日本サッカーに「U-21リーグ」は必要なのか? 欧州の構造から考える19〜22歳の育成
日本サッカーの「ユース後」の育成は、正しく機能しているのだろうか。Jクラブでは1チーム30人以上を抱えるチームが多い一方、出場機会を得られない若手は少なくない。19〜22歳という最も重要な成長期に試合経験を積めず、才能が伸び悩むケースも増えている。欧州では、この課題を解決するためにBチームやU-23リーグが制度として整備されてきた。JリーグでもU-21リーグ創設の議論が進むなか、日本サッカーはどの方向へ向かうべきなのか。欧州の事例から、その可能性を考える。
(文=中野吉之伴、写真=ロイター/アフロ)
欧州クラブがトップチームの人員を増やさない理由
日本サッカーのさらなる発展に向けて、Jクラブのセカンドチームの必要性が、少しずつ注目を集めている。元日本代表の内田篤人と香川真司が対談で興味深い指摘をしていた。
・Jリーグは1クラブ30〜35人所属で出られない選手が多い
・欧州強豪クラブでも(フィールドプレーヤーは)20人ほどの構成で年間60試合+代表戦を戦っていた
・欧州ではBチーム、U-23チームがうまく機能している
・日本でもトップチームの選手数を制限し、リーグの競争力向上につなげるべきでは?
両者が指摘するように、欧州クラブはトップチームの人員を過剰に持とうとはしない。シーズンを通して全員がケガなくフル稼働できることは少ないが、多少の離脱者が出ても、大きく戦力を落とすことなくやりくりできるライン。まさにそれがフィールドプレーヤー18〜20人構成だろう。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)、UEFAヨーロッパリーグ出場クラブがこのラインなので、それ以外のクラブは16〜18人構成でも可能とされる。
トレーニングで多くの選手が必要な場合は、U-23やU-19から補充できるし、それを込みでプランニングがされているところが多い。U-17からU-23までの「将来的にトップチームでの活躍が期待される選手」で構成された特別トレーニングを行うクラブもあるし、そのための特別コーチを置くこともある。
今季ドイツ・ブンデスリーガとCLで好調を維持しているバイエルンにしても、トップチームは25人前後で構成されており、ジャマル・ムシアラ、アルフォンソ・ディビス、伊藤洋輝といった長期離脱選手が復帰したことで、試合日にメンバーから外れる選手が出る状況が、シーズン後半にはじめて起きた。
経営面での影響も小さくはない。トップチームとして活動するための選手となれば、それ相応の人件費もかかる。U-23チーム扱いにしておくとそこを抑えられるし、選手がこの期間にどれだけ成長するかをある程度待つこともできる。
「19〜22歳問題」消えていく才能を出さないために
猛スピードで変わり続ける欧州サッカー界において、10代でA代表へ定着できるほどの資質を持った選手が常に待ち望まれているのは間違いないし、実際にそうした選手もたくさんいる。ただ、それができないがために、19〜22歳の段階で見切りをつけられるようになるのは望ましくない。
ドイツU-23監督のアントニオ・ディサルボからこんな言葉を聞いたことがある。
「誰もがみんな同じような成長曲線を進んでいけるわけではない。成長スピードには個人差があるし、飛躍を果たすにはきっかけだって必要だ。遅咲きの選手だってたくさんいる。そして遅咲きの選手にしても、自分に合った環境で着実に試合出場機会を積み重ねていくから、ある日花咲く日を迎えることができるわけだ」
フライブルク前監督クリスティアン・シュトライヒは、どれだけ主力選手を他クラブに引き抜かれても、「我々には優れた育成アカデミーがある」と、自前の若手への自信を崩すことがなかった。主力選手がいなくなることに対して、「U-23の存在がとても重要だ。そして次の選手がプレーするチャンスが生まれたことを意味するのだ」とポジティブに話してくれた。
選手サイドにとってもメリットは大きい。元マインツU-23コーチのジモン・ペッシュが「U-19ブンデスリーガと大人の4部リーグでは大人の4部リーグのほうがレベルは明らかに上なんだ」と語っていたが、プロクラブのU-18〜U-19とプロの差はとても大きい。ユース上がりの選手たちは選手としての成熟さを高める必要があり、そのためには大人のサッカーの中で経験を積むことが必要なのは言うまでもない。
育成大国ドイツで進むU-21リーグ構想
その点で、ドイツにおけるU-23チームのあり方に問題がないわけではない。ブンデスリーガ1部に所属するクラブのU-23チームの所属リーグは、だいたいブンデスリーガの3〜5部。トップチームが求めるクオリティを備えるための経験が積めるレベルのリーグに所属できる保証があるわけではない。そのため資質がある選手はレンタル移籍で提携しているクラブで経験を積むこともプラン設計に入ってくる。
例えばマインツでドイツ代表に招集されるまでに成長したパウル・ネーベルは、U-23で4部を経験し、その後2部カールスルーエへレンタル。そこでコンスタントに出場機会を得て、ゴールやアシストを記録できるようになったことで、マインツのトップチームで活躍するようになった。
とはいえ、育成と勝利の両立は、どのクラブでも難しい課題だ。特に今の欧州サッカー界はお金の動きが極めて大きい。順位が一つ違うだけで数十億円の違いが出てきたりする。降格ともなったら、その打撃は計り知れないものがある。どれだけ資質がある若手選手でも、シーズンを通してコンスタントな活躍ができるようになるまでは、なかなか起用に踏み切れない現実がある。
ただ事実として、近年ブンデスリーガの平均年齢は上昇し、若手の出場時間が十分に確保されているとは言えない。多くの才能の成長機会が不足している。
そこで現在ドイツリーグ連盟では、この流れを食い止める手段としてセカンドチームとは別に、U-21リーグを検討しているのだ。
反対意見もある。主な懸念は「大人のサッカーへの適応が遅れる」「地域リーグとの関係が弱まる」「強度の高いプレッシャーの中でサッカーをする経験の不足」が指摘されている。
実施する目的は「試合経験の確保」「プロに近い強度」「同レベルでの対戦」「プレッシャーがない中で成長と向き合える環境作り」と、育成に重点が置かれている。この新リーグへの参加は義務ではない。クラブはより計画的に選手を起用できるようになると期待されている。
日本のU-21リーグは何を目指すべきか?
では日本において新設されるといわれているU-21リーグはどんな立ち位置で、どんな役割を担うべきなのか。
U-21リーグができることで、選手にとっては他の可能性につながりやすくなる点はポジティブに考えられる。リーグとしてスケジューリングされるので、スカウティングが足を運びやすくなる。自クラブのトップチーム昇格だけではなく、他クラブへの移籍がよりしやすくなる。つまり、これまで以上に選手は、自身のキャリア設計での選択肢を持てるようになる。
現在、日本におけるユース後の選手キャリアは、「Jクラブ」「大学進学」「地域リーグ」「海外進出」と大きく4つに分かれており、どのルートにもメリットとともに、デメリットがある。
Jクラブへいけば、すぐには出場機会が望めないかもしれない。大学進学は、プレー環境が安定しないかもしれない。地域リーグにいけば、仕事との両立が生じるだろう。海外進出は成功例が華々しくニュースになったりもするが、失敗例のほうが圧倒的に多い現実がある。
それだけに新設U-21リーグが試合数の確保だけではなく、クラブが人間教育と社会勉強と地域貢献とクラブ哲学・コンセプトを浸透させる機会として活用することができれば、新たな可能性として注目を集められるはずだ。
大学サッカーとの関係性は競合ではなく、役割分担と考えるといいのかもしれない。
大学とは本来、それぞれの学科についての専門知識を深め、自分で問いを立てられるようになるための場所。学びたいことがあるから、学びに行く場だ。U-21リーグの新設は、むしろ選手にとって「何のために?」という大学に行く理由がより明確になる。
一方クラブでの活動は職業準備の場。欧州クラブで行われている取り組みのようにうまく時間を使って企業研修を受けたり、職業資格を取ったりできることは選手にとって有意義な時間となり、地域社会との交流ができると、クラブにとっても素晴らしい機会になる。
すぐプロになれるわけではない。けれど、成長力を持った若手がクラブでの活動を通じて、選手としてだけではなく、人間として成熟する時間と環境を作り出せるのであれば、サッカー界だけではなく、日本社会にとっても大きな価値あるリーグとなるはずだ。
欧州のU-23でプレーする選手全員がその後プロ選手になっているわけではない。彼らはこの時間を利用して、自分を知り、社会を知り、その中で自分の将来設計をしていく。プロになれないから失敗というわけではない。プロになったから成功なわけでもない。
だからこそ、それぞれのクラブが、自分たちの哲学とコンセプトを明確化し、どのような強化プランで長期計画を立てていくかが、U-21リーグ新設とセットにならなければならない。
あらゆる可能性に満ちあふれた若き選手たちが、自立した一人の人間として、社会に貢献できるように育つかどうか。それこそが、本当の意味での育成力なのだと思う。
<了>
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