「プレーモデルに選手を当てはめるのは間違い」レバンテが語るスペインの育成事情
久保建英がレアル・マドリード、安部裕葵がFCバルセロナ移籍と、日本サッカーにとってビッグニュースが続いている。こうした日本サッカーの成果の背景に、育成環境の進化があることは間違いない。
しかし、サッカー界のピラミッドを支えるグラスルーツにスポットライトを当てるとどうだろう。グラスルーツの選手を取り巻く多くの環境において、まだまだサッカー先進国から学ぶべきことはある。
そこで、育成に定評があるスペインリーグ「ラ・リーガ」のレバンテUDの育成年代の指導に携わり、現在は国際部コーディネーターとして各国の育成事情にも精通するアナ・エステべ氏に話を訊いた。
(インタビュー・構成=隈崎大樹、写真=LEVANTE UD)

選手を実際に見てプレーモデルが決定されるべき
スペインにおける小学生や中学生年代のライフワーク、さらにレバンテではその年代の選手に対して、どのような指導をしているのですか?
アナ 一般的にスペインの子どもたちは14時まで学校に行き、その後、家族と過ごしたり、サッカーをしていればトレーニングに出かけます。
レバンテの寮に住んでいる選手たちには、学校の授業とは別に、2時間の学習時間をトレーニング場内にある図書館で行うことを義務付けしています。寮にはチューターがおり、選手たちの学業面のサポートとコントロールを行います。
さらにチューターとは別に、3人の教師が各選手の勉強に個人的に付き添います。レバンテに所属する選手には成績表提出を義務付けていて、学習の習熟度を確認します。
また、心理学部門が各選手の状態を把握し、勉強とサッカーを両立できるよう助言ができる体制を取っています。
最近になり日本のスポーツメディアでは、長時間の練習や過度の練習回数が選手の発育発達に弊害があると警鐘を鳴らしていますが、スペインではどうですか?
アナ:実はスペインでも、子どもたちの課外活動が増え、子どもの自由時間が短くなってきているのが事実です。保護者が申し込んだアクティビティによって、子どもたちの時間は、飽和状態にあるのではないかと思います。
レバンテのU-8からU-13を例にあげると、彼らは1週間に2時間のトレーニングを3回行っています。そのトレーニングには技術・戦術・チームとして戦うためのメンタルなど、全ての要素が含まれています。
年々、サッカーの競技性に特化したトレーニングが増えていますが、この年齢であれば、1回のトレーニングの時間は2時間が限界でしょう。
育成面において世界のサッカー界でもトップクラスにあるスペインで今課題となっていることはなんですか? またスペインでいう「良い選手」とは何を基準としているのですか?
アナ:最近、多くのスペインクラブで見られる問題として、クラブがプレーモデル(チームとしてサッカーをするためのフレームワーク)に固執してしまうあまり、プレーモデルに選手を当てはめようとすることです。
本来であれば、選手を実際に見て、プレーモデルが決定されるべきだと考えています。
クラブが決定するプレーモデルを実行する唯一の方法は、クラブがどういったタイプの選手が必要かをしっかりと定義することです。
それができたあとはトレーニングの内容です。プレーモデルで定義したパフォーマンスの精度を上げて、力強く選手たちを成長させながら、さらにそのプレーモデルの特徴に合わせていく必要があります。
レバンテが選手を評価する上で最も大切にしていることは、「サッカーが要求することに可能な限り応えられる選手」であること。賢く、速く、より正確に――。
そしてより多くのデュエルを勝ち取ることがレバンテにとっては良い選手となります。我々の育成部門で除外しているのは、フィジカルのみでチームの王様として君臨するようなプレーヤーです。
たしかに、初期の段階ではうまく結果を出すことができるでしょう。しかし、よりカテゴリーが高くなるに連れ、我々が大切にしていることを得られなくなるのは明白です。フィジカルのみで勝っていた選手は、いずれ常に負ける選手となります。
最近、レバンテではメンタルの強さも一つの才能であると認識しています。
個性を出し、自己管理ができる能力を持つ選手は、大きな強みとなるからです。また、自分を犠牲にする方法を知り、フラストレーションに耐える方法を知ることもまた、大きな価値であると評価しています。

我々はレバンテの育成方法論を押し付けてない
日本では保護者がクラブの運営や指導に携わっているケースもありますが、スペインでのクラブと保護者の関わり方は?
アナ:すべてのスペインのクラブには当てはまりませんが、レバンテの場合、保護者は非常に重要な存在であると認識しています。ただ、彼らはレバンテのサッカー活動に関わることが許されていません。我々が保護者の方に実施しているのは、「選手をどのように管理するのが良いか」という方法を伝え、ピッチ外でもよりプロフェッショナルな状態でいられるような環境づくりのサポートをしています。その中で、保護者の方に選手が社会生活とサッカーを両立させるための助言も行っています。
地域クラブとの連携や関わり方についてお聞かせください。
アナ:レバンテはいくつかの支部となるクラブと連携しています。中でも直接管理下に置いているパタコナCFは、レバンテの各カテゴリーの「1年生」(スペインではカテゴリーを2学年括りで分けているので、「◯◯カテゴリーの1年生」「◯◯カテゴリーの2年生」と表現する)という位置付けになっていて、高いレベルの選手が集まります。直接管理下でないクラブの場合も、各クラブのコーディネーターが我々と協力しているので、良い選手がいればすぐに連絡を取り合う関係が構築されているのです。
また、選手の長所と短所を評価し、選手の長所を伸ばし、短所の改善を図るトレーニングメニューをオーガナイズします。ここでお伝えしたいのは、我々はレバンテの育成方法論を押し付けてはいないということ。選手は刻一刻と成長し変化します。その中で、育成の戦略的計画およびトレーニングの影響を見極めるための状況分析をまず行っているのです。選手がピッチ上で何ができるのかを分析しなければ、彼らが何を必要としているかをどのように知ることができるでしょうか。選手を分析し終わり、必要なファクターが浮き彫りになって、初めて方法論が必要になります。
最後に、今夏、大阪と函館でキャンプを開催しますが、日本への関心や展開についてお聞かせください。
アナ:我々は、日本はサッカーへの情熱が高まっている国であり、またサッカーに関心を持つ人口が増加していることから、大きなマーケットがあると考えています。現在、日本のサッカーファンは我々のリーグに非常に興味を持ってくれており、いくつかのJリーグクラブはラ・リーガに所属している選手を獲得しようと動いているようです。それらを踏まえて日本サッカーの成長は、レバンテの発展にもつながると確信しています。今年の夏に日本で開催するサッカーキャンプも、日本の皆さんにレバンテを知っていただきたく、実施に至りました。
<レバンテUD大阪キャンプ公式HP>
<レバンテUD函館キャンプ公式HP>
<了>
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PROFILE
アナ・エステべ(Anna Esteve)
レバンテUD国際部コーディネーター。スペイン中級ライセンスバルセロナ地域の育成年代を中心に指導を始め、女子の指導も経験。
大学ではスポーツ科学学科を専攻し、UEFA(欧州サッカー連盟)の指導者ラインセンスを保持している。バルセロナ地域での指導者時代にはさまざまな国でのキャンプも経験。
2018年、レバンテUDに加入し、指導者と国際部の二足のわらじを履きながら活動していた。今季、国際部コーディネーターとして世界中のクリニック・キャンプでその手腕を振るうことになっている。
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