“コパ惨敗後に五輪優勝”メキシコがモデル? 南米記者が語る日本の可能性とは

Business
2019.06.17

東京五輪世代+オーバーエイジ枠でコパ・アメリカ2019を戦う日本代表。選手招集の拘束力を持たない招待国枠としての参加であるとはいえ、格上相手にベストメンバーで臨まない日本代表。果たして南米各国ではどのように捉えられているのだろうか? 日本代表をよく知るブラジル人記者への取材を中心に、コパ・アメリカに挑む日本代表について南米側の視点を探った。すると五輪王者との意外な共通点と、若き才能への期待が見えてきた。

(文=下薗昌記、写真=Getty Images)

どこか南米らしい緩さを併せ持つ大陸選手権

ナショナルチームによる世界最古の大陸選手権――。コパ・アメリカの定義に間違いはないが、その歴史はいかにも南米らしく、紆余曲折の歴史を持っている。

南米サッカー連盟が設立された1916年に第1回大会が実施されたが、当時の出場国はアルゼンチン、ウルグアイ、ブラジル、チリの4カ国のみ。決勝戦のウルグアイ対アルゼンチンは審判が不在だったため、4位に終わったチリ代表の監督が笛を吹くという異例づくしの中でウルグアイが初代の王者に輝いた。

UEFA欧州選手権が4年に一度のフォーマットで開催されているのとは対照的に、コパ・アメリカは過去45回、様々な形で開催されてきた。

そもそもコパ・アメリカの呼び名に変更されたのが1975年の第30回大会からで、当初は南米選手権の名で知られていた大会だった。

どこか南米らしい緩さを併せ持つ大陸選手権。そんなコパ・アメリカらしさを物語るのが1993年のエクアドル大会から導入されている招待国枠の存在だ。

アメリカやメキシコはまだしも、1999年にはアメリカ大陸以外からは初めての招待国として日本が参加。すでに前年、FIFAワールドカップ初出場を果たしていたものの、パラグアイで行われた大会でフィリップ・トルシエ監督率いる日本は3戦で1分2敗。当時は完全にアウトサイダー扱いされていた日本ではあるが、当時とは異なる立ち位置で挑むのがサッカー王国で行われる今大会である。

20年ぶりのコパ・アメリカにベストメンバーを送り込めず、東京五輪世代を中心とした23人が招集。しかし、開催国のブラジルは決して、日本がコパ・アメリカを軽視しているとは見ていない。

日本の招集メンバーが発表された直後、多くのブラジルメディアの見出しを飾ったのは「日本のメッシプラス、若手がベース」「五輪世代と6人のA代表」「五輪を見据えて、若手を招集」などの文字だった。

今年3月に放映されたESPNのスポーツ番組でも、1月に日本はアジアカップに出場、コパ・アメリカはFIFAの拘束力が効かないことをジャーナリストが解説済みだった。

では、今回の日本代表がコパ・アメリカを戦う意義を、ブラジル人ジャーナリストはどう見ているのだろうか。筆者の20年来の友人であり、2002年のワールドカップ日韓大会やFIFAクラブワールドカップでも来日経験があり、現在はFOXスポーツでコメンテーターも務めるロドリゴ・ブエノ氏に話を聞いた。

「コパ・アメリカはあくまでも招待国として参加する大会で、日本にとっては必ずしも優勝の義務という意味でのプライオリティが高い大会ではない。来年には地元開催の五輪が控えていて、そこでは成功を収める必要がある。そういう意味でも今回、日本サッカー協会は良いメンバー選考をしたと思うね」

南米各国で注目を集める18歳“久保建英”

ブエノ氏は五輪世代にとって、今回のコパ・アメリカは格好の実戦の場となると指摘するが、モデルケースとなるのが2011年のアルゼンチン大会におけるメキシコ代表である。

日本が東日本大震災の影響で出場辞退した招待国枠で参加したメキシコがこの大会に送り込んだメンバーは、翌年のロンドン五輪を見据えたU-22と数人のオーバーエイジ枠だった。

チリ、ペルー、そしてウルグアイと同居したグループステージは3戦全敗。わずか1点しか取れず、惨敗に終わった格好のメキシコだったが、ロンドン五輪では決勝でネイマールらを擁するブラジルを下し、悲願の初制覇を果たしているのである。

昨年のワールドカップ・ロシア大会も現地で取材したブエノ氏は「今回の日本代表には岡崎(慎司)や、柴崎(岳)、川島(永嗣)ら経験豊富なメンバーも含まれているし、この顔ぶれならば、コパ・アメリカを軽視していることにはならない。それに他ならぬ南米各国でさえ、過去にはサブメンバー主体の代表でコパ・アメリカに挑んだこともあるぐらいだからね」と笑うのだ。

ベストメンバーを送り込むのが当たり前のUEFA欧州選手権とは異なり、ブラジルなどは必ずしもこの大会を重視してこなかったのも事実である。

ワールドカップ3回の優勝を誇る王様ペレが手にしていない数少ないタイトルのひとつがコパ・アメリカ。まだ南米選手権と呼ばれていた1959年大会に出場したのみで、ジーコも1979年大会に出場したのみ。やはり鹿島アントラーズのレジェンドも優勝は手にしていないのだ。

日本の立ち位置や、近年世界のサッカー界で急成長を遂げてきた日本の地力は認めているブエノ氏ではあるが、今大会における日本については、やはりシビアな評価を忘れない。

過去、招待国が優勝した例は一度もなく、最高成績は2度の準優勝を誇るメキシコのみ。あくまでも「お客さま」に過ぎない今大会の日本とカタールではあるが、つい先日の親善試合でブラジルが2対0でカタールに快勝した一戦を見たブエノ氏は言う。

「カタールはアジアカップを制したチームだが、力不足でそれをブラジル相手に露呈した。彼らがどうやってアジアを制したのか理解できないね。日本も今回のグループCで最下位で終わる可能性は高いと見る。強力なウルグアイ、連覇中のチリ、そして成長著しいエクアドルと同じ組だからね」

五輪世代で挑むと認識されている日本にあって、とりわけ南米各国で注目されているのが「日本のメッシ」の見出しで一様に紹介されている久保建英の存在だ。対戦国のひとつ、エクアドルの日刊紙「エル・ウニベルソ」も「コパ・アメリカに招集され、エクアドルと対戦するかもしれない“日本のメッシ”とは誰だ」との見出しを掲げ、久保の経歴などを紹介。今大会でも、チーム最年少となる18歳は各国の注目の的となるだろう。

過去、招待国でメキシコが準優勝、ホンジュラスが3位、アメリカが4位に食い込んだことはあるものの、ほとんどの場合は「アウトサイダー」どまり。

ブエノ氏は言う。「日本にとって国際大会は常に得るものがあるはずだし、ましてや若い世代が強豪国と対戦することで得られる経験値は大きい」。

3戦で勝ち点1に終わった1999年のコパ・アメリカから20年。年々、真剣味が増している世界最古の大陸選手権に若き日本が乗り込んでいく。

<了>

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