「ピークを30歳に」三浦成美が“なでしこ激戦区”で示した強み。アメリカで磨いた武器と現在地

Career
2025.06.16

長谷川唯、長野風花、宮澤ひなた、谷川萌々子、林穂之香――。なでしこジャパンの中盤は今、海外で活躍する実力者が激しくポジションを争う最激戦区となっている。そのなかで静かに存在感を高めているプレーヤーが、三浦成美だ。アメリカのNWSLで実力を磨き、再び代表の舞台に戻ってきた。6月のブラジル戦では2戦目に先発し、中盤に守備の安定とバランスをもたらした。東京五輪以来、一時は代表から遠ざかっていた27歳のプレーメーカーが、次のステージに向け静かに闘志を燃やしている。

(文=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

苦難も成長の糧に。三浦成美が手にした「揺るがない強み」

2025年5月末から6月上旬にかけて行われた、ブラジルとの2連戦。なでしこジャパンは、初戦は攻守に主導権を握られ1−3と敗れたが、2戦目ではその構図を覆した。そのキープレーヤーが三浦成美だった。

初戦こそ出番がなかったものの、2戦目でスタメンに抜擢された。冷静なポジショニング、献身的な守備、対人の強さも発揮して攻守のバランスを保ち、試合に安定感をもたらした。結果こそ1-2に終わったものの、誰と組んでも周りの良さを引き出せる柔軟性に、強度と賢さも伴わせたプレーは、世界一奪還という使命に臨むニルス・ニールセン監督の印象に確かなインパクトを残した。試合後、指揮官はピッチを歩く三浦に近寄り、声をかけた。

「試合後に『よくやった』と言っていただきました。特にチームのバランスを取るところと、『あなたがリーダーになっていたよ』ということも伝えていただきました」

年代別から世代の中心にいた三浦が、A代表に初招集されたのは20歳の頃。2021年の東京五輪に出場したものの、池田太監督体制下では招集外の時期が続いた。2023年9月のアルゼンチン戦で再び巡ってきたチャンスも、ワールドカップ、パリ五輪という大舞台にはつながってはいない。

「(代表を外れて)最初の数回は複雑な思いで、気持ちに波がありました。でも、海外に出て成長できている実感もあったし、焦らず、やり続けていればまたチャンスが来るだろうという感覚を持っていました」

2023年に海外挑戦を決断し、アメリカ女子プロサッカーリーグ(NWSL)のノース・カロライナ・カレッジに移籍。3年目の今季はワシントン・スピリットに活躍の舞台を移して全試合に出場している。地道に積み重ねた努力は、プレーの成長だけにとどまらず、精神的な落ち着きも身についた。

常に1〜2万人の大観客が詰め掛けるアメリカの環境で研ぎ澄まされた感覚が、久々の代表で見せたプレーや立ち居振る舞いに表れていた。

「変に気負わず、試合前後も無理に気持ちを上げるというより、チームのために何ができるかを最優先に考えてプレーできるようになりました。そこに成長を感じています」

ヨーロッパではなくアメリカに挑戦した理由

技術、運動量、インテリジェンス。日テレ・東京ヴェルディベレーザという、自身の基盤を築いたクラブを離れ、あえてプレースタイルが大きく異なるアメリカのリーグを新天地に選んだのは、未知のチャレンジに臨みたいという好奇心もあった。

「イングランドなど、ヨーロッパのチームの方が自分のスタイル的に合うという考えもあり、逆に、アメリカでは何もできないんじゃないかというイメージがありました。ただ、オファーをいただいたノース・カロライナ・カレッジが魅力的なサッカーをしていたし、あの強度の中でどこまでできるのかに興味が沸いて。そこでプレーできたら、日本(代表)にとっても大きな経験になると思いました」

最初の半年間はスピードやパワーに苦戦し、自身に足りないものを突きつけられた。しかし地道にトレーニングを続け、日々自身の感覚をアップデート。的確なポジショニング、球際の強度、走力、守備範囲、判断のスピード。すべてが求められるNWSLの環境が、三浦の意識を大きく変えた。

「特に中盤で世界と戦うとなると守備でいかにボールを拾えるかということや、中央のスペースを空けない細かいポジショニングが必要になります。どのチームも中盤にいい選手を置いてくるので、そこで時間を作れたり、削れる選手になれればと思っています」

幼馴染み・三笘薫から受ける刺激

ベレーザ時代から、三浦は多彩なトレーニング方法を取り入れ、自身の能力に磨きをかけてきた。たとえば、片目を隠してテニスボールをキャッチする認知力のトレーニング、初速を上げる高速の切り返し。オフは山のトレイルランに臨み、持久力も培った。

アメリカでは、スプリントやウェイトトレーニングを強化し、パワーやスピードも向上。中でも、特に変化したのがターンの質だ。

「足を伸ばされたり体ごと飛ばされることもあったので、よく周りを見て、懐を使ってターンする技術を身につけました。試合中には気が利かないパスも飛んでくるので(苦笑)。違う向きからでも、体をうまく使ってターンするスキルも身につけました」

そのターンには、幼い頃から家族ぐるみの付き合いがあり、20年来の幼馴染みである三笘薫のアドバイスも生かされているかもしれない。挑戦の場をヨーロッパとアメリカに移した後も「高め合える存在」と互いの活躍を励みに、よく連絡を取り合って近況を分かち合っている。

「もちろん刺激は受けています。『こういうトレーニングが良かったよ』という情報も共有したり、何気ない会話もします。身近に刺激を与えてくれる選手がいることは、自分にとって大きいです」

ワシントン・スピリットの中盤に欠かせない存在に

NWSLの試合環境は、日本やヨーロッパのトップリーグとも異なる。昨季、NWSLは4年間にわたって前年比40倍に当たる総額2億4000万ドル(約360億円)の放映権契約を締結。国内のサッカー人気も上昇しており、世代交代を図ろうというアメリカ女子代表の監督に、チェルシーで黄金時代を築いたエマ・ヘイズが就任。従来の縦に速いスタイルにヨーロッパの戦術的多様性が融合し、リーグのレベルも上がってきている。

そんな中で、三浦は3年目の今季ワシントン・スピリットに移籍。チームを率いるのは、2021年〜24年に女子のバルセロナで数々のタイトルを獲得し、黄金時代を築いたジョナタン・ヒラルデス(来季からOLリヨンの監督に就任)。10カ国の代表選手が所属しており、アメリカ女子代表のトリニティ・ロッドマン、アシュリー・ハッチ、若手センターバックのタラ・マキューンらタレントも揃う。そんな強豪クラブで、三浦は開幕からレギュラーの座を勝ち取った。

「ジョナ(監督)と、そのスタッフのもとでサッカーをやってみたいと思い、移籍を決断しました。豊富な知識と経験を持つ監督から貪欲に学ぼうという気持ちで取り組んでいます。スタッフもスペイン系なので、ポゼッション重視のスタイルで、筋トレのメニューもヨーロッパ風になり、練習やミーティングのタイミングも変わって最初は適応するのが難しかったですが、いい経験ができています」

このチームで、三浦は戦術理解やポゼッションスキルを向上させながら、プレーの選択肢を広げている。ファンの歓声で味方の声が届かず、試合中のマークの受け渡しが難しい。その状況を逆手に取り、個人の守備範囲を広げた。監督からは攻撃面でも期待され、6月9日に行われた古巣のノース・カロライナ・カレッジ戦では勝利を引き寄せる3点目をアシストした。チーム内には経験豊富な選手もいるが、リーダーシップの面でも意欲的だ。

「上から目線に聞こえたら申し訳ないですが」と前置きし、三浦は力強く言葉を紡いだ。

「ロッドマンなどビッグネームもいますが、彼女たちはまだ若いので、波もあります。だからこそ、自分が話を聞く側になって“こう思うよ”と伝えて、みんなをのびのびプレーさせられるような存在になりたい。みんなもリスペクトしてくれていますし、恐れずに意見を伝えていきたいです」

30歳を“ピーク”にするために

三浦が描くキャリアの未来図は、2年後にブラジルで行われる女子ワールドカップで、自分の“ピーク”を迎えること。その青写真を描くようになったのは、6年前。

「2019年のワールドカップ後、目標設定をする中で、自分のピークをどこに持っていくか考え、30歳で迎えるブラジルワールドカップに設定しました。いろいろな経験をして、そこにピークを持っていけると感じたんです。成果を出せるパフォーマンスを発揮して、世界一を本気で取りにいきます」

アメリカで3シーズン目を迎え、三浦は“成熟”に向けた助走期間に入った。NWSL初優勝を目指すチームの中心選手として、そして日本代表の再浮上を支える存在として――。三浦成美の挑戦は、次のピークに向かって着実に歩みを進めている。

<了>

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