
[ユニ談]日本企業は何位?ビッグマネー集まる欧州5大リーグ スポンサー事情
ユニフォームは、アスリートにとって欠かすことのできない“戦闘服”だ。同時に、クラブにとっても決して欠かすことのできないビジネスの“戦場”だ。ユニフォームにロゴを掲出するスポンサーを獲得することは、クラブ経営の未来を左右するといっても過言ではないだろう。2018-19シーズン、欧州の5大リーグのユニフォームスポンサーには、どのような企業が名を連ねており、どのような業種が優勢を占めているのだろうか? そして、日本企業は何位となっているのか? その傾向を読み解く。
(池田敏明=文、写真=Getty Images)
欧州クラブのユニフォームは巨大な“広告看板”
2016年11月16日、楽天株式会社とバルセロナがグローバルメインパートナー契約の締結を発表し、これにより2017-18シーズンからバルセロナのユニフォームの胸部分には「Rakuten」の広告が掲出されることになった。契約期間は4年間で、基本の契約料は年間5500万ユーロ(約69億7400万円)。加えてスペイン国内リーグで優勝すれば150万ユーロ(約1億9000万円)、UEFAチャンピオンズリーグを制覇した場合は500万ユーロ(約6億3400万円)のボーナスが、楽天からバルセロナに支払われるという。
リオネル・メッシらスター選手を擁し、世界的な知名度と人気を誇るバルセロナの胸にロゴを掲出したことにより、楽天の名前も一気に世界中に知れ渡ることになった。そしてバルセロナから楽天グループの一員であるヴィッセル神戸にアンドレス・イニエスタが移籍したことにより、サッカー界における楽天のブランド力は確固たるものになったといえるだろう。
この例が示すとおり、欧州サッカークラブのユニフォームは世界中の企業にとって非常に利用価値の高い“広告看板”となっており、ビッグクラブともなればスポンサー契約料は天文学的な数字に上る。ここではイングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス各トップリーグの全クラブについて、どのような企業が胸部分にロゴを掲出しているのか紹介しよう。
プレミアリーグでトレンドとなっている意外な業種は?
イングランドのプレミアリーグは放映権が世界中で高額取引されるリーグだけに、世界中の企業が各チームの胸部分にロゴを掲出している。アーセナルの「エミレーツ航空」(表記は「Fly Emirates」)やブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンの「アメリカン・エキスプレス」(表記は「AMERICAN EXPRESS」)といった大企業に交じり、日本企業の「横浜ゴム」(表記は「YOKOHAMA TYRES」)もチェルシーの胸にロゴを掲出しており、その契約料は年間4000万ポンド(約58億6250万円)といわれている。
また、現在のプレミアリーグの傾向として、オンラインブックメーカーやオンラインカジノなどを運営する企業の広告が非常に多い。例えば武藤嘉紀が所属するニューカッスル・ユナイテッドは、2008年ごろに設立された中国のオンラインブックメーカー「FUN88」とスポンサー契約を結んでおり、契約料は年間800万ポンド(約11億7250万円)といわれている。バルセロナやチェルシーほどのビッグディールではないが、創業10年ほどの企業が支払う金額としては破格といえるだろうし、ロゴを掲出したことによる影響力も計り知れないものがあるはずだ。
ラ・リーガに見られる2つの傾向
スペインのラ・リーガを見ると、プレミアリーグ、ウェストハム・ユナイテッドの胸スポンサーにもなっているオンラインブックメーカー「betway」がアラベス、レガネス、レバンテの3チームにロゴを掲出している。セビージャと契約している中国のオンラインゲームメーカー「プレイティカ」(表記は「Playtika」)も含め、この国でもオンラインブックメーカーやゲームの企業が一大勢力となりつつある。
一方で、地元の企業や団体との結びつきが強いのも特徴の一つで、アスレティック・ビルバオには地元ビルバオの地方銀行「クチャバンク」(表記は「Kutxabank」)、ウエスカにはウエスカ州政府(表記は「Huesca La Magia」)、バリャドリードにはバジャドリード県のワイナリー「ボデガ・クアドロ・ラジャス」(表記は「Cuatro Rayas」)が胸スポンサー契約を締結している。ビジャレアルの「パメサ・セラミカ」(表記は「PAMESA ceramica」)は、同クラブのオーナーであるフェルナンド・ロイグ氏が会長を務めるタイルメーカーだ。
地元企業との結びつきがより強いブンデスリーガ
ブンデスリーガのクラブは地元企業との結びつきがさらに強くなっている。アイントラハト・フランクフルトと契約したアメリカの情報通信業者「インディード」(表記は「indeed」)や、長年にわたってシャルケをサポートするロシアの国営企業「ガスプロム」(表記は「GAZPROM」)など、グローバル企業はごく一部で、“盟主”バイエルン・ミュンヘンですら国内の情報通信大手「ドイツテレコム」(表記は「T」)と契約を結んでいる。同社はバイエルンの本拠地アリアンツ・アレーナのインターネット環境整備やモニターの設置を手掛けるなど、観戦環境の向上にも尽力している。また、ボルシア・ドルトムントの胸にロゴを掲出する化学品メーカー「エヴォニック」(表記は「EVONIK」)はクラブの株式を所有し、ホッフェンハイムと契約するソフトウェアメーカー「SAP」はクラブのハード面に巨額の投資を行うなど、ロゴ掲出にとどまらない結びつきを見せている。RBライプツィヒやヴォルフスブルクにいたっては、それぞれ「レッドブル」、「フォルクスワーゲン」が所有するクラブだ。
セリエAとリーグ・アンはJリーグに似て多種多様
イタリアのセリエAとフランスのリーグ・アンについては、Jリーグに似て多種多様な業種の企業がスポンサー契約を結んでいる印象がある。セリエAではボローニャにロゴを掲出しているファッションブランド「リュー・ジョー」(表記は「LIU・JO」)やエンポリのパソコン小売業者「コンピューター・グロス」(表記は「COMPUTER GROSS」)、リーグ・アン、アミアンのスポーツ用品店チェーン「インタースポート」(表記は「INTER SPORT」)などは、イングランドやスペイン、ドイツとは一線を画す企業といえるかもしれない。トリノは日本の自動車メーカー「スズキ」(表記は「SUZUKI」)が広告を掲出している。
また、リーグ・アンのクラブはファーストユニフォームとセカンドユニフォームで異なる企業のロゴを掲出しているケースがある。ボルドーはファーストユニフォームがエネルギー関連企業の「GROUPE sweetcom」、セカンドがレストラン「ビストロ・レジェンド」(表記は「bistro Regent」)、サードがオンラインギャンブルサイト「WINAMAX」と、それぞれ異なる企業と契約しているし、ニースはリーグ戦用が「OGCニース寄付基金」(表記は「Fonds de Dotation OGC Nice」)、欧州カップ戦用では中国のホテルグループ「セブンデイズイン」(表記は「7天酒店」)と、異なるロゴを掲出している。Jリーグでは浦和レッズが国内リーグでは住宅メーカーの「ポラス」(表記は「POLUS」)、AFCチャンピオンズリーグでは「三菱重工業」(表記は「MITSUBISHI HEAVY INDUSTRIES」)のロゴを掲出しているが、これと同じケースといえるだろう。
スポンサー企業の国別1位はフランス 4位は意外なマルタ? 日本は何位?
ちなみに、胸スポンサーとなっている企業を国別に分類すると、リーグ・アン、セリエA、ブンデスリーガが地元企業と強い結びつきを見せていることもあり、フランス、イタリア、ドイツが上位に来ている。これに続くのは、意外にもマルタの企業。オンラインのカジノやブックメーカーの企業がマルタに本拠を置いていることが多く、それがこのような傾向に現れた。マルタ同様、オンラインギャンブルのライセンスを発行しているフィリピンの企業も現状で3チームに広告を掲出しており、この値は今後さらに増えるかもしれない。UAEの企業は5チームとなっているが、これはエミレーツ航空が4チームとスポンサー契約を締結しているため。日本企業は楽天、横浜ゴム、スズキの3社となっている。
全体的な傾向として、世界的知名度の高いクラブのユニフォームには、グローバルで事業を展開しているメガ企業が広告を掲出している。地元企業とスポンサー契約を結んでいたクラブが、次のシーズンから有名企業と新たな契約を結ぶこともあるだろう。地元ファンは一抹の寂しさを感じるかもしれないが、クラブの価値が高まった証しだと理解すべきではないだろうか。
<了>
[ スポンサー企業国別ランキング ]
1. フランス 17
2. イタリア 15
ドイツ 15
4. マルタ 7
5. アメリカ 6
イギリス 6
7. スペイン 6
8. UAE 5
9. 日本 3
フィリピン 3
スイス 3
12. 中国 2
ロシア 2
14. ジブラルタル 1
マレーシア 1
ケニア 1
タイ 1
香港 1
メキシコ 1
コスタリカ 1
オーストリア 1
ルーマニア 1
韓国 1
スウェーデン 1
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