「鍛える」から「整える」へ。元五輪代表・湯田葉月がピラティスで描く新しいキャリア

Career
2026.04.06

現役引退後、湯田葉月さんが新たな仕事として選んだのは、ピラティスをベースにしたコンディショニングだ。妊娠中に出会い、産後も続ける中で実感したのは、鍛えることだけではなく、体を整えることの大切さだった。自分の体を知り、無理なく動かし、心まで前向きになれる時間をどう届けるか。トップアスリートとして積み重ねてきた経験を土台に、一人一人の状態や気持ちに寄り添う指導を模索する今の思いと、その先に見据える未来について話を聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=UDN SPORTS)

整える力を仕事に変えて。引退後に見つけた新しい軸

――湯田さんが引退後の新しい仕事として、ピラティスをベースにしたコンディショニングを仕事にしようと決めたのは、いつ頃だったのでしょうか。

湯田:引退を決めてからですね。心の中では、少しずつそちらに進みたい気持ちが固まっていきました。

――現役時代、ピラティスはコンディション調整の中でどんな役割を果たしていたのでしょうか。

湯田:毎日練習がある中で、オフの日に少し体を動かしたいけど、気分転換もしたい、という時によくピラティスを取り入れていました。終わった後はすごくすっきりしますし、背筋が伸びたような感覚にもなるんです。トレーニングすることで、逆に体が整っていい状態に戻っていく感覚がありました。だから、試合前でも試合後でも、どちらにも合うものだと思っています。

――選手時代は体を追い込むことも必要だったと思います。そうした経験を踏まえて、今あらためて感じるピラティスの価値はどこにありますか。

湯田:普段はアウターマッスルを鍛えることが多いと思いますが、ピラティスはインナーマッスルを整えて、体の土台をつくるものです。プラスを積み上げるというより、ベースを整える感覚ですね。その意味で、一般の方にとっては日常生活につながりますし、アスリートにとっては強い動きをするための土台を作ることや、ケガ予防の意味でも有効だと思います。

――妊娠中からピラティスを続けてきた中で、体の変化という意味で「ここが良かった」と感じた点はどこですか。

湯田:妊娠中も産後も、激しく動くのは難しいじゃないですか。その中で、ピラティスって地味に見えるけど、体のいろいろな部分に効いてくるんです。いい意味でしんどさがあって、でも気持ちいい。そういう感覚が自分には合っているなと思いました。

――ピラティスを通して、湯田さんが特に届けたいことはどんな部分が一番大きいのでしょうか?

湯田:もちろん体の使い方を知ることも大事ですし、運動することで気分が明るくなるのも大きいと思います。動ける服装があれば始められる、入りやすいエクササイズなので、いろいろな方に一度は試してもらいたいです。

ピラティスの魅力と、教える立場で見えた難しさ

――ピラティスは特に、どんな人に向いているのでしょうか。

湯田:私は、誰でもできるものだと思っています。ピラティスはもともとドイツで生まれ、リハビリを目的に考案されたものでもあるので、身体を整えることがベースにあるんです。マシンを使うピラティスのほうが、骨盤や背骨の正しい動きのサポートが入るので、運動が苦手な方にはむしろ取り組みやすい部分もあります。マットだと自重になるので、体のコントロールが難しい場合もありますが、その方に合わせて使い分けることができます。インナーマッスルを鍛えたり、骨盤まわりを含めた体のバランスを整えたりできるので、幅広い方に向いていると思います。私のスタジオでも、マシンとマットをミックスしながらやっています。

――ホッケー選手としてフィールドに立つ立場から教える側になると、体の感覚を言葉にする難しさもあると思います。その点はいかがですか。

湯田:まさにそこは難しさを感じている部分で、感覚を言語化するのは簡単ではないなと感じています。でも、それもホッケーと同じで、練習を積み重ねていくしかないのかなと思っていますし、教えながら指導者として成長していきたいです。一方で、実際に動いてパフォーマンスで見せられる部分は強みかなと思っています。

――実際に教える中で、手応えを感じる瞬間はありますか。

湯田:あります。体の動きを見て「ここをこうしたらいい」と判断するのは比較的得意だと思います。もちろん、正しい動きを伝えることは大事なのですが、それだけではなく、その人の気分やモチベーション、その日にどこまでやりたいかもエクササイズをする上ではすごく大事です。あまり追い込みたくない人もいれば、しっかりやりたい人もいる。そういった心の面も大切にしながら、その人に合った形でサポートしていくのは、チームスポーツで培った感覚が生きているのかなと思います。

――教える側になってから、新たに学び直していることも多いのでしょうか。

湯田:そうですね。資格を取った後も、自分が素敵だなと思うインストラクターのもとで定期的に学んでいますし、自分自身がレッスンを受けることで学ぶことも多いです。私自身がいただいたアドバイスや、これまでのトレーニング経験の中で良かった部分もミックスしながら取り入れています。

「心」にも寄り添うレッスンを

――妊娠中や産後の女性、あるいは運動経験の少ない方と向き合うとき、最初にどんなことを伝えますか?

湯田:まずは「無理しなくても大丈夫」ということを伝えます。妊娠・出産を経て体の変化もそうですが、メンタル面の浮き沈みもあると思うので、「何かを始めたい」と思ってもできないことが増える時期だと思いますから。でも、できないことではなく、できることに目を向けて一つずつやっていければと思っています。

――レッスンの形として、マンツーマンを中心にしているそうですが、その理由を教えてください。

湯田:一人一人の方と向き合うことを大切にしたいと思っているから、マンツーマンでのサポートをメインにしています。グループだと、どうしても一人にかけられる時間が少なくなってしまうので。もちろん体を整える場所としてレッスンに来ていただいていますが、人間関係も築いていきたいと思っていますし、心も整えられるような空間にしたいと思っています。

――教える喜びを感じるのはどんな時ですか。

湯田:やっぱり「楽しかった」と言ってもらえた時ですね。あとは、その方自身が体の変化を感じてくれたり、できることが増えたと実感してくれたりした時はすごくうれしいです。

――元トップアスリートとして、経験を仕事に変えていくことの難しさと強みは、どう感じていますか。

湯田:難しさはやっぱりあります。アスリートとしてやってきたことを、そのまま仕事に結びつけるのは簡単ではないですし、コーチや監督のような道でなければ、なおさら難しいと思います。でも、自分がやってきたことを、誰かに伝わる形に変えていくことができれば、それはすごく意味のあることだと思うんです。アスリートの経験があったからこそ伝えられること、できることはたくさんあると思うので、正解はなくても、チャレンジしながら自分なりの形をつくっていけたらいいなと思っています。

運動好きになるきっかけに。次の世代へ手渡したいもの

――子育てをしながら仕事を続ける中で、今後どんなキャリアを描いていますか。

湯田:家族を大切に考えて子育てを楽しみながらも、指導者としていろいろな方の体の変化を生み出していくことや、前向きな気持ちになってもらえるようなスタジオ、空間をつくれたらいいなと思っています。

――将来的には、フィールドホッケー界のアスリートや、子どもたちへの還元も考えているのでしょうか。

湯田:今のところ、すぐにホッケー界へ還元する形を具体的に考えているわけではないですが、未来のアスリートを育てていきたい気持ちがあります。子どもたちは特に運動機能が伸びる時期がありますし、今は運動不足の子も多いと言われているので、まずは運動を好きになるきっかけをつくりたいんです。小さい頃にいろいろな運動を経験していれば、大人になってからも「昔やっていたから、またやってみようかな」と思えるかもしれない。そういう入口をつくりたいですね。まだ準備段階ですけど、いつか子ども向けの運動教室もやってみたいと思っています。

――ゴールデンエイジの子どもたちにとっても体を整える視点は大切だと思いますが、子どもたちにピラティスを教えることについてはどう考えていますか?

湯田:ゴールデンエイジの子どもたちは、一つのことに特化する必要はないと思います。とにかく楽しみながらいろいろなスポーツに触れて、たとえば野球をしたい子にもサッカーをさせてみたり、多様な動きを経験してほしいです。「スポーツをしている」という意識ではなく、「遊んでいたら自然にやっていた」くらいの感覚が理想です。その上で、正しい体の使い方を習得したり、本格的にやっていきたい子には、ピラティスで体の使い方を伝えることも生きてくると思います。

――やりたいことがどんどん広がっている感じですね。

湯田:はい、やりたいことは山盛りです(笑)。

――ピラティスを通して、これからどんなきっかけを届けていきたいですか。

湯田:特に、運動が苦手な方にも「体を動かすって楽しい」と思ってもらえるきっかけになればうれしいです。まずは「どんなものかな」と気軽に試してみて、そこから体を動かす楽しさを知ってもらえたらいいなと思います。

【連載前編】湯田葉月が豪州挑戦、結婚・出産を経て見つけた“自分らしい生き方”。結果至上主義からの解放と新たな視点

<了>

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[PROFILE]
湯田葉月(ゆだ・はづき)
1989年7月11日生まれ、大阪府出身。羽衣学園中学でフィールドホッケーを始め、羽衣学園高校では全国高校総体優勝を経験。高校3年時に初めて日本代表に選出された。天理大学に進学し、2010年にはオーストラリア留学も経験。2013年からコカ・コーラレッドスパークスでプレーし、スピードを生かしたドリブルとボールさばきを武器に活躍、日本代表としても2014年ワールドカップ(オランダ)、2016年リオデジャネイロオリンピック、2018年ワールドカップ(ロンドン)などの国際大会に出場。2022年3月からはオーストラリアに拠点を移し、メルボルンのクラブで国内大会の優勝にも貢献した。結婚を経て、2024年5月に長男を出産。2026年3月に現役引退を発表し、新たな活動としてピラティスをベースにしたコンディショニングセッションを開始。現在は大阪府岸和田市の「カラダノコエ Pilates & Conditioning Studio」を拠点に、アスリートから一般の方まで幅広くサポートしている。

「カラダノコエ Pilates & Conditioning Studio」
公式SNS(Instagram):@karadanokoe.pilates

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