
「正しい努力ができているか?」本田圭佑、西村博之ら超一流が集う「NowDo」の真価とは?
本田圭佑が立ち上げたオンライン指導サービス「NowDo」には、長友佑都や錦織圭らトップアスリートが投資しているのみならず、匿名掲示板2ちゃんねるの開設者・西村博之ら優秀な人材がサービス開発チームメンバーとして携わっている。
本田圭佑の周りに人が集い、そこで起こる化学反応について。そんな彼らを引きつける彼の魅力、哲学とは?
これまで本田と共に数多くの事業を立ち上げてきたパートナー鈴木良介が語る、各業界の超一流が集うオンラインサービス「NowDo」にかける思い。
(インタビュー・構成=木之下潤、写真提供=NowDo/※取材は2019年12月18日に実施)
本田がエンジニアにインスパイアされる意味
――プロを目指す選手をオンライン指導で育成し、メンターである本田圭佑選手からも直接指導が受けられるというサービス「NowDo」のサービス開発チームが食事会をしている公開動画を見て、メンバーに西村博之さんがいることに驚きました。
鈴木:西村さんは実績がある人です。説得力があるから、本田も納得するんですよね。実際に「任せよう」と、どんどんサービスに関わる話が展開していくことが増えました。たぶん僕と本田では、このスピード感は出せません。西村さんがいるだけで、本当に話が進みやすいんです。
――一般応募してきたんですよね?
鈴木:はい。みんな驚いていました。面談のときにメンバーが「こっちが緊張するんですけど」と言っていました(笑)。
――論破されそうです(笑)。
鈴木:ちょっとザワつきました(笑)。西村さんが引き受けてくれて、本当に勉強になっています。
――とてもロジカルな方です。私も西村さんが出演している動画をいろいろチェックしていますが、ドライなようでしっかり相手のことを思っている方だと解釈しています。
鈴木:温かい方ですし、頭がいい方です。文章を読むスピードとか、受け答えのスピードとか、頭のどこを通ってそういう質の高い考えや答えが出てきているのかと感心させられることばかりです。何でも知っているんですよ。
――西村さんはNowDoのどこに興味を持ったのですか?
鈴木:なぜ本田佳佑というトップアスリートが2016年にNowDoを始めたのにもかかわらず、なぜうまくいっていないんだろう? ここに興味があったそうです。
――本田さんの立ち位置としてはクリエイティブな部分だけに関わると、話の展開が早いし、効率的だという考えですよね。
鈴木:そうですね。本田の知見、経験、アイデアは生きていますし、彼の発信力は絶対に必要なものです。でも、それ以外のところを西村さんをはじめとするスタッフが積極的に展開できれば、どんどんいいものができあがっていくんです。スピードが早いし、本田も西村さんがいることで安心して任せられる部分が出てきているのだと思います。
――いい意味で本田さんから手が離れないとプロジェクトがテンポアップしないです。
鈴木:先日行った新たなNowDoのサービスに関する公開インタビューも「本田さんってこういうインタビューをやったことがないですよね?」と、西村さんの一言がキッカケでした。
――西村さんはどういう立ち位置ですか?
鈴木:プロダクトマネージャーなので、プロダクトに関わる全てを推進していく立場です。ただ、僕はいろんな相談をしています。やはりスポーツはフィジカルとメンタルが深く関わります。このサービス自体も体組成測などフィジカルに絡むプロダクトとテクノロジーを活用していくものです。西村さんはプロダクト企業との連携を含めて互いにメリットが生まれるようなアドバイスを的確にしてくれます。
――今後も投資をしてくれるアスリートを募るんですか?
鈴木:サッカーは長友佑都さん、テニスの錦織圭さんやゴルフの石川遼さんなどからも支援してもらっていますし、僕自身は直接やり取りしているので勉強になっています。名前は出せませんが、他にもお声がけしているアスリートもいます。
――支援してくれているアスリートもメンターに立つんですか? それとも投資に?
鈴木:投資だけというイメージは本田にもない気がします。トップアスリートが関わってくれることの意味は「スポーツを盛り上げたい」と思ってくれるから。実際にサービスに関わってもらったほうが意義があるのかな、と。錦織さんがいるならテニスをやっている子も入ってみようかなという気持ちになりますし。
――個人競技は、このサービスと相性が良さそうです。
鈴木:普通ならトップアスリートには巡り会えないですからね。こういうサービスによって選手の考えに触れ、才能を開花する選手が増えるなら大きな価値があると思います。
――また、地方だと体組成計など最先端のプロダクトを使う経験もできません。
鈴木:地方の人たちにさまざまな出会いを作る意味では、ITを活用したサービスは有効ですし、本当に便利です。
本田のパートナー鈴木が思う正しい努力とは?
――今回、鈴木さんには、本田さんの代弁者というより「共に作っていくパートナー」として取材依頼しました。本田さんがこのサービスを作った意義に「正しい努力」を挙げていました。鈴木さんはこの点をどう解釈をされていますか?
鈴木:正しい努力という点については納得感が大きいです。僕は本田と約10年一緒にいます。彼のサッカー選手としての身体的な能力はスーパーではないと思います。足が特段速いわけでもないし。僕もサッカーをしていたからわかります。例えば、僕も静岡学園で高校サッカーの道を歩んでいますが、日本代表はおろかプロにもなれなかったわけです。でも、本田は日本代表になり、ACミランで10番を背負ったわけです。
どんな違いがあるのか?
共に10年過ごして感じるのは、自分を俯瞰して見る力です。本田は自分のプレーの強みや弱みをものすごく細かく分析できています。だから、「何のために、何をしなければいけない」かを、本人が一番理解していて明確なビジョンを描けます。おそらく子どもの頃から「自分がどうしたら、どうなれるか」を理解したり考えたりすることを繰り返してきたんだと思います。僕は自分の過去を振り返ると、その力がなかったな、と。
最初からみんな圧倒的な能力差があるわけではありません。その中で「正しい努力」に向かうため、「きちんと自分を評価できて、努力して行動し、一つずつ小さいことから実現していけるかどうか」です。トップアスリートは「自分を俯瞰して何をしたらこうなる」というイメージが明確にあるから世界で戦えたり、日本を代表する選手になれたりしている。そして、言葉に出して目標と考えを誰かに伝えることで環境作りまで可能にしているのだと、最近実感しています。どちらかではなく、両方が必要です。
みんな同じ時間を与えられているわけですから、正しい努力ができなかったら結果を出すのに時間がかかるし、どうすればいいのかを思いつくのにも時間がかかります。明確に目標があるから、それに対する努力の方法が明確になる。それが本田の言う「正しい努力」なのではないかと、僕は考えています。学生時代は、目標が「これって何のためにやっているんだっけ?」とブレていました。これはビジネスでも同じです。ゴールに向かったプロセスは、どう目標を立て、それに対して明確な計画と行動をする、そして、どう数値分析をして先に進むか。それを明確にできる人が成功している人だと思います。
本田も公開インタビューで言っていますが、「日本代表になるには、日本代表になった人にしかその方法はわからない」という言葉は、まさにその通りです。日本代表になった選手はその方法、努力の仕方がわかるんです。例えば、日本代表になった人に的確なアドバイスをもらったらそうなれるかもしれないわけで、今回のサービスには本田のそういう経験が反映されています。彼が日本代表として長年活躍し続けてきたからできるサービスです。そういう正しい努力をしていたら目標を達成したり、夢をかなえたりする人が増えるのではないか。僕は本田と過ごしていて実感しています。
才能があるのに、どうして伸びないんだろう? そう思われるような選手も、きっと僕の学生時代と同じように目標が定まっていなかったり、自分の能力を把握して正しく成長させられなかったり正しく使えなかったりしているのかもしれません。僕はそう解釈しています。
――正しい努力というのは、その時々できちんと目標設定ができることかもしれません。
鈴木:それも一つありますよね。本田はブレずにそれができたのは大きいと思います。俯瞰して分析できるのも、ガンバ大阪ジュニアユース時代にユースに昇格できなかった経験があったからさらに磨かれた部分もあるはずです。本人もよくユースに昇格できなかったことを口にしていますから。その中で試行錯誤して戦ってきて養っていることもあるでしょうし、親御さんの育て方もあるでしょう。
本田のように迷わず明確に言ってくれる存在って心強いし、貴重だと思うんです。何のためにやっているんだろう? そう思ったら、努力はできません。「本田選手にこれをやれば日本代表になれるって言われたから、僕は日本代表になれるかもしれない」。子どもがそう信じて努力したらかなえられることがたくさんあるはずですよね。そういう背中の押され方は大切です。
――感情的ですよね。楽しいに理由なんてありませんから。
鈴木:今後、本田以外でメンターがどれだけ務まるのかは課題ですけど、Jリーガーになった選手も十分にすごいですから。仮に1年でクビになったとしても、Jリーガーになった努力は事実として変わらないので、そういう経験を言語化して伝えられる人なら価値があると思います。例えば、なでしこリーグの人もそうです。並大抵の決断力や意思で日本女子サッカーの頂点に立てるわけではありませんから、素晴らしい価値です。
――メンターというか、サッカーコーチも子どものやる気スイッチを押すのが上手な人と下手な人がいます。
鈴木:伝え方は大事です。僕らとしては、サービスとしてどう形にするか。例えば、AIを活用してティーチングアシスタント(TA)側が子どもとやりとしている最中に、キーワードがポンと画面に表示されてサポートされるようなシステムが作れたらそれはテクノロジーの良さですよね。
――課題と改善に関わるキーワードのデータベース化は重要です。
鈴木:「AIにデータベースとして記憶させるようなことは大事だよね」という話はエンジニアチームとしています。「こういう質問に本田がどう答えたとか、それはデータとして取り続けていかないといけないね」と。本田が同じことを言わなくてもいいくらいまでいけたらいいな、と。もちろん受け取り方もあるでしょうが、それでも答えに考える時間に1分かかれば、本田と関わる子どもが一人減るわけですからもったいないです。質問を受けたら、パッと答えが出るといいです。
――そのシステムは見方を変えると、TAの教育にも役立ちます。
鈴木:そうですね。そう考えると、AIアシスタントになるかもしれません。チーム内でも現状はNowDoのサービスとはかけ離れていますが、たくさんいいアイデアが出ています。例えば、1年間リハビリが必要になったプロ選手に何か新しいものを学んでもらうためにメンターになってもらってもいい。子どもに寄り添うことで何かが生まれるのであれば価値は高いですよね。
サービス効果は小学4〜6年生が最も実感できる
――本田さんは、このサービスを使うのに適した年齢を「小学校の4~6年生」だと言っていました。
鈴木:本田が言うように僕らが一番影響力を出して効果を生みやすい、そして実践しやすいのが小学4~6年生だという認識です。というのも、テキストベースでやり取りをするので、スマホのリテラシーが上がる年齢ではないと効果を出しにくいと考えています。それこそ小学校低学年は返信に時間がかかりますし、言葉を作るのが難しい。4~6年生はそこがクリアされていて、トレーニングという意味でも効果が表れるとイメージしています。中高生は疲弊するくらい学校と部活、あるいはサッカークラブの活動が忙しいから負荷が大きいです。
最初は小学校4年生からプロを対象にしていました。実際に本田に教えてほしいプロ選手はいますし、応募が届いています。ある程度、プロは時間があるから意外に効果があるのかな、と。また、時間があればプレーや日々のオフの時間に落とし込めるのは高校生なのかなと思います。でも、サービス料を支払う親御さんからすると、高校生は入会しているのを知らない場合があるかもしれません。サービス自体は幅広い選手が受けられるし、効果があるものだという自負はありますが、小学生は親御さんに許可を取るので満足度は高いです。やはり親御さんがサービス料を支払うことに関わる以上は1万円、5万円の価値があるのかどうかなので、そこは利用者次第です。
――「塾に行きます」はリアルですからね。
鈴木:高校生になると、親御さんもある程度は見定めていますからね。小学生の間はまだ「可能性がある」と思っているでしょうから。本田は「夢を諦めるのは早い」とこのサービスを立ち上げているので、僕らも「意識さえ変われば可能性は広がる」という思いは持っています。何歳になっても成長はできるし、目標設定の仕方だと思います。
――小学校の4~6年生は影響力が高いでしょうし、受け取り方も素直なような気がします。公開インタビューで本田さんは「プレーネイティブ」という表現をされていましたが、サッカーは無意識に体で表現できるかどうかはプレーに大きく作用します。
鈴木:そこに対する影響もあります。実は、エンジニアチームは「ゴールデンエイジ」という言葉を知りませんでした。一般の人は知らないことですもんね。僕は指導現場で小学1~3年生のトレーニングを研究してきたのでよくわかります。ちょっと話が逸れますが、子どものアプローチ方法は好奇心の抱かせ方で成長が違ってきます。僕がコーチとして心がけていたことは2つです。
子どもの得意なところで気づきを与えられるか。
選手が持つ技術と運動能力にあった伝え方ができるか。
例えば「ここにボールを置けばこれだけ視野が違う。相手が奪いにくいし、パスの選択肢が増えるんだよ」みたいなことを選手に伝えられるかがコーチに必要なスキルです。ボールをインサイド側に持ってドリブルするのと、アウトサイド側に持つのと全く異なる判断基準になります。アウトで持つとどうなるかを知っている子と知らない子では世界の広がり方、見方が変わるんです。それをうまく伝えてトレーニングで教えられたら、この内容は小学1年生でも理解できます。アウトサイドにボールを置くと相手が取りにこない。シュートが打ちやすい。フェイトをするならインサイド側にボールを置くのがいいかもとか。
――小学1年生くらいでも「プレーの関わり方」を知っている子はいますよね。みんながサイドで争っていても、ゴール前に行って「ヘイ!」と声を出して呼んでいる子。でも、今の日本だとまだ周囲の子がパスを出せないし、直接プレーに関わっていないからコーチの評価が低かったり。
鈴木:ヨーロッパのスカウティングが見るポイントはだんごの状態から「いかに俯瞰して局面を見てボールをもらえる立ち位置にいるか」です。まず、そこに対する優先順位が高い。それが自分の意思なのか、偶然なのかで評価が違います。その子が「こうなってこうなったらこうなるじゃん。だから、ここにいるんだよ」なら、今のまま尊重すべきです。
なんとなくそこにいるなら気づかせるべきです。ボールがほしいなら何をすべきかは1年生でもできる。本当はコーチがうまく誘導すべきですが、映像を見せるのも一つの方法です。子どもが「この時ここにいるけど、どうして?」を答え続けられるならそのまま才能を伸ばしてあげたらいいんです。それがわかっていなかったら「ボールがここにあるから、こうしてみたら?」と教えてあげるべきです。それは家庭でもできる指導です。
日本サッカー協会では、だんごになるから広がる概念が作れると言っています。少し掘り下げると、だんごを無理やりコーチ(大人)が引き離すのはNGです。子ども自らが気づいて、初めて再現性を持って広がってボールをもらえるようになるんです。ここは誤解してはいけません。我慢強く1年生から少しずつ問いかけ続けていると、2年生くらいからできるようになっていきます。こういうアプローチができないと3年生くらいまでだんご状態のままです。
ただ、足下のテクニックはやらなければ身につけられないので、何かしらのアプローチはしないといけない。僕も静岡学園で死ぬほどボールを触りましたから。勘違いしてはいけないのは、どちらも大事だということ。欠けているポイントにうまくリーチしてあげる。「なぜ?」にきちんと答えられる選手にするのが大切なことです。
<了>
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PROFILE
鈴木良介(すずき・りょうすけ)
1981年生まれ、東京都出身。「NowDo株式会社」取締役副社長。本田圭佑と共に2010年から国内外でサッカークリニックなどを開催。2012年には「SOLTILO FAMILIA SOCCER SCHOOL」を本田と共に立ち上げ、全国76校にわたる国内外でサッカースクール、施設運営事業を行う「SOLTILO 株式会社」を設立し、取締役副社長に就任。今回の「NowDo株式会社」の取締役副社長に加え、スポーツ競技におけるセンシング技術を使った(ウェアラブル)IoT事業ビジネスを展開する「Knows株式会社」、2019年4月にスタートした幕張ベイエリア内の認可保育園、インターナショナルスクールの経営を行う「SOLTILO CCC株式会社」の代表取締役社長も務める。
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