻すチェックは?
丸山:自分の中でチェックポイントを作っていて、上半身を倒した時に頭からお尻まで真っ直ぐになっているか、などです。競技場に行く前にコーチにシミュレーションを取ってもらって、確認してからジャンプ台に行くようにしています。
「楽しい!」が復活した春
――昨シーズン(2024-25)は「勝ちたい」と思っていた中で勝てなかった葛藤があったのですか。
丸山:ずっと悔しい状態が続いていて、「こんなにスキージャンプが楽しくなかったっけ?」と感じる時もありました。楽しいからこそ続けてこられたと思うので、去年は苦しい時間が長いほど、ジャンプと向き合う時間がだんだん減っていたのかなと思います。
――その流れを変えられたのはいつでしたか?
丸山:昨年の春、オフシーズンが終わって最初に飛んだ時に、「ジャンプが楽しい!」という感覚が戻ってきました。その楽しさを忘れず、夏のシーズンを戦えたのが大きいと思います。
――「楽しい」と思えた理由は?
丸山:今年一番の目標は、オリンピックで金メダルを取ることです。目指す過程として総合点240点、飛型点54点を目指すようになったんですが、総合点240点を出すには飛型点と飛距離点を上げなければいけない。飛距離点を上げるには距離が必要なので、距離を出すトレーニングから始めました。常に距離を出せるようになったことで、飛んでいる時間も長くなって、「スキージャンプが楽しい!」という感覚に変わっていきました。
――飛距離を出すためにゲート(助走開始位置)を上げたことで、スピードが上がったり、風の影響を受けやすくなる怖さはなかったですか?
丸山:正直、ずっと怖さはあって、しゃがんでしまったりもしました。でも、飛距離を出せるようになってくると楽しさが勝ってきて、「今シーズンはいける」「怖さよりも、飛距離を出して楽しく飛びたい」という感覚になりました。風がある時はゲートを下げたりもしますが、「95%(ぐらいのジャンプを)飛んでから下げよう」とか、「100%いったから、さすがに2段下げよう」と判断します。その日の自分の調子が悪いと思ったら一気にゲートを上げて、K点(建築基準点)とヒルサイズ(安全に着地できる限界点)の間に届く設定で飛ぶ。クリアできたら、そこから少しずつ下げていけばいい、という考え方です。
――楽しい気持ちに変わったのはどのジャンプでしたか?
丸山:夏の感覚と冬の感覚はやっぱり違うので、夏がどれだけ良くても、冬に入った時にそれができるか不安がありました。でも(開幕戦の)リレハンメルで1本目を飛んだ時は「いけるぞ!」という感覚で、思わず「楽しい!」という気持ちになりました。今までにないシーズンのスタートでした。
冬も戦えるポジションづくりを
――春から瞬発力系のトレーニングを取り入れたそうですね。
丸山:去年ぐらいからプライオン(プライオメトリクス=ジャンプ動作などを通じて瞬発力を高めるトレーニング法)のトレーニング本格的にできるようになりました。それまでは再断裂はなくても(膝に)負荷がかかりやすいので、週に1回ぐらいの頻度でしたが、去年の夏からプライオンのトレーニングを増やして今に至ります。
――夏の段階から冬のレールを見据えた取り組みもしてきたそうですが、どのようなことを意識しましたか?
丸山:夏から冬のレールに移行する時に毎年苦戦していて、氷になった時にいいポジションに入るまでに時間を使ってしまっていました。そのため、冬のアプローチを意識して、足の裏(の使い方)も見直しを始めました。オリンピックシーズンだからというより、(北野建設に)入社してから横川(朝治監督)さんに見てもらう中で4シーズン、毎年同じ課題があったので、冬も戦えるポジションづくりをした、という感じです。
女王・プレブツとの距離。会場を沸かせるジャンプが武器に
――2025年サマーグランプリの最終戦でニカ・プレブツ選手に勝ったことは好転のきっかけになりましたか?
丸山:サマーグランプリのクリンゲンタール(ドイツ)で勝ったのは、自信につながりました。いい形で夏のシーズンを終えられたからこそ、リレハンメルの結果があったと思います。ずっと2位止まりだったのが心の中で引っ掛かっていたのかなと、今は感じています。
――女王であるプレブツ選手との距離感は変化しましたか?
丸山:彼女は2年間、総合女王に輝いているので、ずっと近づきたいと思っていた存在に近づけているのはすごくうれしいです。出場選手はみんなライバルだと思いますが、ワールドカップでも国内大会でも常に出る試合はすべて勝ちたいと思っているので、去年も彼女のことは常に意識していました。試合のリザルトを見て、彼女が1位であれば「今週は先週から何点ポイントを縮められたか」を比較していました。
――ミラノ五輪で、プレブツ選手との勝負を分けるポイントはどこになりそうですか?
丸山:いかに相手にプレッシャーを与えるジャンプができるか、だと思います。彼女が前で飛んでヒルサイド近くまで行くと会場が沸いて、その沸き具合が、その前の選手とは一気に変わるので。逆に(12月の)エンゲルベルグで私が会場を沸かせた時に、その後に彼女が失敗したのか、私がプレッシャーを与えることができたのかはわからないですが、彼女も人間なので失敗はすると思います。上にいる時はそれ(観客の声援)しか情報量がないので、そこでどれだけ沸かせられるか、がポイントになるかなと思います。
【連載後編】女子ジャンプ界の新エースを支える「心の整え方」。丸山希が描くミラノ・コルティナ五輪「金」への道
<了>
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[PROFILE]
丸山希(まるやま・のぞみ)
1998年6月2日生まれ、長野県出身。ノルディックスキー・ジャンプ選手。北野建設所属。小学校4年生から本格的に競技を始め、2017年に明治大学へ進学。2018年にサマーグランプリ初出場を果たし、ロシア・チャイコフスキーで行われた男女混合団体で優勝して国際大会初の表彰台に立った。2018/19シーズンからワールドカップに本格参戦し、2019年世界選手権で初出場(個人17位、団体6位)。2023年ワールドカップ・ヴィリンゲン大会で自己最高の2位に入り、同年の世界選手権では女子ラージヒルで4位入賞。2025年夏のFISグランプリ総合優勝を経て、2025/26シーズンはワールドカップで開幕3連勝を含む今季5勝(2026年1月時点)を挙げ、ミラノ・コルティナ冬季五輪(2026年2月6日開幕)のメダル候補として期待を集めている。
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