
東莉央・晟良、「姉妹」ならではの葛藤とは? 家族、ライバル、そして東京五輪
東京2020オリンピック、フェンシング・フルーレ日本代表の期待の星として注目を集める姉妹、東莉央と東晟良。1歳差の姉妹で10代から世界大会でも活躍する実力の持ち主だ。「東京オリンピックを目指す美人姉妹」として注目を浴びる2人だが、姉妹でありながら、オリンピック出場を懸けて戦うライバルでもある。
「東姉妹」として、常に比較され、一緒に取材を受けることも多い2人。姉妹だからこそ良い面もあれば、姉妹だからこその葛藤もあり、複雑な思いを抱くこともあるだろう。莉央と晟良、2人の胸中に迫った――。
(インタビュー・構成=大塚一樹[REAL SPORTS編集部]、撮影=UZA)
「東姉妹」でくくられることへの葛藤
「東京オリンピックを目指す美人姉妹」。フェンシング・女子フルーレの東莉央、東晟良は、「東姉妹」として注目を浴び、2人一緒に取材を受けることが多い。インタビューの一回目で、2人の人となりが少しわかってもらえたと思うが、常に比較され、姉妹としてある意味セットで語られることに思うところはないのか? 率直な気持ちを聞いてみた。
姉妹ということで、メディアに一緒に出る機会も多いですし、比較されることもたくさんあると思います。2人はライバルなのか、姉妹なのか? もちろん両方あるんでしょうけど、いまの関係性はどんな感じなんでしょう?
莉央:半々くらいですね。妹だし、ライバルだし。
晟良:私は姉妹かな? (試合で)構えたら違いますけど。試合が始まると対戦相手ってこともありますから。
これは我々メディアの方も「姉妹」というわかりやすい切り口に飛びついてしまうという悪いクセのようなものもあって、反省しなければいけない点です。姉妹一緒に取材を受けるのと、別々に受けるのはどっちがやりやすかったりしますか?
莉央:別々で(笑)。2人一緒に聞かれて話すことに慣れているので、別に一緒だとやりづらいというわけではないですね。
晟良:うーん、自分はどっちでもいいです。
莉央:私たちが取材していただけるのも、やっぱり姉妹だからという部分も関係していると思うんですよ。姉妹で同じ競技をやっているからっていうのが。これが一人ずつだったらそこまで注目されていないのかなとは思います。
晟良:私も1人だったら、なんていうんですかね、取り上げてもらえるほど他の選手より輝いているという選手でもないと思いますし、そんなに取材もされてないのかなとは思います。
莉央:今は晟良の方が成績を残していて、自分がなかなか結果を残せていないなかで、2人一緒に取材を受けることに複雑な気持ちはあります。私は姉妹だから呼ばれているだけなのかと。
家族として、そしてライバルとして
同じ競技のライバルというだけでも比較されると思うのですが、姉妹ということで常に比べられてしまうということもあります。過去の取材に「絶対負けたくない相手」としてお互いを挙げているのを見たこともあります。
莉央:3、4歳とかもう少し年齢が離れていれば、姉は姉、妹は妹と見てもらえたかもしれませんけど、1歳差ですからね。もうだいたい同じじゃないですか。だから比べられるのは仕方ないと思いますし、姉妹でやってきたからよかったということもありますよね。常に一緒にいるので、お互いがいい練習相手になれる。ほかのみんなは、練習しようと思っても相手がいなかったり、一人でやらなければいけなかったりすると思うので、そういう部分に関してはいい面もあるなと思います。
晟良:莉央にだけは負けたくないという気持ちが強いので、比べられることがモチベーションにもつながっています。
比べられることで悩んだことは?
莉央:自分は自分、晟良は晟良なので、「東姉妹」と呼ばれることにはちょっと複雑な気持ちもあったりしますよ。
公開練習を拝見していて、ユニフォームの背中に書いてある名前が、莉央さんは「AZUMA」で、晟良さんは「AZUMA S.」になっていたんですけど、これは何か意味があるんですか?
莉央:背中にどう名前を入れるかは自分で選べるんですよ。小さいころから、わかりやすいようにAZUMAの前に私は「R.」、晟良は「S.」をつけていたんですけど、「AZUMA」だけに憧れていたんです。だから「R.」のないバージョンも着てみたいなと思って(笑)。
日本代表メンバーの成長と競争の激化 東京オリンピック出場を目指して
姉妹に限らず、フェンシングには団体戦もあって、普段は個人戦ではライバル、オリンピック出場を懸けて戦う相手たちと練習することになります。チームワークを大切にしながら闘争心を維持するのは大変じゃないですか?
莉央:普段の練習はみんなで楽しくやっています。(公開練習の時には)取材の人やカメラがたくさんある中で黙々と練習しているのが変な感じがしました(笑)。
晟良:団体戦も一人ひとりが個人として強ければいいと思っていましたが、試合をしていると個人プレーで勝っても次にはつながらないことがわかってきました。例えば対戦相手の国に対して、みんなで同じ戦術を徹底して、一丸となって戦うとか、フェンシングもチームプレーが大切なんだなぁと最近特に感じています。
莉央:オリンピックのことを考えても、団体戦で勝つことが個人戦の出場枠につながるので、団体戦は大切ですから
チームメイトがライバルになることについてはどうですか?
晟良:自分がオリンピックに出場するためには競争していかなければいけないと思っています。複雑な気持ちもありますけど、団体でも勝ちたいし、団体では一緒にがんばって、戦うときはライバルでいいんじゃないかと思います。
莉央:団体と個人は全然違いますよね。団体はやっぱりチームの雰囲気を大事にしなければいけないので、チームワークも必要です。個人戦は団体みたいに試合の合間に話したりはしないでしょうけど、直接当たれば少しはピリピリしますよね。練習がピリピリするということはないと思います。
晟良:まだ(オリンピックの代表権争いは)経験したことがないからわからないけど、ピリピリなるかな?
莉央:毎日の練習がそんなふうにピリピリしていたら耐えられないです。普段は楽しくやっていますから。そうはならないと思います。
フェンシングは男女ともに若い世代の育成・強化が進んでいて、晟良さんも出場した世界ジュニア・カデフェンシング選手権大会で女子フルーレの日本代表が団体戦初のメダルを獲得するなど、同世代、若い世代にライバルが増えてきています。
莉央:団体メンバーも平均年齢が低くて、若い選手がどんどん出てくるので、自分も若いうちにがんばらないといけないなと思っています。ベテランになれば知識や経験も増えると思うし、成長することは多いと思うのですが、反対に運動能力を維持するのが難しくなるということもあると思います。自分より若い世代が結果を残してきているので、いまががんばり時だと思っています。
晟良:自分も若いんですけど、自分よりもっと若い選手も出てきているので、負けたくない気持ちは強いですね。同世代、団体メンバーの活躍にも刺激を受けています。
いよいよ来年は自国開催のオリンピック。これから日本代表を争うポイントレースも本格化します。お二人にとってオリンピックはどういう存在ですか?
莉央:もちろん東京オリンピックは目標ですし、出場したいですけど、出場するためにまず国際大会で結果を残さなければいけないので、今はオリンピックを意識するよりも一つひとつの大会に集中する方が大切かなと思っています。
晟良:自分はフェンシングを始めたときからフェンシングをやめてしまったお母さんのためにオリンピックでメダルをとると決めて、そのときから自分には『フェンシングしかない』と思ってここまでやってきました。日本でオリンピックが開催されて、しかも選手として出場できるというチャンスは二度と来ないと思うので、絶対に出場できるようにがんばりたいです。
<了>
東莉央・晟良、姉妹で目指す東京五輪 性格は正反対の2人が明かすフェンシングの想い
PROFILE
東莉央(あずま・りお)
1998年生まれ、和歌山県出身。日本体育大学体育学部。小学校5年のころからフェンシングを始め、1年半で国際ケーニヒ杯・小学生の部で準優勝。2012年、第25回全国少年フェンシング大会・中学生の部で優勝。2016年、インターハイで優勝、全日本選手権で準優勝。2018年、アジアジュニア選手権で銅メダルを獲得した。
PROFILE
東晟良(あずま・せら)
1999生まれ、和歌山県出身。日本体育大学体育学部。小学校4年のころからフェンシングを始め、1年半で国際ケーニヒ杯・小学生の部で優勝。2012年、第25回全国少年フェンシング大会・中学生の部で準優勝。2016年、インターハイで準優勝、アジアジュニア・カデ選手権で金メダル獲得。2017年、18年、全日本選手権を連覇。2018年、アジア大会で女子フルーレ団体初の金メダル獲得、ワールドカップで銀メダル獲得。
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