ベレーザが北朝鮮王者らに3戦無敗。賞金1.5億円の女子ACL、アジア制覇への現在地
AFC女子チャンピオンズリーグのグループステージを、日テレ・東京ヴェルディベレーザは2勝1分、3戦連続無失点で戦い抜いた。今季は新戦力が加わった一方、国内のWEリーグでは3位と波に乗れず、10月のリーグ戦は楠瀬直木監督が「ベレーザ史上稀に見る苦しい成績」と語るほど、チーム状態は苦しかった。さらに、今回の3連戦ではエース山本柚月も欠いた。それでも高温多湿のミャンマーで、最も厳しいグループで首位突破をつかみ取った。優勝賞金約1.5億円、来季以降のFIFA女子チャンピオンズカップや2028年に新設予定のFIFA女子クラブワールドカップにつながる今大会で、ベレーザが示した強度と成長、そしてアジア王者への条件を探る。
(文=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=AFC)
ミャンマーで始まったアジア制覇への道
AFC女子チャンピオンズリーグ(AWCL)は、アジア女子クラブの頂点を争う大会として昨季から本格始動した。初年度は優勝候補と目された三菱重工浦和レッズレディースがまさかの準々決勝敗退に終わり、大会後に契約解除となった楠瀬直木監督が、今季、日テレ・東京ヴェルディベレーザに電撃就任したことも話題となった。
2028年には初のFIFA女子クラブワールドカップが始まり、その間の年にはFIFA女子チャンピオンズカップが行われる。AWCLはこれらの出場権に直結し、優勝賞金は約1.5億円。WEリーグの7.5倍に相当し、クラブ経営にも大きなインパクトを持つ。
楠瀬監督は大会前、「グループステージ突破が最低限のノルマ」と明言。WEリーグからは1700万円の助成も決定し、日本代表の専属シェフも務めた西芳照氏も帯同。環境面ではしっかりと準備を整えたが、チーム状態は万全ではなかった。
「ベレーザ史上稀に見る苦しい成績だと思う」
リーグ戦では思うように勝ち点を積み上げられず、第13節終了時点で首位・INAC神戸レオネッサと勝ち点8差の3位。塩越柚歩、猶本光、土光真代、隅田凜、大場朱羽ら実力者が加わった反面、ケガ人も多い中でコンビネーションの構築に時間がかかり、10月は公式戦4試合勝ちなしの非常事態に。楠瀬監督も「ベレーザ史上稀に見る苦しい成績だと思う」と漏らした。
「ゲームは握れているけれど、最後を決めきれない。サポーターにも申し訳ないし、これが続くと、信じられるはずのものも揺らいでしまう」
象徴的だったのが、1トップに定着した樋渡百花だ。高い技術とフィジカル、申し分ないポテンシャルを持ちながら決定機を逃す場面もあり、指揮官は「軸になれるように成長してほしい」と奮起を促した。同時に、チーム全体に対して、アジアで戦ううえで欠かせない“泥臭さ”の不足にも言及した。
「選手たちは“やらされてきた”ことが多いと思う。でも、アジアで戦うには泥臭さが必要。(浦和から加入した)柚歩や(猶本)光が練習から声を出してくれているけど、そういう声はこれまで練習の中であまりなかった」
指揮官が指摘する“泥臭さ”は、猶本が今大会前に語った“チームとしての主体性”とも重なる。浦和時代から指導を受けてきた猶本は、楠瀬監督について、プレーや決め事を細かく指定するタイプではなく「選手の判断を尊重し、自主性を引き出そうとする」指導者だと言う。だからこそ、状況に応じてどう戦うかを選手同士で話し、方向性を自分たちで整えていく必要があると強調する。「まとまるまでに時間がかかるのは仕方がないこと。そこを乗り越えてこそブレない強さが生まれる」と語った。
そうした過渡期のチームに追い打ちをかけたのが、エースの山本柚月の不在だった。AWCLに間に合うようにコンディション調整を続けていたが、最終的に3試合とも欠場。攻撃の軸を欠いた状態で、高温多湿下の3連戦に挑むこととなった。
そして、最も重要な初戦が、チームに流れを呼び込むことになる。相手は北朝鮮の強豪・ネゴヒャン女子蹴球団だった。
今季“ベストゲーム”にふさわしい90分
ネゴヒャンは北朝鮮女子プレミアリーグの昨季王者であり、A代表や年代別代表選手を多く抱える強豪だ。U-17女子ワールドカップで同国は2024年から連覇しており、直近の大会では日本が1-5で破れた。U-20女子ワールドカップでも24年に世界一に輝いており、ネゴヒャンはその「アジア最強の育成年代」を支えるクラブの一つだ。その相手に4-0の完勝を収めた。理由は大きく三つ考えられる。
一つ目は、3バックと4バックの可変がスムーズで、相手のプレスを外し続けたことだ。松田紫野・村松智子・土光真代の3バックに、サイドの青木夕菜、北村菜々美を含めて4バックにも5バックにも可変する柔軟な配置をつくった。相手のプレッシャーの変化に応じてラインを操作し、前半の主導権を握った。
二つ目は、“北朝鮮の強さ”を知り尽くした塩越の存在だろう。
「(北朝鮮の選手は)球際の強度が国内と全然違う。タックルのタイミングが違い、ボールへの執着がすごい。臆することなく突っ込んでくるので球離れの速さやかわす間合いが重要だと思う」
大会前に語っていたその言葉が示すように、緩急の付け方やスペースをコントロールするポジショニングなど、認知と技術の高さで序盤からチームに落ち着きをもたらした。
そして三つ目は、交代策が的中し、流れが落ちなかったことだ。前線では小林里歌子が流動的な動きで相手を困惑させ、左の北村菜々美が的確な判断でボールを前進させ、中盤では菅野奏音と隅田凜がプレスを回避しながらワンタッチを効果的に使って展開。立ち上がり6分に見事な連携から塩越が先制点を決め、後半は18歳の眞城美春が巧みなステップから2点目。その後は樋渡が期待に応える2ゴールで試合を決めた。さらに猶本もアシストに絡むなど、交代出場選手が強度を引き継ぎ、完勝した。この試合の内容と結果が、チームに勢いを与えたのは間違いない。
課題を残した2試合、“層の厚さ”が見えた3連戦
初戦で大きな手応えをつかんだ一方で、続く2試合は内容面で課題も浮かび上がった。第2戦はミャンマー王者のISPEに対し、85%の保持率を記録しながら奪った得点は1点のみ。引いた相手に対してテンポを変える攻撃やフィニッシュの精度を欠き、前半13分のダネル=タンのボレーで勝利こそ収めたものの、内容としては物足りなさの残る試合だった。
最終戦の水原FC(韓国)も堅守に苦戦。西川彩華や奥津礼菜ら元WEリーガーが在籍する難敵に対し、ボール保持率では上回ったものの、エリア内への進入機会は限られ、逆にカウンターから2度の決定機を許す。その危機を救ったのが大場朱羽だった。29分と85分のビッグセーブでゴールを死守。スコアレスドローで首位通過を確定させた。
過酷な環境で中2日の3連戦を乗り切れた背景には、選手を固定せず、ローテーションで疲労を分散させながら“チャレンジ”を促した起用がある。その象徴が、眞城だった。全3試合で、流れに応じて複数ポジションを任され、攻撃の潤滑油にも、フィニッシュワークのアクセントにもなった。
「眞城はトップ下で自由にさせたほうが面白いと思うけれど、守備も良くなってきたし、いろんなところに動いてほしい。サイドに置くと自分で『何かしたい』という気持ちが出てしまう。でも、できるんだったら思い切ってチャレンジさせたい」(楠瀬監督)
本職のボランチに収まらない可能性を示したこの3試合で、眞城の伸びしろが一段と鮮明になったのは間違いない。
3戦無失点の守備について、村松智子はこう振り返る。
「前からの守備や中盤のプレスバックなど、全体で声を掛け合って戦いきれた。積み上げが結果に表れたことは自信を持っていいと思う」
17歳の青木の守備強度、大場の台頭も大きな収穫だ。1対1の反応、滞空時間の長いセービングは、なでしこジャパンの守護神・山下杏也加を彷彿させる。山本不在でも崩れなかった理由は、この層の厚さにある。
日本開催が濃厚なノックアウトステージへ。アジア王者への条件
3試合で露呈した最大の課題は「引いた相手を崩す力」だろう。前から来る相手は剥がせるが、守備を固める相手には手を焼いた。一戦必勝の舞台では「90分間守ってPK狙い」というチームが出てくるだろう。
グループステージを首位突破したことにより、来年3月の準々決勝は日本開催が濃厚。ホームアドバンテージを最大限に生かすためにも、テンポの変化、厚みのある攻撃、切り札となるカード、そしてPK戦の準備など、さらなる上積みが必要になる。
鍵となるのは、小林里歌子・猶本光・塩越柚歩のトライアングルだ。3人のコンビネーションが機能した時、ベレーザの攻撃はさらに迫力を増すはずだ。
アジア王者への道は、ここから険しさを増す。それでも、ミャンマーでの3連戦で経験した強度と層の厚さ、攻守の方向性は確かな土台となる。ベスト8から先へ進めるかどうか──問われるのは、ここから4カ月でどこまで成熟度を引き上げられるかだ。
<了>
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