「大学×プロの二刀流」ラグビー界の常識を覆す20歳。本山佳龍が選んだ“異例のキャリア”
ラグビー界における高校生の進路選択では、大学が選ばれるケースが圧倒的多数を占める。進学せずにプロになる選手はごくわずかだ。そのなかで、静岡ブルーレヴズの本山佳龍は“第三の道”を選んだ。大学で学びながら、リーグワン1部の最前線に身を置く。身長188センチ、体重113キロ。規格外のフィジカルを持つ20歳は、なぜこの異例のキャリアを選んだのか。その決断の裏側には、競技力だけではない「もう一つの成長戦略」があった。
(文・撮影=向風見也)
大学かプロか、その常識を覆した珍しい選択
業界異例の挑戦を始めて1年が経った。
静岡産業大学のスポーツ科学科に学びながら静岡ブルーレヴズのプロ選手として活動する本山佳龍は、己が下した決断を正解にするための日々を送っている。
世界中からトップ選手が集まる国内リーグワン1部でチャンスを得るべく、新天地でのトレーニングを通じてもともと立派だった体格をさらにバージョンアップさせる。
身長188センチ、体重113キロの堂々とした体躯を椅子に乗せ、表情を和らげる。
「自分のチームにも、相手のチームにも、むちゃくちゃフィジカルが強い選手、各国で活躍しているレベルの高い選手がいる。憧れていた舞台だったので、最初は『すげぇ……』という感じでしたけど、いまは自分もその場に立つ気持ちになっている。その人たちを倒せるよう、どう強くなっていくかを考えています」
プロもしくは社会人か、大学か。そのように注目される優れた高校生アスリートの進路選択は、ラグビー界では進学一択となりがちだ。
2018年に東福岡高校から埼玉パナソニックワイルドナイツへ入った福井翔大、20年に流通経済大柏高校から東芝ブレイブルーパス東京の門を叩いてきたワーナー・ディアンズが日本代表として23年のワールドカップ・フランス大会に出たものの(チーム名はそれぞれ現在名称)、その前後に似た事例が多くあったわけではない。
目下の日本代表で若き主力と見なされる矢崎由高も早稲田大学在籍。いったん大学の部活へ進んだ選手がトップカテゴリーのチームとの二重登録ができないのは、旧トップリーグ時代の16年に筑波大学在学中だった山沢拓也がワイルドナイツに進んだ頃から変わっていない。
たとえ一線級の選手でもトップレベルの舞台、練習環境に辿り着くのには一定の時間や縁が必要なわけだ。ところが本山は、珍しいオプションを選べた。
「あんな大学1年生、いないよ」高く評価される理由
もともとブルーレヴズが産学連携協定を結んでいた静岡産業大では、アスリート生活や引退後のキャリア形成へ必要な知見を吸収。カリキュラムの一環で骨や筋肉の構造を学べるうえ、教員免許を取るためのコースにも挑める。
特に欠かせないのが、教職課程の受講だ。本山は、引退後に母校を指導することを「第二の目標」に掲げている。
スパイクを脱いでからも何らかの形でラグビーに携わるべく、ラグビー選手であるうちから勉強に時間を割くのが現在地だ。
現在のリーグワンでは大学と包括連携協定を結び、人的交流を行うクラブはあるが、契約選手の就学にかくもコミットする例は皆無と言えよう。
本山は午前中にチーム練習を終えると、社業のある選手と似たタイミングでクラブハウスを出て、キャンパスへと向かう。
過密スケジュールを乗りこなす現状を語りながら、いたずらっぽく笑う。
「昼休みに、教職(のカリキュラム)を取っている人だけの集まりのようなものがあります。それもあって大変で、皆、(教職課程の受講を)やめていくんですよ。自分が入った時は40人くらいいたんですけど、(約1年間で)20人もいない。もう、俺がやっているんだから、やれよって感じですけど。ふふふふ」
人に物を教える立場になるために学習していて想像するのは、ブルーレヴズで監督をする藤井雄一郎の職責の重さだった。指揮官の記者会見での発言は、クラブのSNSやホームページで確認している。
「藤井さん、すごいと思うんですよ。試合が終わった後の記事を見ていると、『(結果は)監督の責任』のようなことを話している」
感度の高さ、成長の軌跡は周りも認めるところだ。日本代表を教えてきた経験も持つ長谷川慎アシスタントコーチは、ブルーレヴズのホープについてこう証言する。
「あんな大学1年生、いないよ。根性があるし、頑張るセンスもある。いろんな話をするなかで、いいと思ったことはやりよる。全部(の練習)が終わった後に、ずーっと稲場(巧)と一緒に、いまの子はあまりしないタイヤ引きをしている。『(ウェイトトレーニングで)○キロ上がりました!』と、コミュニケーションを取ってくる。こちらが言いっぱなしにしてはならないけど、向こうが聞きっぱなしにならない。もっと(望み通りに成長するまで)時間がかかると思ったけど、それ以上に早くここまできた」
「丹田に力を入れる」という意識の習得
本山のポジションは先頭の右プロップだ。ブルーレヴズがお家芸にする8対8のスクラムにおいて、両肩に相手の、尻に味方の重みがのしかかる。このタフな働き場の若き大器であるのが、この青年が大いに期待される理由の一つだ。
長谷川は、前身のヤマハ発動機ジュビロ時代に独自のスクラムの型を編んできた。その原型を16年から始めた日本代表の指導でも援用。19年のワールドカップ日本大会で初の8強入りに貢献。23年冬に古巣に戻ってからは、田村義和にスクラムのコーチングを委ねながらフォワードのプレー全般を統括する。
夏のプレシーズン期間中は、その前年度のシーズンに試合に出られなかった若手フォワードのキャンプを行う。宿泊先の地域のチームとスクラムを組む。
昨年のそれには本山も参加した。その数カ月前には招集されたジャパンタレントスコッド(日本代表の育成を目的に大学生世代を強化するプログラム)のスクラム練習で肩を脱臼したものの、そのタイミングまでには復帰できた。
「復帰したてで、スクラムは脱臼したシチュエーションで、不安要素もあったのですが、回数を重ねるごとに克服できました」
序盤は正面の相手、後方の味方の両方からの圧に身体が歪み、宙に浮き、起き上がる頃にはあらぬ方角に視線が向いてしまうばかりだった。
それでも長谷川、田村になぜそうなっているのかを根本から指摘してもらえた。
チームでは、「丹田(へそのやや下でエネルギーの中心点と言われる)に力を入れる」という意識を大切にしている。その言わんとすることをグラウンド上で咀嚼し、目の前の年長者たちとのバトルで実践してみたら、少しずつ、少しずつ違いを感じられ、進歩できた。
「最初は背中が丸まった状態で、組んだ瞬間に相手に持ち上げられるようになってしまうことが何回もあった。ただ丹田に力を入れることで足にも力が生まれるし、コアが固まる。丹田に力を入れることで、組めるようになった。『(高校までは)パワーっしょ?』という感じでしたが、こっち(ブルーレヴズ)に来て変わりました」
「同期は4学年上」それでも戦える理由
静岡に帰っても競争相手がいた。近畿大学卒1年目で同期入団の「稲場君」こと稲場巧とともに、グラウンドの周りでタイヤを引いたり、スクラムマシンに肩をぶつけたりする日々だ。
「稲場君と、ずっと一緒にいます。同じポジションのいい先輩であり、いいライバルですね」
そもそも2人をいっぺんに採用して競わせるつもりだった選手編成・選手リクルートの西内勇人は、「僕と、約束しているんです」とつぶやく。今年6月までの現行のシーズン中に、試合のメンバーに入ることを、である。本山は頷く。
「同期は4学年上です。その差を埋めるには人の倍やらないと追いつけない。1 日でも早く試合に出たい気持ちがあるので。藤井さんには、年齢に関係なく、チームで求められることができればチャンスはあると言われています」
シーズン前は練習試合で出番をもらうのにもひと苦労だったようだが、その時期と現在とでも違いはあろう。周囲は「本山、外国人選手とも対等にスクラムを組んでいますよ」と頷く。本人は改めて、選んだ場所の凄みに唸る。
「ずっとレブズ(の主力級)と組んでいる。周りの人たちがめちゃくちゃ強いんです。それで、他のチームと組むと、『自分も徐々に、気づかないうちに強くなっている』と自信がついてきました」
「リーダーシップ」の領域で自ら見つけた課題
先輩たちに揉まれながら、年代別代表でも請われる。20歳以下(U20)日本代表の候補メンバーとなり、各地の大学に散った同世代の名士と切磋琢磨。U20日本代表の大久保直弥ヘッドコーチ、名嘉翔伍アシスタントコーチはブルーレヴズで指導歴がある。
本山は、普段から練習するのと同じ形でプレーできる。長谷川は期待する。
「いつもはリードしてもらっているけど、今度は自分がリードしなきゃいけない立場になる。要求しなければいけない。そこでどうするかは考えるんやで、という話は(本人に)している」
興味深いのは、本山はこの「リーダーシップ」の領域で自ら課題を見つけたことである。
候補選手との短期合宿のさなか、違うポジションの選手へスクラムの組み方で助言しようと思った時、ふと、考えたようだ。
「教えるの、難しいと思ったっすね。『こうしてほしい』と言っても、『そのやり方がわからない』とか。『(その人の形を)ヘンに変えたりしたら、その人が大学に戻って怒られるんじゃないか』みたいにも考えます。自分が教える側になった時のためにも、(普段のブルーレヴズの練習で)コーチ陣が他のポジションの選手に言っていることにも耳を傾けています」
地道な鍛錬でアスリートとしての能力に磨きをかけながら、情報を聞き、伝える、交流するといったヒューマンスキルを磨いている。
「自分ができる最大限の恩返し」原体験と将来像
将来像は。そう聞かれれば、近隣の大村ラグビースクールのほかに入っていた相撲教室の送り迎えもしてくれた家族への思いが口をつく。
「ここまで身体を大きくしてくれて、本当に返しても返しきれないぐらいの恩がある。試合に出たり、レブズで優勝したり、(日本代表の)桜のジャージーを着てワールドカップに出ることが、自分ができる最大限の恩返しです」
自営業の父の健一郎さんと兄は野球に、2人の姉はバスケットボールやバドミントンなどに親しむなか、もともと大きかった少年はどのスポーツをやっても相手の子どもを蹴散らしてばかり。やや持て余していた。
ぴったりのスポーツを探し回っていた小学2年の頃だったか。ファミリーで出かけた長崎県立西海橋公園で、誰かが置き忘れたであろうアメフト用らしき楕円球を見つけた。
「そこっすね、自分の人生のターニングポイント的なのって」
小学4年からは相撲も始め、さっそく「誰でも参加できる、みたいな感じの大会で個人準優勝。ふふふ」。小学6年、中学生の頃には全国大会に出た。
両親は共働きで、年の離れたきょうだいが寮生活のため家を出ていたこともあり、一人で留守番をすることには慣れていた。
「たまに、一日だけ家族全員が集まる時があるじゃないですか。(兄と姉が一時的に)帰ってくるとかで。その次の日とかは、少し心細い感じですね。いまも、先輩とかは僕が末っ子なのはわかるらしいんですよね。キャラなんですかね」
長崎南山高校ではラグビー一筋。世代随一の逸材と謳われ、高校の指導者とOBが近い関係にあったブルーレヴズから大学とプロの二刀流を提案され、両親に「自分の意思があれば」と背中を押された。
かれこれ1年ほど、寮で一人暮らしをする生活を送っている。
「身体作りのために、食費にはお金を使っています。平日の朝、夜は(チームの)寮で出る。昼は自分で牛肉と野菜を買って、塩コショウで焼いて、食べています」
人生のイニシアチブを握る幸せを噛み締め、努力する。
<了>
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