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個人スポンサー15社と契約。「アメリカへの挑戦」を目指すソフトボール選手・本庄遥の“応援され力”
日本の女子ソフトボール界に、異色の女子アスリートがいる。現在は男子ソフトボールチームに所属しながら、本場・アメリカのプロソフトボール選手としてプレーすることを夢見る、本庄遥さんだ。
彼女は夢を実現するために、自ら営業して個人スポンサーを15社集めることに成功。また、海外挑戦のための費用を稼ぐために立ち上げたクラウドファンディングでも目標額を達成している。SNSやブログでの発信などをフル活用し、自分自身のPRやスポンサー集めに奮闘する、その活動の背景には「世界でソフトボールを盛り上げたい」という熱い想いが込められている。湧き上がるような熱意やアグレッシブさに加え、夢を実現するために必要なこととは何か。本庄さんの話から探ってみる。
(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=大木雄介(インタビュー)、中澤紘大(プレー))
「アメリカのプロリーグへ行きたい」その理由
本庄さんは現在、日本における女子ソフトボールの頂点である実業団チームには所属していません。実際、女子ソフトボール選手としては、どれくらいのレベルにあると自分では認識していますか?
本庄:自分自身で評価するのは難しいところではあるんですが、過去の実績で言うと、中学の時に全国中学校女子大会でベスト4、高校の時にインターハイ(全日本高校女子選手権大会)で全国大会優勝を経験しています。
全国優勝投手だったんですね。
本庄:はい。ただ、優勝した試合では3人ローテーションで投げました。うちのチーム(創志学園高校女子ソフトボール部)には、常に無失点でいきたいという方針がありまして。本番ではプレッシャーなどもあって、自分の調子が大会前と比べて正直あまり良くありませんでした。その時は後輩に助けてもらいながら優勝したという感覚があったので、自分自身への物足りなさはずっと抱えていました。
私は身長が154cmしかなくて、スピードもそこまで速くありません。上野(由岐子)選手と比べると最高速で30km以上は差があります。そうなると、日本代表はおろか、実業団(日本女子ソフトボールリーグ機構)の1部リーグに入ることすら難しいと言われても全然おかしくありません。ただ、私のピッチングスタイルは、そういった弱点もはねのけるぐらいの特長があると思っています。というのも、(大学1年生の時に)初めて秋の関西リーグに出場し、全試合中半分くらいを投げて防御率ゼロ。(高校時代の)岡山県大会でもずっと無失点、中国地区大会でも同じで、“点を取られないピッチャー”とよく言っていただいていました。その部分は自分の強みだと思っています。
ただ、やっぱり、対アメリカ、対オーストラリア、対カナダ……となったら、日本と比べて相手チームには大型バッターが多いのが現実。大型ピッチャーがドンっと投げて、大型バッターから三振を取る方が試合的には盛り上がるし、華があるので、勝ち負けというより、良いピッチャーに見えやすいんですよね。私はアベレージタイプなので、なかなか強みを見てもらえる機会がないことに悔しさも感じています。
現実的なレベルで言えば、1部リーグの実業団にギリギリ入れるかな、というところだとは思います。ただ、まだ実業団で一度も投げたことがないので、何とも言えません。ただ、そういうチームを倒せる能力はあると思っています。
今後の目標は?
本庄:直近の目標は、「アメリカのプロリーグでプレーする」です。
アメリカはソフトボールの世界でも世界トップですよね。
本庄:そうですね。アメリカでプレーしたい理由として、野球やソフトボールをやっている子の中には、私のように身長が低い子や、スピードがそんなに速くない子がたまにいますよね。そういうタイプの選手でも、世界のトップリーグで活躍できるという姿を自分が見せることで、いろいろな人に知ってもらいたいですし、子どもたちにも夢を与えていきたいという想いもあります。
全くの無知状態からたった一人で始めた「スポンサー集め」
現在、本庄さんはクラウドファンディングの活動をされていますが、アメリカへ挑戦する資金を貯めるために始めたのですか?
本庄:最初のきっかけは「トビタテ!留学JAPAN」という(文部科学省が展開する)奨学金制度があるんですけど、その制度を活用してオーストラリアで1年半留学をしていました。ところが、いろいろな届出などのタイミングで、最初の時期から奨学金を受け取ることができなくなってしまったんです。2017年の11月から2019年の3月まで渡航していたのですが、最初の半年間は奨学金を受け取ることができなくて。
半年も!?
本庄:はい。親にも迷惑をかけたくなかったですし、どうしたらいいかいろいろ考えている中で、日本でも海外でもソフトボールを盛り上げるために活動資金を集めることって、価値があることなのではないかと。もしかしたらスポンサーもつくのでは?という、今から考えると、とても甘い考えではありますが、とりあえず飛び込んでみようと思って行動しました。
その発想はすごいですね。スポンサー集めの情報や知識はあったのですか?
本庄:全くなかったです。ベタなんですけど、「アスリート」「スポンサー」「獲得」「方法」などのキーワード検索でインターネットで調べて最初に出てきたのが、『Find-FC(ファインド・エフシー)』という、アスリートと企業をマッチングするサイトでした。まずそこに登録したのがきっかけです。それを機に、たまたまそのサービスを立ち上げたばかりだった運営会社の方が、私の申込メールを読んで、活動に魅力を感じてくださって。「もしよかったらうちが最初にスポンサーをするよ」と言ってくださったんです。当時はまだSNSやブログなどで発信をしていない段階だったので、スポンサーがついたことも自信に繋がり、今の活動にずっと繋がってきたという感じです。
初期ではどれくらい集まりました?
本庄:一番最初は、年間6万円を出資していただきました。その次に、Find-FCを運営されている方が、仲の良い経営者の方を紹介してくださって、その方が2人目のスポンサーになってくれました。最初の3~4社くらいまではそういう感じでした。また、SNSで「ソフトボール」と検索してヒットした人を全員フォローしたりもしました。その中で、北海道でスポーツ店を経営されている方にオーストラリアと北海道でテレビ電話でテレアポをして。スポンサーになっていただきたいということを会ったこともない方に伝えて、そうしたら「応援はするけどお金は出せない」ということで、用具を提供してくださいました。
その後は、ブロガーの集まりの中でスポンサーになってくださる方と出会って、初めてFind-FCを介さずに資金を出していただくという経験をしました。そういうことを続けていった結果、今では一社で50万円を出していただいているスポンサーもいます。
今スポンサー契約をされている会社には、どのような業種の会社があるんですか?
本庄:1社はFind-FC、それから紹介していただいた輸入業サービスの会社、メディア関連や飲食店、整体師の方、美容系企業や、健康関連商品を販売されている企業などさまざまです。
本庄さんは、子どもの頃から積極的な性格だったんですか?
本庄:はい、子どもの頃からとにかく目立ちたがり屋でした。学校行事では司会をやったりすることが多かったですし、音楽会では指揮者をやったり、運動会でも足が速かったので地区対抗リレーのアンカーをしたり。ソフトボールでピッチャーをやったのも、やっぱり花形なので。
勝つために必要なことは全部やる
元プロ野球選手の黒田博樹さんのファンだと伺いましたが、その理由は?
本庄:黒田さんの著書『クオリティピッチング』(ベストセラーズ)を読んだのがきっかけです。国内外で活躍して有名な選手が、自分の戦術をバンって本で出したということに感動して。「出していいの?」と思うくらい本当にいろいろなことが書かれていて、すごく勉強になったんですよね。自分自身のピッチングにももちろん参考にしました。「コントロールが良くなかったのに良いように見せた」ということが書かれていて、自分とは真逆ですが、そういうふうに見せられるんだという新しい価値観が生まれました。そもそも自分がプロの選手として技術を公に発信できてしまうところにすごく憧れて、黒田さんの行動に惹かれました。
今でこそダルビッシュ有選手など、惜しげもなく発信する選手もいますけど、確かにあの本はけっこう衝撃的でしたね。本庄さんはコントロールピッチャーなんですね?
本庄:はい。コントロールと戦略、チェンジアップとの組み立てなどが強みです。私、球種は2球しか投げなくて。ストレートとチェンジアップだけなんですよ。
その2つだけなんですか!
本庄:そうなんですよ(笑)。これを言うとだいたい驚かれるのですが、ある意味その2つを磨いてきたからこそ今の自分があるのかなとも思います。身長も小さい、スピードもない、変化球もない……となったら、全然大したピッチャーには思われないんです。なので、相手には舐められていることが多いと思います。でも実際に試合をしたら、相手チームは「いつの間にか負けていた」みたいな感覚なことが多いんじゃないかと。
ソフトボールって、野球以上にチェンジアップが効果的ですよね。
本庄:そうですね。
投げるコースと緩急で常に相手の裏をかくんですか?
本庄:そうですね。それ以外でも、本当にいやらしい話、靴紐をわざと結び直したり、追い込まれてからタイムを取ったり、相手のマインドを揺さぶるようなことをよくしていました。あとは、相手の目を見てニヤっとしてみたり、相手が嫌がるようなことをしてきて。相手チームの選手から、性格悪いみたいなことを言われたこともありました(笑)。
勝つために必要なことは全部やると。
本庄:そうですね。
確かに、相手チームに文句言われそうですね(笑)。しかもそれでゼロに抑えるから。
本庄:(笑)。すごく嫌がられましたね。
創志学園高校の時も、そのように“勝つこと”に貪欲な人たちが全国で優勝したわけですね。
本庄:そうですね。でも高校で全国優勝した時、次の日になっても何も変わらなくて。「何のために今までやってきたんだろう」って思った時期もありました。
「ケガ」を転機に行ったオーストラリアでの経験
本庄さんは、大学生の時にオーストラリアへ留学しています。当時のきっかけを教えてください。
本庄:大学2年生の時にキャリアでほぼ初めてケガをしたんです。もともと自信家タイプなのですが、ケガでパフォーマンスが全然戻らなくて、気持ち自体もガクンと落ちてしまったんです。もしかしたら、「実業団のチームに行きたい」という当時の夢も叶えられないかもしれないという不安があって。ちょうど就職活動を始めるようなタイミングで、就職か、ソフトボールをするかの選択に迫られていて、ソフトはしたい、でも実業団は無理かもしれないという葛藤があった時に、夢を見たんです。その内容が、アメリカのプロリーグに呼ばれているという夢でした。目覚めていろいろ調べていたら、アメリカについて調べているのになぜかオーストラリアの情報ばかり出てきて、オーストラリアに行けということなのかなって思って。すぐ父に電話して、全然何も決まっていない状態でしたが「オーストラリアへ行く」と伝えて、具体的な道すじは後から作っていきました。
その時、お父さんはどういうリアクションでしたか?
本庄:やっと口に出したな、みたいな感じでしたね。海外を経験させたい、というような思いは元々あったみたいで。小さい頃から、親に干渉されたことが一切なくて、自分の楽しいように生きなさい、やりたかったらやればいいし、ソフトボールもいつでも止めていいよとずっと言われてきました。その環境が逆に、自発的な考えや行動に繋がってきたのだと思います。
今はどのような練習環境なのですか? 男子のチームに入っていて、練習もフルでこなしているのでしょうか。
本庄:所属している男子チーム「てっぺんレッドスターズ」の活動頻度が、週1回の練習試合だけなんです。
チームでは週1回の活動しかしないということですか?
本庄:そうです。なので、今の練習としては、ピッチング教室で声をかけていただいた時に投げさせてもらったり、ほとんどは自主トレーニングですね。日本のチームでは、年がら年中練習しますが、オーストラリアでは1週間のうち、土日しか集まらないことがしょっちゅうありました。平日は暇なので、土日の試合へ向けてどのように自分を合わせていくかを考えながら練習をするようになったら「あれ? ずっと練習をやり続けていた時より調子いいな」と思い始めて。それから、練習量よりも、自分の体とちゃんと向き合うことにフォーカスするようになりました。
教室はどれくらいの頻度で行っているのですか?
本庄:不定期ですが、多い時で毎週末。今はまだ学生でテスト勉強もあるため、週末だけです。
とにかく自分の目で見て確かめて、人に伝えたい
アメリカにはいつ頃行く予定ですか?
本庄:10月の半ばあたりです。その前に、9月からポーランドのクラブチームの助っ人として、8月中旬からブルガリアで行われるヨーロッパ大会に出場するので、そのチャレンジが終わってからアメリカへ行きます。
ヨーロッパ大会に出るんですか? どういう経緯で?
本庄:元々、日本の実業団でプレーされていた鮫島(憂子)さんという方が、現在、ポーランドのクラブで監督兼選手としてやられていて、就任1年目で国内ナンバーワンクラブを作り上げたんです。それで今回、そのクラブがヨーロッパ大会で好成績を上げるために、助っ人として声をかけていただきました。ちなみに、ヨーロッパへの渡航費も、クラウドファンディングでサポートしていただいています。
アメリカでの受け入れ先などは決まっているのですか?
本庄:いろいろ調べている中で、たまたまFacebookで検索していてヒットしたのが、NPF(ナショナル・プロ・ファストピッチ)という、日本ソフトボール協会のアメリカ版みたいな組織の方で、直接メッセンジャーでメッセージを送ったら返信がきて。「何がしたいの?」と聞かれて「プロテストを受けさせてほしい」と伝えたら、「チームを紹介してあげるからとりあえず渡っておいで」と言ってもらえたので、そのメールだけを信じて行く感じです。
その人については調べたりしましたか?
本庄:全くしていないです(笑)。
絶対調べたほうがいいと思います(笑)。どこへ行くのですか?
本庄:今のところ、シカゴとフロリダの2チームです。
滞在期間は決めているのですか?
本庄:全く未定です。もし入団テストに受かっても、ビザがおりない可能性もあって。実際に、野球で渡米した友人たちが、ビザの関係で帰ってきたということを聞いているので。アメリカのソフトボール界の現状がわからないため、実際に行ってみて、とにかく現地で自分の目で見て確かめて、人にも伝えていきたいと考えています。それを踏まえて、最短で3カ月、もし合格してビザも無事おりれば、まずは1年から2年かなと。
シカゴに行くなら、ダルビッシュ選手の試合を見られたらいいですね。
本庄:そうですね。ダルビッシュ選手は、自分の思っていることを全部言うじゃないですか。そういう姿が見ていて気持ちいいなと憧れています。それと、個人的には、ケガの手術を唯一克服して、むしろプラスに変えたアスリートだと思っていて。自分の周りでは、手術をしてしまうと治らなくなってしまう子がすごく多かったんです。
ケガをして手術して、その後引退してしまう子が多いと。
本庄:そうです。中高生の時って時間が限られるので、みんな手術が必要だと言われたら、勢いでやってしまって、手術を乗り切った後に、やっぱり肩が調子悪いとか、治らずに再手術をしなくてはならない、ということが何回もあって。すごく良い選手だったのに、たった1回のケガで、手術を乗り切ってもフィールドへ戻ってこれなかった選手がすごく多かったです。それを見ていて、手術に対していつも疑問を抱いていました。
そんな中で、ダルビッシュ選手はケガをされた後に手術をして、それ以前よりも体を大きくして、これまでのネガティブなイメージとは一転、むしろケガをしたことによってさらに強くなった、というイメージがあって。自分がもしケガをして手術をしなくてはならなくなった時に、手術をしてもこうして活躍できる選手もいるんだということにすごく勇気づけられて。かっこいいなって純粋に思いました。
本庄さんの夢の実現を、応援しています。頑張ってください!
<了>
PROFILE
本庄遥(ほんじょう・はるか)
1996年生まれ、兵庫県出身。男子チーム「てっぺんレッドスターズ」所属のピッチャー。全国中学校女子大会ベスト4、全日本高校女子選手権大会では創志学園高校女子ソフトボール部創部4年目初優勝と防御率ゼロの実績を築いた。立命館大学1回生の秋に防御率ゼロで最優秀投手賞獲得などさまざまな個人賞を獲得。オーストラリア留学時には、サマーリーグ2連覇、ウィンターリーグ準優勝、クイーンズランド州U-23選出。現在は「世界中の大型バッターを倒し、世界中でソフトボールができる環境を提供する」ことを目指し、クラウドファンディングの活動および、スポンサー15社(2019年7月現在)と契約しながらフリーソフトボール選手として活躍中。
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